新調

「リクにぃはダメージディーラーとしてはSTRが低いにゃ」

「風属性で盗賊だから?」

「そうにゃ。風属性を選択した限り、どれだけ頑張っても火属性に火力で勝つことはできないのにゃ」

「風属性の方が速いけどな!」

「この世界は速さよりタイミングが重要にゃ」

「……知ってた」


 改めて風属性の弱点を言われると、辛いな。


「そんな非力なリクにぃを手助けする装備があるにゃ!」

「別にSTRにマイナス補正がある訳じゃないから、非力は言い過ぎじゃねーか?」

「なになにー? どんな装備ー?」

「固定ダメージにゃ」

「固定ダメージ?」


 俺を無視して得意気に話すクロの言葉にメイは首を傾げる。


「攻撃した後に追加で固定ダメージを与える武器が存在するにゃ」

「ほぉほぉ」

「それ系の武器は手数が多いほうが圧倒的に有利にゃ」

「なるほど、なるほど」

「非力なリクにぃでも、回転率の高い固定ダメージを付与できる短剣を入手できたら、火力が一気に跳ね上がる可能性があるにゃ。それならリクにぃの速さも活かせるにゃ」

「スキルの攻撃速度は変わらないから、通常攻撃連打になるけどな」

「それもまた、低燃費でいいにゃ」

「まぁ、クロの言うとおり俺の特性を活かすなら短剣だろうな」

「にゃはは」


 クロによる短剣講座が終了した。


「クロ、もう一つ大切なメリットを忘れていないか?」

「にゃにゃ?」

「短剣はその形状故に強化のコスパが一番いいから、鍛冶スキルの熟練度上げに最適なんだよ」

「にゃは……そういうメリットもあるにゃ」


 俺の指摘にクロは乾いた笑みを浮かべる。


「リクとのやり取りを見ていると、クロちゃんは本当にセカンドキャラクターなんだね」

「にゃはは」


 クロは照れ笑いを浮かべた。


「それじゃ、クロの助言に従って武器は短剣一本に絞るか」

「それがいいにゃ!」

「それじゃ、先程のリクエストから片手剣を除いた装備品を仕上げてくれ」

「了解にゃ!」


 クロは笑顔で俺の依頼に応えるべき鎚を振るい始めた。


 片手剣を捨てるのは惜しいが、クロの言葉は理に適っていた。俺がそもそも短剣以外に片手剣を選択した理由は――汎用性からだった。


 汎用性と言うのは、扱いやすさのみでなく、オーソドックスであるが故に入手手段も多かった。


 短剣を本格的に扱うためには、様々な種類の短剣を揃える必要があったのだが……生産に特化した仲間――クロがいればその問題も解決する。


 俺はクロとの偶然の出会いから、短剣を選択したのは必然のように感じたのであった。



  ◆



「お待たせにゃ!」


 額に汗を滲ませたクロが作成、強化を終えた装備品一式を手渡してくれる。


 俺は渡された装備品を一つ、一つ確認する。


「最高の仕上がりだな……って、『猛牛の短剣』と『蛇王の籠手』の強化値がマックスじゃないぞ?」

「リクにぃは……運が悪いのにゃ……」

「クロの技術力じゃなくて、俺の運かよ……」

「古来より強化の成否は……職人の腕ではなく、依頼者の運で決まるにゃ……」


 クロは俺から視線を外して、答える。


 強化の失敗を職人の責任にするのは、御法度とされていた。それでも、中には職人プレイヤーに八つ当たりをする輩もいたが……そういう情報はすぐに職人プレイヤー間で共有され、ブラックリスト入りしてしまう。


 これは育成が大変な職人プレイヤーを守るために作られた、暗黙のルールであった。


「まぁいい……クロがいなかったら、ここまでの装備品は揃わなかっただろうからな。助かったよ」


 俺はクロに礼を告げ、渡された装備品を装備する。


『名前 リク

 種族 ニューマン

 性別 男

 属性 風

 クラス 盗賊

 レベル 24

 HP  488

 MP  240

 STR 111(+10)

 VIT 24

 AGI 284

 RES 90

 スキル

 盗賊の心得【7】

 →索敵 【7】

 →解錠 【3】

 →アラート【★】

 →隠匿  【1】

 風魔法 【3】

 →ウィンドカッター【8】

 →アクセル 【5】

 →ウィンドヒール 【1】

 片手剣 【4】

 →スラッシュ 【8】

 →ムーンスラッシュ 【5】

 →ソニックスラッシュ【3】

 →パワースラッシュ 【5】

 短剣 【4】

 →パリィ 【★】

 →バックスタブ 【6】

 →ライジングスラッシュ【4】

 →ファング      【1】

 ボーガン 【2】

 →速射 【3】

 →ファイヤーショット【1】

 →ウォーターショット【1】

 →アースショット 【1】

 →ウィンドショット 【1】


【装備】

 右手 蛇王短剣+5

 左手  影刃+3

 頭  蛇王の鉢金+5

 胴  蛇王の軽鎧+5

 腕  蛇王の籠手+2

 靴  蛇王の靴+5

 装飾品 シルフィードの祝福 猛牛の腕輪 ホーリーギフト』


 リクになって初めてとなる、装備品の一新だ。ようやく、一端の冒険者になれた気がする。


「ねぇねぇ、リク」

「わかってる」


 俺はメイの輝く目を見て、何を言いたいのかを瞬時に理解する。


「狩りに行こうよ!」

「だな!」


 装備品を新調したら試し切りをしたくなる。それはゲーマーのさがだ。


「あ、ちょっと待って下さい!」


 しかし、ゲーマーの衝動のままに行動を起こそうとする、俺とメイをヒナタが制止する。


「どうした?」

「クロちゃん、良かったらコレをどうぞ。装備品を作ってくれたお礼です」


 ヒナタはクロに猛々しい斧――凶牛の戦斧を差し出す。


「にゃにゃ!? こ、コレは……」

「私だと使い道がないので、クロちゃんが使って下さいな」

「蛇王戦輪だけでなく、凶牛の戦斧もドロップしていたにゃ!」


 凶牛の戦斧は蛇王戦輪と比べたら、希少価値は大きく下がるが、ドロップ率の低いレアアイテムであった。


「蛇王戦輪、凶牛の戦斧……月影に影刃……リクにぃたちは運が凄くいいのかにゃ?」

「いや、俺の運は普通だ。ヒナタとメイの運はバグってる可能性はあるな」

「そういえば、リクにぃの運は悪かったにゃ」

「ほっとけ」


 この世界には運、或いはラックと言うステータスは存在しない。存在するのは、乱数の女神が支配する純粋な運だけだった。


「にゃぁぁああ!?」

「どうした?」


 突然、クロが頭を抱えて叫び声をあげる。


「せっかくボクの手に凶牛の戦斧があるのに……強化に必要な素材がないにゃ……」

「仕方ないな……試し切りは第十三階層でするか」

「よろしく頼むにゃ!」


 こうして、俺たちは新たな仲間――クロを加えて第十三階層へ向かうのであった。


――――――――――――――――――――――

(お知らせ)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます。


執筆をしている過程で矛盾が生じたので一部修正をしました。


セカンドキャラクター

アクティブユーザー数1億人→1,000万人

(緊急クエストで1億人参加って……と思いまして……階層で人数割ったとしても……)

※更に実は国別でサーバーが存在しており、日本サーバーのアクティブ数は150万人でお願いします

m(_ _)m

※この数値でも現存する最大規模のMMOの全盛期と比較しても3倍近い数値となっております。


クロからのお願い

クロの《斧》レベルカンスト→レベル6

(低階層でカンストはやりすぎだ……と思いました)


物語に大きな変化はございませんが、ご了承願います。


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