緊急クエスト四日目③

 現在、苦戦を強いられている最大の要因は――【百花繚乱】による暴走だ。


 【百花繚乱】は敵以上に厄介な味方であった。


 連携を取ることは不可能。故に、無視することが一番正しい選択だと考えていたが……違った。


 無視をするのではなく、制御すればよかったのだ。


 制御するといっても、奴らに話は通じない。罵倒を繰り返して終わってしまう。


 しかし、今と似たシチュエーションを俺は経験したことがあった。


 そのシチュエーションを経験したのはオンラインゲームではなく、オフライン――家庭用ゲームだった。


 暴走するNPC。NPC故に説得することも操作することも不可能。理不尽なまでに暴走するNPCを守りながら、クリアを目指すゲームは多々存在していた。


 そういうゲームをクリアするには、NPCのルーチン(決められた手順や動作)を把握する必要があった。


 今の【百花繚乱】は暴走するNPCと何ら変わりない。


 そもそも、【百花繚乱】を対等なプレイヤーとして扱ったのが失敗だった。


 【百花繚乱】は暴走するNPCだ。


 ならば、奴らのルーチンは?


 1、ゴブリンナイトを発見すると、後先構わずに突撃をする。


 2、ゴブリンナイトがいなければ、防衛拠点を守り始める。


 実にシンプルにしてマヌケなルーチンだ。


 故に、俺はそのルーチンを利用し【百花繚乱】を制御することを思い付いた。


「ガンツ、少しいいか?」

「お? 風の兄ちゃんじゃねーか! どうした?」


 ガンツは襲撃してくる無数のゴブリンを大剣で薙ぎ払いながらも、俺の声に答えてくれる。


「ある作戦を実行したい」

「作戦……? この状況を打破出来るなら、何でもしてくれや」

「作戦内容を簡潔に言えば、今から俺とメイの二人で残ったゴブリンナイトを討伐してくる」

「は?」

「え? そうなの?」


 俺の作戦にガンツだけでなく、メイも驚きを露わにする。


 今回、俺の思い付いた作戦は【百花繚乱】の最優先事項であるゴブリンナイトを倒してしまうと言うことだった。


 ゴブリンナイトを殲滅してしまえば、奴らは大人しく防衛に戻るはずだった。


「まぁ、理由はいいや! 風の兄ちゃんの事だ。何か思惑があるんだろ? とりあえず、風の兄ちゃんの抜けた穴は俺たちに任せろ!」

「助かる」

「それと一つ……死ぬなよ?」

「最善を尽くす」


 俺はガンツに礼を告げ、メイと共にゴブリンの群れの中を疾走するのであった。



  ◆



 《隠匿》を使用し、ゴブリンの群れ中を疾走すること10分。


 1匹目となるゴブリンナイトを発見。


「メイ、周囲の雑魚は俺が引き受ける。メイは1秒でも早く、ゴブリンナイトを葬ってくれ」

「うん! うちに任せて!」


 俺よりも火力の高いメイにゴブリンナイト討伐を託した。


 俺はアイテムインベントリーから『火炎壺』を取り出して、周囲のゴブリンへと無差別に投擲する。


 『火炎壺』を投擲した理由はゴブリンにダメージを与えることに非ず。俺へのヘイトを高めるのが目的だった。


「ギィ! ギィ!」

「ギィ! ギィ!」

「「「ギィ! ギィ! ギィ! ギィ!」」」


 『火炎壺』で火傷を負った無数のゴブリンたちが憎悪の眼差しを俺へと向ける。


 逃げ回りたいところだが、離れ過ぎたらゴブリンナイトと戦っているメイをフォロー出来ない。


 俺は死闘を繰り広げているメイとゴブリンナイトを中心とした円を描くように絶えず動き回る。


「ギィ!」

「そんな大振り当たるかよ!」


 ――《パリィ》!


 俺は跳躍して襲い来るゴブリンの攻撃を短剣で弾き、


 ――《ファング》!


 すかさず首を切り裂いて、トドメを刺す。


「お前らの相手は俺だろ?」


 ――《ウィンドカッター》!


 俺ではなくメイに飛び掛かろうとしたゴブリンを風の刃で両断。


 こいつを含めてゴブリンナイトは残り4匹。『火炎壺』の在庫は76個。無駄遣いは出来ないか……。


 俺は体力、MP、アイテムのペース配分を計算しながら、周辺のゴブリンたちのヘイトを一手に引き受けるのであった。


 15分後。


 メイが一匹目のゴブリンナイトの討伐に成功。


「次に向かうぞ!」


 更に30分後。


 二匹目となるゴブリンナイトの討伐に成功。


「――! リク、ダメージを受けたの!?」

「あの数のゴブリンの群れをノーダメで切り抜けるのは、流石に無理だ……次に向かうぞ」


 俺は回復薬を飲み干し、次なるゴブリンナイトを求めて疾走する。


 更に30分後。


 三匹目となるゴブリンナイトの討伐に成功。


 残り一匹……と、捜索を続けていると――


「ゴブリンナイト討ち取ったりー!」

「「「うぉぉぉぉおお!」」」


 最後の一匹となったゴブリンナイトがタックの手により倒されたようだ。


「メイ、戻るぞ!」

「うん!」


 さり気なく、タックたちがいる方向にゴブリンの群れを誘導し、擦り付けが出来た所で仲間の元へと帰還。


「ゴブリンナイトは全て討ち取ったぞ!!」

「「「おぉー!」」」


 俺は声高々にゴブリンナイト殲滅を周囲のプレイヤーに宣言。


 囃し立てるプレイヤーの声にマヌケ集団――タックたちがようやく事態を理解し、こちらに駆け寄って来る。


「クソっ! 聞いてないぞ! ゴブリンナイトは我々が全て――」

「お仲間がピンチだぞ? 見捨てるのか? 団長さん?」

「チッ! 我らの同胞を救出するぞ!」


 タックを中心とした暴走集団がようやく元の位置へと戻った。


「ガンツ、ここは俺たちに任せて少し休め」

「ふぅ……助かったぜ……お前ら! 休息だ!」


 疲労困憊だったガンツは俺の提案を素直に受け入れ、仲間と共に休息に入る。


「残った者はキツイとは思うが、あと一息だ! 全員の力を合わせて緊急クエストを乗り越えるぞ!」

「「「おぉー!!」」」


 防衛ラインがようやく正常な流れへと戻ったのであった。



  ◆



 緊急クエスト四日目。ゴブリンの襲撃開始から18時間後。


 全てのゴブリンを殲滅し、悪夢のような四日目の襲撃が終わりを告げたのであった。

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