デスサイズ

「ん? リク、どうしたの? ……ま、まさか!?」


 俺の反応を見たメイが目を輝かせて駆け寄ってくる。


「あら? 今回はリクさんに幸運の女神が微笑んだのですか?」

「おぉ! 流石はリク殿ですな!」


 ヒナタとヒロアキも遅れて俺の元へと駆け寄って来る。


「幸運の女神じゃなくて……乱数の女神な。いや……これは幸運の女神と言ってもいいのか……」


 アイテムインベントリーに収まっている装備品を見て、俺は未だ震えていた。


「あはは! リクってばそういえば初めてのレアドロ? 震えるほど喜ぶなんて……ありがとうね!」


 メイは俺へと手を差し出す。


「すまない……」

「え? まさか、自分で使いたくなったの?」

「違う……違うわけではないが……そうじゃない」

「んん? どういうこと?」

「俺が入手したのは『幽冥ゆうめい』じゃない」

「へ? どういうこと? 何があったの?」

「俺が入手したのは――コレだ!」


 俺はアイテムインベントリーから漆黒の大鎌――『デスサイズ』を取り出した。


「それって死神の持っていた武器?」

「『デスサイズ』だな」

「レアなの?」

「超、超、超、レアアイテムだな」

「そうなの? でも、そんなレアアイテムがあるなんて聞いてないよ」

「狙って拾える武器じゃないからな……蛇王戦輪と同レベルの超レアアイテムだ」


 今回死神マラソンを決行したのは目的となった武器――『幽冥ゆうめい』が狙えるレベルのドロップ率だったからだ。


 ドロップ率が5%なら狙って入手することは可能だ。


 逆に言えば、どれだけ欲していたとしてもドロップ率が極端に低いアイテムを目的にマラソンするのは愚の骨頂だった。


 仮にドロップ率が0.01%なら、10,000回に1回ドロップするかどうかの確率となる。ドロップする相手が階層主なら、理論上30,000日費やすことが必要となる。誰がそんなアイテムを狙うと言うのか……。


 メイたちは『デスサイズ』の希少性を知らないので、反応は希薄だ。ここにクロがいたのなら……驚愕して錯乱状態になっていただろう。


「でもそれって……短剣じゃないよね?」

「武器種別は斧だな」

「ダメじゃん! あ、クロちゃんにあげるの?」

「いや、俺が使う! トリックスターもジョーカーも斧は得意武器だからな!」

「え? でも、武器種を増やすのは熟練度的に……」

「大丈夫だ! 『デスサイズ』に合わせてプレイスタイルを変えることも可能だ」

「え……いいの……?」

「短剣の弱点は対集団戦だ。『デスサイズ』があれば、その弱点を補うことができる!」

「それなら……もっと早くから導入していれば……」

「大丈夫だ! まだ間に合う!」

「り、リクがいいなら……うちはいいけど……」


 俺は自分に言い聞かせるように『デスサイズ』を使うことの正当性を口に出す。


 自分が本当に欲しい超レアアイテムを拾える可能性はかなり低い。超レアアイテム故に拾えること自体が珍しいのだが……稀に自分の望んでいない超レアアイテムを拾うことはあった。


 その時の対処方法はいくつか存在している。


 一つは、売却あるいはトレードに出して別の対価を得る。


 一つは、拾った超レアアイテムに合わせて自分のビルドを変更することだった。


 例えば、今回の『デスサイズ』をヒナタが拾って……俺に「使いますか?」と聞かれていれば……答えはNOだ。あくまで自分で拾ったからこそ使うのだ。これはゲーマーの心理だと思う。


 拾ったアイテムが槍や杖などトリックスターが扱えない装備品だったら……諦めていたかも知れない。しかし、斧は得意武器の一つだ。


 これは天啓だ。乱数の……いや、幸運の女神が俺に斧を使えと言っているのだろう。


 故に、俺はプレイスタイルを変えてでも『デスサイズ』を使うことを決意した。


「んー……よくわからないけど、リクが使いたいって言うなら……いいんじゃない?」

「こんなにも喜んでいるリクさんを見るのは初めてですもんね!」

「リク殿の歓びは……私の歓び! 感無量ですぞ!」

「でも斧って重いでしょ? リクに使えるの?」

「デスサイズは斧の中では割と軽量の部類だ。流石に片手で振り回すのは厳しいが……両手で扱えば問題なく扱える」

「今までは短剣でスピード特化のイメージだったけど、かなりプレイスタイル変わっちゃうね」

「どちらにせよ……明日からは忙しくなるな!」

「え? 何かするの?」

「斧の熟練度上げだな」

「何か手伝いますかー?」

「いや、今まで通りソロで大丈夫だ」

「はぁ……ってか、幽冥はまたお預けなんだね……」

「安心しろ。女神はいる……諦めない心があれば、想いはきっと届く!」

「あはは……リクってば、凄いテンションだね」


 こうして俺は思わぬ超レアアイテム――『デスサイズ』を入手した。


 再び第三一階層に戻った俺たちは解散して別行動をとることとなった。


 メイとヒナタとヒロアキは野良パーティーを組むために冒険者ギルドへ。俺は斧の熟練度を上げるために一人フィールドへと向かったのであった。

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