装備新調②

 防具は、頭、上鎧、籠手、下鎧、靴の5種類。


 防具はセット装備がベストだろうな。


 セット装備は、シリーズを揃えることにより特別な効果が発揮されるし、見た目のバランスも良好だ。


 お洒落に命を賭しているようなプレイヤーは、敢えてセット装備ではなく不揃いにすることにより、見た目を演出したり、多くのプレイヤーがシステム操作で非表示にしている頭装備に気を遣ったりするらしい。


 見栄えはこの世界をより楽しむために必要な要素だとは理解している。しかし、俺は見た目よりも性能に比重を置くタイプだった。


 とは言え、『魅惑のウサ耳』や『魂の赤ふん』などの極端な見栄えの装備品は、よほど……それこそ最高クラスの性能でも備えていない限りは選択肢から除外となる。


 つまり、見た目と性能で一番バランスが取れた装備が――セット装備だった。


 汎用性が高いセット装備は詳しいが……クラスジョーカー専用の装備まではさすがに把握していない。


 俺の倉庫には該当するセット装備はなかったが……これだけあれば……何かお宝もあるかもしれない。


 俺は訓練室に並べられた無数にある装備品を物色する。


 ん? これは……


 俺はとある装備を手に取った。


 『ファントムジャケット』?


 黒を基調に裏地に赤の生地を使った丈の短いジャケットで、ジョーカー専用の装備だ。


 軽装備にしては物理、魔法共に防御力が高く、各種状態異常の耐性に加え、光属性以外の耐性も高い。


 何より、目に付いたのが……『セット効果:3種揃うとジョーカー専用スキルの効果が1.2倍。5種揃うとジョーカー専用スキルの効果が1.5倍』


 1.5倍は破格の性能だ。


 似た性能で、ソラの頃に装備していた防具もあるが……あちらは、3種揃えてデストロイヤー専用スキルの効果が1.1倍。5種揃えても1.25倍だった。


 ジョーカーは不人気クラスだから、テコ入れのために実装された装備品なのだろうか?


 稀にだが、ミスマッチな性能(タンククラスなのに攻撃力アップなど)や、過疎化しているクラスや属性に対して、通常よりも効果の高い装備品が存在していた。


 有名どころで言えば、モンクを除いた僧侶系しか装備できない――攻撃力特化の破壊神シリーズや、魔法使い系しか装備できないナックルの性能を存分に高める――撲滅シリーズ。


 あとは、俺の装備しているシルフィードの祝福もAGIだから許された、ノーペナルティの成長促進装備だろう。


 ってことは、あの装備もあるのかな?


 お! やっぱりあった。


 手に取ったのは、『エアリアルアーマー』。


 白と緑を基調とした軽鎧で、エアリアルシリーズを揃えると、すべての風属性に起因する効果が増幅される。


 こちらも、火属性であれば5種類揃えても1.25倍の効果が1.5倍になっている。


 不遇属性の不遇クラスのメリットを最大限に活かすなら、ファントムシリーズか、エアリアルシリーズがベストだろう。


 どっちにするか……を決める前に、セット装備が揃っているかの確認が先だな。


 装備品の目星を付けた俺は、エアリアルシリーズとファントムシリーズを探し始めた。


 むぅ……。


 『エアリアルアーマー』、『エアリアルヘルム』、『エアリアルガントレット』、『エアリアルレガース』は発見したが、『エアリアルシューズ』が見当たらない。


「クロの持ち込みアイテムの中に『エアリアルシューズ』はあったか?」

「にゃ? んー、ボクが持っているのは、エアリアルシリーズはレガースだけにゃ」

「そうか。ありがとう」

「マイ、『エアリアルシューズ』はあるか?」

「ここにあるのがすべてですが……少々お待ち下さい」


 マイはそう言うとシステムコンソールを操作する。


「ソラさん、すいません。団員に話を聞きましたが、『エアリアルシューズ』を所有している者はおりませんでした」

「そうか。ありがとう」

「市場を探しに行かせますか?」

「『エアリアルシューズ』って緊急クエスト産だよな?」

「はい。そうですね」

「そうなると……市場にはなかなか出ないだろ」

「エアリアルシリーズは人気がないので……募集すればあるいは……」

「んー、エアリアルシリーズは分解すると高級な素材が取れるにゃ。エアリアルシリーズは売るのが難しいアイテムだから分解されている可能性のほうが高いにゃ」

「なるほど……」


 こんなにも沢山装備品があるのに、お目当ての装備品はない。


 まぁ、人生とはそういうものだろう。


 俺は改めてファントムシリーズの装備品を探すことにした。


 ぐぬぬ……。


 『ファントムジャケット』、『ファントムボトムス』、『ファントムグローブ』、『ファントムシューズ』はあったが、今度は頭装備がなかった。


 何故、揃わない……。


 ファントムシリーズを装備している……と言うか、【天下布武】にジョーカーのプレイヤーはいない。


 俺がジョーカーになることは伝えてあったから、所有している団員がいるのなら……ここに寄与されているだろう。


 つまり、ファントムシリーズの頭装備も『エアリアルシューズ』同様にないのだと思う。


「ソラさん、何かお探しですか?」

「ん? 『ファントムヘルム』? 『ファントムハット』? なんだろ? とりあえず、ファントムシリーズの頭装備を探しているのだが……」

「わかりました。少々お待ち下さい」


 マイは再びシステムコンソールを操作する。


 んー、4種と5種ではセット効果が雲泥の差だ。


 2種でもセット効果が発揮する装備を探して……2種と3種の組み合わせを狙うか?


 ファントムシリーズを揃えることを諦め、現実的な代替案を考えていると……、


「ソラさん! ありました!」

「え?」

「マックスさんが、『ファントムマスク』を所有しているらしく、喜んで贈呈してくれるそうです!」

「『ファントムマスク』?」


 ――!


「まさか……アレか?」

「はい。恐らく、ソラさんのイメージしている通りだと」


 それは、マックスが余興で被っていたマスクだ。


 見た目は顔すべてを覆う白いマスク。正しい装備方法は、頭の側面にお面のように装着する頭装備らしい。


 しかし、マックスはこれを正面に被って……全身をインナー(真紅のTバック)のみにして、『Foooo! 昂るぜぇぇぇい! Yah!』と間違った使い方をしていた。


 まさか、アレが『ファントムマスク』なのか……。


「確か、性能はかなり高かったよな?」

「そうですね。装備品の効果を発揮できないことにマックスさんは悔しがってましたね」


 VRMMOなので身に付けるだけなら、どのクラスでも可能だ。但し、適性がない場合は装備品の効果が一切発揮されない。


 まさかの頭装備がマスク……と言うかお面タイプかぁ。


 非表示にしてしまえば問題ないだろう。


 とりあえず、性能を見てから考えよう。


 マックスを待つこと5分。


「Foooo! Yeh! 呼ばれて、飛び出て! 俺、参上!」


 今日は和の気分だったのだろうか?


 Tバックではなく、真紅のフンドシ一丁に白いマスクを装着した変態マックスが現れたのであった。


―――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます!


いよいよ、来週の火曜日に『無限世界のトップランカー』が発売されます!


来週は発売記念を祝していくつかSSを投稿予定です! 是非、楽しみにしていて下さい!


話は変わりますが……やはり装備を新調する話は書いてて楽しいですね(笑) 書籍化に伴い、素敵なイラストが出来たのでイメージが膨らむばかりですw


今後も『無限世界のトップランカー』をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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