緊急クエスト(S2)四日目③

 アイリスたちの切り拓いた道を辿りアイアンゴーレムの前に到達。


 せっかくだ……本気でタイムアタックに挑むとしよう。


「ヒロ! 周囲の雑魚を引き寄せろ!」

「承知! ……む? アイアンゴーレムはよろしいのですか?」

「問題ない! ヒナタはヒロの回復に集中!」

「はい!」

「メイ、ローズ、カナメ、イセはアイアンゴーレムを攻撃! 左脚を集中的に攻撃してくれ! 残りのメンバーはクロの指示に従い、周囲の雑魚を頼む!」

「「「了解!」」」


 勝利までの道筋は見えた――タイムアタックスタートだ!


「――《ショウミー》!」


 俺は人差し指をクイクイっと引き寄せ、アイアンゴーレムのヘイトを集める。


「え? リクがタンクするの!?」

「アレの攻撃は単調だからな。そんなことより、メイは攻撃に集中しろ!」

「はーい!」


 アイアンゴーレムは奇抜な攻撃が少なく、挙動を見切れば全回避することも難しくはない。


「ブォォォオオオ!」


 全身から蒸気をあげながら鉄の巨人――アイアンゴーレムが俺へと巨大な腕を振り下ろす。


 ハッ! 当たるかよ!


 俺はサイドステップで振り下ろされた腕を回避し、


 ――《ウインドカッター》!


 アイアンゴーレムの胸部に風の刃を命中させる。


 弱点属性となる風属性の魔法にも関わらず、アイアンゴーレムの外装には傷一つ付けることができない。


「相変わらず硬いな」


 アイアンゴーレムの嫌気がさすほどの耐久に辟易とする。


 アイアンゴーレムが上半身を僅かに捻る。


「散開!」


 俺の合図に合わせて、左脚を攻撃していた仲間たちが大きく後退。


「ブォォォオオオ!」


 アイアンゴーレムは大きく両手を旋回させた。


 ――《ウインドカッター》!


 俺は再び胸部へと風の刃を放ち、


「っシャ! オラッ!」

「いっくよー!」

「いくぜっ!」

「ハッハッハー! 久方ぶりの闘争燃えますな!」


 仲間たちは再び左脚へと攻撃を仕掛ける。


 アイアンゴーレムのタイムアタックは経験済みだ。昔、ツルギとよく競い合ったモノだ。


 試行錯誤の果てに辿り着いた最適解へ向かって、俺はひたすら胸部への攻撃を繰り返すのであった。



 ◆



 10分後。


 あの4人の火力は侮れないな。


 俺の想定よりも早くアイアンゴーレムの左脚の関節が破壊されそうだ。


「メイ! 左脚への攻撃は一旦中止! 俺の攻撃に合わせろ!」

「はーい! って、体の真ん中を攻撃すればいいの?」

「そうだ」


 俺の指示に従い、アイアンゴーレムの胸部には風の刃の他にメイによる分銅の一撃が加わる。


 お! いい感じだ!


 度重なる攻撃により、アイアンゴーレムの胸部に僅かなヒビが生じる。


 ――!


 ジジっと僅かに静電気が弾けたような音が聞こえる。


「総員! 左右に大きく展開! メイは風威の準備!」


 俺の合図に合わせて全員が大きく左右へと広がると、何度も攻撃を繰り返していた胸部が開き、露出された紅い宝石――核が激しく光り輝いた。


 ――ッ!


 大地を揺るがすほどの高出力の光線が放出された。


 ――《虚構フィクション》!


 当たれば即死だが、予備動作含めて非常に分かりやすい攻撃。まさしく、《虚構》のカモだ。


 放出された光線は虚構となった俺の実体をすり抜け、役目を終えた虚構の実体が霧散する。


 ――《ファング》!


 核の目の前に現れた俺は一対の短剣で核へと素早い斬撃を繰り出し、


「いっくよー! ――《風威》!」


 そのすぐ後に、メイが核に対して風威を命中させた。


 対アイアンゴーレムの正攻法は、この光線を誘い唯一の弱点である核に攻撃を当てること。


 しかし、タイムアタックならばもう一工夫必要だ。


 そろそろだな。


 俺が胸部から左脚に攻撃を切り替えようとすると、


「ヒナねぇ!」

「はい! ――《結界・攻》!」


 ハッ! 流石だな!


 最高のタイミングに思わず笑みが溢れる。


「メイ! イセ! ローズ! カナメ! 結界を経由し、最大火力の準備! ローズ! 大剣で左脚をぶった斬れ!」

「ハァァァアアア!! ――《脱換パージ》!」

「待ってました!」

「――《脱換パージ》! ――《脱換パージ》!」

「フフン♪ いっくよー!」

「フンスッ! ――《脱換パージ》!」」

「おうよ! ――《レイジングスラッシュ》!」


 ローズの放った大剣の一撃を受け、アイアンゴーレムが態勢を崩すと、


「――《ハイプレッシャー》!」


 俺の放った圧縮された風が、核を護っていたアイアンゴーレムの胸部を破壊する。


「いけ! 総攻撃だ!」


 全員で露わになった核へと攻撃を叩き込むと、


「――! 散開!」


 俺の合図で全員が大きく後退。


 ――!?


 アイアンゴーレムは自爆にて朽ち果てた。


「び、びくとりー?」

「タイムアタックには勝てただろうな」

「わわっ! なら、勝鬨あげなきゃ!」

「宣言しなくても、向こうからも見えてるだろ?」

「そこは、礼儀だよ礼儀!」

「礼儀……なのか? しゃーねーな……コホン。【青龍騎士団】の客分――リク! アイアンゴーレムを討ち取ったり!」

「おー! って、『風の英雄』の肩書は!?」

「知らん」

「流石はリクっちだな! あんな倒し方があるなんて知らなかったぜ!」


 メイと無駄口を叩いていると、カナメが声を掛けてきた。


「そうだよ! 昨日のアイアンゴーレムはなんでこの倒し方じゃなかったの?」

「あぁ……それか。カナメとかローズに言っとくけど、このやり方は真似するなよ」

「え? なんで?」

「まさか……特許!」

「戦術に特許なんてねーよ……。真似してもいいけど、失敗したら死ぬからな?」

「え?」

「マジ?」


 今回の倒し方は別に俺しか知らないやり方ではない。元の世界に戻れるなら、『アイアンゴーレム 倒し方』とかで検索すれば、今回と同じ倒し方の動画も見つかるだろう。


「今回の倒し方のポイントは、態勢を崩すと同時に核を露出させることだが……タイミングを誤って先に胸部が破損するとコアから絶え間なく光線が放出されるぞ」

「うへ……」

「それは厳しいな……」

「下手に真似されて……死なれたら、寝覚め悪いだろ?」

「お、おう! 肝に銘じておくぜ!」

「やっぱりリクっちは化け物だな!」

「まぁ、慣れたらカナメたちでも余裕だよ。無駄口はここまでにして、周囲の雑魚を掃討するぞ」


 タイムアタックで勝利を納めた俺たちは、周囲にいる雑魚の掃討を始めたのであった。

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