外伝 アカリ④
外部と遮断されてから3日目。
「ログアウト不可とかマジかよ」
「運営、ラノベの見すぎじゃね?」
「デスゲームの始まりってか」
「ゼノンのアホがスリーアウト制を実証したから、デスゲームと言うには少しヌルい環境じゃね?」
「いやいや、3回死んだらアウトだろ?」
「ってか、課金も封じるとか……今『クリーンアップキャンペーン』始まったら、終了だな」
「まぁ、こんな状況で『クリーンアップキャンペーン』――PKを仕掛けてくるアホはいないだろ」
「んで、これからどうするよ?」
外部と遮断されたこの世界で世間話をしていた仲間たちが、最後に私に視線を集中させた。
「『PKを辞めました。これから仲良くして下さい』と伝えたら、あいつらは私たちを受け入れると思うか?」
私は質問に質問で返答する。
私はPKだ。そして、私たち【黒天】はPK旅団だ。
PKには、成功すれば莫大な経験値とレア装備を容易に獲得できるメリットがあるが……デメリットとして一般的なプレイヤーから村八分にされる。
面子の割れてるメンバーはプレイヤーとの取引は不可能だし、パーティーを組むことも許されない。
「んー……厳しいだろうな」
私たちを
「ならば、どうする? このまま誰かが――それこそラノベの主人公みたいなキラキラした奴らがすべての階層を攻略するまで、ひっそりと怯えながら待つか? それとも――今までどおりの私たちを貫くか?」
私はこれからの岐路を仲間たち問いかけた。
「アカリは今までどおりの俺たちを貫けると思っているのか?」
「どうだろうな? 難しいかも知れないが……怯え、隠れ、死人のように生きるよりは――私は私を貫きたいとは思う」
「思うのは勝手だ。問題は、貫けるか……だ」
「風は私たちに吹いている。やり方次第では、貫けるだろう」
「と、言うと?」
「未確認の情報だが、【天下布武】のソラが消息不明らしい。そして、こちらは確定情報だが――【黄昏】のスノーホワイトも消息不明だ。あの作戦を仕掛けるには絶好のチャンスだと思わないか?」
「……本当にやるのか?」
「怖いのか?」
「ハッ! ざけんな! お、俺はやるときはやる男だぜ!」
「作戦内容を少し修正し、仕掛けようか」
「修正?」
「当初は内部崩壊を引き起こす予定だったが、せっかくの機会だ。【黄昏】を乗っ取ろう。さすれば、この世界で私たちの居場所が確保できるだろう」
「面白い。やるからには徹底してやろうぜ!」
こうして、私たちは自分たちの居場所を確保するため、一世一代の作戦を練り上げることにした。
まずは、情報整理だ。
スノーホワイトが消息不明となり、ゼノンは荒れているようだ。【黄昏】内ではピリついた空気が流れているらしい。
噂によると、消息不明とされているプレイヤーたちは、あの時にログインしていなかったプレイヤーだと言われている。
毎日欠かさずログインしていたトッププレイヤーが、あの時――本来であれば大型アップデート特別イベントのときにログインしていなかったのは不自然だ。
巷では色々な噂が流れている。
病気説、死亡説、機械の故障説……そして、セカンドキャラでログインしていた説。
【黄昏】に潜り込ませている仲間からの情報によれば、スノーホワイトがログインしていなかったのはセカンドキャラでログインしていた……と言うのが、有力な噂だ。
スノーホワイトには、【黄昏】の団員たちには一切秘密にしているセカンドキャラが存在しているらしい。
秘密にしている理由は、【天下布武】にスパイとして潜り込ませるための作戦だとか、息抜きのために趣味で遊ぶためだとか……様々な憶測が【黄昏】内で流れているらしいが、真偽は不明だ。
憶測ばかりで真偽不明の情報が多いが、確かなことが2つある。スノーホワイトは消息不明で、ゼノンは荒れているという点だ。
「スノーホワイトのセカンドを名乗って潜入できたら、最高じゃないか?」
「いやいや、さすがにそれは無理だろ」
「本当にそう思うか? 例えば、現実の世界の私はラノベ作家だと言ったら信じるか?」
「え? いやいや、あり得ねーだろ」
「現実世界の私は――『ジェネシスオンライン』の作者だ」
「……冗談だろ?」
「冗談だと思うなら、冗談だと思えばいい」
「え? ちょ……マジかよ?」
「私の正体はもう一つある。大規模対人オンラインゲーム『クラッシュデスフィールド』のトップランカー――『鮮血の女王』も実は私だ」
「いやいや、『鮮血の女王』は女だろ」
「あのゲームは性別を自由に選べるだろ?」
「え? そうだっけ……いや、でも……え? マジで? ってか、リアルの話はタブーだろ? 急にどうしたんだ?」
「まぁ、全部嘘だが」
「あんだよ!」
「少しは信じただろ? オンライン上だと、誰かの名前を騙るのはそう難しいことではない。例えば、私がソラのセカンドキャラと名乗っても、反証は本人以外無理だろ?」
「まぁ、そうだけどよ……さすがにスノーホワイトを騙っても、【黄昏】の連中は信じるか?」
「今、語るべきか『信じるか?』ではなく、『どのようにして、信じさせるか』だ。違うか?」
「どのようにして信じさせるか……か、わかった。全員で話し合おうぜ!」
こうして私たちは【黄昏】乗っ取り計画を始めた。
話し合った結果、スノーホワイトの従魔はユニークではないため、まったく同じ従魔を模すことが可能とわかった。従魔はアカウントで共通だ。スノーホワイトと同じ容姿は無理だが、スノーホワイトの従魔とまったく同じ見た目と名前の従魔を連れて行けば、信頼度は高まるだろう。
更に、潜り込ませたスパイから、外部の人間では知りようがない様々なスノーホワイトの情報を聞き出した。
最後に、仲間たちの中から比較的スノーホワイトと顔立ちが似ているプレイヤーを探した。
準備は整った。
後は、潜り込ませるだけだ。
準備段階として、すでに潜り込ませている仲間に【黄昏】内で【天下布武】への不満を流布させた。
【天下布武】と【黄昏】は友好の深い旅団ではないので、【黄昏】内に【天下布武】の不満を募らせるのは容易だった。
次に……潜り込ませた仲間を敢えてPKし、神殿送りにした。
そして、PKされた仲間は【黄昏】に戻って【黄昏】の団員たちに訴えかける。
「ス、ス、スノーホワイトさんのセカンドキャラを名乗るプレイヤーと接触しましたが……ここに向かう途中【天下布武】のプレイヤーにPKされました……!」
「――!? だ、大丈夫なのか!」
「は、はい。デスペナでステータスは半減しましたが……。そんなことより、自分が不甲斐ないばっかりに……ゼノンさん! 申し訳ございません!」
「クソっ! どこだ! どこでスノーを見たんだ!」
「へ、へい! 第五一階層の――」
「ゼノンさん! お、お、表にスノーホワイトさんを自称するプレイヤーと……【黒天】のアカリが!」
「あん? どういうことだ」
潜り込ませた仲間に後から聞いた話では、人情味に厚いゼノンはすぐに信じたらしい。
そして、このタイミングで私たちが【黄昏】の旅団ホームを訪れた。
門の前で待つと、ゼノンが大勢の団員と共に慌てた様子で現れた。
「ゼノン。遅れました」
「スノー……スノー……なのか?」
「はい。このキャラの名前は『サツキ』ですが、スノーホワイトです」
「本当に……スノーなのか……?」
「ゼノンさん! 間違いありません! さっきあっしが見たスノーホワイトさんです!」
潜り込ませた仲間がフォローの言葉を入れる。
「トウヤ、先程は助かりました。大丈夫でしたか?」
「ヘヘッ。神殿送りにされましたが、後2回は大丈夫でさぁ」
潜り込ませた仲間――トウヤが照れ笑いを浮かべる。
「本当に……スノーなんだよな? なんで、そいつと一緒に……」
ゼノンは【黒天】の団長である私に懐疑的な視線を浴びせる。
「どのように、私が私であることを証明すればいいのか分かりませんが……これなら、どうですか? ――《召喚》!」
サツキがスノーホワイトの従魔そっくりのネコマタを召喚する。
「こ、虎徹! 虎徹じゃねーか!」
「吾輩が証明するにゃ。サツキは吾輩の主にゃ」
「――! ま、マジか……マジでスノーかよ!!」
「遅れてすいません。ただいま、戻りました」
ゼノンとスノーホワイト――サツキは熱い抱擁を交わす。
「んで、なんでそいつと一緒いたんだ?」
「【天下布武】のメンバーに襲われていたときに、助けて頂きました」
「は? そいつが?」
「はい」
「お宅の参謀を助けたのに、とんだご挨拶だな」
「す、すまない。感謝する。しかし、どういう風の吹き回しだ?」
「【黄昏】と【天下布武】……ほんの少し、【天下布武】のほうが嫌いだっただけだ」
「――!」
「それに、私たちは遮断されたあの日からPKはしていない。信じられないかも知れないが……これから仲良くしてくれると助かるな」
「本当に信じられねーな……本当にお前は【黒天】のアカリか?」
「まさか、スノーホワイトじゃなくて、私が自己証明を迫られるとはな。私は私だ。名前を確認したらわかるだろ」
「だよな……」
「ゼノン! 助けてくれたアカリさんに失礼ですよ!」
「ゔ……す、すまねぇ……」
こうして、無事に潜り込むことに成功した私は、サツキ――スノーホワイトを通じて、様々な【天下布武】の悪態をゼノンに吹き込み、改善不能なレベルにまで仲を引き裂いた。
また、スノーホワイトの存在を疑っていた一部のプレイヤーを【黒天】の仲間にPKさせ、緊急クエストのときに消滅させた。
他にも、スノーホワイトを名乗るプレイヤーが何人か現れたが……『本物ならゼノンの言うことに従うはずだ』……と、伝えフィールドに連れ出し、万が一にも本物の可能性があるので、これも【天下布武】の策略と吹き込みPKした。
怪しんでフィールドに付いてこなかったスノーホワイトを名乗るプレイヤーは【黒天】の仲間に尾行させ、フィールドに出たタイミングでPKした。
そして、スノーホワイトの正体を怪しむ【黄昏】の団員は排斥し、代わりに【黒天】の仲間を一人ずつ入団させた。
ゼノンは散々吹き込んだ成果が実り【天下布武】憎しで、周りがまったく見えていなかった。
遂には、【天下布武】への宣戦布告に成功。
理想としては、両方傷だらけになり共倒れだが……それは難しいだろう。
【天下布武】を負かしたほうが……利は大きいな。
様々な情報活動が実を結び、【天下布武】憎し! の声は、【黄昏】外にも広がっている。
しかも、今の【天下布武】は団長であるソラが不在だ。
面白くなってきた。
歓喜のゴール――居場所の確保と復讐を成功させるため、私は暗躍するのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
予定の倍以上の文字数に……orz
後半かなり巻いてしましたが、次回から本編に戻ります。
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