不和

「おい! 言いがかり付けてんじゃねーよ! 勝手にエンペラーに突っ込んで消滅したのはお前たちだろ!」


 【黄昏】のメンバーが消滅したのは、ゴーレムエンペラーに対しての無謀な突撃が原因でした。


 独断行動を繰り返していた【黄昏】に対し、フラストレーションの溜まっていたツルギさんが、感情的に反論します。


「……上等だ。てめー、それは俺たちに喧嘩を売ってるとみなしていいんだよな?」

「喧嘩を売るもクソも、お前たちの自滅だろうが!」

「クソがっ! 大体てめーらはいつも気に入らなかったんだ! お? なんだ? 今回も上位を独占するつもりだったんだろーが? 俺たちは……脇役じゃない……アニメではどうか知らないが……現実世界だったら、てめーらは主役じゃねーんだよ!」


 いつもなら、ゼノンが暴走してもスノーホワイトがブレーキをかけてくれます。しかし、今はそのブレーキ役が不在でした。


「主役もクソもねーよ! 俺たちはやるべきことをしたまでだ!」

「やるべきことね……その結果が強さの独占か?」

「んだと……悔しかったら――」

「ツルギさん!」


 ツルギさんが決定的な言葉を吐く前に、私は制止します。


「悔しかったら……? なんだ? お前たちもやってみろってか? それでどうなった? お前たちが強さを独占した結果――アイムたちが消滅したんだ!!」

「クソッ! 言いがかりにもほどがあるだろ!」

「ツルギさん、行きましょう……」

「ッチ! わかったよ」


 このまま口論を繰り広げていてもお互いに憎しみを増すだけです。私はツルギさんの手を引っ張りながら、その場を後にしたのでした。


 この日を境に、私たち【天下布武】と【黄昏】の間に決定的な溝が生じたのでした。



  ◆



 緊急クエストの翌日。


 私たちは再び攻略を開始しました。緊急クエスト産の装備品で多少は楽になりましたが、第七七階層は耐久力の高い敵が多く苦戦を強いられてました。


 この世界が外部と遮断されてから213日目。


 不穏な噂が私たちの耳に届きました。


 曰く、【黄昏】が私たちに恨みを抱いているプレイヤーを集めていると……。


 オンラインゲームは、NPCではなく主にPC――人と遊ぶことから、様々な感情が沸き起こります。


 レアな装備品を入手した、或いは難関なクエストをクリアした――喜びと達成感。


 狙った装備品を獲得できない、或いは何度挑戦しても敗北する――哀しみと絶望感。


 気心の知れた仲間と共に冒険、或いは交流する――楽しみ。


 そして、他人の功績を妬む――怒り、深い嫉妬の炎。


 オンラインゲームは、多くのPCと世界を共有するが故に――深い嫉妬の渦が巻き起こります。


 私たち【天下布武】が最前線を突っ走る中、一部のプレイヤーは私たちに対して激しい嫉妬――憎悪を抱いたようです。


 人は本当に愚かです。


 こちらを落としても、自分がそこに上がれる訳ではないと、何故気付かないのでしょうか?


 とは言え、困りましたね。


 この世界は元の世界で1ヶ月に1回――こちらの世界で90日、或いは93日に1回、緊急クエストが発令されます。


 緊急クエストの失敗は命に関わります。また、攻略に苦戦している現状では緊急クエスト産の装備品を集めることは戦力拡充に必須です。


 まずは、友好関係にある旅団やフレンドに根回しをするべきでしょうか?


 【黄昏】のネガティブキャンペーンに対抗して、ポジティブキャンペーンを行うべきでしょうか?


 攻略の手を止めるのは歯がゆいですが、必要不可欠なことでしょう。


 頼れる団長であるソラさんが不在であることも大きな痛手ですが、それ以上に敵に回すと厄介だったスノーホワイトの不在が痛手になるとは……人生は本当にわからないものです。


 私たちは一旦攻略の手を止めて、冒険者ギルドでの野良募集への参加、或いはフレンドの手助けなど【天下布武】のポジティブキャンペーンを始めるのでした。



  ◆



 この世界が外部と遮断されてから243日目――緊急クエスト発令30日前となった日。


 多くのプレイヤーを揺るがす事件が勃発しました。


 ――【黄昏】から【天下布武】への宣戦布告です。


『【天下布武】に告ぐ。

 これ以上、お前たちの風下に立つ気はない。次回の緊急クエストの指令権を賭け、【黄昏】は傲慢なる【天下布武】へと宣戦布告することをここに宣言する。俺たちは奇襲を仕掛けるみたいな野暮な真似はしない。平等を期するために、宣戦布告は7日後に行う。この世界の主役を称する傲慢な【天下布武】であれば逃げることなく、受けてくれるだろう』


 【黄昏】は宣戦布告を宣言した文書を至るところにばら撒き、喧伝しました。


「マイ、どうすんだ?」

「んー、調べた範囲だと第五一階層とか第六一階層にもばら撒いているから、相当の数のプレイヤーに知れ渡ってるよぉ」

「俺の調べによると、かなりのアホ共が【黄昏】に賛同しているな」

「アホの嫉妬とかマジ勘弁なんだけど……」

「数では圧倒的に負けています。まずは、友好的な旅団に『連合』の話を持ちかけましょう」


 『連合』とはシステムに認められた同盟です。『連合』を組むためには一定以上の名声が必要となります。


 『連合』を組めば、グループチャットが解放されるほか、宣言布告を受けたときに友軍として参戦することができます。


「向こうの情報も集める必要があるな」


 セロさんが発言します。


「そうですね。本日より3日間は情報収集に務めてください!」



  ◆



 3日後。


 情報収集した結果、【黄昏】はこともあろうに悪名高きPK旅団と連合を組むという噂を掴みました。


 そして、【天下布武】に対してかなり大規模なネガティブキャンペーンを実施していることも掴みました。


「ってか、あのアホ。いくらスノーホワイトがいないからって【黒天】と組むか普通?」

「噂だと、今回の宣戦布告は【黒天】のアカリが仕向けたらしいよぉ」


 【黒天】はIGO日本サーバーに存在する中で最も大規模なPK旅団です。


 遮断以降は大人しくしていたと思ったのに、どうしようもない連中です。


 【黒天】はサイコパスと呼ぶに相応しい集団です。戦争が起きれば、双方に消滅者が出るのは免れないでしょう。


 本当に最悪の展開です……。


 私は旅団ホームの執務室で自問自答を繰り返します。


 どこから歯車が狂ったのでしょうか?


 あのとき、正しい選択をしていれば――ソラさんがこの場にいたら未来は大きく変わっていたのでしょうか?


 執務室に集まった【天下布武】のメンバーの視線が私に集まります。


「マイ、どうする?」

「マイさん、ここまできたらもう引けないよぉ」

「マイっち、どうする?」

「ここまで拗れたらヤルしかねーだろ」

「Foooo! イクところまで踊るしかないじゃない!」


 幹部メンバーが私に決断を迫ります。


「……わかりました。我々【天下布武】は【黄昏】からの宣戦布告を受諾します!」


 私は【天下布武】の【黄昏】と合戦することを宣言するのでした。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます。


これにて外伝は一旦閉幕となり、次回より本編に戻ります。


今後もリクたちの冒険にお付き合いのほど、よろしくお願い致します!!


追記 PK旅団の名称ですが……本当に何も知らずになんとなくで付けてしまいました……。(現在修正済みです)教えてくれた読者様ありがとうございます。そして、自分の無知が恥ずかしいですorz

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