緊急クエスト(S2)最終日④

「『風の英雄』が出ます! 総員! 道を作って下さい!!」

「「「「おー!!」」」」


 遠距離部隊がアイリスの指揮に呼応して、無数の魔法と矢を放ち、盾を構えた集団が一斉に盾を打ち鳴らす。


「最後の〆だ! 気合いれて行くぞ! ――遊撃隊、出陣!!」


 俺たちは、多くのプレイヤーの協力により築かれた魔導人形王ゴーレムキングへと続く道を疾走した。


「わぉ! 近くでみると……めっちゃ大きいね!」


 アイリスたちが築き上げた道の先に存在する巨大な魔導人形――魔導人形王と対峙すると、メイは軽口を叩いた。


 対峙した魔導人形王ゴーレムキングは全長10メートルを超えた機械仕掛けの巨人だ。


 魔導人形王は力、耐久……そして、魔力にも優れていた。


 特筆すべきは耐久の高さだろう。実装当初は、『設定ミスってないか?』とユーザーに疑われるほどだった。


 過去の緊急クエストでは、多くのプレイヤーが時間内に魔導人形王を倒しきれず、Sランクを逃していた。


 残り時間は6時間か。


 体力を削りきれるかが、問題だな。


 遊撃隊全員で挑めば……倒せるとは思うが、魔導人形王の近くには無数の兵士ポーンが存在している。雑魚とはいえ、無視はできない。


「俺のパーティーとカナメ、アケミ、イセは魔導人形王を攻撃! 残りメンバーは――」


 周囲の兵士ポーンを掃討してくれ、と指示を出そうとしたが、


「ハッ! 周囲の雑魚は俺たちが引き受けるぜ!」

「同じく、我々も助力します!」


 【金狼】と【赤壁】の団長がプレイヤーを引き連れて、助力を申し出てくれた。


「助かる! ……が、拠点は大丈夫なのか?」


 魔導人形王を倒せても、防衛拠点が陥落してしまったら意味がない。


「ハッ! 残り6時間だろ! ノーローテーションでいくしかねーだろ!」

「アイリスさんの許可は貰っています!」

「ありがとう。では、周囲の掃討を頼む!」

「おうよ! あんたは絶対にこのデカブツを倒してくれよな!」

「借りを作ったままというのは、気持ち悪いですからね」


 先程のポジティブキャンペーンが功を奏したのか、二人の言葉からは好意的な感情を感じる。根はいい奴らなのかもしれない。


「聞いたか! 遊撃隊は全力で魔導人形王を討伐するぞ!」

「「「おー!」」」


 そして、魔導人形王ゴーレムキングとの戦闘が始まった。


「メインタンクはヒロ! ヒーラーとバッファーはヒロへのバフを何があっても切らすな!」

「はい!」

「「了解しました!」」


 ヒナタとセリア、【青龍騎士団】から借り受けたバッファーが返事をする。


「ヒロはできるだけ移動せずに攻撃を受け続けてくれ!」

「承知!」


 ヒロアキに攻撃が集中し、移動もしなかったら……それだけアタッカーは魔導人形王にダメージを与えられる。


「アタッカーは攻撃に全集中!」

「「「了解!」」」

「さぁ、魔導人形ゴーレムの王様をぶっ壊そうか!」


 俺の合図と共に、ヒロアキが準備にはいる。


「参る! ――《ガーディアン》!」

「いきます! ――《結界・耐》!」

「――《ディフェンスブースト》!」

「――《マジックシールド》!」


 大地を力強く踏み抜いたヒロアキの足元に結界が展開。二種のバフが同時に施される。


 魔導人形王のヘイトがヒロアキに定まったのを確認し、俺は練り上げた魔力を放つ。


 ――《ウィンドカッター》!

「いきますわ! ――《ウィンドストーム》!」


 風の刃に続いてアケミの杖から解き放たれた暴風が魔導人形王へと放たれる。


「ふふん♪ いっくよー! ――《夏撃》!」


 メイの放った分銅が巨大な脚に命中すると、


「いくぜっ! オラッ!! ――《レイジングスラッシュ》!」

「いくぞ! ――《一閃突き》!」

「ハッハッハ! たぎりますな!」


 ローズ、カナメ、イセとアタッカーたちも次々と攻撃を開始した。


 俺もいくとするか!


 一対の短剣を手にして魔導人形王の足元に疾走し、


 ――《ファング》!


 一対の短剣を交差させ、魔導人形王の脚を斬りつけるが、


 カンッ! っと甲高い金属音が鳴り響くだけで、まるで手応えを感じない。


 倒した経験があるから……これでもダメージが入っていると知っているが……マジで設定狂ってるよな!


 破壊不能のオブジェクトを攻撃している錯覚に陥りながらも、一対の短剣で何度も魔導人形王の脚を斬りつけた。


 ――ッ!


 シュホーと蒸気のあがる音に反応し、思わず身構える。


 しかし、魔導人形王はこちらの存在など歯牙にもかけず、目の前で盾を構えるヒロアキへとその巨大すぎる拳を振り下ろす。


 ヒロアキの構えた盾が、振り下ろされた拳を受け止めると……、どれくらいの衝撃があったのだろうか、ドンッ! と、地面が大きく揺れ動いた。


「ヒロアキさん! ――《ヒール》!」

「――《エクストラヒール》!」

「――《ヒール》!」


 ヒナタの心配する声と共に複数の回復魔法がヒロアキを包み込む。


「ハッハッハ! 心配無用ですぞ! まだだ! まだまだですぞー!」


 ダメージを受ければ、受けるほどテンションが高まる、天性のタンク変態――ヒロアキは高笑いをあげる。


「うぉ……すげ……よく、あんなの受けれるな……」


 ヒロアキと同じくタンク職だが、思考がアタッカー寄りのカナメは、ヒロアキをタンクとして尊敬……する訳ではなくドン引きしていた。


 安定した形はできている。後はこの形を崩さないように攻撃を続けられれば、勝利を掴むことはできるだろう。


 俺は無心になって、目の前にある魔導人形王の脚を攻撃し続けるのであった。

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