秘策?

「な、な、、な、なんで……ソラさんがスノーホワイト……さん、と一緒にいるのですか!?」


 冷静なマイが珍しく狼狽する。


「んー、成り行き?」

「な、成り行きですか!? そもそも、彼女は本当にスノーホワイトさんなのですか!?」

「俺以上に、ここにいるメンバーへの自己証明は難しいと思うが……本物のスノーホワイトだと思うぞ」

「ソラさんの言うとおり、証明しろと言われても難しいですが……私は間違いなく皆さまの仰る、何よりも利を優先し、狡猾で厄介な、『冷血メガネ』こと、スノーホワイトです」


 クロは表情を一切崩さず、己に下された評価を添えて自己紹介する。


「うげ……この口調間違いねーよ……あの『冷血メガネ』だわ……」

「うわぁ……まさかのソラさんと一緒なんて……すっごいサプライズだねぇ」

「Foooo! サプライズパーティーの幹事なら俺に任せろぉぉおおお! Yeah!」

「え? ちょ……なんで……スノーホワイトがここにいるのよ……」

「ま、まさか……これも罠なのか……」


 セロが最後に口にした言葉に全員が過剰に反応し、真っ先にマイが口火を切る。


「――! スノーホワイト! 何を企んでいるのですか!」

「落ち着け……。クロ……じゃなくて、スノーホワイトは今回の件に関しては何も関わっていない」

「本当ですか! 彼女はあのスノーホワイトですよ!」

「俺たちは遮断されて以降、ほとんどの時間を共に過ごしている。クロ――スノーホワイトはマイたちが想像しているような人物じゃない」

「本当ですか……? ソラさんは性善説というか……時に人を信頼し過ぎる傾向が……」

「マイ様! クロちゃんは本当にいい子だよ! それはうちも保証するよ!」

「はい! クロちゃんは本当に素晴らしい方です!」

「うむ。クロ殿は立派な御仁ですな」

「メイねぇ、ヒナねぇ、ヒロにぃ……」


 疑り深いマイに対し、メイたちが必死にクロを擁護する。


 俺は、パンッ! と手を叩き、一度全員の意識をこちらへ集中させる。


「全員落ち着いて話を聞いてくれ。俺たちは今日この階層に到達した。そして、【天下布武】と【黄昏】の争いを知ったのも、つい先程だ。そして、【天下布武】の団長である俺と、【黄昏】の副団長であるスノーホワイトは、共にこの争いを望んでいない。だから、可能なら戦争回避の道――和解を進めたいのだが、マイたちの意見を改めて聞かせてくれないか?」


 俺は話の流れを本題へと戻すことにした。


「うわぁ……リクってば本当に『炎帝のソラ』様なんだ……」

「リクさん、素敵です」

「リク殿、不肖ヒロアキ! 感動で涙が止まりませぬ!」


 いやいや、なんでメイたちが先に反応するんだよ……。


 俺は苦笑を浮かべながらも、マイへと視線を戻す。


「なるほど……。無駄な戦争を本当に避けれるのであれば、私は和解に賛成しますが……本当に可能なのですか?」

「俺は別に戦争してもいーが……今はそんなことより攻略を進めてーから、別に和解でもいいぜ」

「んー、スノーホワイトちゃんがこっちに付いているなら、勝機はあるのかなぁ? 私もソラさんの和解に賛成だよぉ」

「サプライズパーティーのダンスは、フォークダンスよりタンゴの方がいいと思うが、どうだろうか?」

「……本当に和解が出来るなら、私も反対はしないよ」

「和解でもいいが、こちらから何かを譲ることは容認できないけどな」


 全員が満面の笑みを浮かべて賛同! とまではいかないが、和解に賛同はしてくれた。


「よし! それじゃ、和解に向けて話を進める。クロ、交渉の席を用意してもらえるか?」

「はい、お任せください」


 俺の言葉にクロが力強く頷く。


「それで、具体的にはどうするのですか? こちらで何かお手伝いは必要ですか?」

「まずは私が一人で【黄昏】に向かいます。皆さんと行けば、余計な誤解を招く恐れがありますので」


 マイの質問にクロが真剣な表情で答える。ボクボクにゃーにゃー言ってたクロとは思えない凛々しさだ。


「ってことは、クロが【黄昏】との交渉テーブルをセッティングしてくれる……と、受け止めていいか?」

「はい。必ず実現させます!」

「という訳だ。来て早々、勝手にしきって申し訳ないが、今回の件は俺とクロに預けてくれ」

「よろしくお願いします」


 俺が【天下布武】の仲間たちに頭を下げると、クロも深く頭を下げた。


「わかりました。団長命令であれば従います」

「団長命令と言っても、今はまだマイが団長だけどな」

「これはシステム上の肩書に過ぎません。【天下布武】の団長はいつでもソラさんです」

「了解。……あと、長い間留守を任せてすまなかった」

「本当ですよ……こんな時期に行方不明になるなんて……団長としての自覚が足りないですよ」

「あはは……ごめん、ごめん。そして、改めて、ただいま」

「はい! ソラさんおかえりなさい!」


 ようやく、マイは俺に笑顔を見せてくれた。


「それでは行ってきます」

「おう! 頑張れよ!」

「クロちゃん、がんばっ!」

「クロちゃん、頑張って下さい!」

「クロ殿、ご武運を!」


 クロは俺たちに見送られ、一人【黄昏】の旅団ホームへと向かったのであった。



  ◆



 クロが【黄昏】の旅団ホームに向かってから3時間。


「クロちゃん、遅いねー」

「大丈夫ですかね?」

「クロ殿なら大丈夫と信じましょう」


 俺たちは自宅で中々連絡の来ないクロを待っていた。


 その間にクラスアップを……と言えば、全員から軽蔑されそうなので、今は耐えよう。


「しっかし、あの火力バカのソラが風属性のトリックスターってどういう風の吹き回しだ?」

「Foooo! 風属性と風の吹き回しを掛けたサブリーダーのセリフは――13点! いまいちYeah!」

「掛けてねーよ! ってか、点数低すぎだろ!」

「こんな状況になるとは思っていなかったからな。どうせなら、ファースト――ソラとは全く違うプレイスタイルに、と思っただけだ」

「それでも風属性はないよぉ」

「風属性はないね」

「無謀だな」


 クロを待っている間に仲間たちと雑談を楽しんでいると、


『パーティーメンバーのクロが死亡しました。180秒後に神殿への移送を開始します』


 ――!?


 は?


 予期せぬシステムメッセージを受信したのであった。

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