従魔ガチャクエスト①
第二六階層の中心地から離れた村外れの一角にポツンと立っている掘っ立て小屋。この小屋こそが従魔ガチャクエストを発行するNPCの居住地だった。
「へぇ……こんな場所なんだ。ひょっとして、隠しクエストみたいな感じなの?」
「実装当初は隠しクエストに等しい感じだったが、今だと有名になり過ぎたから全然隠れてないな」
メイの質問に俺は苦笑しながら答える。
オンラインゲームは性質上、極々一部のプレイヤーのみがクエストを発見する喜びを体験することができ、多くのプレイヤーは先達の切り拓いた道をなぞるのが常となっていた。
掘っ立て小屋の中に入ると、古びた衣服を纏った老人が膝に乗せた猫を撫でながら椅子に座っていた。
「ふぉ? 客人とは珍しいのぉ。こんな老いぼれに何か用でもあるのかな?」
「初めまして。リクと申します。可愛い猫又ですね」
「ほぉ……一目でこの子の正体を見抜くか」
「そこまで素敵な猫なら、すぐに分かりますよ」
従魔ガチャクエストを発生させるフラグは幾つかの存在していた。
一番オーソドックスなのは、何日もこの掘っ立て小屋に通いこの老人との友好度を上げること。
運も絡む手段としては、稀にこの老人が冒険者ギルドに発注するクエストをクリアすること。
そして、最もお手軽な裏技に近い手段が……老人の飼っている猫――猫又を褒めることであった。
「ひょっとして、お主は“ていまぁ”か?」
「いえ、残念ながら違います」
この老人の言う“ていまぁ”とは『獣使い』のことを指している。仮に俺のクラスが『獣使い』ならば、ここで従魔ガチャクエストが発生するのだが……『獣使い』以外のクラスの場合はもう一手間必要となる。
「ふむ……ならば、この老いぼれに何の用じゃ?」
「私はテイマーではありませんが、従魔を愛する気持ちは誰にも負けていないと自負をしております」
「ほぉ。ならば、問おう。従魔とはなんぞや?」
「友人であり、家族であり、大切なパートナーです」
この問答は一言一句合っている必要はない。ただ、従魔の尊さを伝えればいいのだ。
「ならば、儂にその証拠見せてみよ」
「証拠と言いますと?」
「最近、この階層の西の森でレッサーデーモンが増殖しておる。このままでは生態系が崩されるじゃろう。森の生態系を守るため、レッサーデーモンを100匹討伐するのじゃ!」
「了解しました。レッサーデーモン討伐の任、受領させて頂きます」
老人の依頼に答えると、目の前にシステムウィンドがポップアップする。
『★クエストが発生しました!
従魔クエスト① 森の生態系を守れ!
レッサーデーモンを100匹討伐して下さい
討伐数 0/100』
クエストの発生を確認した俺は、掘っ立て小屋を後にするのであった。
◆
掘っ立て小屋を後にした俺たちは、馬車に乗り込み西の森を目指した。
「クエストってあんな感じなんだね」
「冒険者ギルドのクエストは掲示板に張り出されたクエスト依頼書を取るだけでいいが、NPCからの突発的なクエストはあんな感じだな」
「先程のやり取りは失敗するとどうなるんですか?」
「最初のフラグを発生させなかったら世間話のみで何も起こらない。フラグを発生させてから問答に失敗すると、場合によっては二度と受けられなくなるな」
卓越したAIが管理するこの世界では、NPCからの問いかけに冗談で『いいえ』と答える、オンラインゲームでよく見かける行動を取れば、好感度がだだ下がりして、二度とクエストが発生しないこともあった。
「先程のお爺さんはNPCなんですよね?」
「そうだな」
「本当の人間みたいでしたね」
「IGOの世界のNPCは自動学習機能が備わっているので、日々進化するにゃ。NPC――Non Player Characterはプレイヤーではないだけで、人とは変わらない存在なのにゃ」
NPCを人と同じ存在として扱うプレイヤーは少なからず存在しており、IGOに深くハマっているプレイヤーには多く見られた。
今の言葉だけでも、クロはこの世界にどっぷり浸かっていたことがわかる。
「技術の進化は凄いね! そういえば、レッサーデーモンって強いの?」
「弱くはない……と言うか、この階層だと一番強いモンスターだな」
「リクにぃは引きが弱いにゃ」
「いやいや、ターゲットが第二七階層じゃないだけかなりマシだろ」
従魔ガチャクエストの対象となる地域は第二五階層〜第二七階層の間からランダムで選出される。
「第二七階層が選ばれる確率は10%未満にゃ。ほとんどがこの階層から選ばれるにゃ」
「うわっ……クロちゃん、それ絶対にフラグだよ。リクは次に第二七階層を引くと思うよ」
「いやいや……それはねーよ……ないよな?」
あれ? 俺って運が悪いキャラ設定だったか?
メイの不吉な言葉に俺は苦笑する。
「とりあえず、レッサーデーモンを狩って……念の為、第二七階層の転移装置も解放しておくか」
俺はメイの唱えた不吉なフラグに備えることにするのであった。
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