従魔ガチャクエスト④
「んで、どうやったら孵るの?」
従魔の卵を受け取ったメイに質問を投げかけられる。
「アイテムインベントリーに入れて、複数回の戦闘を熟すだけだな」
「生まれてくる従魔によって必要な戦闘回数が異なるにゃ」
「と言うことは……なかなか孵らなかったらレア従魔の予感……ってこと?」
「一概にそうとも言い切れにゃいけど……同ランクの敵と20回未満の戦闘で孵ったら、ハズレのケースが多いにゃ」
「なるほどね! 早く孵って欲しいような……孵って欲しくないような……複雑な気持ちになるね!」
メイは抱えていた卵を大切そうに撫でながら笑顔を浮かべた。
「格下の魔物と戦闘しても中々孵らないが……今の俺たちのレベルならこの階層の魔物は全部格上だ。サクサクと魔物を倒すとするか」
俺たちはメイが所持することになった従魔の卵を孵化させるべく、フィールドへと出掛けたのであった。
◆
近場のフィールドで手頃な魔物を狩り続けることおよそ1時間。
「わわっ! 何かシステムウィンドがポップアップしたよ!」
メイが突然大声をあげる。
「お、早いな」
「これは……ハズレの予感にゃ」
「俺はウルフに一票」
「ボクはスライムに一票にゃ」
俺はクロと定番のハズレ従魔の名を挙げていると、メイがアイテムインベントリから取り出した卵が淡い光に包まれる。
「わぁー! わぁー!」
「楽しみですね!」
「ふむ。楽しみですな」
初めて従魔の孵化を目にする3人が目を輝かせて、メイの抱える卵を注視する。
「ギィ! ギィ!」
淡い光が収束し割れた卵から産まれたのは小さな緑色の小人――ゴブリンだった。
「コレって……ゴブリン?」
「ゴブリンだな」
「ゴブリンにゃ」
「え、えっと……ゴブリンは……」
「ハズレだな」
「残念ながら、ハズレにゃ」
ほんの僅かに期待するメイに、俺とクロは非情な答えを告げる。
「やっぱり……弱いの?」
「弱いな。ゴブリンの唯一の魅力と言えば進化だな」
「進化?」
「進化する形態は多岐に渡るが、代表的なルートだとゴブリンナイト、ゴブリンロード、ゴブリンキングかな」
「ゴブリンキングまで育てばかなり強いんじゃないの?」
「そこそこ強いけど……すっごく頑張って育てて……結果的にパッと湧き出たレア従魔に負ける……それがゴブリンにゃ」
クロがメイの希望を打ち砕く。
ゴブリンやスライムの従魔は入手難易度が低く、プレイヤーが初めて契約する従魔になるケースが多い。
初めて契約した従魔は可愛く、精魂込めて育成するプレイヤーは多いのだが……偶然手にしたレア従魔に数年かけて育成したゴブリンキングがあっさり抜かれると言うのもよくある現象だった。
「ハズレなのかぁ……カワイイのになぁ……」
「あ! メイねぇ危ないにゃ……」
メイは寂しそうに産まれたばかりのゴブリンのほっぺを触ろうと指を伸ばした瞬間、
「――ッ!? い、痛っ!」
「迂闊に指を出すと噛まれるぞ……って遅かったか……」
メイの差し出した指をゴブリンが噛み付いた。
「うぅ……痛いよ……。この子進化しても弱いんだよね?」
「例えばの話になるが、メイが必死にそのゴブリンを育てて数年かけてゴブリンキングになるとするだろ?」
「うん」
「えっと、りんねを知ってるんだよな?」
「小説版だけど知ってるよ」
「小説版のりんねは知らないが……数年かけて育成したゴブリンキングより、一ヶ月育成したりんねの方が強い」
「……悲惨だね」
「だから、最初からそこそこ使える従魔を選定した方がいいな」
「じゃあ、この子は解放かな……」
「愛着が湧く前に解放すべきだな」
効率重視の俺でさえ数カ月共にした従魔との別れは悲しかった。従魔ガチャの最大のポイントは愛着が湧く前に次に進むことだった。
「バイバイ……ゴブ太……元気に生きるんだよ……」
メイは名残り惜しそうに初めての従魔――ゴブ太を解放したのであった。
◆
従魔ガチャクエストを開始してから14日が経過。
30個以上の卵を受け取ったが、未だに契約すべき従魔には出会えていなかった。
そして現在。
「今回は期待出来るんじゃない?」
「中々孵化しませんね」
「流石はヒナねぇ! 豪運の持ち主にゃ!」
33個目となるヒナが契約主となる卵の孵化作業をしていた。
いつもなら作業開始から1時間以内で孵化していた卵が、8時間経過した今も孵化の兆候は見られない。
「これはレア確定っぽいな」
「後は大型なら……とりあえず目的達成になるにゃ」
今回の目的は馬車を牽ける従魔だ。
小型のレア従魔でも喜ばしいが、小型では馬車は牽けない。
そして、更に孵化作業として戦闘を続けること2時間――
「あ! 孵化するみたいです!」
当初のような驚きはなく、ヒナタが孵化の兆候を告げる。
ヒナタがアイテムインベントリーから取り出した淡く光輝く卵に全員が注目。そして、淡い光が収束すると、卵の殻にヒビが生じ――一匹の従魔が産まれた。
「ユリリィィィイイン!」
ピンクの
――!?
おい、おい……マジかよ……。
「わぁ! カワイイ!」
「えっと……この子は……ユニコーンですか?」
産まれたばかりの従魔は、覗き込んだヒナタとメイに甘えるように角を擦り付ける。
「その子はユニコーンじゃないにゃ」
「ユリコーンだな……」
俺は産まれたばかりの従魔の正体を口に出したのであった。
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