方針①
スクリーンが消失した後、残されたプレイヤーたちは現状を理解出来ずに狼狽していました。
「『一番最初に『一』の付く階層を踏破したプレイヤー』ってことは……【天下布武】か!」
「第七一階層に到達しているのは【天下布武】だけだ!」
「おいおい……これって大掛かりな【天下布武】のプロモーションじゃねーよな?」
「いやいや、ありえねーよ! ログアウト不可になるプロモーションって炎上しかしねーだろ!」
これは不味いですね。
一人のプレイヤーの全く的を得ない発言を皮切りに、周囲のプレイヤーが騒ぎ始めます。
「マイ、どうすんだ?」
「とりあえず、旅団ホームに戻りましょうか」
私たちは周囲のプレイヤーから向けられる視線から避けるように旅団ホームへと戻るのでした。
◆
「もー! なんでこんな事態のときにソラさんがいないのよー」
旅団ホームの執務室に戻ると、誰もが抱えていたであろう愚痴をミントが溢します。
改めてフレンドリストと旅団リストの両方を確認しましたが、ソラさんは『ログアウト』状態のままでした。
「んで、どうすんだ?」
「公開会議を始めたいと思います。いかがでしょうか?」
「公開会議かぁ……。まぁ、こんな事態だ、それしかねーな」
この場にいる幹部メンバーたちが、私の提案に首肯します。
公開会議とは、【天下布武】に所属する全プレイヤーを集め、全員が拝聴、及び質疑応答ができる形式で行われる会議です。
私は旅団メンバー全員にメッセージを送付します。
さすがはプロゲーマー集団【天下布武】。ログアウト状態のメンバーは一人だけです。
ハァ……。なんでその一人が団長のソラさんなのでしょうか……。
こういう緊急事態にこそ……必要な人なのに……。
予測不能の事態だったとは言え、この場にいないソラさんを呪いたくなります。
私は憂鬱な気持ちを抱えたまま、公開会議の準備をするのでした。
30分後。
公開会議を行う場所――訓練所に全旅団メンバーが集結しました。
普段ならもう少し集まりが悪かったり、適当な理由を付けて欠席する人も多いのですが、さすがに今回は違いました。
「これより公開会議を始めます!」
訓練所の中央に設置された円卓に座ったまま、私は会議の始まりを告げますが、
「会議を始める前に一ついいかい?」
会議を始める間もなく一人の旅団メンバーが声をあげます。
「はい。何でしょうか?」
「団長――ソラさんは?」
「ソラさんは皆さんもご存知の通りログアウト状態です」
「ってことは、前に言ってたアレか?」
「はい。恐らく……いえ、確実にセカンドキャラでログインしている状態です」
セカンドキャラでイベントに参加――本日ログインすることは事前に聞いていました。
「えっと……その……なんだ……ここには戻れないのか?」
「『ログアウト』できない以上、ソラさんは……【天下布武】団長のソラとしてログインすることはできないでしょう」
セカンドキャラからファーストキャラに戻るには、一度ログアウトしてログインし直す必要がありました。
「そうか……すまん……一応、確認したかっただけだ……」
発言した旅団メンバーは気落ちした様子でその場に座り込みました。
「改めて、これより会議を始めます。本日お集まり頂いたのは、今後の行動方針をみんなで話し合い、決めるためです」
「方針……? 今更何の方針だ?」
「第七一階層を踏破するか……否か、の方針です」
「は? んなの話し合う必要もねーだろ? 踏破だろ!」
「Foooo! サブリーダーは新雪を踏みしめるが如く新境地を冒険する快感を忘れたのかい?」
「お! マックス、たまには良い事言うじゃねーか!」
私の出した議案にツルギさんが猛烈に食いかかってきます。
「マイさんは、こんな状況だから……危険を冒すのは良くないって言いたいのかなぁ?」
「『ログアウト』不可能? 上等じゃねーか! こちとら、元々寝食以外はずーっとログイン状態だ!」
「んー、でもこの状態ってありふれたラノベやアニメじゃないけど……この世界で死んだら……どうなるんだろ?」
誰もが疑問に感じ、想像していたことをミントさんが口に出します。
「すぐには死なないんじゃないかなぁ……。IGOにはスリーアウトルールがあるからぁ。山田さんも仕様は一緒って言っていたから、スリーアウトルールは残ってると思うんだよねぇ。でも、3回死んで
ミントさんの言葉をメグさんが推測を交えながら答えます。
「この状態で
「んや奴は、この場にはいねーよ! そーだろ? みんな!」
私の言葉を受けて、ツルギさんが周囲にいる旅団メンバーに確認するように訴えかけます。
「第七一階層へ向かうと言うことは、未知なる階層へ挑むということです。敵の種類も強さも分かりません。当然、死ぬ危険性は大いにあります」
「んなのは、百も承知だ! 一回の死を恐れてたら何もできねーよ!」
「わかりました。それでは、話を続けます。第七一階層の攻略を開始するとなれば、もう一つ大きな問題が発生します。この問題を解決するには、私やツルギさんだけでなく、ここにいる皆さんの助けが必要になります」
「もう一つの問題?」
私の投げかけた言葉にツルギさんは首を傾げるのでした。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
いつもお読みいただきありがとうございます。
天下布武編は序盤は行動原理になるので、丁寧に書いて……あとはショートカットして本編に戻る予定となります。
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