野良パーティー(リク編)②
「それで、ターゲットは?」
どのモンスターをターゲットに経験値を稼ぐのか確認する。
「そうですね……リクさんはどこまで踏破済みですか?」
「三十四階層だな」
「三十四ですか……それなら、鬼狩りはいかがですか?」
鬼とは、第三十四階層に生息するオーガを指していた。力任せで魔法は使えないので、残念ながらデスサイズの出番は減るが、慣れれば与し易いモンスターだった。
「構わない」
「それでは鬼狩りで」
「鬼狩りかぁー! 久々だな!」
「ふふふ……張り切りすぎて事故らないで下さいよ」
「大丈夫だって! 流石に鬼相手に事故らないから!」
ターゲットの定まった俺たちは第三十四階層に通じる転移ゲートへと向かった。
◆
「そういえば、リクさんはお一人でしょうか?」
「いや、固定メンバーを組んでいる仲間がいる」
「あら? 私たちの誘いを受けて大丈夫でしたか?」
「今は野良パーティーで修行中だから、問題ない」
「へぇー野良パーティーで修行なんてあるんだ。オレは早いうちから旅団に入ったから、そういうのは無かったなー」
俺の答えに魔法剣士の女性――ローズが反応する。
「ずっと固定メンバーで組むより、色々な経験をした方が良いと思ってな」
「なるほど……色々な考えがあるんだなー」
「っと、前方に鬼の気配を発見。数は3体だ」
俺は《索敵》により知り得た情報を告げる。
「作戦はどうしますか?」
「指示をくれれば、従う」
「指示ですか……うーん……風属性のトリックスターと組むのは初めてなのですが、サブアタッカーをお願いしてもいいですか?」
「了解。最初は後方から魔法で支援する」
「あら? 魔法もお得意なのですね。それでは、後方支援お願いします」
俺以外の三人は知己の関係性だ。ここは俺から三人に合わせるべきだろう。様子見を兼ねて、最初は後方支援を申し出た。
「「「グォォォオオオオ!」」」
前方から金棒を手にし、隆々たる肉体を誇る一本角の鬼――オーガが姿を表した。
「参ります! ――《騎士の精神》!」
アイリスはバフ魔法にて自身の耐久性を増幅させ、盾を打ち鳴らす。
「ハッハー! 行くぜ! ――《エンチャントファイヤ》!」
「――《アタックブースト》!」
ローズは己の長剣に炎を付与し、セリアはローズの力を増幅させるバフ魔法を施す。
3体のオーガが盾を打ち鳴らしたアイリスへと迫り、金棒を振り下ろすが、アイリスは盾を巧みに操りその全ての攻撃を華麗に捌く。
へぇ……上手いな。
盾を用いてダメージを軽減する術はいくつかあるが、最も有効的で難易度が高い技術は、攻撃が当たる直前に盾を押し当てる――通称ジャストガードだ。
アイリスは迫りくるオーガの全ての攻撃をジャストガードしていた。
「オラッ! 燃えちまいな!」
「いきます! ――《アクアショット》!」
アイリスにヘイトコントロールされたオーガをローズが炎を帯びた剣で斬りつけ、セリアも魔法で攻撃に参加にする。
絶対的な防御技術を誇るアイリスを中心に、一体ずつ敵を倒す立ち回りが彼女たちの戦術のようだ。
堅実で安定感のあるスタイルだな。
俺もそろそろ戦闘に参加するか。
――《ウィンドカッター》!
放たれた風の刃がローズとセリアに攻撃され瀕死になっていたオーガの首を跳ね飛ばす。
郷に入っては郷に従え。
俺はアイリスたちの戦術を踏襲し、攻撃するターゲットをローズと重ねることにした。
アイリスたちから見ればオーガは格下の雑魚だ。ほどなくして、3体のオーガは地に倒れた。
「凄腕の短剣使いと聞いていたのですが、魔法がお得意なのですね」
「リクさんって本当にレベル43なのか!?」
「レベルにも驚きですが、トリックスター――盗賊系のクラスとは思えない魔法の威力です」
「いやいや、アイリスさんの盾捌きほどじゃないさ」
「ふふっ。そういえば、フォローありがとうございました」
「ん? 団長フォローされていたのか?」
「私が動きやすいように敵の位置を調整してくれていました」
「え? そうなの!」
「どちらにせよ結果は変わらない……余計なお世話だったかもしれないけどな」
「いえいえ、非常にやりやすかったですよ」
「うぉ! すげー! いつの間に!? 流石はえ――」
「ローズ? 余計なことは言わないの。次にいきますよ」
「お、おう!」
「ん? どうした?」
「いえ、何でもありません」
「いやー……流石は、えっと……え、英雄様だなぁと……あはは」
ローズの乾いた笑い声が響いた。
「それでは新たな英雄様、次へと参りましょうか」
俺たちは次なる獲物を求めて、先へ進むのであった。
◆
1時間後。
3人の動きにも慣れた俺は、魔法主体から短剣主体の立ち回りへと変更。これにより殲滅速度はさらに早まった。
その後、日が暮れるまで鬼狩りを続けたのであった。
「すげー! リクさんすげーよ!」
「ん? 殲滅数ならローズさんの方が圧倒的に上だろ」
「いやいや、それはオレが戦士系だし、レベルも上だから……ってそうじゃなくて! 何て言えばいいのかなー……セリアわかる?」
「何であなたの気持ちを私に聞くのですか。まぁ、ローズの言わんとすることはわかりますけど」
「だろ? 言ってくれよ!」
「リクさんとは初めてパーティーを組んだとは思えないですね。まるで、長年一緒にパーティーを組んでいたかのようでした」
「そうですね。私たちの動きに合わせた動き……? と言えばいいのでしょうか? とても動きやすかったです」
「それそれ! それがオレの言いたかったことだよ!」
「こちらこそ、たくさん経験値を稼げた。改めて、パーティーに参加させてくれたことを感謝する」
事実、ソロで稼いでいた時と比べて倍近くの経験値を稼ぐことが出来た。
「リクさんは、噂通り……いえ、噂以上の実力でした」
「うんうん! また、一緒に稼ごうぜ!」
「このレベルのプレイヤーが低階層にいたら、噂になるのは必然ですね」
「ハハッ、ご期待に添えれたようで一安心だ」
「一ヶ月後の緊急クエストでご一緒できることを楽しみにお待ちしていますね」
「それまでに第四一階層に辿り着けたなら、よろしく頼むよ」
「あ!? もしよかったら……フレンド交換いいですか?」
「あ! オレも! オレも! ……って! フレンド欄いっぱいだ! ちょ、ちょっと整理するから待って!」
「ふふっローズだけはお預けですね」
「な!? ちょ! ま、待って! 消した! 今セリアを消したから大丈夫!」
「あら? よりによって私を消しますか?」
「セリアなら旅団リストでも確認できるからいいだろ!」
「まぁ、ヒドイ」
「んじゃ、改めてよろしく頼むぜ!」
「リクさん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
アイリスたちとフレンド交換をして、パーティーは解散したのであった。
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