最悪の展開

本日(6/17)は二話投稿しております。

未読の方はご注意下さいませ。

――――――――――――――


 青年とその仲間と思われるプレイヤーが声を上げ続けること、5分。ようやくイベントホールに集まった全てのプレイヤーの意識が青年へと集中した。


「俺の名前はタック。みんなに一つの提案がある」


 イベントホール内には青年――タックの声のみが響き渡る。


「ここにいるプレイヤーはニューピー、或いは初心者と呼ばれるプレイヤーだ」


 IGOでは、第二一階層未満のプレイヤーは初心者、第二一階層以上第五一階層未満のプレイヤーは中級者。そして、第五一階層以降のプレイヤーは上級者と暗黙の了解で定義付けされていた。


「俺たちは非力だ。レベルも装備も、プレイヤースキルも……全てが未熟だ」


 ってか、提案って何だよ? まずは、結論から話せよ。タックの話し方に少し苛立ちを感じる。


「だからこそ、俺たちは助け合う必要がある! 故に、俺はここに宣言する! みんなが助け合える旅団――【百花繚乱】の設立を!」


 これだけ大袈裟に注目を集めて、言い出した提案は旅団の設立だった。


「そして、ここでみんなには俺の秘密――一つの真実を伝える!」


 タックの雰囲気にのみこまれている周囲のプレイヤーが固唾を飲む。


「俺の装備を見て気付いてるプレイヤーもいると思うが、このキャラ……いや、俺はセカンドキャラだ。故に、IGOに関する知識はここにいる誰よりも持ち合わせていると思う。俺はこの知識を旅団メンバーには余すことなく伝えたい」


 逆を言えば、旅団メンバー以外には伝える気はないようだ。つまり、今行われているのは大規模な勧誘だ。


「そして、もう一つ! 重大な事実を伝える。俺のメインキャラクターは、皆も知っているトップ旅団――【天下布武】の幹部だ。だから、安心して欲しい。俺は【天下布武】の幹部――トップランカーとして培った技術、知識をフルに活かして旅団メンバーを守り抜くことを、ここに誓おう!」


「「「うぉぉぉおお!!」」」


 タックが剣を天へと振り上げると、周囲のプレイヤーから歓声が巻き起こった。


 さて、こいつの正体は誰だ?


 口調からでは判断出来ない。『Foooo!』とか『Yeahhhhh!』とか、無駄にハイテンションで叫んでくれたら、正体はわかるのだが……。


 IGOは性別を偽ることは不可能だ。


 そうなると、自ずと該当者は3名に絞られる。


 しかし、ツルギならこんな目立つ演説はしない。セロならもう少し皮肉めいた言葉を選ぶ。マックスなら意味不明な言動をするはずだ。


 となると、幹部の名前を偽証した一般メンバーか……それとも、全ての話が偽証と言うことになる。


 後者の可能性の方が高いが……セカンドキャラと言うことで何らかのロールプレイングをしている可能性もある。一応確認するか。


「一つ、質問をしてもいいか?」


 俺は手を挙げて声をあげる。


「何かな?」

「マナー違反であることは百も承知で不躾な質問する。貴方のメインキャラクターの名前を教えてくれないか?」


 仮に幹部の名前を名乗ったら、本人にしか分からない質問を投げかけよう。万が一でも、タックがツルギ、セロ、マックスのいずれかであるなら……今後の展開がかなり変わる。


「なるほど。マナー違反だ。しかし、今はこんな状況だから仕方ないね。君は【天下布武】のとある噂を知ってるかい?」

「とある噂? すまない、知らないな」

「公にはなっていない話だ。しかし、ネット上では話題になっている噂話さ」

「その噂話とは?」


 まさか、【天下布武】が第七〇階層の階層主を倒したことが、今回の異常事態――外部遮断された原因……とか言う噂じゃないよな?


「【天下布武】の旅団長――『炎帝のソラ』が姿を消したという噂……いや、事実だ」


 は? まさかの噂の主役は俺だった。


「6日前……第七〇階層の階層主を俺たち――【天下布武】が討伐してから、『炎帝のソラ』が姿を消した。声明は出されていないが、今は『聖天のマイ』が団長となっている」


 噂と言うか、事実だな。


「あの『炎帝のソラ』が6日間もログインしていない。これは由々しき事態だ。ある噂では『炎帝のソラ』は引退したと囁かれている。ある噂では『炎帝のソラ』が体調を崩して入院していると囁かれている。酷い噂だと……死亡説まで流れている」


 タックは雄弁に話を続ける。


 そんな噂が流れているのか……知らなかった。


「しかし! その噂はどれも真実ではない! 真実は『炎帝のソラ』は気分転換に作っていたキャラではじまりの町にいたのさ」


 ――!


 何でコイツはその事実を知っている?


 本当に幹部メンバーの誰かなのか?


「何故、俺がそれを知っているのか? 答えは簡単さ。俺こそが――『炎帝のソラ』だからさ!」


「「「うぉぉぉおおお!」」」

「マジか!」

「え? 本当に……彼が『炎帝のソラ』様なの?」

「そういえば、俺もその噂聞いたことある」

「ソラが引退したってスレッドも立ってたな」


 は?


 タックの突然の告白に俺は呆然となり、周囲のプレイヤーは興奮に包まれる。


「え? ウソ……本当に『炎帝のソラ』だったの……」


 メイも告げられた真実(ウソ)に目を見開いて驚いている。


 想定外となる最悪の展開に俺は呆然とするのであった。

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