短剣
クロが仲間たちの装備品の作成と強化を始めてから3時間。
ようやく、メイ、ヒナタ、ヒロアキの全ての装備品が完成した。
「いよいよ俺の番だな」
俺はクロへと近付き、作成して欲しい装備品を伝える。
「作成を依頼する装備品は、『蛇王短剣』、『猛牛短剣』、『猛牛剣』、『蛇弩』。防具は、蛇王シリーズ一式でいいか。次に、強化を依頼する装備品は、作成してもらった装備品全部と『影刃』だな。……素材に余裕があったら『蛇王剣』も作成して、フル強化もお願いしたい」
俺は迷うことなく依頼内容をクロへと伝える。
「にゃにゃにゃ!? ちょ、ちょっと待つにゃ!」
俺の依頼内容を聞いたクロが慌てふためく。
「ん? 早口になっていたか? もう一度言うぞ。俺が作成を依頼する装備品は――」
「ち、違うにゃ! そんなにも素材の余裕がないにゃ!」
「なに? 鉄鉱石の数は十分にあっただろ?」
「な、ないにゃ……」
「――?」
「ほんのちょっとだけ……『蛇王戦輪』の強化に熱くなったにゃ……」
「ほぉ……」
「それに、リクにぃは依頼品が多すぎるにゃ!」
「リク……にぃ?」
俺はクロの別の言葉に引っかかる。
「メイねぇにそう呼んでと言われたにゃ! そうしたらヒナねぇにも言われて……何故かヒロにぃも……そうなると、リクさんもリクにぃと呼ぶのが自然の摂理にゃ」
俺はメイに視線を向けると、メイは何故かサムズアップし、ドヤ顔を決める。
「はぁ……まぁ、いいや。なら、どこまで出来る?」
「『蛇王剣』と『猛牛剣』はコストが重いから諦めて欲しいにゃ。そもそも武器だけで、『影刃』、『蛇王短剣』、『猛牛短剣』、『蛇王剣』、『猛牛剣』、『蛇弩』は多すぎるにゃ! リクの手は二本しかないにゃ!」
「クロの言いたいことはわかるが、クロも俺と同じ存在なら……使い分けの重要性はわかっているだろ?」
蛇王シリーズは水属性で、猛牛シリーズは土属性。影シリーズは闇属性と、敵に合わせて使い分けると狩りの効率は格段に向上する。
「それはわかるけど……まだ、ここは低階層にゃ。属性の使い分けは……もう少し先でもいいと思うにゃ」
IGO歴の長いベテランのプレイヤーは、第二〇階層以下を低階層、第二一階層〜第五〇階層を中階層と呼ぶ習慣があった。
「そうか……?」
「そうにゃ! そもそもリクにぃはどのルートを目指しているにゃ? メイねぇと同じ忍者ルートなのかにゃ?」
「俺はトリックスターからのジョーカールートの予定だな」
誰かと相談する感覚は久しぶりだな。俺は何となく昔を思い出しながら、自分の想定しているビルドを答えた。
「それは、奇抜なルートだにゃ……――! にゃるほど……ジョーカーの浪漫スキルを狙ってるにゃ?」
「トリックスターの《オーバーライド》と合わせたら、面白そうだろ?」
「リクにぃならこの世界最高のDPSを叩き出せる可能性はあるにゃ」
流石は俺と同じセカンドプレイヤー。俺の狙いを即座に理解したようだ。
トリックスターが習得するパッシブスキル《オーバーライド》の効果は30%の確率で敵の防御力をすり抜ける――謂わば、防御力無効化のスキルだ。
そして、ジョーカーが習得するアクティブスキル――《
このスキルは元々等価倍率の変換率であったが、上方修整により1.5倍に底上げされた。
3分間限定ではあるが、STRがAGIの1.5倍になれば、ソラの頃の火力を超えることも可能だ。そこに、発動率が30%とは言え防御力無視の効果が加われば、かなりのDPS(秒間火力)が期待出来た。
「それなら……ボクが言うのも変な提案だけど……武器は《短剣》に絞った方がよくないかにゃ? 明確に用途が違う武器ならともかく、《短剣》と《片手剣》だといずれ熟練度上げに苦労するにゃ」
確かに後半になれば、一種類の武器でも熟練度をカンストさせるのは至難の業だ。二種類の武器を交互に使っていたら、成長速度は単純に半減してしまう。
「クロもそう思うか?」
「思うにゃ。序盤を短剣のみで乗り切るのは厳しいけど、中盤以降でもリクにぃならそれは可能だと思うにゃ」
どの武器を扱うのか悩んでいるなら片手剣にしろ! と言われるくらい、片手剣はバランスの良い武器だった。
逆に初心者は止めとけ……と言われるのが、鎖鎌と短剣だった。
「ねぇ、クロちゃん?」
「メイねぇ、何にゃ?」
「何で短剣なの? 片手剣じゃダメなの?」
「短剣は武器の中でも一番攻撃力が低いにゃ」
「ダメじゃん! なおさら片手剣の方がいいじゃん!」
「その代わりに特化型が一番多い武器でもあるにゃ」
「特化型……?」
「一番わかり易いのは、属性にゃ。短剣以外にも属性が付与された武器もあるけど、種類は短剣が一番多いにゃ」
「そうなんだ」
「あとは属性以外にも、有名どころだと対人特化の『マンイーター』、昆虫特化の『インセクトキラー』に代表される種族特化の武器も多いにゃ」
クロは面倒見が良いのか、親切にメイの質問に応える。
「へぇ」
「敵に合わせて武器を持ち替えるには相応の知識が、短剣で正確に敵の急所を突くには相応のプレイヤースキルが求められるにゃ」
「リクの知識とプレイヤースキルを最大限に発揮出来る武器が短剣なんだね!」
「リクにぃが短剣を選んだ方がいい理由はそれだけじゃないにゃ!」
「なになにー!」
メイの反応に気を良くしたのか、クロが饒舌になった説明を続けるのであった。
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