それぞれの理由
「えっと……それで……リクさんは第五一階層を目指すのですよね?」
俺のメインキャラクター云々の話題から離れるようにヒナタが別の質問を投げかけてくる。
「そうだな」
「それって、リクがセカンドキャラなのと関係しているの?」
続けてメイも質問を投げかけてくる。
「関係あるな」
「それは……メインキャラクターの時のフレンドさんに会うのが目的ですかぁ?」
「え? そのフレンドってもしかして【天下布武】所属のプレイヤー!?」
「メイ! リクさんの正体を詮索するのはマナー違反なのですよぉ」
目を輝かせるメイをヒナタが窘める。
メイはどれほど【天下布武】に憧れを抱いているのだろうか? 幹部の一人に超ド級の変態がいるのだが……大丈夫か?
「フレンド――仲間を探すのも一つの目的だが、第五一階層を目指す目的はもう一つある」
「何ですか?」
「第五一階層には俺の"ハウス"がある」
「えっと……"ハウス"って確か家だよね?」
「すっごく高いって聞きましたよぉ!」
「それで、家に帰るとどうなるの?」
「IGOの"ハウス"はアカウント共有の資産だ」
「えっと……つまり……リクさんもその"ハウス"は使えるってことですかぁ?」
「そうだ。ハウスの機能の一つ――"倉庫"も使えると言うことだ」
第五一階層に戻ればソラが集めた装備品を使える。倉庫にある装備品を使えば、かなりの戦力アップが見込めた。
「えっと、つまり……リクのメインキャラクターが集めた装備品を使えるってこと?」
「そうなるな。メイが使えそうな鎖鎌もヒナタが使えそうなヒーラー装備もあるな」
「え? くれるの?」
「無事にハウスまで辿り着けたらな」
現金なメイは俺の言葉に目を輝かせる。
「あのぉ……リクさんはさっきの偽物みたいにメインキャラクターからアイテムは引き継がなかったのですか?」
「このキャラクター――リクを作成したのは、気分転換で遊ぶ為だった。最初から強い装備を持って遊んでいても楽しくないだろ?」
「確かに楽しくはないかもね」
ゲーマーであるメイも俺の意見に賛同してくれる。
「なるほど。そういうものなのですね」
「まぁ、こんな状況になると知っていたら強い装備品を一式持ち込んでいたが……」
「こんな状況になると知っていたら、そもそもリクじゃなくて……メインキャラクターでログインしてたでしょ」
「そうだな」
メイの言葉に俺が苦笑すると、メイの隣にいるヒナタの顔がみるみると青ざめていた。
「あ……え……そ、そんな……」
「ん? ヒナタどうした?」
「リ、リクさんは……本当はメインキャラクターでこの世界にいるはずだった……」
「過ぎたことだ」
「そ、それを……わ、私が……無理やり誘ったから……リクさんで……レベルも低い風属性のキャラクターで閉じ込められてしまった……」
ヒナタはどうやら俺の身に起きた事故を自分の責任であると強く感じてしまったようだ。
「過ぎたことだ気にするな。悪いのはヒナタじゃない……強いて言うなら、山田太郎だな」
「で、でも! 正直にお答え下さい! 私がイベントをご一緒しようと誘わなかったら……リクさんはメインキャラクターでイベントに参加するつもりだった! 違いますか!」
感情的に叫ぶヒナタの声が閑散とした喫茶店の中に響き渡る。
「確かに俺はメインキャラクターでイベントに参加するつもりだった。しかし、今それを言ってどうなる?」
「で、でも……」
「今はたらればの話をしていても仕方がない。今一つ確実に言えることは、俺は第五一階層を目指すと言うことだ。二人はどうする?」
答えの出ない感情論をこれ以上交わしても時間の無駄だ。
「私は――」
「一つ言い忘れたが、罪悪感から俺に付いてくると言うなら、辞退してくれ」
罪悪感に縛られた者と共に行動していても、精神衛生上よろしくない。
「え、わ、私は……」
「うちはリクと一緒に上を目指すよ!」
言い淀むヒナタの言葉を遮り、メイが己の意思を示す。
「本当にいいのか? 最悪の可能性も否定出来ないぞ?」
最悪の可能性――それは死。
「いいよ! このまま閉じ込められた世界で死んだように生きるのは嫌だよ。それに、あの偽物とつるむのはもっと嫌だからね」
「わ、私も付いて行きます! 罪悪感からとかじゃなくて……えーっと……メイの姉として! 私も付いて行きます!」
ヒナタも取ってつけたような強引な理由と共に、自分の意思を告げた。
「本当にいいんだな?」
「うん!」
「はい!」
二人は強い意志を瞳に宿して首肯する。
「二人の意思はわかったよ。それじゃ、改めてよろしくな」
俺の差し出した手をヒナタとメイは固く掴むのであった。
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