第四〇階層攻略⑦

 軽食を取りながら階層主――鬼王オーガキングについての作戦会議を行うことにした。


「ここの階層主もやっぱり鬼なの?」

鬼王オーガキングだな」

「強いの?」

「弱くはないが、俺とメイからみたらくみし易い相手だな」

「んーっと、タイミング掴みやすいってこと?」

「そうなるな。注意深く観察すれば初見でも頑張ればタイミング掴めると思うから、頑張れ」

「んん? ちょっと待って! その言い方だと……いつもの作戦と違うの?」

「メイっち、いつもの作戦ってなんだ?」


 驚くメイの言葉にカナメが反応する。


「えっと……いつもはリクがお手本見せてくれるの。んで、『よく観察して、予備動作を覚えろ』ってキメ顔から始まるのがいつもの作戦だよ」

「え? 何それ! リクっちのキメ顔、私も見たいんだけど!」

「ハッハッハ! リク殿のキメ顔は見れるのは至高の瞬間ですな!」

「いいなー! 私なんて怒った顔を見れたくらいだよ」

「え? 何? リクってばカナメに怒ったの?」

「リク殿に怒られただと……! 何と! 羨ましい……! ハァハァ……今後の参考までにどのようなシチュエーションで怒られたのか教えて頂いてもよろしいかな?」


 俺はバカにされているのだろうか?


 俺の目の前で三人がバカ話で盛り上がっている。


「と言う訳で、メイたちは鬼王討伐頑張れよ」

「え? ちょ、ちょっと待って! リクは?」

「俺は……そうだな……イセと一緒に露払いをする」

「む? 拙僧もですかな?」

「ん? 露払いが嫌なら別にいいが……」

「ハッハッハ! 嫌ではござらぬ! 不肖イセ、リクたんの相棒として露払いに務めますぞ!」

「な、な、何故! リク殿! 何故、私ではなくイセ殿が相棒なのですか!」

「適材適所だな」

「リク殿の適材は私であり! 私の適所はリク殿の隣ですぞ!」

「いや、意味わからんし」

「え? ちょっとどういうこと! うちも全然意味わからないんだけど!」


 狼狽するヒロアキとメイを突き放すと、


「リクにぃ……そろそろみんなを許してあげるにゃ」


 クロが仲裁にはいってくる。


「許すもなにも怒ってない。作戦を伝えてまたキメ顔とか言われるのもアレだし……クロ、作戦は任せた」

「にゃはは……やっぱり怒ってるにゃ。えっと……それじゃボクがリクにぃの作戦を補足するにゃ」


 見た目は幼女のクロが困った子供を見るような目で肩を竦める。


「鬼王は何度も眷属である鬼(オーガ)を召喚するにゃ。リクにぃの言う露払いはその鬼を引き受けるって意味にゃ。鬼はどれだけ倒しても意味がないから、鬼王をできるだけ早く討伐する必要があるにゃ。パーティー単位で鬼王担当と鬼担当を割り当てるのが一般的だけど、鬼王の担当を6人にして早期に倒すのが今回のリクにぃの作戦にゃ」

「ついでに言えば、イセはゼネラリストの適性が高いから俺とツーマンセルを組むのに適している」


 イセはモンクというクラスの適性上、アタッカー、タンク、ヒーラーの全てをこなすことができる。潤滑油のようにどのようなパーティーに入ってもある程度の役割をこなせるだけでなく、単独行動にも向いていた。俺自身も回避に特化したアタッカーなので、単独行動に向いていた。


 今回は単独行動に向いた俺とイセがツーマンセルを組むのが最も適切だと判断した結果だった。


「んじゃ、クロ任せたぞ」

「了解にゃ」


 その後一時間休息した後、俺たちは最奥の部屋へと続く扉の先へと進んだのであった。



  ◆



 最奥の間に到達すると、巨大な玉座に一匹の鬼が鎮座していた。


「ふむ……招かれざる客か。何用だ?」


 鬼の発した低い声に大気が震える。


 何用か……。ちなみに、どのうような返答をしても、結果は同じであった。


 鬼王の返答パターンを網羅する! という動画が存在する程度に様々な問答が交わされていた。


 ちなみに、最悪の返答パターンが無言で攻撃を仕掛けることだ。激怒した鬼王は2匹の鬼将軍を召喚し、阿鼻叫喚の地獄と化して、難易度は跳ね上がる。


「え? 何て答えるのが正解なの?」

「何て答えても結果は同じにゃ」

「え? めっちゃ理不尽じゃん!」

「にゃはは。ただ、攻撃を仕掛けると面倒なことになるから適当に返事をするといいにゃ」

「え? え? 急に言われても困るよ! えーっと……」


 急にクロに振られ、メイが狼狽する。


「王である我の言葉に答えぬか……不埒なる客人はお帰りだ。眷属たち――あの世へとお見送りせよ!」


 鬼王が片手を上げると、6匹の鬼が召喚された。


「イセ、鬼を3匹 《正対》で釣ってくれ」


 《正対》はモンクが習得する、単体のヘイトを上昇させるスキルだ。


「承知。左より3匹は拙僧がお相手致す!」

「なら、残りの3匹は俺の獲物だな」

「参る!」


 イセは拳を突き合わせ、左端の鬼のヘイトをコントロールすると、飛び蹴りにて更にもう一匹の鬼のヘイトを高め、バックステップにて下がると再度拳を突き合わせ3匹目となる鬼のヘイトをコントロールした。


 俺はイセがヘイトコントロールをしなかった3匹の鬼に対し、立て続けにボーガンの矢を発射。


 ――《アクセル》!


 3匹の鬼の注意を引けたところで、素早く3匹の鬼の間に移動。


 ――《ウェポンチェンジ》!


 武器を一対の短剣から漆黒の大鎌に換装し、


 ――《パワースイング》!


 3匹の鬼を纏めて切り裂いて、ヘイトを俺へと集めた。


「にゃにゃ! ボクたちもいくにゃ!」

「む? 承知! ――《ガーディアン》!」


 ヒロアキは鬼王の前へと進み地面を踏み抜く、


「いっくよー! ――《夏撃》!」


 メイはヒロアキが鬼王のヘイトをコントロールしたのを確認してから、分銅を放った。


「――《結界・快》!」


 ヒナタはヒロアキの足元に結界を展開。


「いきますわ! ――《ファイヤーランス》!」

「いくぞ! オラッ!」


 メイたちから少し遅れ、アケミとカナメも攻撃に参加。


 安定した立ち上がりだな。


 メイたちの立ち上がりを確認した俺は、自身の役割――鬼退治に集中するのであった。

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