外伝 アカリ①

 この世の中は理不尽で溢れている。


 契約社員だった私は勤務先から解雇通告を受けた。


 理由は、度重なる帳票の入力ミス。


 しかし、私の入力に間違いはなかった。間違えていたのは、入力の指示を出した上司――正社員の方だった。


 しかし、会社は正社員の言葉を信じ、契約社員の私の言葉を信じなかった。


 真実なんて意味はない。


 勝てば官軍負ければ賊軍。


 仕事を失い、人間不信になった私は……家に引き籠もるようになった。


 貯蓄も少なく、されど就職する気が起きない私は……広告で目に入ったとあるVRMMOのベータテストに応募した。


 そのVRMMOが――IGOだった。


 現実世界で娯楽を楽しむお金がない私は……次第にIGOの世界へとハマっていった。


 IGOを始めてからおよそ1週間。


 私の人生――プレイスタイルを大きく変える出来事が起きた。


 いつも通り、インターネットで調べた稼ぎ場で経験値を稼いでいると――突然、目の前がホワイトアウトした。


 え? 何? ここには私をワンキルできるようなモンスターはいないはず!?!?


『ソウマに倒されました。180秒後に水の神殿への転移を開始します』


 ソウマ……?


 そんなモンスターは……――!?


 違う! ソウマは――プレイヤーだ。つまり、私はプレイヤーキルされたのだ。


 この世界のデスペナルティーは1回目は24時間のステータス半減。そして、プレイヤーキルされた場合はランダムでアイテムを消失。


 180秒後。


 神殿で復活した私は消失したアイテムが何なのかを真っ先に確認した。


 消失したのは……いくつかの素材と――私の愛用していた槍だった。


「ああああああああ!!!」


 私はあまりの悔しさから部屋の中で叫んだ。


 そして、怒りのままに匿名掲示板へと書き込みをした。



 356 名無しのテスター ID:0036472

 第七階層のフィールドでソウマってプレイヤーにPKされました!!


 357 名無しのテスター ID:0026794

 >>356

 乙。何奪われたん?


 358 名無しのテスター ID:0036472

 素材と武器です!

 いきなり背後から攻撃するとか最悪ですよね!


 359 名無しのテスター ID:0079462

 >>356

 うはwww武器奪われるとかワロタwww

 356は今日の運勢最下位だろ?www


 360 名無しのテスター ID:0059784

 >>356

 気持ちは分かるが、証拠画像もなく名前を晒すのはヤメレ


 361 名無しのテスター ID:0094632

 ってか、PKは仕様で認められた行為だろ?

 文句があるなら運営に言えよwww


 362 名無しのテスター ID:0026547

 負け犬の遠吠え美味しいですwww

 ごちそうさまでしたでしたーwww


 363 名無しのテスター ID:0054978

 悔しかったら強くなってPK仕返しすればいいんじゃね?


 364 名無しのテスター ID:0019865

 ベータテストじゃなかったら、札束でぶん殴れ!

 と、助言できたが……今は課金も無理だから時間捧げるしかないな


 365 名無しのテスター ID:0084652

 自宅警備員最強説www



 ――!?


 私の意見を肯定する者は一人もおらず、私の書き込みを茶化すような書き込みが続く。


 匿名掲示板の言葉を真に受けるのは愚か者だ……と、頭で理解はしていたが、さすがに心は乱れてしまう。


 ここでも……! やっと見つけた憩いの地――IGOの中でも私は負け組なのか!?


 勝てば官軍負ければ賊軍。


 そうだ……。やり返そう……。


 憎むべき敵の名前は――ソウマ。


 まずは、ソウマをPKして私の自尊心を取り戻そう。


 ソウマのレベルは? ソウマのクラスは? PKに勝つためには? 


 漠然と楽しんでいた娯楽の中に明確な目標ができた。


 まずは徹底的にPKについて調べた。


 私の現在のクラスは僧侶。


 初心者にオススメと書いてあったから選んだが……ダメだ!


 このクラスはPKに向かない。


 幸いにもベータテスト期間は様々なクラスを体験して欲しいという趣旨で、クラスの変更が可能だ。


 ソロでのPKに向くクラスは、戦士、剣士、盗賊の3クラス。


 無難に戦士すべきか……?


 しかし、インターネットで様々な情報を検索していると、噂レベルではあるが、製品版だと盗賊は奇襲とPKが得意な暗殺者なるクラスになれる可能性があるらしい。


 ならば、今から盗賊に慣れていた方がいいだろう。


 盗賊にクラスチェンジした私は新たな武器となる短剣の練習に励んだ。


 リーチが短く、今まで使っていた槍と比べると凄く使いづらいが……これも目的――ソウマをPKするためだ。


 私は寝る間も惜しんで短剣の習熟に明け暮れた。



  ◆



 私がPKされた翌日。


 インターネットで情報を収集していると、偶然ソウマのブログを発見した。


 ブログを熟読した結果、ソウマのレベルとクラスと日々の活動を把握することが出来た。


 ソウマのレベルは21。対して、私の現在のレベルは18。


 ベータテスト期間はレベルの上限が29。


 念には念を……返り討ちに遭うなどあってはならない。


 私はソウマのレベルを抜くことを目標に、寝食を惜しんでレベル上げに励んだ。


 私がPKされた7日後。


 ブログの情報によれば、ソウマのレベルは24。対して、私のレベルは25。


 超えた……ようやくレベルを超えることに成功した。


 ブログによると、本日の活動予定は……第十四階層の稼ぎ場でレベル上げ。私は一足先に第十四階層へ向かい、待ち伏せをすることにした。


 結論から言えば、復讐に成功した。


 ソウマの驚く顔は本当に甘美だった。


 私はその後もソウマを付け狙い、もう一度PKすると……ソウマはブログを閉鎖し姿を見せなくなった。


 あはははははは! 最高だ!


 モンスターを倒しただけでは味わえない……この充実感!!


 ハッハッハッ。私はルールに則ってゲームを楽しんでいるだけ。


 文句があるなら運営に……否、弱き自分を責めなさい!


 PKの快楽を知った私はIGOの世界にどっぷりとハマるのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読み頂きありがとうございます。


えっと……スランプに陥りましたorz


本編の続きを何度書いても納得がいかず……少しリハビリがてら外伝を執筆しました。外伝アカリは最長でも3話ほどで終わる予定です。(クロがどのようにして陥れられたのか……など)


何とか定期的な更新に戻せるように努力しますが、また不定期投稿になったら申し訳ございませんm(_ _)m

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