雑談

「簡単に言ってしまえば効率を重視した結果だな」

「効率?」

「あぁ。IGOの攻略を最優先した結果、気付けば……俺、マイ、ツルギ、メグ、ミント、セロ、マックスの7人が固定メンバーとなっていた」

「んん? だから、何で7人なの?」


 結論から話した俺の説明に要領を得ないメイが首を傾げる。


「順を追って説明すると、最初は俺、マイ、ツルギ、メグの4人で固定パーティーを組んでいた……って言うのは知っているよな?」

「え? そうなの? 炎帝のソラ様と聖天のマイ様と覇王ツルギ様と聖女メグ様の4人が創設メンバーなのは、ネットで調べてたから知ってたけど……固定メンバーだったんだね!」

「ん? その小説なのかアニメなのか……メイたちの知っている【天下布武】はどこから始まるんだ?」

「第一話は第五一階層からスタートだよ!」

「ってことは、すでに【天下布武】が結成された後か」


 【天下布武】が結成されたのは第四一階層へ到達したあたりだった。


「ですです! 二次創作で【天下布武】結成前の炎帝のソラ様の物語とかは存在しますが……あくまで創作と謳われていましたー」


 二次創作まであるのかよ……。


「となると、どこから話せばいいんだ? えっと……話を戻すと、最初は4人で固定メンバーを組んでいた。しかし、4人では攻略できない階層が増えてきたんだ。最初は仲の良かったフレンドを誘っていた。そのフレンドがミント、セロ、マックスたちだな」

「へぇ……最初はフレンドだったのね」

「第五一階層に到達するまでは、【天下布武】のメンバーは俺、マイ、ツルギ、メグの4人だけだったからな。次第にパーティーを組む機会が多くなったメンバーが【天下布武】に入団して……今の【天下布武】となっていった」

「うわー! 本人の口から【天下布武】の歴史を聞けるって……なんかスゴいね!」

「うんうん! 貴重な体験です!」


 俺の話にメイとヒナタが興奮する。


「えっと……なんの話だっけ? そうか、【天下布武】の幹部が7人の理由か。階層を攻略するときや、階層主を倒すときはその都度最適なメンバー構成は変化する」

「そうなの?」

「例えば……属性だな。階層主が風属性なら、相克関係で有利となる火属性のメンバーのみで挑んだほうが有利になる。他にもデバフ要員が有利になったり、ヒーラーを増やしたほうが良かったり、タンクを2枚にしたほうが良かったり……と、色々なケースがあるな」

「ふむふむ」


 仲間たちは俺の話に夢中となる。


「とは言え、互いを熟知していること――連携も非常に重要だ。そこで、物理アタッカーである俺とツルギ、タンクであるマイ、ヒーラーであるメグ、魔法アタッカーであるミント、斥候であるセロ……そして様々な役割をこなせるマックスが次第に固定されるようになった」

「もう一人入れて8人にはしなかったんだ」

「そのもう一人を自由枠にすることよって、連携力を落とさずに様々なケースに対応できるようにした。例えば、敵の数が多ければ自由枠にタンクを増やし、回復が追いつかなければヒーラーを増やし、早期討伐が有利なときはアタッカーを増やすって感じだな」

「そんな考え方があるんだね」

「でも、レイドパーティーは最大で12人ですよね? 8人を固定にして、必要なメンバーを残りの4人から選出してもよかったのでは??」


 俺の答えにヒナタが疑問を覚えたようだ。


「それにはいくつかの理由がある。一つは、違うメンバーが毎回5人もはいったら連携力が落ちてしまう」

「え? でも5人いれるんだよね?」

「だから、フリー枠で設定した最適なメンバー一人と、パーティー単位でメンバーを加えることにより、連携力を落とさないようにしたんだ」


 固定パーティーはIGOの仕様上4人組が多い。バラバラな4人を加えるより、意思疎通し合っている4人を加えることで、連携力を落とさないようにした。


「なんか管理が大変そう……」

「管理か……楽ではないが、それを可能にする仕組みが旅団――【天下布武】というコミュニティだな」

「んー……ということは、【天下布武】は主力メンバー7人の攻略を手助けするための旅団っていうことですか?」

「望んだわけではないが……最終的にはそんな形になったな。一応言っておくが、強制したことは一度もないからな」

「なんか色々と大変そうだね……」

「面倒な管理はマイに押し付け……じゃなくて、任せていたが、旅団も規模が大きくなれば管理は大変だな」


 俺的には【天下布武】の団長はマイでいいと思っているのだが、何度頼み込んでも頑なに拒絶されていた。


「へぇ……アニメだと華やかに見える【天下布武】も、現実には色々な問題があるのですね」

「人が集まれば苦労の種は増えるのは、世の常だな」


 【天下布武】は放任主義の運営費は徴収するが、ノルマなどは課さないホワイト旅団だった。それでも人間関係のゴタゴタは何度か発生していた。


「――! 【天下布武】の主力メンバーは7人! 対してうちらは5人! こ、これは……うちらと【天下布武】主力メンバーと共に冒険をするフラグ!?」

「……あり得ないだろ」

「えー! なんでー!」

「【天下布武】の幹部7人の内の一人は……ソラ、つまり俺だ」

「……あ」

「仮に幹部とこの固定メンバーが組んだとしても11人だな。それに……クロは【天下布武】には入らないだろ?」

「そうにゃ。ボクにも帰るべき旅団があるにゃ」


 鍛冶作業をしながら聞き耳を立てていたクロが俺の言葉に同意する。


「えー!? クロちゃんとは第五一階層に到達したらお別れなの?」

「旅団……という意味ではお別れになるけど、フレンドとしてならいつでも会えるにゃ」

「クロとは元々そういう約束だからな」

「そっかー……クロちゃんともこの先もずーっと一緒にいるのかと思ってたよ」

「にゃはは、メイねぇの言葉は嬉しいけど……ボクにも大切な仲間がいるにゃ」


 クロは苦笑を浮かべる。


「まぁ、【天下布武】の話については以上だ。時間はまだかかりそうだから、タウンでも散策するか」

「うん!」

「はい!」

「承知!」


 時間を持て余した俺たちは鍛冶作業に励むクロを残し、工房を後にした。



  ◆



 タウンの散策を楽しんだ俺たちは、クロからの連絡を受け装備品を受け取った後、宿屋で休息。


 翌日。


 脳内に響き渡るシステムアラート。


『緊急クエスト警報発令! 60分後に緊急クエストが発令されます!』


 今回は予定通りのタイミングで緊急クエスト発令警報を受け取ったのであった。

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