装備新調③

「わざわざ持参してくれて、ありがとうな」


 俺は変態マックスの前に手を差し出す。


「リーダー、もう一声! COME ON!」


 この変態は何を期待しているのだろうか? さっさとファントムマスクを渡して欲しい。


「もう一声か……。和の出で立ちとは珍しいな。いつものパンツは卒業したのか?」

「ノォォォオ! リィィィダァァァア! イッツCOOOOOOL! パッションは! 燃え滾るパッションが見えないぜぇぇええ!! 迸るパッションを言葉に乗せて、ワンモア、セイ!」


 目の前の変態マックスは、引いても、乗っても、調子に乗るハイブリッドタイプの変態だ。


 最適解の対応は、冷静にあしらうことだった。


 しかし、今日はいつも以上にウザったかった。


「さっさと、寄越せ」


 俺は抱えているすべての感情を乗せて、手を差し出した。


「――! リーダー、激おこ? yeah!」

「どっちだと思う?」


 俺は笑みを浮かべて、手を差し出し続ける。


「激おこぷんぷん丸yeah!」

「正解」

「このマスクは……俺と幾度もの死闘宴会を乗り越えた相棒……バァァァット! 敬愛するリーダーの為なら差し出すのもやむなし!」

「ありがとう」


 俺はマックスからようやく『ファントムマスク』を受け取ると、聖水を染み込ませたハンカチでマスクの内側を念入りに除菌した。


 さてと、ようやく手に入れた『ファントムマスク』の性能は……、


 ――!


 性能は想定よりも遥かに高かった。


 頭防具とは思えないほどの防御力に、状態異常各種への耐性も完璧だ。魅了と混乱に至っては、無効化できるようだ。


 そして、驚いたのが……固有スキルを所有していた。


『《遊戯の時間パーティータイム》。効果、《転換コンバージョン》の効果時間を倍にする。クールタイム24時間。但し、非表示時は使用不可』


 クラス専用装備に相応しい固有スキルだ。


「……非表示時は使用不可って、なんだこれ?」

「Foooo! さすがは、元相棒! 実質、ノーペナルティ! yeah!」

「いやいや……まぁ、確かに……性能的にはノーペナルティだが……こんなマニアックな追記装備存在するのか?」

「YES! 最強クラスと名高いモンク系統の最強装備!! 『紅蓮のふんどし』や『天魔の紐』にも同様の説明があるぜぇぇええ! Yeah!」

「なるほど……だから、モンクには赤フン一丁の変態とか……紐のようなパンツ一丁の変態が多いのか……」


 てっきり、モンクになるとパッシブで特殊性癖に目覚めるのだと思ったら、ちゃんとした理由があったようだ。


 他クラスの装備には疎かったが……まさか数年越しに真実を知るとは……奥の深い世界だ。


「エアリアルシリーズとファントムシリーズで悩んでいたが、効果を見る限り……ファントムシリーズの方が上だな」

「Foooo! yeah! そのマスクは俺だと思って大切して欲しいぜぇぇぇええ!」

「お、おう……ありがとうな」

「ゆーあー……うぇるかむ! yeah!」


 マックスは激レアアイテムを寄与してくれた恩人だ。


 俺はマックスの差し出した拳に拳を突き合わせた。


 俺の装備品は固まった。その後は、メイ、ヒナタ、ヒロアキの装備品の助言に回ることにした。



  ◆



 装備品の吟味を始めてから3時間後。


「ふぅ、やっと決まったぁ!」

「少し、疲れましたね」

「戴いた数々の装備品のご恩……一生を費やしてお返しする所存!」

「にゃはは、ヒロにぃは大袈裟にゃ。倉庫整理の意味合いが強いから気にする必要はないにゃ」

「そうですね。ソラさんの仲間……そして【天下布武】に入団頂けるのなら、私たちはかけがえのない仲間です。仲間に遠慮は不要ですよ」

「まぁ、ヒロじゃないけど……想像以上のレア品を貰ってしまった。仲間とはいえ、親しき仲にも礼儀あり。何かしらの形でこの借りは返すさ」

「ソラさんがそんなことを言うと……メイさんたちが萎縮してしまいますよ?」

「ゔ……そ、そうだな……メイ、ヒナタ、ヒロ……ここは、先輩方の好意に甘えよう」

「うん!」

「はい!」

「承知!」

「……ソラさんに後輩ポジションは無理ですよ?」

「Foooo! yeah! リーダーは後輩、俺、先輩! 先輩の命令は――絶対!! 楽しみだぜぇぇぇえええ!」

「……すまん。先程の発言は撤回する」


 俺の言葉にみんなが笑い声を上げる。


「えっと、今からこの装備品をクロちゃんに強化して貰って……《グロー加工》っていうのをするんだよね?」

「いや、強化はするが……グロー加工はもう少し後だな」

「え? そうなの?」

「……リクにぃ、申し訳ないにゃ」

「クロが気にする必要はない。これは【天下布武】の問題でもあるからな」


 俺の言葉の意味を察したクロが頭を下げる。


「あ! そうか! 《グロー加工》したら、能力が落ちるんだっけ?」

「だな。《グロー加工》をするのは――戦争が終結してからだ」


 【黄昏】との戦争が間近に迫っているのに、装備品を能力を半減させるのは下策だ。


「え? ちょ、ちょっと待って下さい!」

「ん? どうした?」


 俺の言葉にマイが慌てふためく。


「まさか、戦争に参加するつもりですか!」

「一応、【天下布武】の一員になる予定だからな」

「一応ではなく、ソラさんは団長です!! ……そうではなく! ソラさんは自分のレベルをお分かりなのですか! 百歩譲ってソラさんはいいとして……! その言い方だとメイさんたちも参加させるつもりですか! 反対です! 私は副団長として、断固として反対します!」


 凄い剣幕のマイが食って掛かってくる。


「まぁ、ソラの頃のように主力としては無理だろうから……出来て後方支援だろうな。メイたちに関しては……」

「リクが参加するなら、うちも参加するよ!」

「わ、わ、私も頑張ります!」

「私はリク殿の盾故!」


 止めるのは無理だろう。下手に反対して、勝手に行動を起こされるくらいなら、最初から参加を認めて管理下に置いた方が安全だ。


「と、言う訳だ。まぁ、戦力としてはイマイチかもしれないが……参加はさせてもらうぜ」


 俺は怒るマイに対し、笑顔を向けるのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつもお読みいただきありがとうございます!


『無限世界のトップランカー』がいよいよ明日(10/5)全国の書店に並びます!!!


明日は発売記念を祝して……SSを3本投稿します!


書店でお見かけの際は、お手に取って頂けると幸いですm(_ _)m


何卒、よろしくお願い致します!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る