緊急クエスト(S2)一日目②

 緊急クエスト一日目。魔導人形ゴーレムの襲来から5時間後。


 俺たちはチームアルファのプレイヤーと共に、後方に下がり休息していた。


「パッと見た感じ、チームアルファの方が強いな」


 現在、防衛ラインを守っているのは【青龍騎士団】の副団長率いているチームベータだ。


「ガラハさんは堅実なスタイルだからなー」


 俺の呟きにローズが答える。


 【青龍騎士団】の副団長――ガラハさんと言うのは、最前線で味方を鼓舞している守護騎士のプレイヤーだ。無理に攻めることなく、堅実に防衛ラインを守っていた。


「ローズも少しはガラハさんの堅実さを見習うべきです」

「ハッ! 馬鹿言うな! アタッカーが守りに入ったらしまいだろ!」

「はぁ……本当にこの子はバカなんだから……」

「誰がバカだよ! オレだって色々と考えてるんだぜ!」

「例えばどんなことを考えているのですか?」

「ほら! アレだよ! アレ!」

「アレじゃ伝わりませんよ?」

「くぅ……だから、アレだよ! 属性だ!」

「魔法戦士が属性を考えなくなったら、終わりですよ」


 ローズとセリアが言い争いを始める。


「二人は仲がいいな」

「コレとは腐れ縁で【青龍騎士団】には一緒に入団したからな」

「コレとはなんですか! まぁ、腐れ縁なのは認めます」

「属性といえば……! 土属性の魔導人形に対して有利な風属性とはいえ……リクさん凄すぎんだろ!」

「それを言うならメイさんも凄いです」

「属性による恩恵も大きいが、魔導人形ゴーレムは弱点を突けば倒しやすいから、短剣との相性もいいからな」

「うちの場合は風威の性能かな? そう考えると、真の功労者はクロちゃんだよね!」

「にゃにゃ!? それはないにゃ。装備品は全て使い手次第だにゃ」

「ハッハッハ! リクたんの仲間は全員謙虚ですな。しかし、謙遜も度を超すと嫌味になりますぞ」

「流石はイセ殿、心に沁みる金言」


 遊撃隊の仲間たちと談笑していると、アイリスさんが歩み寄ってきた。


「遊撃隊の皆様、お疲れのところ申し訳ございませんが……ジェノサイダーを視認したと報告があがってきました。いかがなさいますか?」

「俺たちがアイリスさんに与えられた役割は――遊撃隊。責務はボスの排除だ。当然、行くよ」

「ありがとうございます。【青龍騎士団】から、何人か同行させますか?」

「大丈夫、不要だ。……だよな?」


 俺はアイリスの申し出を断り、遊撃隊の仲間たちの顔を見渡す。


「うちはまだまだ元気だよー」

「私も大丈夫です」

「リク殿の行く道に付き従うのみですな」

「余裕にゃ」


 仲間たちが心強い返事をすると、ローズたち遊撃隊のメンバーたちも同様の答えが返ってきた。


「遊撃隊、出るぞ!」

「「「おぉー!」」」


 俺は遊撃隊を率いて、最前線に出陣するのであった。



  ◆



「『風の英雄』たちが出陣します! 遠距離部隊は道を作って下さい!」


 アイリスの号令に呼応し、無数の矢と魔法の雨が降り注ぐ。


「お前たち! 盾を打ち鳴らせ! 遊撃隊の路を作るのだ!」


 ガラハの指示でチームベータに所属するタンクのプレイヤーが盾を打ち鳴らし、最前線の魔導人形たちを引き寄せる。


「ヒロ! 先頭を頼む! 駆け抜けるぞ!」


 足の一番遅いヒロアキを先頭に足並みを揃え、アイリスたちが作ってくれた道を疾走。


 視界の先に、左右に2本ずつ、合計4本の腕を生やし、脚部はキャタピラーで構成された魔導人形ゴーレム――ジェノサイダーを捉えた。


「クロ、ローズ、カナメのパーティーを指揮して周辺の露払いを頼む!」

「了解にゃ!」

「カナメ……タンクに徹しろよ?」

「だぁー! わかってるよ!」


 俺は冗談っぽく笑うと、カナメは憤慨しながらも盾を構える。


「ヒロ! ジェノサイダーの攻撃を全て回避するのは不可能だ。先行してヘイトをとってくれ!」

「承知!」

「ヒナタは《結界・快》と《結界・耐》を展開!」

「わかりました!」

「メイ、ジェノサイダーの攻撃は多彩だ。最初は距離を取って攻撃パターンを把握してくれ」

「りょーかい!」


 簡易的な指示だしを終え、ヒロアキに視線で合図を送る。


「いきますぞ! ――《ガーディアン》!」


 前へと飛び出したヒロアキが盾を構えて、大地を力強く踏み抜く。ヒロアキの身体が仄かな輝きを放つと、ジェノサイダーは誘われるように真紅に輝く機械仕掛けの瞳でヒロアキをロックオンした。


「参ります! ――《結界・快》!」


 ヒナタは、ヒロアキの足元に体力を徐々に回復させる結界を展開させると、


「――《結界・耐》!」


 続けざまに、耐久を高める結界を展開した。


 ジェノサイダーはプシューと蒸気をあけながら、4本の手それぞれに持った曲刀で、ヒロアキを襲撃。


 4本の手は人間の関節ではあり得ない軌道を描き、不規則な動きで剣撃の嵐をヒロアキへと見舞った。


「ちょ……あの動きを把握するのは厳しくない?」

「あの攻撃が自分に向いたら……全回避は厳しい。ヒロアキが引きつけているのを前提に、隙となるタイミングを見極めんだ」

「……りょーかい。頑張ってみる! ――《パワーシュート》!」


 メイは慎重に、蛇王戦輪にて大きく距離を取って戦闘に参加。


 ジェノサイダーをソロで倒すには、遠距離から詰められる前に倒すか、ガチンコで殴りあうくらいしか策はない。回避を得意とする低耐久の天敵のような存在だ。


 しかし、今はソロじゃない。


 俺は一対の短剣を構えて、ジェノサイダーへと攻撃を仕掛けるのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつもお読み頂きありがとうございます。


気付けば今年最後の更新となりました! 今年は読者の皆様のお陰で本作が大きく飛躍できました。


来年もリクの冒険にお付き合いよろしくお願い致します。

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