緊急クエスト最終日②
「遠距離アタッカー総員に告ぐ! これより遊撃隊の道を切り拓く! 総員、構え!」
俺の合図に合わせて、遠距離アタッカーのプレイヤーたちが攻撃の準備動作に入る。
「狙いはゴブリンナイトへと続く道! 今だ! ――放てっ!」
俺の合図に合わせて、遠距離アタッカーが一斉にゴブリンナイト目掛けて直線上の攻撃を放つ。
「遊撃隊! 突撃!!」
「行くぞ!」
「「「うぉぉぉおおお!」」」
120人で結成された遊撃隊のプレイヤーが遠距離攻撃により出来たゴブリンナイトへと続く道を疾走する。
「チームAは一歩前進! タンクのプレイヤーは盾を打ち鳴らせ!」
俺の率いるチームAのプレイヤーは前線を押し上げ、盾を打ち鳴らす。
近くにいたゴブリンたちは遊撃隊を襲うのを止め、盾の音に誘き出される。
後は適時遠距離プレイヤーたちが、ゴブリンナイトの周辺を攻撃。
この一連の流れこそが、遊撃隊への援護であった。
救援はしない、と告げてあるが……万が一の場合は俺はメイと二人で救援に向かう予定だ。
まぁ、ここまでお膳立てをしてゴブリンナイトを倒せないようであれば、遊撃隊は解散だ。
俺は防衛ラインで迫りくるゴブリンを倒しながら、遊撃隊を見守る。
120人で結成された遊撃隊は、周囲のゴブリンを相手にしながら、果敢にゴブリンナイトへも攻撃を仕掛けていた。
連携はイマイチだが……あの様子なら大丈夫そうだな。
自ら志願するだけあって、遊撃隊に所属するプレイヤーはレベル、装備、プレイヤースキル共に悪くない仕上がりだ。
本当なら俺も遊撃隊に参加したかったが……発起人が遊撃隊に志願したら、タックと同じで権力を乱用しているように見られただろう。
まぁ、いい。塵も積もれば山となる。雑魚の討伐数でもMVPの指針となる貢献度に考慮される。
MVPを諦めた訳ではない俺は、周囲のゴブリンたちを次々と掃討する。
遊撃隊は問題ないとなると……次に問題となるのは、暴走するタックたちだった。
俺はもう1匹のゴブリンナイトへと意識を移す。
単純なルーチンで暴走するタックたちは、押し迫るゴブリンの群れに阻まれて、ゴブリンナイトの元にすら辿り着けていなかった。
装備品が良いだけだな……。
装備品の性能に助けられ、押し迫るゴブリンをワンキルしているが、無駄な動きが多い。
おいおいおい……立ち止まったらゴブリンナイトまで辿り着けないぞ?
タックの周囲には脳筋しかいないのだろうか?
マントを羽織った集団は全員がアタッカーと言わんばかりに、役割分担もなく目の前のゴブリンを攻撃し続けている。
前に進むなら足を動かさないとダメだろ?
あ、ほら! 囲まれたじゃねーか!
あそこからどうするつもりだ?
タックたちはゴブリンナイトへ向かう道半ばで足を止めてしまい、四方をゴブリンたちに囲まれてしまった。
「クソっ! お前たちも早く来い! 聞こえているのか! 周囲のゴブリンどもを掃討しろ!」
タックが大声で喚き散らす。
まさかの解決策が……救援を呼ぶことかよ。
「お前たちわかってるな! 俺たちの目的は防衛拠点を守ることだ! この場を離れることは許されねーからな!」
ガンツがタックに負けないくらいの大声でプレイヤーたちの行動を律する。
「クソっ! クソっ! クソっ! 早く来い! 俺がどうなってもいいのか! 俺がゴブリンナイトを倒さなければ、お前らは死ぬんだぞ!」
もはや意味不明なことをタックは叫び始める。
タンクもヒーラーも存在しない暴走集団は、一人、また一人と迫りくるゴブリンたちによる数の暴力に押し負け倒れされていく。
「ゴブリンナイト! 討ち取ったぞー!」
――!
タックに集中している内に、こちらの遊撃隊は無事にゴブリンナイトを殲滅したようだ。
「遠距離アタッカー総員に告ぐ! 遊撃隊の帰路を切り拓く! 総員、構え!」
俺の合図に合わせて、遠距離アタッカーのプレイヤーたちが攻撃の準備動作に入る。
「狙いは遊撃隊と我々の間に存在するゴブリン! 今だ! ――放てっ!」
俺の合図に合わせて、遠距離アタッカーが一斉にゴブリン目掛けて直線上の攻撃を放つ。
「遊撃隊! 帰還せよ!!」
「行くぞ!」
「「「うぉぉぉおおお!」」」
ゴブリンナイトを討伐した遊撃隊が遠距離攻撃により出来た帰還への道を疾走する。
「チームAは一歩前進! タンクのプレイヤーは盾を打ち鳴らせ!」
俺の率いるチームAのプレイヤーは前線を押し上げ、盾を打ち鳴らして、遊撃隊が帰還する道を押し広げる。
「お疲れさん」
俺は遠距離アタッカーとチームAのプレイヤーが作った帰路の道で帰還した遊撃隊を出迎える。
「助かった! それで2匹目はどうする?」
「2匹目はもう少し様子を見ようか。遊撃隊は後列で休息してくれ」
「了解! 俺たちはすぐにでも行ける! いつでも声を掛けてくれ!」
ゴブリンナイトを倒したことにより、アドレナリンが全開の遊撃隊のプレイヤーたちだったが、一度消耗した体力を回復させるために後列へと下がらせる。
2匹目のゴブリンナイトはどうなった?
お? タックたちは立ち往生していたが、ゴブリンナイトの方からタックの元へと辿り着いたようだ。
「我々の! 【百花繚乱】の力を見せつけるのだ!」
タックは必死に仲間を鼓舞するが……。
いやいや、今必要なのは鼓舞じゃなくて、指揮だろ?
全員が周囲の状況も気にせずゴブリンナイトに攻撃を仕掛けるため、がら空きとなっている背後からゴブリンの集団による攻撃を受け続ける。
「クソっ! 何をしている! 周囲のゴブリン共を蹴散らせ!」
ゴブリンから攻撃を受け続けたタックがようやく仲間に指示を出すが……
「――ッ! ゴブリンナイトへの攻撃も忘れるな! 何をしているんだ!」
全員が一斉に周囲のゴブリンへ向かった結果、ゴブリンナイトの攻撃がタックへと集中し、タックはまたもや喚き散らす。
「もう無理だ……! これ以上付き合っていられるか!」
やがて、マントを羽織った一人のプレイヤーが戦線から離脱すると、堰を切ったようにタックの周囲にいたプレイヤーが次々と戦線から離脱する。
「ま、待て……! どこへ行く気だ! 戦え! 勝利は……俺たちの勝利は目の前にあるんだ!」
戦線離脱した仲間を罵倒するタックは、一人敵の包囲網に取り残され、戦線を離脱したプレイヤーを追いかけるゴブリンの群れは列車のように連なり、ガンツたちの元へと突撃する形となった。
「遠距離アタッカー総員に告ぐ! 奴らが引き起こしたMPK紛いのゴブリンを掃討せよ!」
列車のように連なるゴブリンの群れへと遠距離アタッカーによる集中砲火が放たれる。
「クソっ! クソっ! クソぉぉぉおお!」
そして、取り残されたタックはゴブリンナイトの斧の餌食となり、倒れた。
「遊撃隊に告ぐ! 2匹目のゴブリンナイトへの突撃準備を開始せよ!」
「「「おぉー!」」」
機は熟した。
邪魔者が消え去った戦場で、俺は決められたルーチンに従った指示を出すのであった。
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