無限世界のトップランカー 〜気分転換にセカンドキャラを作ったらゲームの世界に閉じ込められました〜
ガチャ空
序章 平和な日常
旅団『天下布武』
「怯んだよぉ!」
「チャンスです!」
「ソラ! 仕上げは任せた!」
眼前には全長10メートルを超える巨龍がその長い首を床へと垂らしていた。
「おうよ! 任せろ!」
俺は手にした大剣にありったけの魔力を注ぎ込む。
――《クリムゾンブレード》!
振り下ろされた煉獄の炎を纏った大剣が巨龍の首を刎ね飛ばした。
「やったか!」
「わわっ!? そのセリフはダメフラグだよぉ」
慌てる仲間の言葉に反して、首を刎ね飛ばされた巨龍は光の粒子となって消失。そして、目の前にはシステムウィンドがポップアップされた。
『エルダードラゴンの討伐に成功しました』
「やったぁぁああ!」
「っしゃ!」
「旅団【天下布武】ここに在り!!」
勝利を告げるポップアップを目にした仲間たちが歓喜の声をあげる。
「ソラ、お疲れ様です」
「お疲れさん」
俺は駆け寄ってきた仲間の一人と互いの労をねぎらう。
「ようやく第七〇階層を解放か」
「次は第七一階層ですね。どんなフィールドか楽しみです」
「だな。とりあえず、解放するか」
「えぇー! まずはお宝を確認しようよぉ」
「ドロップ品の確認は旅団ホームに戻ってからだ」
「はぁい」
「それじゃ、解放するぞ」
俺は共に巨龍を倒した6人の仲間に視線を送り、目の前の巨大な扉へと触れた。
『旅団【天下布武】が第七〇階層を解放しました』
ポップアップされる赤枠のシステムウィンド。赤枠のシステムウィンドは全てのプレイヤーへと告知されることを意味していた。
「カッカッカッ! これで【天下布武】の伝説がまた一つ増えたな」
「名実共にトップ旅団――【天下布武】ここに在りなのですよぉ!」
「よっしゃぁ! 第七一階層に一番乗りだ!! ……って、おい!」
血気盛んな仲間の一人が扉を解放しようとするが――
「どうした? 早く開けろよ」
俺は血気盛んな仲間に声をかける。
「いや、それが……」
――!
血気盛んな仲間が言い淀むと、目の前にシステムメッセージがポップアップされた。
『第七一階層以降の実装は7日後となります』
「は?」
「へ?」
「え?」
呆然とする仲間たち。
続けて赤枠のシステムメッセージがポップアップされる。
『プレイヤーの皆様へ
いつも『インフィニティゲートオンライン』をご利用いただき、誠にありがとうございます。
来たる20xx年4月24日に大型アップデートを実装致します。
4月24日 0:00より大型アップデート記念として各タウンのイベントホールにて特別記念イベントを開催致します。
プレイヤー皆様のご参加をお待ちしております。
IGO運営チーム』
大型アップデート?
「えっとぉ……つまりはぁ……このアップデートで第七一階層以降が実装されるのかなぁ?」
「だろうな」
「えっと、ソラ? どうしましょうか?」
「とりあえず、旅団ホームに帰還するか」
「カァーッ! 結局お預けかよ!」
「お家に帰ってお宝の分配だねぇ」
「しゃーねー帰るか」
こうして、俺は【天下布武】の仲間と共に旅団ホームへと帰還したのであった。
◆
「お、団長おかえりなさい!」
「団長、幹部の皆様! お疲れ様です!」
旅団ホームに帰還すると、旅団メンバーたちが俺や仲間たちに声を掛けてくる。
旅団――【天下布武】。
旅団長はソラ。つまり、俺だ。
構成員は128名。旅団のキャパは1,000名なので、規模で言えば中規模旅団に分類されるだろう。
しかし、構成員は全てトップランカー。
俺を含めた全員が、人生の全てを『インフィニティゲートオンライン』(通称IGO)に捧げている廃人集団の旅団だ。
俺は駆け寄ってくる構成員を適度にあしらいながら、旅団ホームに設置している会議室へと向かった。
「さてと、ドロップ品の分配をするか」
先ほどの巨龍を倒した時に獲得したドロップアイテムの全てを会議室の机の上に並べた。
「お!? 斧あるじゃねーか! 貰っていいか?」
「わぁ! この腕輪魔力上がるよぉ! 私が貰ってもいいかなぁ?」
「中々良い盾ですね。所有権を頂いてもよろしいでしょうか?」
共に巨龍を倒した仲間たちが次々と自分の欲しいアイテムを手にして、所有権を確認する。
ここにいる6人の仲間は全員気心の知れた仲間たちだ。家族と言っても差し支えはない。
自分の欲しいアイテムを欲しいと言う……普通なら揉め事が起こりそうな分配方法だが、揉めることなく次々とドロップ品の所有者が決定していく。
「ソラはいいのですか?」
大切な仲間の一人――マイが俺に尋ねてくる。
「んー……そうだな……」
俺は少なくなったドロップ品に目を通す。
「前回の階層主の目玉アイテムは俺が貰ったから……今回は遠慮しておくよ」
「んな寂しいこと言うなよ!」
「そうだよぉ! 記念に何か一つは持とうよぉ!」
正直、俺が扱える装備品と言うことに限定すれば……そこまで魅力的なアイテムはなかったのだが……記念品か……。
俺はふと目に入った綺麗なエメラルドグリーン指輪を手に取った。
『シルフィードの祝福
効果 風属性の効果向上
成長補正(AGI)』
風属性にAGIの成長補正か。
「それじゃ、この指輪を貰ってもいいか?」
「指輪? いいんじゃね?」
「どれどれ? お、成長補正! しかも、マイナス補正はなし! って凄そうだけど……AGIなのかぁ……」
「風属性強化にAGIの成長補正ってゴミじゃねーか……いいのか?」
俺の選んだアイテムを仲間たちがボロクソに酷評する。
「記念品だからな」
俺はそんな仲間たちに苦笑を浮かべた。
「そうだ。副団長であるマイに一つ頼みごとをしてもいいか?」
「はい。何でしょうか?」
「少しの間、団長を任せてもいいか?」
「お断りします」
マイは即断する。
「いやいや、そう言わずに……少しの間でいいから」
「理由をお聞かせ願えますか?」
「しばらく、このキャラはログイン出来なくなる。団長がいないと色々と不便だろ?」
「は? ソラがログイン出来ない……って、ありえねーだろ! 何があった!!」
マイではなく別の仲間からツッコミが入る。
「落ち着けって! このキャラは……って言っただろ?」
「どういうことだ?」
「わかったぁ! でも、ソラさんってセカンドいたっけ?」
賢い仲間が俺の言わんとすることを理解したようだ。
セカンド。それは、アカウントで紐付けられているメインキャラであるソラとは別のキャラの略称であった。
IGOは一つのアカウントで二人のキャラクターを作成出来るが、このシステムを活用しているプレイヤーは少なかった。理由はやりこみ要素の多さだ。一人のキャラクターを育成するのも大変なのに、二人目の育成にまで手が回らない。
中途半端はキャラを二人作るより、育成を集中したキャラが一人の方がメリットは大きかった。
「なるほど……レベリングしてやろーか?」
「旅団あげてソラのセカンドをレベリングをする計画を立案しましょうか?」
「パワーレベリングって……俺の楽しみを奪うなよ」
俺は仲間の好意に苦笑する。
「と言う訳で、マイ。しばらくの間任せたぞ」
俺はシステムコンソールを操作して団長権限をマイへと移譲する。
「え、あ、ちょ……ちょっと……!?」
「んじゃ、みんな、しばらくの間【天下布武】を任せたぞ」
こうして俺は【天下布武】の団長を辞任し、ログアウトしたのであった。
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