やるべきこと

 【天下布武】の旅団ホームに帰還した俺たちは、執務室で一息つくことにした。


「しかし、第五一階層に着いて早々やることがてんこ盛り過ぎるだろ……」


 俺は今日の目まぐるしさを思い返し、嘆息する。


「やるべきことはまだまだありますよ」

「だな。今回の戦争の件も大切だが、それ以外にもクラスアップに装備の新調……後は、試し切りもしないといけないからな」

「うっわ! ソラさん、こんなときに試し切りって……ブレないね!」

「カッカッカッ! スキルの練習付き合ってやろうか?」

「ミント、こんなときって言うけど……他になにかできることはあるか?」

「え、えーっと、ほら団長として、色々とやることあるでしょ?」

「まだ、団長はマイだけどな」

「――! 今すぐ交代を……って! ソラさん、まだ【天下布武】に入団もしてないじゃないですか!」

「ソラはしているだろ? してないのは、リクな、リク。ついでに何度も言うけど、今の俺の名前はリクな。まぁ、呼び名はどっちでもいいけど」


 俺は肩をすくめる。


 しかし、本当にやるべきことが多すぎる。


「入団って言えばぁ……スノーちゃんは無理としてぇ、メイちゃんとヒナちゃん、あとヒロさんはどうするのぉ?」

「う、うちは……て、て、【天下布武】に入団します!!」

「メイは幹部候補として入団だな。期待の新人だな」

「な!? ちょ、ちょっと、リクッ!」

「ハハッ。でも、メイの実力なら幹部待遇でも文句は出ないと思うぞ?」

「ちょ! ハードル上げるのやめてよね!」

「ソラ、1ついいか?」

「ん? セロ、どうした?」

「それは、本気で言っているのか?」

「それとは……メイの実力か?」

「……【天下布武】の看板は安くないぞ」


 セロは俺の質問に首を縦に振ると、真剣な視線で俺の目を射抜く。


「【天下布武】の看板を安売りする気はさらさらないさ」

「……なるほど。期待していいのだな」

「んー……少し不安になるな。少しハードルを下げるなら、メイはこちらの世界時間で10ヶ月にも満たない新人だけどな」

「新人にしては……と、言うことか?」

「いいえ、私が【黄昏】の副団長であったなら、メイさんは確実に幹部として迎え入れます」

「ほぉ……我らが団長だけでなく【黄昏】の参謀も認める実力と言うことか」

「ちょ! クロちゃんまで変なこと言わないの!」

「メイだったか、同じシャドーマスターとして、一戦所望する」

「え、ちょ……ど、どうすれば……」


 メイが助けを求めるように俺を見る。


「メイはまだシャドーマスターにクラスアップしていない。シャドーマスターにクラスアップして、試運転が終わったら……いいと思うぞ?」

「ちょ! うちの意見は!」

「大丈夫だ。【天下布武】の幹部になるんだろ? 団長権限を発動! と言いたいが、そんな権限は存在しないから、これが一番の近道だ」

「うぅ……いきなり過ぎるよ……」


 メイの実力は正直初心者離れしている……と、思っている。その感覚が、同じくレベル1から始めたリクの勘違いなのか、それとも本物の実力なのか、確認したくなったのだ。


「ちょっと待ったぁぁぁあああ!」

「ん? どうした?」

「Foooo! 【天下布武】に入団するには、とあるアイテムが必要だぜぇぇええ! Yeah!」

「初耳だが?」

「それは! 豹柄のインナーだぁぁぁああ! Foooo!」

「ますます、初耳だが……そうなのか?」

「同じインナーを身に着け、身も心も一体化する! あの日の決意を忘れたとは言わせねーぜ!! Yeah!」


 俺は現団長であるマイに確認するが、マイは全力で首を横に振る。


「えっと……俺も豹柄のインナーは持っていないから……【天下布武】への復帰は諦めるか……」

「むむ……不肖ヒロアキ、リク殿のために豹柄のインナーを求める旅に出ることに問題はありませぬぞ!」

「Foooo! さすがは幹部候補……否! 幹部の器を有する者よ! 貴様のその目、その言動……俺にはすべてが分かっていたぞ! Yeah!」

「至極恐悦」

「とりあえず、黙ろうか? メイさんとヒナタさんに誤解されるから、マックスは黙ろうか?」

「ノォォォォオオオ! ミント、ステイ! 俺は皆と一体化するために、新たなルールを――」

「うん。黙ろうか」

「ラジャー」


 ミントが全身に冷気を帯びると、マックスは大人しくなった。


「んで、どうすんだ?」


 マックスが黙ると、改めてツルギが問うてきた。


「戦争の準備と言っても、戦国時代の戦争と違って兵隊がいる訳でもなく、参加するのはプレイヤーだ。精々あったとしても、編成と作戦を練るくらいだが……それはもう終わってるだろ?」

「はい。あとするべきことは、同盟を組んでくれた旅団との打ち合わせですね」

「んじゃ、レベル60の俺がどこまで戦争に貢献できるのかは疑問だが……クラスアップをして、身体を慣らすよ」

「んなカッコいい言ってるが、レベル上げしたいだけだろ?」

「……強く否定はできないな」


 ツルギの言葉に俺は苦笑を浮かべ肯定する。


「確認ですが、メイさん、ヒナタさん、ヒロアキさんは【天下布武】に入団……と、いうことでよろしいでしょうか?」

「3人が望むなら」

「うん!」

「はい!」

「承知!」

「ありがとうございます。それなら、3人の紹介もしなくてはいけませんね。いつにしますか?」

「ソラさんの推薦入団だから、盛大にしないとねぇ!」

「Foooo! 宴の幹事は任せろぉぉぉおお! Yeah!」

「マックスが幹事をすることは絶対にないから」

「まぁ、顔合わせは必要だな」

「その前に手合わせ願いたいところだな」


 クラスアップに、装備の新調に、試運転に、メイたちの入団と紹介。あとは、メイとセロの試合に……戦争に向けての工作と交渉。


 とりあえずはクラスアップだな!


「メイたちの紹介は明日にしよう」

「明日ですね。何時にしましょうか?」

「10:00で、どうだ?」

「10:00ですね。了解しました。併せて、ソラさんには正式に団長に復帰して頂きますね」

「了解」

「んじゃ、メイ、ヒナタ、ヒロ、クロ! クラスアップに行こうぜ!」


 ようやく、念願のクラスアップに向かえるのであった。

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