顔合わせ~001
昨晩は麻美と盛り上がり、家に帰ったのは11時過ぎだった。
女子の部屋に長い事お邪魔するのもなんだと思ったが、俺の繰り返しの事を執拗に訊ねて来るので、その時間になった訳だ。
と言っても全て話し尽くした訳じゃないが。なんてったって累計100年だぞ?終わる訳ないだろ。
もっと話せとせがむ麻美を何とか宥めて漸く帰ったのがその時間。なんとか今日中に解放されたって感じだ。
朝の日課に支障が無い事も良かった。戻ってきた途端にサボったとか有り得ないし。
そんな訳で、体調は問題無し状態での通学なのだ。
繰り返しの時は何かしらが起こったから、体調を気にする余裕も無かったけど。
クラス到着時、視線を感じる。昨日の土下座告白のインパクトが衰えていない証拠だ。
「おはよう緒方君。早いね?」
「おはよう国枝君。俺は早朝練習しているから早起きなんだ。そう言う国枝君の方が早いよ」
国枝君は一瞬躊躇したが、耳打ちで早く登校してきた理由を教えてくれた。
「昨日の話で気になっちゃって…B組の春日さん…」
ああ、そうか。逸っちゃってBクラスを見に行ったのか。
春日さんも早い登校だったから、多分見れた筈だけど。
「で、どうだった?」
「いや…ずっと俯いていて、顔見られなかったよ…」
落胆している国枝君。春日さんはそう言うキャラだって昨日教えた筈なんだけどなぁ…
「だけど本当に可愛いよ。顔も心もさ」
「緒方君が言ったのだから、勿論信じているよ」
そう言って貰えると嬉しいな。最後の繰り返しの時も俺を信じてくれたり庇ってくれたりしてくれたし。本当に感謝だ。
国枝君と話している最中、肩を叩かれて振り向く。
「おはようダーリン。今日もカッコイイね」
朝から褒め殺しの彼女さんだった。今日もって、昨日からの付き合いだろ。
なので俺も褒め返す。
「おはよう俺の愛しのハニー。毎日可愛過ぎて辛い」
「昨日知り合ったばかりだよね!?」
お前から振ってきたんだろーが?乗った俺に無粋な突っ込みすんな。顔真っ赤だし。
遥香はまあまあ、と言いながら席に着く。まあまあはこっちの台詞のような気もするが。
「教室に来る途中BとCを覗いてきたけどさ、春日さん、すんごく可愛い子だね!!あれは素顔晒せないわ。ちょっとしたパニックになっちゃうわ」
「え?見れたの?」
俺の疑問に国枝君も乗っかる。
「僕が覗いた時は、終始俯いていて、顔なんか見られなかったけど…」
「見れたよ。いつまでも俯きっぱなしって事は無いでしょ?」
そりゃそうだが…それよりもっと凄い事を言ったような…
「素顔晒せないって…よく解ったな?」
素顔春日は超可愛い。しかし、素顔を拝むには二重の難関がある。前髪と瓶底メガネに覆われている素顔をよく見切れたな?
「メガネ掛けているって言っても、横からなら一瞬だけど見えるじゃない?」
おお…すげえな…この観察力で、数多の駆け引きを優位にしてきたんだろうな~。
「まあ、そっちも大事だけどCもね。あの子自分を可愛く魅せようってだけに力注いでいる感じだね。制服も際どく改造しているけど、見えそうで見えないギリギリのラインを保っている。異性に『意識させている』」
「まあ…今の楠木さんは全部演技だろうからな…」
昨日大まかに話した事だが、遥香の見解は実にその通りだった。改心(?)した後もパンツ見せ捲っていたし。
「まだ薬に手を付けているのかどうかは解らないけど、見た目、仕草だけでも解るよ。あれはモテるね。隆君、告られた時、よく断れたね?」
「だから演技だ嘘だって知っていたからだろ…」
知っていなかった繰り返し時は殆ど付き合っていたんだし。まんまと騙されたって感じだ。
「すごいね槙原さん…ちょっと見ただけでそこまで分析できるんだ…」
国枝君が青い顔で唾を飲みながら言う。同感だった。果てしなく。
「昨日ダーリンからちょっと聞いたからね。じゃないと、やっぱり騙されていたよ、多分。春日さんの素顔を見ようとも思わないだろうし、楠木さんと話ししようとも思わないよ」
それ程楠木さんの裏の顔は見切るのが難しいと言う事だ。それ程春日さんの素顔に興味が向かない程存在感が無いと言う事。
「国枝君の出番はもうちょい後ね。先ずは私とくろっきーで頑なな心を解き解すから」
そう言ってニコッと笑う。かわええなあ…
「いい所取りみたいで申し訳ないな…」
「いいのいいの。全てはダーリンとの明るい未来の為。自分の為だから気にしないで」
そう言い切っちゃう所もすげえよな。俺と遥香って釣り合っているのか?俺には勿体ないよなあ…
「それで、昨日早く帰ったのは、実は西高の様子を探る為」
知っていると頷く。
「あはは~。流石ダーリン。解っているねえ」
頭なでなで。意外といいかもしれないが、此処は教室。ハズいからやめてほしい。
「西高の様子を探るって…昨日は西高も入学式の筈じゃないか?」
国枝君に疑問は尤もだが、探りに行く理由があるんだろう。例えば木村の事だ。
「…で?どうだった?」
遥香は感心したように頷く。
「凄いね、私の目的が解るんだ。やっぱ愛し合っている者同士の間には…」
「そりゃそうだ。俺はお前の事は何でも知っている。身体のどこにホクロがあるのかも」
瞬間、国枝君が気まずそうに俯いた。いやいや、冗談だからな?付き合った時ですらキスどまりだったんだから。それも遥香からしてきたんだし。
「あはは~。そのお楽しみも早いとこしてみたいけど…じゃあ報告ね。木村君、西高の一年を掌握しちゃったよ」
国枝君が目を剥いて驚いた。あそこは馬鹿で、荒くれ者の無法者が集まる学校。入学してくる連中も然り。
そいつ等を入学初日でぶっ倒したと言うのだ。昨日俺が言った意味も解っただろう。それ程の奴だと。
「…国枝君の反応は予想通りだったけど、隆君は違うんだね」
「木村ならそれくらいはやる。俺やヒロもやれるんだから当然だ」
またまた目を剥いた国枝君。これは冗談じゃない。多分俺の方がもっと酷い目に遭わせるだろうけど。
「凄い自信だね。いや、経験則からかな?何度も繰り返してきたから解っている事だと」
「そう言う事だ。数は確かに多過ぎるが、まともに喧嘩になる奴は一握り。一年じゃ福岡って奴かな?」
ナンバー2の福岡。前回俺の利き腕をオシャカにした奴だ。今回もあいつとの喧嘩はあるのだろうか?
「その福岡君?が最後まで抵抗していたみたいよ。でも結局全く歯が立たなくて。最後には自分から下に付かせてくれって頼んだって」
自分から?木村に何か感じる所があったんだろうな。だからあれ程の奴が、自分の意志で下に付いたんだろう。
「多分今日は二年生を倒しに行くと思うよ?どうする?」
どうするもこうするもないな。
「放置する」
「それしかないよね。隆君が加勢に行く理由も無いし」
あいつに加勢なんか必要ない。俺が木村と初対面する時は、あいつが西高トップに立っている時以外にない。
その時もそんなに遠くない。直ぐだろう。本当に数日中に。
「あとは?お前の事だから、別の事も調べたんだろ?」
またまた目を剥いた国枝君。学校から帰ってから数時間の間に、どれだけ行動したのかと慄いている。
「いや、ホント流石だよ。私の事、そこまで見切っているなんて」
感心を通り越し、今度こそ驚いた遥香。だから知っているからだってば。お前がたった一つの情報で満足する筈が無いって事をさ。
昨日、俺が言った事、全て調べたとは流石に思わないが、2、3は調べただろう。流石に調べ上げたまでは行かないだろうけど。
「じゃあ言うね。隣町の事だけどさ。昨日の話に出ていたじゃん?楠木さんが、隣町の武蔵野さんから、薬を仕入れている話」
「うん。だけど今回武蔵野は荒磯に行ったらしいから、多分薬とはノータッチじゃねーかな?」
「そう。だけど隆君の世界でも、武蔵野さんの上の人はいた筈だからね。今回はその上の人を調べた訳」
そりゃそうだな。武蔵野も誰かから薬を仕入れていたと考えるのが妥当だな。あの糞デブが一人でそんな物騒なモン捌ける筈が無いし。
「隣町でそれらしい人、ちょっと調べたんだけど、流石にそれは見付けられなくて」
シュンと項垂れる遥香だが、あの短時間で見付けられる方がおかしいだろ。ああ言う人種は、臆病な程慎重なものだし。
「でも、武蔵野さんの代わりらしい人は数人調べられたよ。名前だけだけどね」
武蔵野も一人で捌いていた訳じゃねーだろうからな。
「つか、今名前知ってもどうにもならないんじゃ?楠木さんが誰から薬仕入れるかで決まる訳だし」
「そうだね。でも一人、面白い人がいてさ」
思わせぶりな笑みを浮かべる遥香であった。そんな事されちゃ、身を乗り出すしかないだろ。
「誰だ?そいつは?」
「的場さんだっけ?彼と同じ学校の三年生。的場さんは薬否定なんでしょ?凄い度胸だよね~」
的場と同じ学校の奴か?そりゃ確かにすげえ度胸だな。
「的場さんはチーム?持っていないんだよね?集まってくる人達が、勝手にリーダーに祭り上げているだけで」
「木村からそう聞いたけど。でも、一応仲間だとは思っているだろ。武蔵野の時もそうだったし」
「その集まって来る人の一人でもある。チーム名『夜舎王』のヘッド。そして黒潮高校現トップ」
……ドヤ顔でそう言われてもな…向かってくるなら、肩書がどんな奴だろうが、ぶち砕くだけだしな…
俺的には全く問題無いんだけど…
「オース。相変わらずはええな」
漸く登校してきたヒロ。結構ギリギリの時間だった。
「おはよう大沢君」
「オス、槙原。朝からラヴラヴで羨ましいぜ」
そう言いながらも微かに笑っている。なんでだ?
「おはよう大沢君。なんか機嫌良いように見えるけど、気のせいかな?」
国枝君の言うとおり、何つーか、微妙に上機嫌のような。
「いや、いやいや。ほら、昨日俺に南女の子紹介してくれるって言っていただろ?もう今からウキウキでさぁ」
俺と遥香は顔を見せ合う。瞬間、遥香は首を微かに横に振った。まだ話していない、と言う事だ。
「まだ話してないだろ?昨日の今日だぞ?」
「期待するくらいいいじゃねえかよ?」
…いや、いいんだけどさ。気が早すぎるっつーか…
「いや~。マジで楽しみだな!南女の波崎さん!!」
椅子に体重を預けて天井を見る。マジウキウキしている。
「…遥香…」
「…うん。今日話してみるよ…」
こんなウキウキ状態のヒロを放ってはおけない!!時間が経つにつれて、ウザく催促してくるだろうから!!
さて昼飯だ昼飯だ。入学してから初めて食べる昼飯だ。
「ヒロ、国枝君、一緒に食おうぜ」
「おう。あ、ちょっと待て、お茶買って来なきゃ」
お茶か…俺も欲しいな…じゃあ、と机に100円を転がす。ヒロと国枝君は「?」な表情だ。
「じゃんけんで負けた奴がパシリだ」
「隆の癖に良い事言うじゃねえかよ。乗った!!」
いや、これは前回里中さんがやったのをパクっただけだけどな。
「僕も飲み物が欲しいと思っていたんだ。乗るよ」
そう言って100円玉を転がす。こういうのはノリだからな。
最初はグー、と皆の目が厳しくなる。結構マジになっているな。国枝君ですらも。
「じゃんけんぽん!」
俺はチョキ、ヒロはパー、国枝君、パー、やった!!一抜けした!!
「俺はブラックのコーヒーな!」
ちゃんと言っておかないと、お汁粉になっちゃうからな。前回で体験済みだ。パシリの方で。
ヒロの目が据わった。こんなくだらん事でも、本気で頑張るのがヒロのいい所だと思う。
「じゃんけんぽん!!」
わざわざ振り被って出したグーは、国枝君のチョキを粉砕する。
「よっしゃあああああああああああ!!!」
ガッツポーズを取って絶叫するヒロ。周りから何事か?と見られる。こいつマジ迷惑だな。俺も好奇の目で見られているじゃねーか。昨日からだったか、好奇な目で見られているのは。
「負けちゃった。じゃあ行ってくるよ」
笑いながらパシリに出る国枝君。つか、ヒロ、何にするか言っていないな。お汁粉買って来ればすげえウケるのに。
「ヒロ、勝ったのはいいが、何にするか言っているのか?」
「…そう言えば…」
「追いかけて指定しなけりゃいけないんじゃないか?」
「いや、別に何でもいいからな。飲めればいいから」
「お汁粉買ってきたらどうするんだ?」
「…まさか…?」
「だってお前指定してないんだもん。お汁粉でもいいかと思われても仕方がな」
俺の言葉を最後まで聞かずにダッシュするヒロ。
俺じゃないんだから無難にコーヒーとか買ってくると思うけど、ヒロが無傷なのはなんとなく面白くないからな。自分で買ってくるのと同じ距離を走って貰おうか。
…
……
………
遅い…!!あれから20分経ったぞ。自販機までなら往復10分ちょいだろうに。
指定しに行ったヒロも帰って来ねーし、まさか外に買いに出てないよな?
いや、ヒロなら兎も角、国枝君がそんな非常識な事する筈が無い。なら普通に混んでいるからと考える方が無難だな。
もうちょっと待ってみるか。それでも来ないなら迎えに…
「ごめん緒方君。お待たせ」
考えている最中、国枝君がヒロと共に戻ってきた。
しかし、ちょっと疲れているような?
ヒロが結局自分で買いに行ったに等しい、コーラのプルトップを開けながら、椅子に座って口を開く。
「購買にさ、槙原と黒木が居たんだよ」
遥香達が?今日はパンなのか。
「そんで。槙原と黒木の間に、小っちゃい女子が俯きながら突っ立ってたんだ」
小っちゃい女子?それって…
国枝君に振り向くと、苦笑して答えた。
「春日さんだよ」
やっぱりか。つか、早速行動してんだな。休み時間二人でどこかに行っていたからな…多分Bクラスに突撃していたんだろう。
「んでよ、その春日の昼飯がパンでよ、槙原と黒木が購買に付き合った訳だよ。一緒に昼飯食う約束したとか何とかで」
その昼飯の為のお茶を買いに行った筈なのに、コーラ買っているよな、お前。
まあ別にいいけど。コーラで飯食えばいいんだし。
「訳は解った。つまり購買の人だかりに躊躇していた所を、お前と国枝君が通ったんだな?パン買ってくれって頼まれたんだな?」
頷く国枝君。
「槙原さんに言われてね。「カスタード&生クリームDX買ってきて」って」
春日さん攻略の一環で、好印象を与えようと言う訳だな。ちょっと疲れている理由も解った。
あの腹ペコ男子の中をかき分けて、人気パンをゲットするのは結構な重労働だ。
「春日さん喜んでいただろ?」
「うん。相変わらず前髪と眼鏡で顔はよく解らなかったけど…緒方君の言った通り、可愛い人だったよ」
空を見てほわ~っとする国枝君。メガネ春日さんも小動物チックで可愛いのだ。
「で?お前はその間何してたんだ?」
「飲み物持って待ってた」
ガクッとした。お前もパン買うの手伝ってやれよ…
まあ、遥香が止めたんだろうけど。国枝君に好感度ゲットさせる為に。
そして国枝君からコーヒーを受け取り、漸く昼飯にあり付く。
俺は食後のコーヒー的な意味合いがあってコーヒーを頼んだんだが…ヒロは…
「あ!コーラ買っちまった!」
思い出したようで後悔する。こいつのアホっぷりには心が癒されるな。
「コーラで飯食えばいいだろ」
「それしかないけどな…しかも半分飲んじゃったし…」
そういや教室に戻ったと同時にプルトップ開けていたっけな、こいつ。
「緒方君はコーヒーでご飯食べるのかい?」
「いや、食後に飲もうかな、と」
「そうだよね。僕もそのつもりでコーヒーにしたんだ」
国枝君もコーヒーか。いや、ご飯のお供に飲めるけどな、俺は。
そんなこんなで仲良く昼飯を食った。ヒロは後悔しまくりだったが、次に繋げればいいだけだ。
俺は次はなかったんだし、結構羨ましいぞ?嘘だけど。
放課後、帰り仕度している俺に話掛けて来る遥香。
「あ、ダーリン、一緒に帰ろう」
にゅるんとナチュラルに腕を絡めてくる。おっぱい毎日堪能している状態だ。言ってもまだ二日目だけど。
「いいけど春日さんは?」
「お?やっぱ解っちゃう?春日さんと仲良くなろう作戦中だって事」
「解るも何も、休み時間、黒木さんと一緒にBに行っていただろ。昼休みなんか国枝君にパン買わせていたし」
丸解りだろ。これで気付かないのなら、病気を疑うレベルだ。
「あはは~。だよね。でもいきなり仲良くはなれないよ。隆君の時もそうだったでしょ?」
…いや?意外と簡単に友達になれたような?春日さんは人を避けてはいるけど、孤独は嫌だって言う矛盾抱えているから。
だから今日一日で結構仲良くなれた筈だけどなあ…
女子と男子は違うのか?よく解らんが、遥香に任せた(勝手に任されたのだが)から下手に手出しはしないけど。
「あれ?じゃあ黒木さんは?一緒に居たんだろ?」
休み時間と昼休み、共に行動していたんだ。帰りも一緒だと勝手に思っていたけれど…
「くろっきーは部活に入ったからね。早速今日からだって」
黒木さんの部活と言うと…
「ラクロス同好会か?」
「そう!!やっぱり解っちゃうんだね。何度も人生やり直してないね」
実際何度も高校生をやり直しているからその通りなんだが、知ったのは最後の繰り返しの時だったんだが。
まあいいや、と周りを見る。
「どうしたのダーリン?」
「ナチュラルにダーリンと呼んでくれるのは有り難いが、ハズいんだが」
「有り難いならいいじゃない?で、どうしたの?」
…有り難いならいいの…か?いいんだろう、多分。俺は兎も角遥香の方が。
「いや、ヒロと国枝君の姿が見えないな、と思って」
帰るんだから一緒に、と思ったが、遥香がほら、この調子だから。
「気を利かせて先に帰ったよ」
…国枝君は兎も角、ヒロが気を利かせた?
物凄い違和感だが、繰り返し最中も、特に一緒に帰っていた訳じゃないしな。
因みに、と聞いてみる。
「お前の事だから知っている筈だから聞くが、国枝君の誕生日っていつだ?」
「国枝君の誕生日は4月だよ。因みに私は11月です!!」
お前の誕生日は知ってい…たっけ?いや、今知ったな、11月か。だけど国枝君が急いで帰宅した理由は解ったぞ。
多分教習所に行ったんだ。バイクの免許を取る為に。いや、もしかしたら学校側に許可の申請を出しに行ったのかもしれない。兎も角バイクの免許関係だろう。
「よし解った。帰ろう」
「因みに隆君は8月だよね?」
…いつの間に俺の誕生日を調べたんだ?まあ、遥香ならなあ…うん。
「大沢君は12月、くろっきーは9月、そして春日ちゃんが12月で楠木さんが6月。因みに因みに、日向さんが3月ね」
「麻美までかよ!!そんなに調べてどーすんの!?」
びっくり過ぎる程びっくりだった。麻美は関係ないだろうに?
「あはは~。うん。以前もやり過ぎで引かれたんだよね?うん。反省。自重する」
言いながらもニコニコだった。自重は本当だろうが、反省はしてねーな。別にいいけど。
「おう、そうしろ。調べられて面白い訳が無いし。俺の事はいいけども」
一応釘を刺しとくか。取り返しのつかない事になって欲しくないし。
「隆君の事はいいんだ?」
「いいよ。調べなくても聞けば教えるし。遠慮すんな」
そう言うと破顔する。そうしていつも笑っていればいいんだよ。
帰り道、腕に絡み付く力が微妙に強い事に気が付く。
どうした?と、問おうとする前に、遥香の方から話題が。
「春日さんってさ、素顔、すんごい可愛いんでしょ?」
「うん?お前も横からちょっと見たって言っていただろ?」
なんだ?この確認のような会話は?
ふむふむ頷いているし、何か考えているのは解るけど。
「私も眼鏡と太い三つ編みでそれとなく素顔を隠している。と言うか、目立たないようにしているんだけど、あそこまでのスキルは持てなかったなぁ」
「何を言っているんだ?」
「ほら、胸がこうだから痴漢に遭いやすいって。だから目立たないようにしようと思った事もあっての三つ編みなんだよね」
ああ、春日さんの存在感も消す程のスキルの事か。アレは事情が事情だからだろう。
「目立たないようにと言えば、私って制服もそんなに着崩していないのよね。精々ブラウスのボタンを一つ開けて、スカート短くする程度」
そう言われれば…そうなのか?他の生徒とあまり変わらないような気がするが。女子の意見からすればそうなんだろう。多分。
「楠木さんはすんごい改造しているよね?男子の目を引くように。可愛く魅せるように」
すんごいって程なのか?確かにスカートは短すぎると思うけど。
「いや、だからどうした?」
春日さんの素顔が可愛いから、楠木さんの制服改造が際どいから、それがなんだと言うのだ?
「解んないか。解んないよね。それが隆君なんだもんねー」
そう言って腕に絡めてくる力を強める。おっぱいなんか押し付けているって言った方がいいかもしれない。
「歩きにくいんだけど…」
「あ、じゃあちょっと休憩する?丁度いい事に、昨日行った喫茶店のコーヒー無料チケ持っているんだよねー」
「いくら親父さんの知り合いの店だからって、無料チケだけで入店する訳にはいかないだろ。何か頼まなきゃ。だから今日は駄目だ。お金あんま持ってないから」
言ったと同時につんのめった。遥香が止まったから急ブレーキが掛かった状態になったのだ。
「なんでいきなり止まる!?」
「……いや…あの喫茶店のマスターとお父さんの関係知っていたのが驚きで…」
だから、昨日話したじゃねーか。繰り返して出戻って来たって。
そんな情報なんか今更だろーが。
まあいいや、と溜息を付き、聞いてみた。
「もう少し話する?」
茫然としながらも頷く遥香。
「んじゃ、俺ん家来るか?」
「…え?隆君の家?」
ぐいぐい接近して来るが、そんなにおかしいのか?
「お、俺ん家ならお茶代掛からないし…経済的だから誘ったんだが…つか、お前って、以前はいきなり俺ん家に来て、朝飯食っていたりしていたんだが…」
「私にそんな積極性が!?」
大仰に仰け反る遥香だが、最初はマジに驚いたんだが。自分でそんなキャラじゃないと思っていたのだろうか?
「じゃあ先にシャワー浴びてもいいの?」
「なんでシャワー浴びるんだ…話するだけだろ…」
「男子が女子を部屋に誘うって事はそう言う事じゃないの!?」
「ぶっ飛び過ぎだろ!!確かに興味はあるけども!!つい本音出ちゃったよ!!」
隠し事には向いていない男、緒方隆であった。
そりゃ俺は健全な高校生。興味はバリバリあるに決まっている。
「あ、でも…今日は用事があるから無理…」
一気にしおらしくなる。用事があるのなら仕方がない。
「その用事って、波崎さんにヒロの事を言うヤツ?」
「え?あ、うんうん。そうそう。大沢君を焦らしてもしょうがないし」
…なんか取ってつけたような?考え過ぎか?
「そうか。まあ、いつでもいいよ。親とかにも紹介しいたいし」
「麻美さんにも?」
またぐいぐい接近して来る。なんだ?この食い付きの良さは?
「お、おう。麻美も楽しみにしてるって言っていたからな…」
「そっか…うん。解ったよ。じゃあ近いうちにね」
そう言って絡めていた腕を解く。もう駅に曲がる十字路に着いたのか。
「おう。じゃあ明日な」
「うん。明日楽しみにしてて!」
また破顔して手を振る遥香。俺も振りかえすが、楽しみって何だ?ヒロが楽しみなら解るが。
ヒロとは親友だから、俺も喜ぶと思っているのか?美しき心を持つ男、緒方と美しい誤解をさせてしまったようで、少し心苦しいが。
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