疎外されるモノ
「来ないですね」
「外部遮断されたばかりだから、みんなそれどころじゃないのかな?」
パーティーメンバーの募集を始めてから1時間。二人は暇を持て余し始めた。
「どうだろうな」
「前は募集したら1分以内にすぐに来たよ……直結野郎だったけど」
「階層主の討伐は人気がないとかですかね?」
「それは違うな」
俺はそろそろ現実を受け止めて、この二人に話すことにした。
「何が違うの?」
「掲示板を見てみろ。第五階層の階層主の討伐募集は俺たち以外にもいくつかある。そして、その募集のほとんどが10分と待たずに埋まっている」
外部遮断の影響で多くのプレイヤーが鳴りを潜めているが、それでも変わらず冒険を続けようとするプレイヤーも多く存在していた。
「え? 何でうちらだけ埋まらないの?」
「理由は二つだな。一つは、パーティーバランス。盗賊、盗賊、僧侶は見た目的にもバランスはよろしくない」
「確かに3人中2人が同じクラスって言うのは……見た目は悪いかもね」
「俺たちが募集しているのはタンクだ。すると、自ずと盗賊二人――俺とメイの役割はアタッカーとなる」
「実際にそうだからね」
「アタッカーの火力が低いと一番被害を被るのは誰だと思う?」
「なるほど……タンクね」
アタッカーの火力が低いと、敵を倒す時間が長くなる。そうなると、タンクはそれだけ長い時間敵の攻撃を受け続けなくてはいけなくなる。
IGOの装備品は、一部のレアアイテムを除いて消耗品だ。メンテナンスを怠れば性能は低下するし、破損することもある。
「それならタンクの方の装備品メンテナンス費用をパーティーメンバーで分割する条件を追加しますか?」
「まぁ、それでもいいが……根本的な理由が――」
俺が二つ目の理由を告げようとした、その時。
「失礼。ヒナタさんとメイさんですか?」
重装備を身に纏った、いかにもタンク! というプレイヤーが声を掛けてきた。
「は、はい」
「そうだけど、誰?」
萎縮したヒナタの前に敵意剥き出しのメイが出る。
「これは失礼。私の名前はミハイルと申します。レベル12、土属性の騎士です。良かったら、私と一緒にパーティーを組みませんか?」
「――! は、はい! よろしくお願いします!」
待望の応募者の出現にヒナタの表情がパッと明るくなる。
「ミハイルさん? うちらのパーティーに参加する希望者ってことでいいの?」
メイはミハイルへの警戒心を解かずに確認する。
「いえ、少し違います。ヒナタさんとメイさんには私たちのパーティーに参加して欲しく、お声がけをさせて頂きました」
「私たちのパーティー?」
「はい。私は現在、火属性でレベル12の剣士とパーティーを組んでいます。いかがですか?」
「えっと……5人パーティーと言うことですか?」
「いえ、私たちとヒナタさんとメイさんの4人です。5人以上になるとペナルティが発生しますからね」
ミハイルは悪気のない笑顔を浮かべる。
「え? それだと……リクさんは……」
「残念ですが……定員オーバーと言うことで」
「そ、それは……お断りします!」
ヒナタはきっぱりとミハイルの誘いを断った。
「よろしいのですか? 土属性の騎士である私と、火属性の剣士。それに水属性の僧侶であるヒナタさんと闇属性の盗賊メイさん。非常にバランスの良いパーティーだと――」
「却下!」
メイがミハイルの言葉を最後まで聞かずに拒絶する。
「差し出がましいようですが、貴方たちはこのままパーティーメンバーを募集しても、徒労に終わりますよ。なぜなら――」
「俺が風属性だからだろ?」
俺はミハイルの忠告の言葉を途中で遮り、自らの口で告げた。
「わかっているのでしたら、お二人を解放するのも貴方の優しさじゃないですか? 多くのプレイヤーは冒険することを諦め、この町で暮らすそうです。冒険をしたいと言う意志のある前途ある二人の将来を考えるなら、貴方もそうするべきです!」
「ご忠告どうも。俺は隠居をする気はない。二人はどうする? 正直、こいつの言うことも一理あるぞ?」
今後、風属性と言うだけで……俺は野良でのパーティーが組みづらくなる。それは、俺と固定パーティーを組む二人にも同様のことが言えた。
「私はリクさんとパーティーを組みます!」
「うちもリクとパーティーを組むよ!」
ヒナタとメイは強い口調で答えた。
「わかりました。後悔しても知りませんよ?」
最後には薄っぺらい笑顔を剥がし、ミハイルは立ち去った。
「と、言う訳で、多分パーティー募集は厳しいぞ?」
「風属性ってここまで嫌われてるんだ」
「嫌われていると言うか……地雷プレイヤー扱いなのかもな」
誰もが知るハズレ属性――風属性。
好んで選ぶプレイヤーがいるなら、よほどの変わり者で、変わり者は往々として地雷プレイヤーだ。
遮断された世界で命を預けるには怖すぎる。
俺も、俺以外の風属性のプレイヤーがパーティー募集をしていたら絶対に応募しないだろう。
先入観、偏見……と言うか事前知識を考慮すれば、この結果は容易に予想出来ていた。
その後、2時間待ったが……俺のシステムアラートは鳴ることなく、代わりにヒナタとメイが何度もスカウトされたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます