ハラスメント
「俺の知っている相場だと、『蛇王短剣』の製作費は汎用素材代金込で1,500G。『蛇王の盾』の製作費は汎用素材代金込で2,000Gだった」
「そう考えると、今の相場はかなり高騰していますね」
今の相場は、『蛇王短剣』が5,500G、『蛇王の盾』が8,000Gだ。
はっきり言って、ぼったくりだ。
「製作費と一言に言っているが、内訳がある」
「内訳ですか?」
「内訳は製作費の技術料と諸経費で500G。『蛇王短剣』で言うと、汎用素材――鉄鉱石10個分の価格で1,000G。これが、俺の把握していた相場だった」
俺の把握していた相場はNPCの販売価格だ。
プレイヤー取引であれば、通常はNPCよりも価格が下がり80G前後になることが多かった。
「と言うことは……鉄鉱石一つの値段は100G?」
「本来ならば、その価格が相場だった。同様の考えで言えば、『蛇王の盾』は鉄鉱石を15個使用するから、技術料の500Gに鉄鉱石の1,500Gを追加して、2,000Gになる」
「えっと……何で実際はリクの言う相場よりも、もの凄く高くなってるの?」
メイが首を傾げる。
「先程の生産職のプレイヤーから聞き出した情報から推測するに……技術料は変わっていない。むしろ、100G値引きしてくれている。変わっているのは――鉄鉱石の相場だ」
「え? 鉄鉱石が高くなってるの?」
「俺は鉄鉱石の価格を相場の100Gで算出していたが、その価格を500Gにすると全ての辻褄が合う」
「え? 5倍!?」
「鉄鉱石の採掘量が減少している、とかですかな?」
俺の推測にヒナタは驚愕し、ヒロアキはその原因を推測する。
「いや、鉄鉱石は一般的な素材だ。遮断された後に仕様変更がされた……とかじゃない限りは、採掘量が減るとかはあり得ない」
何より、ログアウト不可、課金アイテム不可以外に仕様をほとんど変えていない運営が、このような暴挙に出るとは思えない。
「え? じゃあ、何で価格が5倍になったの?」
「供給よりも需要が遥かに多いとかでしょうか……?」
メイは首を傾げ、ヒナタはあり得そうなケースを推測する。
「推測、と言っても確信に近いが……鉄鉱石の価格の暴騰の原因は『百花繚乱』による専有だな」
「うわっ! まじであいつら最悪だね!」
「リク殿に出会えなければ……私もその集団に属していたと思うと……身が震えますな」
「酷い話ですね」
仲間たちは怒りを露わにする。
「仮にヒナタの言うように供給を遥かに超える需要があったのであれば……あの旅団割は成立しない。『百花繚乱』であれば、『蛇王短剣』の製作費は1,200G。鉄鉱石の正規の価格100G✕10の旅団の身内割で技術料が200Gならば、普通の価格設定になる」
「なるほど……確かに、同じ旅団の仲間とは言え500Gで仕入れた素材を10個も使用して1,200Gだったら、大赤字ですね」
私腹を肥やす為の専有なのか……勧誘の取引材料としての専有なのか……どちらにせよ、最悪のハラスメント行為だ。
「それで、どうするの?」
「相場が壊れている原因は鉄鉱石だ。ならば、自前で用意すればいい。生産に限って言えば、プレイヤーに頼まなくてもNPCを頼ればいいからな」
技術料の価格を操作しなかったのは、NPCの存在があったからだろう。鉄鉱石は専有出来ても、NPCの意思を縛ることは出来ない。
「流石はリク! 頼りになるね!」
「リクさんなら、採掘場所を知ってますからね!」
「リク殿、流石です!」
解決方法は簡単だ。
俺は笑顔を取り戻した仲間たちと共に、フィールドに向かうのであった。
◆
第二の町を出て、一番近くの採掘場所を訪れると……マントを羽織った集団が採掘場所を占領していた。
ダメ元で平和的な解決策を試みるか。
「すまない。採掘したいのだが? 場所を空けてくれないか?」
「お、もう交代の時間か! ……って、お前は誰だ?」
「鉄鉱石を求めてきたプレイヤーだが?」
「旅団証はあるのか?」
「旅団証とは、そのマントのことか?」
「当たり前だろ!」
「無所属だから、ないな」
「だったら、帰れ! ここは俺たちが使っている!」
平和的な話し合いを求めたが、話にならない。
「ここはフィールドだ。所有権は誰にもないはずだが?」
「あん? うるせーな! 見てわからねーのかよ! ここは満員だ! さっさと失せやがれ!」
チンピラかな?
目の前のプレイヤーは怒声を張り上げるばかりで、会話が成立しない。
しばらくすると、周囲のマントを羽織ったプレイヤーたちも異変に気付き、近寄ってくる。
PKは出来ないはずだが……面倒だな。
「わかった。失礼するよ」
面倒事を避けるため、俺たちは退散することにした。
その後、第十一階層の採掘場所を全て回るも、全ての採掘場所がマントの集団に占領されていた。
「リク、どうするの?」
「とりあえず、遭遇したモンスターを全て殲滅しながら、第十二階層を目指すか」
第十一階層での採掘を諦めた俺たちは第十二階層を目指すのであった。
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