ソラの行方

 この世界が外部と遮断されてから40日目。生産職を除くすべての【天下布武】に所属するメンバーが第七一階層に到達。


 しかし、最前線をひた走っていた私たちの到達階層は――未だ第七二階層だった。


 攻略が遅れている原因は3つ。


 1つは、私たちが他の旅団メンバーの第七〇階層攻略を手伝っていたということ。


 1つは、これまでの階層と比べて段違いに広かったこと。


 1つは、出現する敵の強さでした。


 私たちは新たな階層へと進みましたが、レベルは変わらず――99。新たな素材は入手したものの、装備品をグレードアップするまでに至りませんでした。


 敵は強くなりましたが、私たちの強さは遮断される前と何ら変わっていませんでした。


「ったく、新たなフィールドを実装したなら、新たな装備品も実装しろよな! 敵が固くてしょうがねー」

「第七五階層までいけば階層主がいるのかなぁ? そしたら、ドロップ品に期待だねぇ」

「そうですね。どこかで装備品を新調しないと、先に進むのは厳しくなりそうですね」

「マラソンかー、使えそうな装備品のドロップ率が1%未満とかは勘弁して欲しいよね」

「このペースなら、階層主じゃなく緊急クエストで装備品を一新するだろうな」

「Foooo! Yeah! 遂に緊急クエスト産のインナーが実装されるフラグだぜ!」

「そんなフラグへし折ってやる!」


 最前線で使える装備の入手手段は2つあります。


 階層主のレアドロップと、緊急クエストの報酬でした。


「緊急クエストか……本来のペースだったら4月24日にあったはずだったが、あの意味不明な遮断で流れただろ。ってことは、次は何日後だ?」

「従来どおりのペースでしたら、本日が外部に遮断されてから40日目です。現実世界に置き換えると、今日は5月6日ですね。次回の緊急クエストは5月22日なので、こちらの世界の流れで言えば46日後ですね」

「あん? なんで5月22日なんだよ? 毎月24日だろ?」

「5月24日は日曜日なので従来どおりのペースであれば、2日前倒しの金曜日――5月22日に開催となるはずです」


 私は頭の中にカレンダーを組み立てて計算しました。


「は? 俺たちをログアウト不可にしときながら、自分らは土日休みです……とか、ふざけてんのかよ!」

「あくまで従来どおりのペースだったら……です。52日後に開催されることも視野に入れて調整しましょう」

「わぁー! 仮にマイさんの言うとおり46日後だったらソラさん大丈夫かなぁ? ソラさんも曜日感覚マヒってたよねぇ」

「だな。俺とかソラはマイにすべてを委ねてたからな!」

「Foooo! みーとゅー!」

「いやいや、そこは誇るとこじゃないから!」


 誇らしげに胸を張るツルギさんとマックスさんにミントさんが全力でツッコミます。


「ソラがセカンドキャラを作ってから1週間と1ヶ月後の緊急クエストなら、進んでて第二一階層。下手したら第一一階層だ。勘違いしていても、どうとでもなるだろう」


 セロさんがソラさんの攻略状況を推測します。


 1か月ちょっとで第二一階層に到達というのは、常識では考えられない早さですが、ソラさんなら十分にあり得ます。


「それにソラさんもそこまでは抜けてないですよ」

「そうかぁ? 俺はソラならやらかすと思うけどな」


 ソラさんをフォローする私の言葉に、ツルギさんは首を傾げたのでした。


「ソラが第五一階層に到達するのはいつ頃だろうな?」

「ソラさんがチャットでお話していた仲間と言っていたプレイヤーの実力にもよりますが……順調に進んだとしても半年くらいでしょうか?」

「ソラなら3ヶ月くらいで到達しねーか?」

「えー! 私たちが第五一階層に到達するまでにかかった時間は2年だよぉ! 3ヶ月は無理じゃないかなぁ?」

「それは実装待ちとかもあったからだろ。今は低レベルの必要経験値も緩和されてるだろ?」

「そうですね。寄り道もしないで、効率重視で進めば……うーん、それでも3ヶ月は無理じゃないですか?」


 ファーストキャラと違いセカンドキャラであれば、システムも攻略法も熟知しているので、攻略スピードは大幅に短縮されますが、3ヶ月は厳しいように思えます。


「ソラさんってアイテムは持ち込んでないんだっけ?」

「PL(パワーレベリング)を断るくらいなので、恐らく持ち込んではいないと思いますね」

「んー、そうなると……ソロだとレベル上げがキツイから、仲間は必須としてぇ……私とツルギさんとマイさんとソラさんの4人でアイテム持ち込みなしで最初から始めたら……どうだろ? 何日くらいかかるかなぁ?」

「俺なら適当に金を稼いで、馬と馬車を借りるな。んで、美味しくない階層は全飛ばしだな。そうしたら、3ヶ月でいけるだろ」

「馬車で飛ばしたら経験値キツくないかなぁ? ホリギフでもあれば楽だけど……ドロップは第六〇階層だからなぁ……」


 メグの言うホリギフとは正式名称――ホーリーギフト。レベル上げをするのに必須のアクセサリーです。


「ドロップ運にもよりますが、仮にがドロップに恵まれたとしても強化できる鍛冶職人を低階層で確保できるとは思えないですね」

「ソラにドロップ運を求めるのは酷な話だぜ……」


 ソラさんのドロップ運はお世辞にも良くありませんでした。時折、超レアなアイテムを拾うことはありましたが……ソラさんが狙ったアイテムはなかなか拾えず、無限とも思えるマラソンに付き合わされたのは、ここにいるメンバー全員が経験しています。


 なお、この事実を本人に告げると驚くほど落ち込むので旅団内では暗黙の了解でタブーとなっています。


「タイムアタックをするなら盗賊系の仲間も必須だな」

「ヒィィィハァァァア! モチベーションを高めるためのインナーもタイムアタックには欠かせないぜ!」


 自身が盗賊系であるセロさんが告げます。マックスさんの意見は全員がスルーします。


 実際に、盗賊系のクラスは冒険を進めるうえで必須のクラスです。《索敵》の有無で冒険の安全度は大幅に変わります。


「レアドロップに恵まれ、強化を頼める優秀な鍛冶職人を確保しつつ、優秀な盗賊、アタッカー、タンク、ヒーラーとの固定メンバーを組めたとして……3ヶ月は……どうなのでしょうか? まぁ、ここまで揃うのは奇跡を通り越して……あり得ないと思いますけどね」

「ちょ! そのアタッカーって魔法使い系だよね? 広範囲を攻撃できる魔法使いも必須だから!」

「いやいや、タイムアタックなら単体火力に優れた戦士系だろ!」

「残念! 魔法使いにも優れた単体火力はあるから!」

「Foooo! タンクとヒーラーとアタッカーを兼ね揃えた最強のクラスを知っているかい? モンク! YES! リーダーのクラスがモンクならすべてが解決! Yeah!」

「ないな」

「ないですね」

「ないかなぁ」

「あり得ないし」

「ない」

「ノォォォオオオ! ――《完全脱換フルパージ》!」

「なんでだよ!」


 ソラさんと再会できるのはいつ頃なのでしょうか?


 私は一日でも早くソラさんと再会できることを願うのでした。

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