緊急クエスト最終日③
緊急クエスト最終日。
ゴブリンの襲撃から18時間後。
不安要素が取り除かれた今、ローテーション、遠距離アタッカー、遊撃隊、全ての戦略が上手く型にハマった俺たちは順調に防衛を進めていた。
残る強敵はゴブリンナイト2匹と、ゴブリンキング1匹のみ。
このまま進めていけば防衛の成功は間違いないだろう。
後は、報酬ランクAを目指すか、否か。
「ガンツさん、Aランクを目指すか?」
「おうよ! ここまで来たら目指すしかないだろ!」
「俺たちはまだまだいけるぞ!」
ガンツに確認を取ると、ガンツのみならず遊撃隊に所属しているプレイヤーもやる気は満々だ。
「ゴブリンキングの周囲には常に2匹のゴブリンナイトが近くにいる。遊撃隊でも3匹同時はキツイだろ?」
「やってみないとわからないだろ! と言いたい所だが……今回は貴方の指示に従おう」
遊撃隊のリーダー的なポジションにいるプレイヤーからの俺に対する信頼度は高いみたいだ。
「どうせ、風の兄ちゃんには何か良い案があるんだろ?」
ガンツは俺を見てニヤッと笑みを浮かべる。
「あるにはあるが……遠距離アタッカーの指揮をガンツさんに任せてもいいか?」
「は? いやいや無理だろ……俺はそんな経験ねーよ!」
「んー、となると……クロ!」
俺はヒロアキの近くで斧を振るっているクロを手招きする。
「何にゃ?」
クロはてくてくと近付いて来て、クロの抜けた穴をガンツの仲間のプロ初心者がすぐに埋める。
「遠距離アタッカーの指揮を任せてもいいか?」
「にゃ!? リクにぃは何をするにゃ?」
「ゴブリンナイトを釣ってくる」
「なるほどにゃ。わかったにゃ! 任せるにゃ!」
戦闘中のクロの動きを見ていて気付いたのだが、クロの視野はかなり広い。ひょっとして、メインキャラは俺と同じくどこかの旅団の団長なのかもしれない。
「ん? 風の兄ちゃんは何をするつもりだ?」
「ゴブリンナイトをゴブリンキングから引き離す為に、釣ってくる」
「そんなこと出来るのか?」
「盗賊職で風属性の俺なら……何とかなるはずだ」
「すげーな……」
「ガンツさんに初めて会った時にキャラクターを作り直さなくて良かったよ」
「んな!? 今、それを言うか!」
俺はガンツにブラックジョークを告げ、笑う。
「それじゃ……俺がゴブリンナイトを釣ったのを確認したら、遠距離アタッカーの援護を頼んだぞ」
「了解にゃ!」
「遊撃隊は遠距離アタッカーの援護を確認次第、俺の釣ったゴブリンナイトに攻撃を仕掛けてくれ!」
「了解だ!」
「それじゃ、行ってくる!」
――《隠匿》!
自身を周囲と同化させ、ゴブリンの群れの中を疾走。
このゴブリンの流れ的に……ゴブリンキングのいる位置は……。
俺はソラであった頃の経験からゴブリンキングの位置を探り当てる。
――発見!
ゴブリンナイトよりも更に頭一つ分大きいゴブリンキングを視界に捉えた俺は、近くに隠れることが出来そうな遮蔽物がないのか探す。
あの木が手頃か?
俺は一本の木を発見し、素早く上へと登った。
周囲のゴブリンと比べて倍以上大きなゴブリンナイトが2匹と、そのゴブリンナイトよりも頭一つ大きいゴブリンキング。
3匹の互いの距離は5メートルも離れていない。せめて、10メートルは離れてくれないと、1匹だけを釣ることは不可能だ。
俺はじっくりと3匹の様子を確認。
しかし、3匹は動かない。
このまま時間だけが経過し、3匹が進軍を開始したら前線が崩れる危険性もある。
仕方ない……。少し動くか。
俺は木から降りて、木から一番離れたゴブリンナイトから、更に進んだ位置を目指す。
(※図解 木 ● ◎ ● ☆
●=ゴブリンナイト ◎=ゴブリンキング ☆=目的地)
目的地に辿り着いた俺は周囲のゴブリンに気付かれてないように気配を殺しながら《アラート》の罠を設置。
――《アクセル》!
そして、加速した状態で即座に木の上へと戻った。
待つこと10秒。
『ビィィィィイイイ!!』
周囲にいたゴブリンが《アラート》の罠を踏み抜き、周囲に爆音が鳴り響く。
《アラート》の爆音に驚いたゴブリンたちが興奮し、ゴブリンナイトとゴブリンキングもその異変に気付き始める。
最初に動いたのは一番近くにいた、ゴブリンナイト。次に動いたのはゴブリンキング。そして、最後に俺の潜んでいる木から一番近くにいたゴブリンナイトが仕掛けられた《アラート》の場所へと移動を始める。
――今だ!
3匹は《アラート》の音に夢中で互いを確認していない。距離も僅かだが、開いた。
――《ウィンドカッター》!
俺は風の刃を最後に動いたゴブリンナイトへと飛ばし、ヘイトを稼ぐ。
そして、攻撃をしたことにより存在が露わになってしまった俺に周囲のゴブリンが殺到する。
俺は長蛇の列を作るゴブリンと1匹のゴブリンナイトを引き連れながら、仲間の元へと疾走するのであった。
◆
《アクセル》を使えばもう少し安全に逃げれただろうが、離れすぎると付いて来ない可能性もある。また、襲い来るゴブリンたちを躱しながらの疾走は精神と体力を大きく摩耗させた。
そんな疾走を続けること10分。
ヒュンッ! と風を切る矢の音が耳に届いたかと思えば、無数の矢と魔法が進行方向から飛来して来た。
「総員! 仮面のリーダーを助けるにゃ! ゴブリン列車を破壊するにゃ!」
ようやく、仲間たちの援護が俺に届いた。
ここまで来れば大丈夫だろう。
――《アクセル》!
加速し防衛ラインへと向かう俺と、
「うぉぉおおお! リーダーの心意気に応えるぞ!」
「「「おぉー!」」」
ゴブリンナイトへと突撃を仕掛ける遊撃隊が交差する。
「ハァハァ……ただいま」
「リーダーおかえりにゃ!」
「おっかえりー!」
「おかえりなさい!」
「我が主、お疲れ様でした!」
「流石は風の兄ちゃん! 大漁だな!」
疲労困憊になりながらも、俺は仲間の元へと帰還。
一人で釣るのはシンドイな……。次はメイを連れていこう。
俺は少し無理をし過ぎたと感じたのであった。
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