試し切り(リクver)③

 最後の試し切り――《転換コンバージョンTYPEタイプ−A》の効果は10分。併せて《遊戯の時間パーティータイム》を使用すれば20分か。


 人差し指でこめかみを2回ノックする。


 ――《転換コンバージョンTYPEタイプ−A》!


 ――ッ!?


 激しいステータスの変化に、全身が熱く昂ぶった。


「ふぅ……。こいつは凄いな」


 665だったSTRの値が1520へと変化。


 この値は、STRに特化したソラの全盛期に迫る値だった。


 そして、俺は側面に被っていたマスクを正しい位置――正面へとズラす。


 ――《遊戯の時間パーティータイム》!


「ん? 効果が発動しない?」


 モーションは合っているし、心の中でスキル名を念じた。


「Wow! リーダー、ノンノンノン!」

「ん? モーションは合ってるだろ?」

「熱きスキルには正しき詠唱が必要! アンダースタン? yeah!」

「は? 詠唱必須のスキルとかあるのか……?」

「Foooo! たとえば! パーフェクトボディは完璧なモーションと詠唱が求められし、至高のスキル! yeah!」

「しかも、仲間の掛け声で効果が高まるのも実証されたにゃ」

「仲間の掛け声って……あの意味不明なナレーションとか、『キレてる! キレてる!』とか言う、あの謎の掛け声か?」

「yeah!」


 なるほど……一癖も二癖もあるスキルだ……。


 やってみるか……。


「詠唱って決まってるのか?」

「装備品の説明欄必見だぜ!!」

「説明欄……見たけど、書いてあったか?」

「ノンノンノン! TIPS必見! yeah!」


 TIPSとは装備品の効果ではなく、伝承や名前の由来などが記載されている一口メモだった。


 えっと……、なげーな……。


 肝心の詠唱はどこよ……。


 ――!?


 は? マジか? このアイテムを作った運営アホだろ。


『相手を嘲るように両手を拡げ、笑い声と共に『HAHAHA! パーリィタイム!』、もしくは、マスクを正面に装着しクールな声音『……パーティータイム』と叫べば、このマスクは真価を発揮するだろう』


「これ、マックスの呪い……ってか、イタズラじゃねーよな?」

「Fooooo! 俺は関係ナッッッシング! yeah!」

「やってみるか……」


 深く息を吐き、覚悟を決めた。


 マスクを正面へとズラし、


「……《遊戯の時間パーティータイム》」


 スキル名を言葉として発した。


 お! 発動した。


 転換の効果時間が8分から16分に延長された。


 残っている時間が倍増される仕組みのようだ。


「それじゃ、いってみようか!」


 俺は光と闇を司る一対の短剣を両手に、ゴブリンの群れへと突っ込んだ。


 優しく撫でるように振り抜いた左手の神威があっさりとゴブリンの命を奪い去り、雑に振り回した右手の天獄もあっさりとゴブリンの命を奪い去る。


 マジかよ……。


 転換前からワンキルではあったが……先程までは、ゴブリンの急所、或いは態勢を崩した瞬間を突いていた。


 しかし、今は雑に武器を振り回しているだけだ。


 にも関わらず、ゴブリンたちは儚いその命を散らしていった。


 24時間に20分だけという制限はあるが……これはヤバいな。


 しかも、《転換》のスキルレベルはまだ1だ。


 レベル1だと転換率は等倍だが、レベルがマックスになれば転換率は1.5倍になる。


 更に、ハイリスクハイリターンを習得し……《転換コンバージョンTYPEタイプ−C》を習得したら……。


 この強さの源は――『シルフィードの祝福』だ。


 更に、ハズレ属性と見下された風属性――AGIの度重なるテコ入れの成果だろう。


 1日に20分だけの最強火力か……。


「ハッハッハ!」

「ソラさん?」

「リク!?」

「リクさん?」

「リク殿!」

「リクにぃ!」

「HAHAHA! Fooooo! 昂ぶるぜっ! yeah!」


 突然笑い声をあげた俺に仲間たちが驚く。


「そうだな。すまん、マックスの言うとおり昂ぶってしまった」

「Fooooo! リーダー! まだだぁぁぁあああ! もっと! もっっっっとぉぉおおお! 熱くなれる! すべてを脱ぎ捨て……そう、このインナーを履けば!」

「……よし、俺が悪かった。黙ろうか」

「それで、どうしたのですか?」

「マイ、今の俺は――リクは、ソラより強くなるかもな」

「ふふっ、それは楽しみですね」

「えー!? 絶対に『炎帝のソラ』様のほうが強いよ!」

「わ、私はリクさんを応援します!」

「私はいつ如何なるときでも、リク殿の味方ですぞ!」

「メイねぇ、ヒナねぇ、ヒロにぃ! 落ち着くにゃ。リクにぃはソラにゃ!」


 新たな装備品に、新たなスキル。


 俺は自身の選んだビルドに確かな手応えを感じたのであった。

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