基地

「俺の言う"基地"とは――馬車と言うか、荷台だな」


 俺は第三の解決策である――“基地”の正体を告げる。


「馬車? ……荷台? ですか?」

「あ! うちわかったかも! やっぱりリクも『天下布武』の読者じゃん!」

「へ?」

「え?」

「あれ?」


 大声を出して答えるメイに、俺とヒナタ……そして、その様子を見てメイが困惑する。


「ほら! 2巻の後半にソラが馬車の荷台を拠点にする描写あったでしょ?」

「あ!? ありました! 確か、その荷台をツルギが"基地"って呼んでました!」


 メイの言葉をヒナタが高いテンションで応じる。


 え? そんなシーンあるのか?


 馬車の荷台を簡易的な寝床として使うのは、上級プレイヤーの常套テクニックだ。改装された馬車の荷台はテントよりも遥かに良質な寝心地を提供してくれた。


「まぁ……その『天下布武』の小説は知らないが、多くのプレイヤーが仮拠点として荷台を利用している」

「へぇ。でも、何で荷台を利用するの?」

「利便性だな。快適性が優れているのも理由の一つだが、最大の利点は――携帯性だな」

「携帯性?」


 俺の言葉にメイとヒナタが首を傾げる。


「馬がセットの馬車だと無理なのだが、荷台だけならアイテムインベントリーに収納出来るんだよ」

「え? そうなの!?」

「馬はタウンでレンタルするか、従魔に牽かせる、と言うのが第二十一階層以降の常識だな」

「第二十一階層以降……? ダメじゃん!」


 話を最後まで聞かないメイが、上げてから落とされたと感じたのか頬を膨らませる。


「いやいや、荷台だけならはじまりの町にも売ってたぞ」

「え? 本当に? 気付かなかったよ」

「荷台を扱っている木工屋は、ハウスシステムも無いはじまりの町だと需要は皆無だからな」

「でも、馬車で移動しているプレイヤーなんて見たことがありませんでしたよ」

「第二十一階層までは馬車の需要に対してのコストが大きすぎるからな」

「馬車の需要?」

「コストですか?」


 俺の言葉に、メイとヒナタが首を傾げる。


「馬車の需要――必要になるほどの広大な階層が第二十階層まではない。そして、コストだが……馬車はレンタルでも最低一日1000Gはする。馬だけでも一日200Gだ」

「高っ!」

「買うと幾らなのですか?」

「材料を持ち込んで値引き交渉をしても……10,000Gはかかるだろうな」

「高っ!」

「い、10,000Gですか!?」


 告げられた価格にメイとヒナタが愕然とする。


「そこで二人に相談だ。俺は解決策は三つあると伝えたが、本命は最後の荷台――"基地"の購入だ」

「う、うん」

「はい」

「但し、今の俺たちが個人の資金力で10,000Gを捻出するのは難しい」

「1,000Gならまだしも、10,000Gになると……うちもちょっと……」

「私も厳しいです」


 10,000Gと言う大金に、初心者に毛の生えた程度の二人は気圧される。


「ここで俺から二人に確認したいことがある」

「なに?」

「何ですかー?」

「今後も俺たちは3人で行動を共にするか?」

「うちはそのつもりだよ」

「私もです」


 俺の質問に二人はあっけらかんとした口調で答える。


「だったら、俺は三人でお金を出し合って荷台を買うことを提案する。10,000Gは今の俺たちには大金だが、今後三人分の宿代が永続的に浮くと考えたら悪くない出費だと思う」

「え、えっと……三人だから、一人あたり3,333G?」

「はぅ……手持ちが足りません」

「う、うちも足りないよ」


 二人は自分の所持金を確認してから、慌てふためく。


「二人の所持金は? ちなみに俺は3,860Gだ」


 俺は装備品の全てをドロップ品で賄っており、無駄な出費は一切していない。


「え、えっと……890G」

「……1,210Gです」


 メイとヒナタは消え入りそうな声で所持金を告げる。


 リクはセカンドキャラ。謂わば、俺は二度目の人生を歩んでいる状態だ。故に、何が必要で何が無駄なのかを知っている。


 全てが初めての状態で、最効率で動くのは誰にでも無理なことだった。


「まずは、金策だな。とりあえず、言い出しっぺの俺が5,000G出すから、二人は2,500Gずつ出せるようにしてくれ」

「それはダメですよ! 三人で買うのだから、ちゃんと三等分にしましょ!」

「うんうん! うちもヒナに賛成!」

「ありがたい申し出だが、金が貯まってから言ってくれ」


 俺は二人の好意に苦笑しながら答えた。


「うーん、こうやって話を聞くとリクって本当にセカンドキャラなんだね」

「今の遮断された世界でセカンドキャラ……と言うのも違和感はあるけどな」

「リクさんに会えて本当に私たちは幸運でしたね」

「だね! 最初は風属性の男を連れてきたからビックリしたけどね!」

「えへへ。お姉ちゃんの言うことを信じて良かったでしょ?」

「さてと、和んでるところ申し訳ないが、そろそろ金策に出かけるぞ」


 目の前で褒められるのは恥ずかしい。俺は姉妹の話を切り上げた。


「おー! って、どこに行くの?」

「材料の調達も兼ねて、第八階層まで突っ走る。荷台を買うまでは野宿だから寝袋を用意しておいてくれ」

「うへ、結局寝袋は買うのね」

「荷台の中でも使えるから無駄にはならない」

「それでは一度寝袋を買い出しに出発ですね!」

「ここで買ってもいいが、はじまりの町の方が品揃えはいいな」

「第六階層に到達したと思ったら、第一階層に戻るのかぁ」

「急がば回れ、と言うだろ?」

「それじゃ、はじまりの町へ出発!」


 右手を上げて号令をかけるヒナタに従うように、俺たちは今来た道を戻るのであった。

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