vs蛟③

「ヒロ! 眷属を釣ってくれ!」

「承知!」


 ヒロアキは《タウント》の届くぎりぎりの範囲を見極めて、盾を打ち鳴らす。


「メイ! いけるか?」

「うん!」

「暫くは俺にヘイトは向いてるが、油断せずに立ち回ってくれ!」

「了解だよ!」

「ヒナタ! 回復は任せたぞ!」

「はい!」


 仲間たちの声と表情から判断する限り、みずちの恐怖に呑み込まれている者はいない。


「それじゃ、行くぞ! ――《アクセル》!」


 ヒロアキへと突進する二匹の眷属をすり抜け、俺は蛟の懐に再度潜り込む。


 蛟は二本の牙を覗かせる大口を開き、俺へと迫る。


 やべ……!?


 反応が一瞬遅れたが、《アクセル》で加速していた効果もあり、何とか蛟の一撃を回避することに成功。


 ――《スラッシュ》!


 目の前にある縦長の瞳孔を片手剣で斬りつける。


「いっくよー! ――《夏撃》!」


 大気を切り裂きながら投擲された分銅が蛟の眉間に命中する。


「シャッ!?」


 ――《ウインドカッター》!


 苦悶の表情を浮かべ、後退する蛟の頭部を風の刃が追撃する。


 後退した蛟は、尻尾で軽く地を叩く。


「散開!」


 俺の合図で、メイは俺と共に地を蹴り後退。


 先程、二人のいた場所に丸太の様な尻尾が薙ぎ払われる。


「アタック!」


 俺はメイに攻撃の合図を告げると、蛟に接近し剣を振るい、メイは離れた場所から分銅で蛟を攻撃する。


「フシュルルルルル!」


 攻撃の予兆を察知して後退する俺を蛟は地を這いながら、追撃。俺はステップを刻み続けながら、一定の間合いを確保。追いかけるのを諦めた蛟はその場で尻尾を大きく振るう。


 当たるかよ!


 俺は後ろへと飛び退き、尻尾の一撃を回避するが……


「――ッ!?」


 広い範囲を薙ぎ払う尻尾の一撃は、メイへと命中してしまう。


「メイ、下がって回復しろ!」

「う、うん……ごめん!」


 俺も高いAGIと《アクセル》の効果、そして重ねられた経験値がなければ、ここまで上手く回避は出来ないだろう。


 どれだけ素早く動けてもタイミングを掴まないと、回避は成功しない。しかし、高いAGIはそのタイミングを緩和してくれているようにも感じる。


 ソラの頃に積み重ねた経験値と、死にステータスと揶揄されるAGIが、上手く噛み合い始めたことを実感する。


「ハハッ! 風属性も悪くないな!」


 俺は溢れ出るアドレナリンから高笑いを上げ、蛟に攻撃を仕掛けるのであった。



  ◆



 蛟と戦闘を始めてからおそよ2時間。


 ハァハァ……疲れるな……。


 アタッカーは戦士系でなく盗賊二人。メインアタッカーである俺の属性は火属性でなく、風属性。


 被弾はないものの、圧倒的に火力が不足していた。


 リクの構成がソラと同じ、火属性で戦士であったなら、1時間と経たずに倒していただろう。


 風属性の盗賊が火力を上げる手段は……何かあったか?


 俺は120分にも及ぶ戦闘の末、完全に間合いを捉えた蛟の攻撃を回避し、攻撃を繰り返しながら、先の展開を考え始めていた。


 ――!


「お!」


 メイの放った百を優に超える分銅の一撃が蛟の牙を粉砕した。


 部位破壊は厳しいと思っていたのに、やるな。


「シャーーーーッ!?」


 自慢の牙を粉砕された蛟が悶え苦しむ。


 ――《ウインドカッター》!


 身を震わせ苦しむ蛟に風の刃を放った。


「フシャーーーッ!」


 怒り狂った蛟は鎌首をもたげ、縦長の瞳孔でメイを覗き込む。


「散開! 来るぞ!!」


 俺は左手を上げて、大声で蛟の攻撃――突進の予見を告げる。


 俺の合図にメイは攻撃の構えを解いて、回避出来る態勢へと移行。ヒロアキとヒナタも、眷属の相手をしながら蛟の挙動に注目する。


「シャーーーーッ!」


 ――《アクセル》!


 怒れる蛟が全身を地を這う弾丸と化して、メイへと突進。メイはサイドステップを刻みながら、左へ。ヒロアキとヒナタは右へと回避。


 そして、俺は弾丸と化した蛟を安全圏から追尾した。


 メイが蛟の突進を避け、ヒロアキとヒナタも蛟の突進を避けると、蛟は障壁と化した濃霧に頭をぶつけて脳震盪を起こす。


 ――《バックスタブ》!


 俺は跳躍し、背後から蛟の眉間へと短剣を突き刺す。続けて、がむしゃらに蛟の頭部を攻撃。


「いくよ! ――《秋雨》!」


 遅れて到着したメイが、残像を残す程の素早い鎌の動きで、蛟の頭部を無数に切り裂く。


「ハァァァァ! ――《春切》!」 

「うぉぉぉぉ! ――《スラッシュ》!」


 メイの鎌による素早い一撃と、俺の片手剣による鋭い一撃が叩き込まれた瞬間、蛟の全身がビクンッと一度大きく痙攣し――光の粒子と化して霧散した。


「倒した……? やったぁぁあ!」


 メイが飛び跳ね、歓喜する。


「何とか役目を果たせましたな……」

「終わりました……?」


 1時間以上に及ぶ時間、眷属二匹の攻撃を受け続けヒナタを守ったヒロアキと、回復に従事したヒナタが疲労からその場で座り込む。


 そして、光の粒子となって消え去った蛟の場所に、俺たちの苦労を労うかのような大きな宝箱が出現したのであった。

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