野良パーティー(リク編)①
さて? この募集には不可思議な点が3つある。
一つ、ここは第30階層だ。適正レベルは階層+10が一般であることから、この町の適正レベルは40〜50。対して、募集しているパーティーの平均レベルはおよそ55。目的が経験値稼ぎであるなら、この町ではなく第四一階層の町で募集するべきだろう。
一つ、募集主のレベル。募集主のレベルは59。つまり、中階層の最高のレベル――カンストしている。レベルがカンストしているのに、経験値稼ぎを目的に募集する意味がわからない。
一つ、風属性の盗賊を指定しての募集。風属性は言わずと知れたハズレ属性だ。地属性に対しては優位性を保てるが、この辺に地属性の美味しい敵は存在していたか? 仮に存在していたとしても、募集をするなら戦士系か魔法使い系の純アタッカーを募集するだろう。経験値稼ぎを目的に、風属性の盗賊を募集する意味がわからない。
怪しさ満点の募集だが……どうすべきか?
仮にこの募集が俺をハメるための罠としよう。
どうやって俺をハメる? そもそも階層は直接PKを仕掛けるのが不可能だ。出来たとしてMPK(モンスターを誘導してのプレイヤーキル)。MPKが目的なら、わざわざパーティーを組まなくても仕掛けることが可能だ。
ってか、何で俺は罠にハメられる?
ソラならばともかく、俺――リクに恨みを抱くとすれば由々しき旅団――【百花繚乱】の関係者か?
いま、それはあり得ない。
今の俺のレベルは43だ。レベルアップの速度はかなり早いほうだと自負している。【百花繚乱】の連中がレベル50を超えている可能性は限りなく0だ。
んー……わからん。
この募集は何が狙いだ?
不可思議なパーティー募集の張り紙の前で首を捻っていると……
「失礼、この募集に興味がおありかな?」
蒼色の甲冑を纏ったブロンド髪の女性に声を掛けられた。
「あぁ……すまない。この募集の内容に少し興味を惹かれていた」
「興味を惹かれましたか……っと、自己紹介がまだでしたね。私はアイリスと申します。失礼ですが……興味を惹かれたと言うことは、ひょっとして貴方は……」
アイリスは答え合わせを求めている。
さてと、「違います」と言ってしまうのは簡単だが、どうすべきか?
んー……PKされる危険性はないし、このままモヤモヤした気持ちを抱え続けるのは気持ちが悪い。
「初めまして。俺はリク。風属性のトリックスターだ」
悩んだ末に俺は正直に名乗り出ることにした。
「ほぉ……貴方が……」
アイリスが何故か嬉しそうに目を見開く。
「失礼だが、どこかでお会いしたことが?」
「リクさんとお会いするのは初めてのはずですね。それで私たちのパーティーにご参加頂けるのでしょうか?」
「参加するのは構わないが……いくつか質問させてもらってもいいかな?」
「はい。私にお答えできるなら」
「俺のレベルは43だ。アイリスさんたちのパーティーとは10以上も離れているがいいのか?」
「はい、構いませんよ」
「目的は経験値稼ぎでいいんだよな?」
「はい」
「アイリスさんのレベルはカンストしていると思うのだが……?」
「そ、それは……えっとですね……」
「団長、だから言ったじゃないですか! 団長は参加する必要がないって!」
アイリスがしどろもどろに答えると、仲間の女性がアイリスを責め立てる。
「団長……?」
「あ、えっと……経験値を稼ぎたいのは私じゃなくて、こちらのローズとセリアです。私は団長として引率と言うか……お手伝いと言うか……そんな感じです! ですよね! ローズ、セリア?」
「う、うん。そうだな……団長はオレたちを手伝ってくれるんだ」
「はい、アイリスさんは優しい団長です」
狼狽するアイリスを仲間がフォローする。
団長……? ということは旅団へのスカウトか?
「なるほど。何度も申し訳ないが……これが最後の最後だ。風属性の盗賊を募集する理由は?」
俺は最も不可解な箇所を尋ねた。
「それはですね……えっとですね……正直にお話しますと、とある噂を聞いたので……興味本位ですね」
「とある噂?」
「はい。噂の発信源は、第二十一階層に到達したばかりのプレイヤーたちです。何でも……この前の緊急クエストで、凄腕の風属性のプレイヤーが低階層にいる多くのプレイヤーを救ったとか? まるで英雄譚のように目を輝かせて語っていました」
「なるほど……」
「不遇の代名詞とも言える風属性でありながら、英雄と謳われるプレイヤー……とても気になったので、一度お目にかかりたいと思い、不躾ながらこのような募集をさせて頂きました」
「経験値稼ぎの募集なら実力を見ながら、経験値も稼げるから一石二鳥だな!」
「うふふ……遮断された世界に生まれた新たな英雄さんの実力、期待していますよ」
やはりこの募集は俺をピンポイントで狙っていたようだ。話に筋は通っているし……この階層での最高レベルのプレイヤーの動きを確認できるのも悪くない。
「事情は理解した。俺がその英雄なのかは不明だし、期待に添えられるほどの力はないだろうが……これも何かの縁だ。パーティーへの参加を希望してもいいかな?」
「はい、よろしくお願いします」
俺はアイリスの差し出した手を掴み、握手を交わしたのであった。
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