第四〇階層攻略⑥

 スイッチを押すと、『ゴゴゴッ』と重い金属が引きずられる音が遠くから聞こえた。


「あれ? この扉が開くんじゃねーのか」


 カナメは先へと続く封鎖された扉を指して問いかけてくる。


「こちら側のスイッチは向こう側の封鎖された扉と連動している。こちら側の扉を開放するには、向こう側のスイッチを押す必要があるな」

「だから、スイッチダンジョンなのですわね」

「そうだな」

「ってことは……メイっちたちはまだってことか」

「向こうは火力がこっちと比べるとかなり下がるからな。今どこら辺なのか聞いてみるか?」

「へへっ。メイっちは負けず嫌いだから、悔しがるだろうなー」

「下手に伝えて焦らせるのも悪いですから、約束の時間まで待ちましょう」


 確かにアケミの言うとおり焦る可能性は高い。


「ヒロアキにヒナタもいるから、多少のミスをしても死ぬことはないと思うが、ゆっくり待つことにするか」

「だな! ってか、そうだ! リクさん!」

「どうした?」

「さっきの戦闘中の件だが……」

「あぁ……すまん。言葉がキツかったな。申し訳ない」


 俺はカナメに謝罪する。


「違う! 違う! そうじゃない! アレはリクさんの言うとおりだから!」

「ん?」

「そうじゃなくて、さっきの戦闘中にリクさんは私のことカナメって呼んだだろ?」


 俺は記憶を少し掘り返す。


「緊急事態だったとはいえ、礼節を欠いたな……すまん」


 親しき仲にも礼儀あり。ときにオンライゲームはリアルの世界よりも礼節が求められる。今はオンライゲーム……とは言えないが、礼節は重んじるべきだった。


「違う! そうじゃないって! これからもさっきみたいにカナメ! って呼んでくれよ」

「むむ? それなら拙僧もイセ……いや、イセたんと呼んで欲しいですな」

「私もアケミでいいですわ」

「了解。俺のこともリクと呼んでくれて構わない」


 鬼将軍との戦いを経て、俺たちの絆が深まったようだ。


「へへっ。じゃあ、リクっちって呼んでいいか?」

「構わない」

「ハッハッハ! さぁ、イセたんと呼んでくだされ」

「断る」

「――!? リクたんはシャイですな」

「とりあえず、イセさんはそろそろ装備を戻そうか」

「な!? 拙僧だけは距離が縮まってない……だと!?」


 俺は自然と真紅Tバック姿で和んでいるイセに装備の着用を促すのであった。


 その後、カナメたちと雑談を続けながら休息すること3時間。


 ゴゴゴッと振動と共に目の前の扉が開放される。


「お? 意外に早かったな。行くとするか」


 俺たちは立ち上がり、開放された扉の先へと進んだ。


「お疲れさん」


 俺は今ほど通った扉の対角線上にある扉の先から現れたメイたちに右手を上げる。


「キィー! くーやーしーいー! 約束の時間よりもかなり早かったのにー」


 俺たちの姿を確認するや否や、メイが地団駄を踏む。


「お待たせにゃ。リクにぃたちはどのくらい待ったにゃ?」

「んー……3時間くらいかな?」

「――!? そ、そんなにも差が開いてたの!?」


 俺の答えにメイは驚愕を露わにする。


「こっちは火力に特化したパーティー構成だったからな」

「にゃるほど」


 俺の答えにクロが納得の笑みを浮かべていると、


「メイっち! メイっち!」

「ん? どうしたの?」


 カナメが興奮気味にメイへと駆け寄った。


「リクっちすげーよ! マジで凄いな!」

「あはは! でしょ? うちなんかより全然強かったでしょ?」


 メイはカナメの言葉に嬉しそうに笑みをこぼす。


「いや、もう、ほんとにすげーよ! 短剣なのにあり得ないくらいの火力だし、最後は変な武器まで使うし!」

「道中はヒーラーと私の護衛もしてくれましたわ」

「わぁー! リクさんのヒーラー姿は見たことありません! 羨ましいですー」

「ヒロたんの主は凄い御人ですな」

「ハッハッハ! リク殿は身も心も全てを捧げた主ですからな!」

「うむ。拙僧のパーフェクトスタイルを目にして動じなかったのはヒロたん以外では初めてでしたな。流石は、ヒロたんの想いび――」

「イセ殿!」

「ハッハッハ! すまぬ、すまぬ! 二人してシャイなところまでソックリですな!」


 久しぶりに再開したカナメ、アケミとメイ、ヒナタがガールズトークで盛り上がれば、イセとヒロアキも楽しそうに談笑している。


 何となく疎外された気分の俺とクロは二人でメイたちの様子を眺めていた。


「あの三人はどうだったにゃ?」

「んー……カナメとアケミは悪くはないな」


 カナメは最後に少しヘマをしたが、良くも悪くも一般的なプレイヤースキルを身に着けていた。


「ヒロにぃのフレンドは?」

「変態だけど……PSはあの二人よりもワンランク上だな」


 イセは変態だが、行動は的確だった。カナメが鬼将軍相手にやらかしたときも真っ先にフォローに回っていたし、ヒーラーとしての立ち回りも完璧だった。


「へぇ……メイねぇたちと比べると?」

「んー……メイたちは俺の影響もあって役割に特化したスペシャリストだ。イセはゼネラリストとして立ち回りが上手かったから、比較はしづらいな。そういえば、クロから見てメイたちは成長していたか?」

「前と比べると、臨機応変に対応できる感じに成長していたにゃ。野良修行の成果は出ていた感じだったにゃ」

「それならよかった」


 メイたちも成長したようだ。


「さてと、階層主に挑む前に飯にするか」

「はーい」


 俺は雑談が止まらない仲間たちに声を掛け、最後の休息をとるのであった。

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