悩み

 ジョーカーへクラスアップした俺は仲間との待ち合わせ場所である自宅へと向かった。


 これでやることリスト。


 クラスアップは完了だ。


 後、残るのは【黄昏】との戦争関連を除けば……


 ・装備品の配布及び強化

 ・新スキルの試運転

 ・メイvsセロのデュエル観戦


 と、なるのだが……俺は悩んでいた。


 自宅に戻ってからも、俺は机に突っ伏して悩み続ける。


「お邪魔しますにゃ」

「ん? クロか。おかえり」

「にゃ? 家に寄り道したのに、メイねぇたちはまだかにゃ?」

「迷子……にはならんと思うから、ステータスとかスキルを確認しているんじゃね?」

「にゃるる。初めてのクラスアップはテンションが上がるから仕方がないにゃ」

「んで、家に寄り道ってどうしたんだ?」

「ボクの家にある不要な装備品を持ってきたにゃ」

「うちにも相当数あるぞ」

「処分するには勿体ないけど、使わない装備品が溜まるのは宿命にゃ」

「メイたちになら気分良く譲渡できるしな」

「それで、リクにぃ……難しい顔をしてどうしたにゃ?」

「んー、少し悩みがあってな」

「にゃにゃ? ボクにも関係があることにゃ?」

「んー、あるっちゃ、あるかな」

「……ということは、例の件でしょうか?」


 クロが急に素に戻って問いかけてくる。


「あぁ、違う、違う。旅団絡みじゃなくて――」

「リク殿、戻りましたぞ!」

「お! おかえり」

「ヒロにぃ、おかりえにゃ」


 ヒロアキが帰ってきて、会話が頓挫すると、


「たっだいまー!」

「ただいまです」


 すぐ後に、メイとヒナタも帰ってきた。


「おかえり」

「おかえりにゃ」

「私も今戻ってきたところですな」

「で、リクにぃは何を悩んでいたにゃ?」

「ん? リク、何か悩んでるの?」

「はわわ!? 大丈夫ですか? 聞くだけしかできませんが、何でも言ってください」

「――! なんと! どうしましたかな?」


 仲間たちは心配そうに俺を見る。


「大したことじゃ……いや、大したことなのか? 少し、悩みがあってな」

「何にゃ?」

「メイたちにこのまま装備品を渡してもいいものかと……」

「ん? うちは無理してまではいらないよ」

「わ、私も! 今でも十分に助けられているので、大丈夫ですよ」

「不肖ヒロアキ! リク殿が裸一貫で盾になれ! と、命じるのであれば喜んで脱ぎましょう!」

「なんで……今ある装備品まで手放すんだよ……」


 俺の言葉にメイ、ヒナタは狼狽し、ヒロアキは謎のポージングを決める。


「渡す装備品はどれも倉庫で眠っていたアイテムだ。少しも惜しくはない」

「そうにゃ。メイねぇたちが有効活用してくれるなら、むしろ嬉しいにゃ」

「ん? それなら、何に悩んでいるの?」

「どの装備品を渡すか……とか、ですか?」

「いや、んー……何というか……少しだけ暢気と言うか、バカなことを言っていいか?」

「うん」

「はい」

「何ですかな?」

「今、この世界は外部から遮断されてる――言い換えるなら、俺たちはこの世界に閉じ込められているだろ」

「うん」

「こんなこと言うと不謹慎かも知れないが……それでも俺は、今までの日々――リクとして始めたセカンドライフを楽しんでいる」

「うん。うちもここまでの日々は楽しんでいるかなぁ」

「私もリクさんたちとの冒険の日々は楽しいですよ」

「然り! 最高の日々ですな」

「多分……俺はまだこの世界を――ゲームとして楽しんでいるんだと思う」


 俺は懺悔のように独白を続ける。


「まぁ、元がVRMMOにゃ」

「ゲームの楽しみ方っていくつもあるけど、その内の1つが成長だと思うんだ」

「オンラインゲームだから、競い合うフレンドがいるから――成長が実感できるっていうのはあるにゃ」

「んで、成長って一言で言っても、何種類かあると思うんだ。1つは、数値として見える形の成長――つまり、レベルアップ。1つは、己の技量――つまり、PSの成長。そして――装備品の新調」

「……なるほどにゃ」

「装備品を渡すのは惜しくはないが、装備品を今渡すことにより、メイたちはしばらくの間装備品が新調できなくなる」

「モノにもよるけど、第七〇階層を超えるまでは装備品の新調はなくなるにゃ」

「新たなレア装備をドロップした喜び。苦痛とも思えるが、その先に待つ最大の至福を求める――マラソン。装備品を渡すってことは、それらの楽しみを奪うことにも繋がるんだ」


 ハックアンドスラッシュによるトレハンは間違いなく、ゲームを――IGOと呼ばれるこの世界を楽しむための一因となっている。


「あぁ……確かに、レア装備を拾ったときは嬉しいよね」

「はい。私は自分の装備品を拾ったことはありませんが、リクさんやメイが喜ぶ顔を見ると、嬉しくなります」

「流石はリク殿! 私たちのモチベーションまで心配してくれるとは! 不肖ヒロアキ! 感動で涙が止まりませぬ!」

「にゃるほど……。ボクに1つアイディアがあるにゃ!」

「アイディア?」

「うん。今のボクには無理だけど……――! そうにゃ! 1時間もあれば実現可能にゃ!」

「1時間? 何をするつもりだ?」

「1時間もあればボクはクラス熟練度が3に上げることができるにゃ」

「まぁ、戦闘職じゃないから……クロなら可能だろうな」


 膨大な金と素材さえあれば、職人系のクラスは熟練度を上げることができる。


「今のボクはマスタースミスにゃ! そして、マスタースミスは熟練度が3に成長すれば――」

「あ! なるほど! あの素材が使えるのか」

「正解にゃ♪ 現状では『死に加工』と揶揄されてるけど、今のリクにぃたちには最適にゃ」

「マニアック過ぎて忘れてたよ」

「メイねぇたちにも説明して、納得してくるなら、この方法が一番良いと思うにゃ」

「そうだな」


 俺がクロの提案を受け入れると、


「そうだな……じゃないよー! 何の話かちんぷんかんぷんだよ!」

「あぁ、すまん、すまん。えっと、マスタースミスの熟練度が3に上がったら《グロー加工》が可能になる」

「《グロー加工》?」

「そそ。レアドロしたときの至福感には負けるが……《グロー加工》も中々いいぞ」

「《グロー加工》って何さ!」

「《グロー加工》は――」


 クロが《グロー加工》の説明を始めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る