第四五階層攻略①

 カナメたちとの約束の日。


 ヒナタも上級職――【巫女】をマスターしたが、メイとヒロアキは残念ながらマスターまでには至らなかった。


「ぐぬぬ……後一日あれば……」

「うちは……もう少しかかるかな……忍具作成から早く解放されたいよ……」


 ヒロアキは第四五階層を攻略している道中でマスターするだろう。メイも第五〇階層に到達する頃にはマスターしているだろうが、時間はもう少し必要になるだろう。


「え? 上級職マスターって……メイっちたち、凄い成長してない?」

「私のクラス熟練度は8ですわ」

「いやいや、私なんてまだ7だぞ!」

「ハッハッハッ! 拙僧は9ですな! あと100回ほど《脱換パージ》すれば、マスターですな!」

「《脱換パージ》よりも効率良いスキルあるだろ……」

「む? 異な事を? 《脱換パージ》して、拙僧の熱き情熱パッションをぶつけるのが、一番成長しますぞ!」


 スキルを使用しただけでは、熟練度は加算されない。攻撃スキルなら敵にダメージを与える必要があり、バフスキルなら使用した上で、敵にダメージを与えるか敵からダメージを受ける必要があった。


「適当に殴られて《息吹》を使うのが一番効率いいだろ?」


 《息吹》はモンクが習得するスキルで、効果は自身のみを対象とした回復スキルだ。


「《脱換パージ》し、さらけ出した己の肉体を《息吹》で自ら慰めるのも確かに効率は良いですな」

「《脱換パージ》前提かよ……」

「……なるほど。己をさらけ出し、敢えて傷付き……自ら慰める……イセたん、勉強になりますぞ!」

「ヒロは自己回復スキルないから、何の参考にもならないけどな」


 クソッ……時々バグるヒロアキだが、イセが絡むとバグる頻度がより多くなる。これが、負の連鎖なのか……。


「さてと、アホな話はこの辺にして今回のパーティー編成はどうする?」

「えっと、うちらは入口付近で稼いでいたけど、途中から二手に分かれるんだっけ?」

「そのまま8人で進んでもいいが、二手に分かれたほうが難易度はグッと下がるな」

「ほぇ? 8人で進むこともできるんだ」

「ここの最奥には2体の火龍がいるんだけど、8人で進むと2体の火龍を同時に相手する羽目になる」

「細かい設定を話すと、ここの階層主は夫婦めおとの火龍にゃ。2体揃うと互いのステータスが上昇し、回復スキルも使用してくるからかなり厄介になるにゃ」

「昔、マイたちと4人で夫婦の火龍に挑んだが……無理ゲーだったな」


 俺はソラだった頃に夫婦の火龍に挑戦し、敗北した経験を思い出す。


「え? 『聖天のマイ』様と?」

「後はツルギとメグだな」

「わわわ!? リクって『炎帝のソラ』様だから……【天下布武】の中核メンバー揃い踏みじゃん!!」

「揃い踏み……って、4人パーティーを組むときは大抵そのメンツだったから、日常的な組み合わせだぞ?」

「……え? 無理ゲーってことは負けたのですか?」

「いい線まではいけたが、向こうの回復量に対してこっちは火力が足りなくて負けたな」

「4人でいい線までいけるのが……そもそも非常識にゃ」

「その後ミントたちを誘って8人で挑んだけど、2回全滅して3回目でようやく勝てたな」


 死に覚えのデストライ……懐かしい思い出だ。


 何度も挑戦して、みんなで話し合い対策を考え、試行錯誤する。ゲームだった頃ならば――一番楽しい時間だった。


「『炎帝のソラ』様――リクさんたちは、今回の攻略法を知らなかったのでしょうか?」

「当時は最先端だったから、道が別れてるのは知っていたが、二手に分かれたら個別で戦えるということは知らなかったな」

「にゃにゃ? ボクの記憶だと夫婦火龍の攻略法を一番最初に公開したのは、【天下布武】だったにゃ」

「あぁ……そのトリックはメグが気付いて、一度クリアした後に実験で試したんだよ。当初は難易度的に12人用のレイドモンスターと思ってたな」

「うへ……そう思うと今うちらが楽に進めているのは、『炎帝のソラ』様たちの尊い経験があるからなんだね」


 攻略サイトとは見るモノではなく、作るモノだ。最先端を突っ走るからこその苦労もあったが、未知との遭遇という楽しさもあった。


「しかしアレですな……8人編成で挑んだ2回目の全滅の後に12人編成にはしなかったのですな」

「んー、なんて言うのかな……8人で挑んだときにもう少しで勝てそうって手応えがあったんだよ。結局次も全滅して、倒せたのは3回目だったけどな」


 全滅したときに感じる感情は2つある。


 一つは、何をしても今のままでは無理という感情。このケースの場合は根本的な見直しや、レベル上げが必要になる。


 もう一つが、何か工夫すれば勝てたかもという感情。作戦を見直す、アイテムを揃える、装備品を見直すなど……こちらのケースの場合は短期的な変化で対応ができる。


「っと、そんな昔話は置いといて、さっさとパーティー編成を決めようか」

「えぇー!? うちは【天下布武】の話好きだよー」

「私もです!」

「私はリク殿の話であれば、何時間でも拝聴できますな」

「リクたんの過去を把握することも、相棒の務めゆえ」

「うんうん! 本物の【天下布武】のメンバー……ってか団長から話を聞けるなんて滅多にない機会だからな!」

「リクさんは本当に『炎帝のソラ』なのですね」

「にゃはは、【天下布武】は大人気にゃ」

「また今度な。今はパーティー編成を決めるぞ」


 仲間たちからの羨望の眼差しを受け、俺は苦笑するのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます。


現在、第五一階層以降の展開をどのようにするか思案中です。とは言え、連載を止めるのはアレなので、当面はのほほんとしたオンラインゲームの世界を冒険している話を投稿しながら、未来のプロットを練り上げる予定です。


展開はゆったりとなりますが、今後も『無限世界のトップランカー』をよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る