緊急クエスト最終日④

 俺の釣ったゴブリンナイトは遊撃隊が討伐。


 少し休憩した俺はメイと共にもう1匹のゴブリンナイトを釣りに向かった。


「メイ、俺がゴブリンキングの注意を引き付けている間にゴブリンナイトを釣ってくれ」

「オッケー!」


 先程のゴブリンナイトを釣った木の上に辿り着いた俺はメイに簡単な作戦を伝える。


 今度は先程と同じ手順では厳しそうなので、俺がゴブリンキングを釣っている間に、メイにゴブリンナイトを釣ってもらう作戦を実行することにした。


 ――《ウィンドカッター》!


 俺はゴブリンキングへと風の刃を放つ。


「ギィーーー!」

「「「ギィ! ギィ! ギィ!」」」


 風の刃を受けたゴブリンキングが咆哮を上げると、《隠匿》が切れた俺へと周囲のゴブリンが殺到。


「ハッ! 来やがれ!」


 俺は用意していた『火炎壺』を割り、炎の壁を作りながらゴブリンたちを牽制する。


 メイの負担を減らす為にも出来るだけ多くのゴブリンを引き付けないとな……。


 俺は『火炎壺』を四方八方に投擲し、炎の壁を築きながら、より多くのゴブリンの意識を集める。


 そして、ゴブリンキングとゴブリンナイトが離れるように細かい移動を繰り返す。


 ――!


 俺の前方にゴブリンキング、その奥にゴブリンナイト。2匹の巨体のゴブリンが直線上に重なる。


「メイ! 今だ!」

「了解!」


 メイは俺の合図に合わせて蛇王戦輪をゴブリンナイトへと投擲。


 背中を切り裂かれたゴブリンナイトは憎悪の瞳をメイへと差し向ける。


「鬼さんこちら♪ 手のなる方へ♪ っと!」


 メイはイタズラっ子のような笑みを浮かべると、一目散に防衛拠点の方へと疾走。


「ギィィィイイ!」


 憎悪に縛られたゴブリンナイトは、メイの後を追いかけた。


「おいおい、俺のことを忘れるなよ!」


 俺はゴブリンナイト共にメイを追いかけようとしたゴブリンたちに『火炎壺』を投げつけ、メイとは逆の方へ後退する。


「お前も見るべき相手は俺だよ! ――《ウィンドカッター》!」


 念の為ゴブリンキングに攻撃も仕掛けた俺は、メイとは逆の方角へと疾走するのであった。


 ゴブリンの大群とゴブリンキングから逃げ回ること5分。


 そろそろいいか?


 ――《アクセル》!


 自身の敏捷性を大きく加速させた俺はゴブリンキングとゴブリンを置き去りにして、防衛拠点へと疾走するのであった。



  ◆



 防衛拠点まで辿り着くと、すでに前線では遊撃隊とゴブリンナイトが激しい攻防を繰り広げていた。


「メイ、大丈夫だったか?」

「あはは……少し疲れたかな」


 メイは額に汗を滲ませながらも、笑顔で応える。


 防衛ラインは……問題なさそうだな。


「少し休むか」

「うん!」


 俺とメイは後列へと下がり、ゴブリンナイトと戦う遊撃隊を観戦するのであった。


 ゴブリンの襲撃から20時間後。


 全てのゴブリンナイトを討ち取り、後は無限ポップと思えるほどのゴブリンの大群とゴブリンキングを残すのみとなっていた。


 仲間と共に防衛ラインの前線でゴブリンの迎撃に励んでいると……


「お、遂に登場か」


 視界の先に一際巨体なゴブリン――ゴブリンキングの姿を捉えた。


「わぉ! めっちゃ怒ってない?」

「少しだけちょっかいを掛けたからな」


 ゴブリンキングは肉切り包丁のような巨大な鉈を振り回し雄叫びをあげている。


「やっぱり強いの?」

「かなり強いな」

「しかし、リク殿の敵ではありませぬな!」

「うんうん。リクさんなら余裕で倒せますよね!」


 仲間たちは公の場では俺の事を『リーダー』と呼び、仲間内で固まっている時は普通に名前で呼ぶ。一応、仮面で顔と名前を隠している俺への配慮らしい。


「リクにぃは倒せる自信があるにゃ?」

「一対一なら倒せる可能性は……どうだろうな? 少し厳しいかな」


 緊急クエストのボス――“キング”の名を冠するモンスターは、どれも例外なくその階層ではあり得ない強さと耐久力を誇っていた。


「リクが一対一でも厳しいって、そんなに強いんだ」

「メイと二人なら勝てそうですか?」

「どうだろうな? メイ、ヒロアキ、ヒナタ、クロの5人で挑んで、且つ周囲のゴブリンを他のプレイヤーが担当してくれれば勝てるだろうな」


 俺は率直な意見を告げる。


「へぇ、強いのかぁ……。でも、5人なら勝てるんだよね? 戦いたいなぁ……」

「まぁ、俺も正直戦いたいが……最後の美味しい所を奪ったら不要な敵を作ってしまうだろ?」


 今回の緊急クエストで貢献度の高いプレイヤーはこの先の3ヶ月後、6ヶ月後の緊急クエストでも同じになる確率は高い。


 一度抱かれた嫌悪感を払拭するのは困難で、それが後々のトラブルに結びつくことは往々にして起こり得る。


「しょうがないよね」

「まぁ、メイを含む俺たち仲間は全員貢献度ランキングには載れると思うけどな」


 貢献度ランキングは100位以内までは冒険者ギルドに張り出され、ランキングに応じた報酬も獲得出来る。


 俺の見た限り、タンクとして一番活躍していたのはヒロアキだ。それはヒナタの回復貢献度が高いことも意味している。


 クロは生産職というハンディはあるが、ヒロアキのヘイトコントロールのお陰でゴブリンの討伐数はかなり上位に位置しているだろう。


「風の大将! 俺たちの出番はまだか?」


 遊撃隊のリーダー格のプレイヤーが声を掛けてきた。


「風の大将……? 何だそれ?」

「いや、ほら……俺たちは大将の名前を知らないだろ? 調べようとして『Unknown』で表示されるからな。一応、俺的にはリスペクトをして呼んでいるつもりなんだぜ?」


 どうやらゴブリンナイトを釣ったことで、遊撃隊から信頼度は更に高まったようだ。


「まぁ、好きに呼んでくれ。遊撃隊の出番は、もうすぐだ。但し、油断はするなよ? ゴブリンキングの強さはゴブリンナイトとは比べものにならないからな!」

「任せておけ! 期待には応えてみせる!」


 俺はゴブリンキングとの距離を測る。


 遠距離アタッカーの射程距離を考えると……そろそろか?


「遠距離アタッカー総員に告ぐ! これより遊撃隊の道を切り拓く! 総員、構え!」


 俺の合図に合わせて、遠距離アタッカーのプレイヤーたちが攻撃の準備動作に入る。


「狙いは敵の首領――ゴブリンキングへと続く道! 今だ! ――放てっ!」


 俺の合図に合わせて、遠距離アタッカーが一斉にゴブリンキング目掛けて直線上の攻撃を放つ。


「遊撃隊! 最後の大仕事だ! 突撃せよ!!」

「っしゃ! 行くぞ!」

「「「うぉぉぉおおお!」」」


 遊撃隊のプレイヤーが遠距離攻撃により出来たゴブリンキングへと続く道を疾走する。


「チームAは一歩前進! タンクのプレイヤーは盾を打ち鳴らせ!」


 俺の率いるチームAのプレイヤーは前線を押し上げ、盾を打ち鳴らし遊撃隊を援護する。


 防衛ラインを守るプレイヤー、遠距離攻撃を放つプレイヤー、そしてゴブリンキングに突撃した遊撃隊――緊急クエストに参加している全てのプレイヤーは20時間以上に及ぶ戦闘を続けているが、表情は明るく、士気も高い。


「遊撃隊! 最後の仕上げは任せたぞ!」


 緊急クエストを締めくくる最後の最後の戦いが幕を開けた。



  ◆



 1時間後。


 戦場の空気は一変したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る