緊急クエストSeason2
緊急クエスト(S2)準備①
最初から第四一階層のタウンで待機していた俺たちは強制転送されることもなく、説明がされる中央広場へと徒歩で向かうことにした。
「緊急クエストなのに……皆さん落ち着いてますね」
「この階層まで到達したプレイヤーなら、緊急クエストに慣れているからじゃないか?」
前回緊急クエストを経験したのは第十一階層だった。初心者が多く、外部遮断されてから初めての緊急クエストだったことがプレイヤーの混乱に拍車をかけた要因だったのだろう。
「前回この階層はSランクで達成しているのも要因だと思うにゃ」
俺たちと同じく中央広場に向かうプレイヤーはリラックス、或いは期待に目を輝かせていた。
「とは言え……少しお気楽と言うか……あちらのプレイヤーは緊急クエストを待ち望んでいたようにみえます」
前回の緊急クエストは、由々しき旅団のせいでお世辞にも楽しめる状況じゃなかった。
「んー、ヒナタは緊急クエストにどんなイメージを抱いている?」
「え? 強制的に参加を余儀なくされる命が危険に晒されるクエストでしょうか?」
「なるほど。多くのプレイヤーにとって、緊急クエストはお祭りだ。大量の経験値と良質なアイテムが獲得できるレイドイベントなんだ」
「え? そうなのですか?」
俺の言葉にヒナタが目を見開く。
「前回はレベルキャップに引っかかっている状態で緊急クエストに巻き込まれたが、アレだけの数のモンスターを短時間で倒せるんだ。経験値はかなり美味しい」
「うわ……そんなこと言われると前回は損した気分になっちゃうよ」
姉であるヒナタよりもお気楽というかゲーマー気質であるメイがぼやき漏らす。
「現在、俺のメインウェポンとなっている風塵刀と風縛剣のように、緊急クエスト限定で獲得できるレアアイテムは多い」
「うちの風威もそうだね!」
「緊急クエスト産の装備品は鍛冶で強化すれば末永く使えるにゃ」
「だから以前は月に一回――今は3ヶ月に一回となった緊急クエストを待ち望んでいるプレイヤーは多いんだよ」
「そうなのですね……でも、今は命の危険も……」
ヒナタは俺の説明に納得するも、まだ不安は拭いきれないようだ。
「ヒナタの言うとおり、今はゲームだった頃のIGOとは違う。緊急クエストに失敗したら、タウンは壊滅し神殿で復活するプレイヤーは3回の死――消滅する可能性もある」
「で、ですよね……」
「でも、昔からいる多くのプレイヤーは緊急クエストの失敗をイメージできないんだ」
「え? そうなのですか?」
「IGOのサービス開始からプレイしていた俺を含めてだが、大多数のプレイヤーが緊急クエストの失敗を経験したことがないからな」
Sランクを逃した、ぎりぎりとなるEランクでクリアしたという事例は過去に何度もあるが、IGO5年間の歴史の中で緊急クエストに失敗した事例は1回のみ。
唯一の失敗――『四番街の悲劇』を経験したプレイヤーの方が稀有であった。
だから、多くのプレイヤーにとっては緊急クエストは避けられない脅威ではなく、3ヶ月に1度の待ち望んでいるイベントとなっていた。
「リクにぃ――『炎帝のソラ』だったら主導権争いとか面倒なことはあったと思うけど、普通のプレイヤーから見れば美味しいお祭りにゃ」
クロは要らぬ補足をいれた。
「主導権争い……?」
「まぁ、その話はまた今度だ。今は中央広場に急ぐとするか」
◆
緊急クエスト開始時刻。
中央広場には多くのプレイヤーが詰めかけていた。
中には、精力的にパーティー募集をしているプレイヤーの姿も見受けられた。
「緊急クエストを発令します! 冒険者の皆様は、侵略者――ゴーレムの襲撃からハナマンタウンをお守り下さい!」
――!
女性の声が周囲に響き渡る。
同時に周囲のプレイヤーからざわめきが起こる。
「ゴーレムかよ……面倒だな」
「チッ……今回はハズレかよ……」
「面倒だが……土属性の装備を新調するチャンスだな」
聞こえてくる言葉のほとんどは愚痴だ。
「え? ハズレなの?」
「面倒なのですか?」
事情を知らないメイとヒナタが首を傾げるが、
「にゃにゃ! リクにぃMVPの可能性大にゃ!」
「ラッキーだな」
「うむ。流石はリク殿ですな」
クロは俺を期待に満ちた眼差しで見つめ、ヒロアキは恐らく意味を理解せずにクロと俺の言葉に同意していた。
「え? どういうことなの?」
「はわわ!? リクさんおめでとうございます!?」
メイが俺へと尋ねる。
「ゴーレムは……土属性なんだよ」
「――! わかった!」
俺の一言でメイは状況を察した。
「確か……土属性に有利なのは風属性?」
「正解。土属性の敵は硬い奴が多い」
「しかも、有利属性である風属性のプレイヤーは絶滅危惧種にゃ」
「故に、倒すのに時間がかかるから一番面倒な緊急クエストといわれてるんだよ」
緊急クエストをSランクで達成するためには、最終日に出現するキングを討伐することが必須だった。しかし、土属性のゴーレムキングは高すぎる耐久と弱点属性となる風属性のプレイヤーがほぼ存在しないことから、Sランクが達成しづらい緊急クエストと言われていた。
「ゴーレムは硬いから雑魚を倒すのも一苦労にゃ。数をこなせないから、経験値もあまり美味しくないにゃ」
「だから、こんなにも不満がでるのね」
「でも、風属性のリクさんなら……!」
「一人で戦局を左右するのは無理だが、MVPを取れる可能性はあるな」
「えー、そんなこと言ってMVP確実に取れる自信あるんでしょ?」
メイはイヤらしい笑みを浮かべ、肘で俺を
「どうだろうな? 緊急クエストに参加するプレイヤーは1万を軽く超える。そして、今回は恐らく最初から指揮官が決まっている」
クロの情報通りなら、前回Sランクへと導いた旅団が指揮を執るはずだ。
「緊急クエストでスタンドアローンは愚行にゃ……リクにぃがMVPを取るには――戦闘以外の立ち回りが求められるにゃ」
「第四一階層に到達したばかりでレベルもカンストしていない風属性の俺を……重宝してくれるか、が課題だな」
俺は今から始まる緊急クエストに期待と不安を感じるのであった。
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