新たな従魔③

って聞こえたけど……育てた方がいいの?」

「んー……レア従魔で強力な個体だから……育ててもいいんじゃないか?」

「騎乗☓、牽引☓だけど、メイねぇからするとあまり大きなデメリットにはならないと思うにゃ」

「常にヒナタといるなら、ユリコーンがいるからな」

「ユリリィィィィン!」


 ユリコーンも任せろ! と言わんばかりにいななく。


の理由は――なに?」


 メイの語気が強まる。


「んー……なんて言えばいいかな……吸血鬼って個性的な個体が多いんだよ」

「個性的な個体?」

「例えば、第二〇階層で戦った吸血鬼とか覚えてないか?」

「――! あのアホだけど、強かった奴だ! え? この子は進化すると、アホな子になるの……」

「いやいや、あんな感じになる可能性も否定できないが、他にも自己顕示欲が強かったり、他者を見下したり、重度な中二病に罹患してたり……あ! 当たりだと主に対して異常なまでに忠誠を誓うケースもあるぞ」

「他にも女性吸血鬼だと、ユリコーンが狂喜乱舞する展開になる場合もあるにゃ」

「ユリリィィィィン!」

「育て方によって性格が変わったりとか……当たりの性格にする必勝法みたいな育成方法はないの?」

「「ない(にゃ)」」


 正確に言えば、そのような検証が公表されていなかった。何故なら、吸血鬼はレア従魔なので検証できるほど産み出すことが不可能だったからだ。


「えっと……リクとクロちゃん的にはどっちが正解なの?」

「レアで強力な個体なのは確実だから……育ててもいいと思うぞ」

「手に負えなかったら、その時放逐すればいいにゃ」

「んー……わかった! 大切に育ててみるよ!」


 メイは吸血鬼を育てる決意を固めたようだ。


「メイ、その子の名前はどうするのですか?」

「んっと、カゲロウ! 太陽の陽に炎で陽炎かげろうだよ!」

「あら? もう決めていたのですね」

「うん! ユリちゃんが仲間になったときから、うちが従魔を手に入れたらなんて名前にしようかずーっと考えていたからね!」


 太陽も炎も吸血鬼の弱点なのだが……まぁ、契約者であるメイが決めた名前だ。文句を言うつもりはない。


「従魔も無事に産まれたことだし、上を目指すか」


 俺たちは再び上を目指して馬車を進めるのであった。



  ◆



 メイとヒロアキの従魔が産まれた翌日。


 俺たちは経験値を稼ぎながら、上の階層を目指し、ゆっくりとしたペースで進んでいた。


「ハク、ご飯の時間ですぞ」

「うにゃあ!」

「たくさん食べて大きく成長するのですぞ」


 子猫にしか見えないハクを猫かわいがりするヒロアキ。


「にゃにゃ! カワイイにゃ! ハクちゃんは天使にゃ! そうだ! これも食べるにゃ!」


 キャラクタークリエイトで猫耳を選択するくらいだから、クロは猫が大好きなのだろう。秘蔵の高級アイテムを惜しげもなく、ハクに与えていた。


「むぅ……ハクちゃんはたしかに可愛いけど……うちのカゲロウだって可愛いんだから! ねー!」

「キィ! キィ!」


 メイはカゲロウに先程採取した果実を与え、愛情を注いでいる。


「ふふっ。大丈夫ですよ。私のパートナーは貴方ですよ」

「ユリリ」


 ヒナタは優しくユリコーンの鬣を撫でる。


「ヒナタ、そいつは自身の鬣を触られるより……ヒナタがメイの頭を撫でたほうが喜ぶぞ」

「え? そうなのですか?」

「御者を変わって……と、俺に御者は無理だったか」

「ブルルッ」


 いつもなら俺が御者席に座るだけでも怒るユリコーンが、まるで来いと言わんばかりの視線を俺に送る。


「いいのか?」

「ブルルッ」


 ゆっくりと御者席に座るが、ユリコーンは拒絶反応を示さない。


 どうしようもないな……こいつ。


「ほれ、メイの頭を撫でてこい」

「え? あ、はい……メイ」

「ん? ヒナ、どうしたの?」


 呼ばれて御者席に顔を出したメイの頭を、ヒナタは両腕で包み込みながら撫でる。


「わっ!? ちょ! ヒ、ヒナ! 急にどうしたの!?」

「ユリリィィィィン!」


 ユリコーンが大きく嘶くと、俺のステータスが上昇した。


 お! 初めてユリコーンにバフをかけられた。戦闘中じゃないから、まったく意味はないけどな。


「あらあら……本当に困った子ですね」


 ヒナタが笑みを浮かべながらメイの頭を撫で続けると、


「ちょ! 本当に意味わからないんですけどー!」

「ユリリィィィィン!」


 メイの絶叫とユリコーンの歓喜の声が響き渡った。


「従魔か……」


 仲睦まじく戯れる仲間と従魔を見ていると、自分の従魔をつい思い出してしまう。


「そういえば、リンネちゃんはソラ様の従魔であると同時にリクさんの従魔でもあるんですよね?」

「従魔はアカウントに紐付けられているからな」

「今のリクさんは、《召喚》できないのですか?」

「《帰還》状態だったとしても、第五一階層に到達するまでは無理だな」


 高レベルの従魔を低階層で喚び出せたら、色々とバランスが崩壊する。プレイヤーの行き来を禁じている運営は従魔の行き来も同じく禁止にしていた。


「ん? 《帰還》状態だったとしても……って、ことは《帰還》状態にしてないの?」

「長期間 《帰還》状態にすると、リンネは拗ねるからな。《召喚》した状態で旅団ホームの俺の部屋で遊ばせている」

「ご飯とか大丈夫なの!?」

「マイかメグあたりが面倒見てくれているだろ」


 んー、冷静に考えたらかなりの期間放置したことになる。再会したら、ブチギレそうだな。


 リンネは元気にしているのだろうか?


 俺は遠く離れた従魔を懐かしむのであった。

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