緊急クエスト最終日前夜②

「何が言いたいんだ?」

「どういうことだ?」

「は? 待てよ……」

「え? ウソ……どういうこと……」

「あ、あり得るのか……」


 ガンツの問いかけに一部のプレイヤーは意味がわからず困惑し、一部のプレイヤーは意味を理解して困惑する。


「ちなみに、この『鑑定証』に記されたアイテムの持ち主は俺じゃねー! この風の兄ちゃんだ!」


 ガンツは後方に控える俺へと手を広げる。


 え? このタイミングで俺に振るのかよ……。


「き、貴様はゴブリンナイトを横取りしたプレイヤーじゃないか! こんな茶番まで開いて我々の貴重な時間を奪って! 何をしたいんだ!」


 俺の姿を確認したタックが喚き散らす。


「そうだ! そうだ!」

「スタンドプレイもいい加減にしやがれ!」

「タックさんには崇高な作戦があったのだぞ!」


 タックの一声で【百花繚乱】のプレイヤーに勢いが付く。


「落ち着け。俺はそこの偽物の同じで、セカンドプレイヤーだ」

「に、偽物だと! どこまで俺を馬鹿にするつもりだ!」

「セカンドプレイヤーがどうした! タックさんのメインキャラクターは『炎帝のソラ』だぞ!」

「お前なんかと一緒にするな!」


 タックを筆頭に【百花繚乱】は俺に対して敵意を剥き出しにする。


 うーん……これは、成功するのか?


 俺は一抹の不安を感じながらも、言葉を続けることにした。


「落ち着けと言っているだろ。冷静に考えろ、このアイテム――『シルフィードの祝福』は第七〇階層の主エルダードラゴンのドロップ品だ。この世界が遮断される前にエルダードラゴンを討伐したプレイヤーは何人いると思う?」


 俺の言葉に周囲のプレイヤーがざわつき始める。


「はーい! ボクは知ってるにゃ! この世界が遮断される前にエルダードラゴンを討伐したプレイヤーは7人しかいないにゃ! その7人とは【天下布武】のソラ、マイ、ツルギ、メグ、ミント、セロ、マックスにゃ!」


 俺の問いかけにクロが元気よく答える。


「俺はどこぞのアホと違って、自分のメインキャラクターの名前を晒すつもりはない。しかし、これだけは断言出来る! そいつのメインキャラクターが『ソラ』であるということはハッタリだ!」


 俺はタックを指差し、真実を告げる。


「な、何の証拠があって……お、俺がソラじゃないと……いいがかりにもほどがある!」

「何の証拠か……。この質問をするのは実は二回目だが、お前は覚えているかな? 『貴方は本当に【天下布武】の"ソラ"なのか? 何か本物であることを示せる証拠はあるのか?」』」


 俺は遮断された日に偽物タックに告げた言葉を再び突きつける。


「き、貴様は……俺がソラじゃないと証拠を示せるのか!」

「だから、示しているだろ? この指輪と鑑定証が証拠だよ。お前は遮断された日に何と言って周囲のプレイヤーを騙した? 確か……その装備品がソラである証拠とか言っていたよな?」

「そ、そうだ! この装備品はこの階層では手に入らない――」

「同じ問答を繰り返す気はない。ここにいるクロは《鑑定》の熟練度が10に到達している。鑑定証の予備もまだあったよな?」

「あるにゃ! ちなみに、その鎧は『銀魂の鎧』。出自は第三四階層のシルバーナイトのドロップ品にゃ! 鑑定証も作成した方がいいかにゃ?」


 クロが楽しそうに笑みを浮かべながら、タックの装備品を鑑定する。


「黙れ! 黙れ! 黙れ! 騙されるな! こいつらは俺たちの絆を切り裂こうとしているだけだ!」


 タックが壊れた機械のように喚き散らす。


「スキル――《鑑定》はこの世界から付与された絶対的に正しいモノだ。どうやって騙すと言うのだ? むしろ、騙しているのは、お前だろ?」

「……黙れ……黙れ! 黙れ! 黙れ!」


 タックは血相を変えて喚き散らす。


「さて、ここで一つ問題だ。とあるプレイヤーは第三四階層でドロップする装備品を証拠に第七〇階層を超えたプレイヤーと主張している。とあるプレイヤーは第七〇階層のドロップ品を証拠に第七〇階層を超えたプレイヤーと主張している」


 俺は喚き散らすタックを無視して、ゆっくりと周囲のプレイヤーに言葉を並べる。


「とあるプレイヤーは仲間の多くの失い、守るべき拠点も破壊されたにも関わらず大規模旅団の団長と主張している。とあるプレイヤーは守るべき拠点を守り、邪魔者が入るまでは一人も仲間を脱落させることなかった」


 2つの事例を伝えた俺は大きく息を吸い込んで、周囲のプレイヤーに問いかける。


「さて、問題です! 信頼性が高いのはどちらでしょうか?」


 周囲のプレイヤーがざわつき始める。


「窮地に陥った俺を助けてくれたのは、団長じゃなくて……あの仮面のプレイヤーだった……」

「俺もだ……」

「私もよ……」

「あの人は凄い速さでゴブリンを掃討していた……」

「た、タックさんは……偽物だったのか……」

「私たちは騙されていたの……?」


 防衛拠点の前に置き去りにされていた【百花繚乱】のプレイヤーがざわつき始める。


「そういえば、そちらが4,000人規模で討伐していたゴブリンナイトを風の兄ちゃんはたったの二人で討伐していたな!」

「ふ、二人だと……」

「確かに……途中で横取りはされたが……二人だったのか……」

「あり得ねえ……どうやって倒すんだよ……」


 ガンツがわざとらしく俺の功績を伝えると、今まで反抗的だった赤、青、黃、緑のマントを羽織ったプレイヤーもざわつき始める。


「クッ! お前たち! 帰るぞ! こんな茶番に付き合っていられるか!」


 タックは大声を張り上げて、この場から立ち去ろうとするが……


「帰るのか? そこのアホはどうでもいいとして、お前たちは本当にそれでいいのか? 最終日の襲撃は今まで以上に厳しくなる。この防衛拠点が破壊されたらどうなるか知っているか?」


 俺は背を向けようとする【百花繚乱】のプレイヤーへと言葉を放つ。


「防衛拠点が無くなれば、ゴブリンたちは後ろに控える町を蹂躙する。俺たちプレイヤーは3回までは死ぬことが出来る。しかし、死んだら……どこで復活する? 復活して、半減したステータスでゴブリンの大群に抗えるのか? そこで死んだら……次に待っているのは本当の死だぞ?」


 俺は最悪の未来をプレイヤーたちに告げる。


「何なら戦わずして逃亡するか? 俺はそれでも構わない。昨日と同じ状況に陥るなら勝率は限りなく低いからな。俺は仲間と共に嵐を過ぎ去るのを待って上を目指すよ。でも、全員が次の緊急クエストまでに上を目指せるのか? 町が破壊されれば施設も無くなる。一度敗北を受け入れてしまえば、その先に待つのは――絶望だけだ!」


 俺は強い口調でプレイヤーに訴えかける。


「今ならまだ間に合う! ここにいる全員が協力すれば勝ち目は十分にある! 俺たちと共にこの町を――自分の未来を守りたい者はそのマントを脱ぎ捨て、手を挙げろ! さぁ、選択の時間だ! 己が未来は己で決めよ!」


 俺は最後の言葉を振り絞った。


「騙されるな! 今こそ俺たちの絆を――」


 タックは縋りつくように【百花繚乱】のプレイヤーに訴えかけるが……


「お、俺は……自分の未来は自分で守る!」


 一人のプレイヤーがマントを脱ぎ捨てると、その行動は加速度的に伝播され、【百花繚乱】のプレイヤーたちは次々にマントを脱ぎ捨てていく。


「あっ、あっ、あっ……うわぁぁぁああ!?」


 最終的には頭を抱えて倒れ込んだタックの周りでマントを羽織っているプレイヤーは100人にも満たない数となっていたのであった。

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