最上級職③

「んーーーー、悩むなぁ」


 ヒナタ、ヒロアキと決まったが、メイはまだ悩んでいた。


「メイねぇ、1つ確認したいことがあるにゃ」

「ん? クロちゃん、なに?」

「リクにぃ、この家にはトレーニング施設はありますかにゃ?」

「大きくはないが、地下にあるぞ」


 トレーニング施設とは、自分の習得したスキルや立ち回りを確認できる施設だ。設置費用は安くないが、便利なので家持ちのプレイヤーの多くは設置していた。


「メイねぇ、少し実験に付き合って欲しいにゃ」

「実験? なんだろ? いいよ」

「リクにぃも同行して欲しいにゃ」

「了解」


 俺はクロたちを地下のトレーニング室に案内した。


 トレーニング室は地下を丸々利用しており、縦10メートル、横9メートルほどの広さで、壁には幾重もの結界が付与されているので非常に頑強で、防音も完璧だ。


「リクにぃ、一番小さいまとを用意して欲しいにゃ」

「小さい的? んーと、コレでいいか?」


 俺は直径5cmほどの的を用意する。


「ありがとにゃ!」


 クロは的を受け取ると壁に貼り付け、反対側の壁の前に立つメイに告げる。


「あの的を苦無くないで打ち抜いて欲しいにゃ」

「は?」

「ほほい! いいよー!」


 クロの無茶な要求に俺は驚くが、当の本人であるメイは軽く返事をし、その場――的から10メートルほど離れた位置から苦無を投擲。


 ――!


 そして、ものの見事に命中させる。


「メイねぇ、次はボクが的を投げるから、射抜いて欲しいにゃ」

「オッケー!」


 クロはメイから10メートルほど離れた位置から、的を下投げで放り投げると、


 ――!


 またしても、軽く放ったようにしか見えないメイの苦無が的に命中する。


「やっぱりにゃ……」

「クロ、どういうことだ?」


 メイのあり得ない達人技を目にして納得するクロに、疑問をぶつけた。


「メイねぇの投擲は……命中率が異常にゃ」

「なんでクロは知っていたんだ?」

「前にスキルレベルを上げるときに、メイねぇは苦無と手裏剣をたくさん作ってたにゃ」

「そんなこともあったな」

「そして、前線ではリクにぃとヒロにぃが戦っていたにゃ」

「そうだな」

「その時、メイねぇが遊びのように投げていた苦無と手裏剣は、すべて命中していたにゃ」


 IGOは元々ゲームの中の世界だ。当然、投擲には命中の補正が入るし、10メートル先に届かせることも可能だ。


 しかし、10メートル先に百発百中するほどのデタラメな補正はかからない。


 今思えば、扱いが難しいと言われている鎖鎌の分銅による攻撃をメイが外したのを見たことはなかったし、扱っている者が極端に少ないから気にしなかったが、投擲武器――蛇王戦輪を外しているのも見たことはなかった。


「メイ、なんで命中率がそこまで高いんだ?」

「え? これって普通じゃないの?」

「違う」「普通じゃないにゃ」

「んー、なんだろ? 投げるコツがわかったら、後はスナイプの要領と同じだからかな?」

「スナイプの要領?」

「うん。言ってなかった? うち、IGOをする前までは『クラデス』のランカーだったんだよ」

「ランカーとは聞いていたが、『クラデス』だったのか」


 クラデスとは、正式名称が『クラッシュデスフィールドオンライン』。対人に特化したFPSのオンラインゲームだった。


「『クラデス』の経験者なら、弓使いとかのほうが良かったんじゃないのか?」

「えー、今更武器を変えるのは嫌だよ」

「まぁ、今から武器を変えるのはナンセンスだよな」

「それに、せっかく違うゲームだったし、ヒナタと一緒に始めるなら心機一転プレイスタイルもガラッと変えて遊びたかったからね!」

「なるほど」


 メイの才能は俺の想像を超えているのかもしれない。


「メイねぇのこの才能を活かすなら、『上忍』がいいと思うにゃ」

「百発百中の投擲攻撃か。『上忍』のほうがいいかもな」

「でも、うちのメインウェポンは鎖鎌だよ! これは譲れないからね!」

「メイの人生だ。何一つ他人に譲る必要はない。投擲は攻撃手段の1つとして持っていればいいだろ」

「んー、手裏剣以外にも『上忍』には魅力的な攻撃手段があるんだよね?」

「《忍術》はどれも魅力的な攻撃手段だな」

「んー、んー、『上忍』にしようかなぁ」

「メイの人生だ。慌てる必要はない。じっくりと考えろ」

「んー、でも、リクたちはこの後クラスアップするんでしょ?」

「そうだな。俺に関しては、戦闘スタイルもイメージできているからな」

「私も迷いはないですぞ!」

「私も『聖女』になります!」

「ボクも『マスタースミス』にクラスアップするにゃ」

「えー! じゃあ、うちだけが置いてきぼりになるじゃん! 決めた! うちは『上忍』になる!!」

「おい……そんな勢いで決めていいのか……」


 突然決意したメイが心配になる。


「うん! 大丈夫! 元々うちの意思は『上忍』のほうに傾いていたからね!」

「それならいいが」

「ただ、1つだけ……心配なことが……」

「なんだ? 装備品なら『上忍』の装備品も倉庫にあったと思うから大丈夫だぞ?」

「ううん! 装備品じゃなくて……セロ様に『同じシャドーマスターとして』と言われたけど……いいかな……」

「あぁ……問題ないだろ。そんなことで文句を言うような奴じゃないし、万が一言ってきたら、俺に言え」

「んー、わかった! うちは『上忍』になるよ!」

「よし! それじゃ、全員でクラスアップをして、再びこの家に集合だな!」


「「「おー!」」」


 こうして、俺たちはクラスアップするために各自神殿へと向かったのであった。

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