北商~007

 昼休み。遥香に引っ張られて図書室に向かう俺。そして後を追う国枝君とヒロ。そして黒木さんと横井さん。

「先に行っててくれるかい?僕は春日さんのパンを買ってから向うから」

「国枝君も相変わらず仲が良い事で羨ましいわ」

「いや、君も河内君と……いや、何でもないよ」

 おっかない顔で睨まれたのだろう。国枝君は最後まで言わずに購買に突撃した。

「隆!!茶買うからちょっと待て!!」

「遥香に言ってくれ!!」

 俺は引っ張られているんだってば。俺の自由な行動時間は無いんだよ!!

「大沢君、私烏龍茶!!」

 100円玉をヒロに投げ渡して後に続く黒木さん。そんなに焦らなくても図書室で飯食おうとする奴はいないだろうに。席が無くなる心配はないだろうに。

 そして図書室。春日さんは既に来ていて席を確保していた。

「……こんにちは。早かったね?」

「早いって言うか、遥香に引っ張られて……つうか楠木さんに里中さんも来たのか……」

 楠木さんは既に弁当を広げていた。チャイムよりも早く授業が終わったのだろう。

「来るでしょ。昨日のアレ、送られて来たら」

 100くらいの藁人形か。あれを見たら話ししたいと思うよな。それ程インパクトデカいからな。

「お昼、たまにいなくなるなと思ったら、ここでそんな事を話していたのね……」

 楠木さんの隣に着席して感心したように言う。

「横井さんは初めてだよね。つか、千明って呼んでいい?私の事も美咲でいいから」

「え?ええ。いいわよ」

「あ、じゃあ私も。さとちゃんって呼んで。私はちあっきーって呼ぶから」

「それはちょっと……」

 里中さんの提案は却下された。ちあっきーは流石に無いだろ。俺も断るわ。

「……じゃあ私の事は?」

「え?じ、じゃあ……春日ちゃん?」

 コックリ頷く春日さんだった。春日ちゃん呼ばわりは満更でも無いようだ。

「じゃあ私は?」

「えっと……くろっきー?」

「えー!!いや、別にいいんだけどさー!!」

 黒木さん、散々遥香にそう呼ばれていただろ。しかも入学初日から。

「あ、じゃあ私の事は……」

「槙原以外にないわね」

「ま、まあ……中学の時からそうだからね。今更代えるのもなんだし……」

 お前波崎さんを苗字呼びしているじゃねーかよ。自分は駄目なのかよ。このフレンドリーの雰囲気に乗り遅れた顔すんじゃねーよ。

 此処で息も絶え絶えにヒロと国枝君が入って来た。

「ちょっと二人共、廊下は走らないで頂戴」

「硬い事言うなよ横井……」

「そ、そうだよね。うっかり……」

 ヒロは文句言いたげだったが国枝君はちゃんと謝罪した。つか横井さんって委員長キャラだな。中畑君と代わればいいのに。

「みんな揃ったね、じゃあ食べながら話そう」

 漸く弁当広げられるな……なんか長かった……

「あ、そうだ、ほら黒木」

「ちょっと、投げて渡さないでよ」

「ラクロス同好会だったら楽勝だろ」

「お?ちあっきーのそれ、生ハムサラダ?」

「ちあっきーを定着させるのはやめて。食べたいのなら里中さんの春巻きと交換よ」

「さとちゃんだってば!!」

「春日さん、これ」

「……毎日ありがとう国枝君」

「はは、いいんだよ。お弁当のお礼さ」

 うーむ、ワイワイガヤガヤで話するどころじゃねーな。つか国枝君って春日さんから弁当作って貰っていたのかよ。

 俺もたまに作って貰うが、毎日はねーな。国枝君はどうなんだろ?いつか聞いてみよう。

「じゃあ早速だけど、昨日北商裏手で見付けた藁人形の事だけど」

 切り出した遥香。全員一回聞いているからなのか、動揺が少なかった。証拠にモグモグしながら発しているし。

「中身は調べたんだよね?誰の名前だった?」

 訊ねたのは里中さん。レタスの生ハム巻き(横井さんとトレードした物)を食いながら。

「当然ながら麻美だった」

 被せて発したのは遥香。

「麻美さんが通報する事になったから。だけど証拠を押さえる為に、北商の倉敷さんが数日張る事になっているから、その後に通報する。そして、これはダーリンからの提案」

 目で促して。俺もゆでたまごを食いながら話す。

「俺も別口で通報する事にした」

 そして俺は俺のプランを語った。したらばほぼ全員が怪訝な表情。

「……緒方君のプランは解ったけれど、そう上手く行くものかしら?北商に緒方君が出入りすれば確かに目立つのでしょうけど、この寒い中、深夜に外からお部屋を観察する為だけに向かうかしら?」

 箸を止めてきりっとした眼差しで。いちいち真面目だな、横井さん。

「景子なら普通にやるよ。自分の好奇心を満たせればなんでもいい。中学の頃からそんな感じで、他人を振り回して来たけど、高校に入ってからそれが酷くなったから……」

「彼女は来るよ。それも一日二日中に。黒木さんが言うように、自分が興味を持ったなら居ても立っても居られない人だからね」

 黒木さんと国枝君と言う、同じ中学出身二人が断言した。しかも中学時代からの友達だ。信ぴょう性が段違いだろう。

「俺はいいと思うぜ、徒労に終わろうが、目論見通りに事が進もうが。隆のプランはもう一押しみたいなもんだろ。日向の通報で蹴りが着くとおもうしな」

 ヒロの言う通り。俺のプランは俺自身ムカついたから俺も何か攻撃したいって自己満足なだけだし。

「あ、緒方君、卵焼き食べる?前回の好物っしょ?」

「いきなり話を豪快にぶっ飛ばすなよ!!貰うけど!!」

 楠木さんの発言によって話の腰が折られた。だが、卵焼きは戴く!!

「はい、遥香も。緒方君に食べさせたいでしょ?食べて味覚えて」

「マジで!?ありがとー美咲ちゃん!!」

 お前も乗っかるなよ!!そして普通に貰うな!!

「美咲、流石に話ぶた切りはよくない「美緒も食べるでしょ?」戴きます!!」

 咎めようとしたが、卵焼きに誘惑にあっさり負けた里中さんだった。

 と言うか全員に配っていた。卵焼きだけ別容器に入れて持って来たのだ。

「昨日みんな集まるって聞いたからさ。じゃあって事でね」

 笑いながらそう言った。そして追記。

「大沢君の言う通り、麻美が通報してオシマイだって私も思う。既に勝ちが決まっている勝負。問題はその後の事じゃない?」

 その後?どう言う事?

 俺は解らず首を捻ったが、春日さんが解ったように発した。

「……川岸さんの報復?」

「うん。仕返しで麻美を直接狙うって事は考えられない?遥香を憂さ晴らしで狙うって事は考えられない?私は多分そうなると思うよ」

 被せたのは遥香。

「だけど、川岸さんは死ぬから……」

「死なないよ、多分」

 ざわついた場。少なくとも俺は、川岸さんは死ぬと思っている。それを死なないと断言する根拠を、楠木さんは持っているのだろうか?

「……何で言い切れる?」

 そこまできっぱり言い切ったんなら、何か根拠がある筈だ。

「川岸は霊感があり、多少のお祓いは出来る。でしょ?国枝君」

 振られて咄嗟ながらも頷いた。だけど国枝君も反論する。

「彼女は確かにお祓いも出来るけど、須藤さんを祓えるとは思えないよ。狭川君もお寺や神社に相談に行ったんだろ?それでも無理だったんだ。彼女程度じゃどうにもならないよ」

 俺もそう思う。川岸さんは言っちゃなんだが似非だ。偽物が本物の悪意に敵うはずがない。

「だけど、寄せ付けないようにはできるっしょ?結界?みたいなのはさ」

 どうだろ?お札とかである程度牽制できそうだから、可能性はありそうだけど。

 佐川達の場合は身内だから縁が深いから無理ってだけで、他の人だったらどうなるか、だ。

「まあ、それに、私も何も考え無しって訳じゃないから、そこは大丈夫。だから、問題はその後の方」

「……麻美さんと私を狙う?憂さ晴らしにしていい相手、間違えているよ、それ」

 邪に笑っての回答だった。いや、お前は酷い事すんなってば。折角地獄から出たんだ。拙いんだろ?

「まあ、遥香はね。麻美も実は心配していないけど。だけど、鬱陶しいよ、多分。学校首になって気を遣う所が無くなるんだもん」

「だから、今度は警察沙汰で少年院とかね」

 ああ、と納得して仰け反った。

「そっか、少年院に入っちゃえば鬱陶しい真似も出来ないか。それで行こう」

 その会話を聞いて、俺とヒロと国枝君が青ざめた。

 女子ってこええな、と呟いて。


 で、放課後、やっぱりヒロはバイトのダメージが濃くて来れないが、国枝君は来たので、共に北白浜駅に向かう。

「木村君も北白浜駅に来るのかい?」

「うん。そこで北商に乗り込む。だけど問題が一つある」

「その問題って?」

「川岸さんがとっとと帰っている可能性があるって事だ」

 そうなった場合、好奇心を煽れない。まだ川岸シンパは多少いるらしいから、その人達経由で連絡は行くだろうけど、その人達も帰っている可能性がある。

「雑木林に藁人形を打ち込みに行っているだろうから、君が来たと知ったら覗きに来ると思うよ?」

 俺もそう思うが、今日藁人形を放課後に打ちに行っているのかも解らないんだ。ぶっつけ本番だ。

「それに、流石に今日一日で蹴りが付くとは思っちゃいないんだろう?」

「そうだな。流石に二、三日、最長で一週間くらいだろとは思ってはいるけど」

 幸運にも今日出くわせば今日で蹴りが着くと思うけど。

「じゃあ気長……って訳じゃないけど、ゆっくり行こう。焦る必要は何もない。みんな言っていたけど、日向さんが通報して終わりなんだ。既に勝ちは決まっている」

 そうだな。俺のこれは私情。勝ちが決まっている勝負の、ほんのちょっとの後押しする程度。

 だから焦る必要はない。なんなら普通に倉敷さん達と遊べばいいくらいだ。


 北白浜駅に到着。だけど人はまばらだ。時間帯の関係だろう。

「よく考えたら、この駅で川岸さんとかち合う可能性もあるんだよな」

「そうだね。言われてみればそうだよ。これってちょっとポカだったね……」

 反省して項垂れる国枝君だった。俺が提案して付いて来た事に若干苦悩しているようだった。

 本来なら自分が止めなければならなかったのに、と。

 俺はあんま考え無いで動くから、それを窘めるのは自分の役目だと思ったのだろう。実際そうだけども。

「ま、まあまあ、木村はまだ来ていないのか?」

「う、うん。まだみたいだね。どうする?駅で待つかい?」

 やや遠慮がちに訊ねて来る。そりゃそうだ。ちょっと迂闊だったとさっき反省したんだから。

 駅で待っている間に川岸さんが来ないとも限らないんだし。

「しかし、駅から離れるってのもな……いつ木村が来るか解んないんだし……」

「そうなんだよね。ちょっと勇み足だったよね……」

 またまた反省した国枝君だった。俺の考え無し行動もちょっとは非難して欲しい。このままじゃ居た堪れない!!

「まあまあ、この近くにコンビニとか無かったっけ?そこで時間を潰して……」

「そのコンビニに川岸さんが立ち寄るとかは考えないのかい?」

 そうだったな。そうだそうだ。またうっかりミスする所だったぜ。

 じゃあやっぱ駅で待とうと言う事で、隅っこで小さく丸まって座った。二人で。

 なるべく気配を消して、背景と同化するイメージで。

 だから10分後に木村が到着した時は嬉しかったのなんの。

「待ったか緒方……国枝も一緒か……って、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

「なんでも無いから早く行こう!!」

 木村の腕を取ってグイグイと外に出す。国枝君も背中を押していた。

「焦り過ぎだろお前等!?なんだってんだ!?」

「いや、駅に川岸さんは来ちゃうかもしれないって事に気付いたから、早く退散したくて……」

 国枝君がそう言ったら、木村が目を剥いた。背景に落雷のエフェクト付きで。

「お前も今気付いただろ!?」

「お、おう……言われてみりゃそうだよな……ちょっと迂闊だった……お前が迂闊な真似をするのを咎めるのが役目なのに……」

「僕もまさにそれで落ち込んでいたんだよ……緒方君は仕方がないから、僕がしっかりしなきゃいけないのに……」

「お前等二人で俺をディスるな」

 木村は兎も角、国枝君にまでそう言われると、果てしなく傷つくんだからな!!

「い、いや、悪い意味じゃないんだよ。それが緒方君の持ち味なんだから、それでいいんだ」

「そうだぜ。その分俺達がしっかりすりゃいい話しだったんだからよ」

「やっぱディスってんだろ!!」

 ちくしょう!!それが持ち味って、やっぱ俺は考え無しだって事だろーが!!実際そうだからぐうの音も出ねーよ!!

「ま、まあいいや。迅速に、尚且つ誰にも見つからずに北商に入ろう」

「すげえ高難度のミッションだよな……やっぱお前の案は無茶だったか……」

「プランを聞いた時は結構いい作戦だと思ったんだけどね……」

「本当にふざけんなよお前等」

 それ以上言われると、俺のガラスのハートが木端微塵になっちゃう!!

 ともあれ北商に移動。迅速に、かつ目立たないようにとのミッションは不可能だった。

 そりゃ北商エリアに白浜と西高の制服を着た野郎が歩いているんだ。目立つ事この上ないのは当然だ。

「木村、お前が有名人だから目立ってしょうがない。今後活動を自重しろ。隠密行動に全く向かない顔だし」

「お前だろ、有名人は。狂犬緒方はツラも頭の悪さも目立ってんからな。白浜どころか近隣でも知らねえ奴は居ねえだろ。馬鹿だって事で」

「ふ、二人とも、そのくらいにして…言い合いながら進んだら余計に目立っちゃうよ」

 確かにだ。言い合いしながら進んだら、その分時間が掛かる訳だし。

「国枝の言う通りだな。仕方ねえ、緒方、決着は後回しだ」

「なんの決着だ。お前の顔が極悪人だって話の決着か?」

「お前の頭がとてつもなく悪いって話の決着だ」

「だから、今はそれどころじゃないでしょ!!早く行こう!!」

 国枝君に急かされて頷く俺達。確かに今はそんな場合ではない。

 どうにかこうにか北商校門前に到着。ここからは逆に目立たなければならない。川岸さんに耳に入るように。

 そうは言っても放課後な訳だから、既に帰った生徒も大勢いる。その中に川岸さんが居なけれないいんだが。

「あ、やっと来た!」

 俺達を発見した倉敷さん、鮎川さんが寄ってくる。下校最中の生徒が目を剥いて俺達を二度見しているのが解った。

「あ、あれって西高の学ランだよな?しかもあれって木村じゃないか…?」

「それもそうだけど、白浜の方は緒方だ……」

「やべえよ…木村と緒方が来たって事は、北商の誰かが何かしたのか?報復?」

 ひそひそ声でそんな話をされてもだ。全部聞こえているんだけど。

「ほら、やっぱお前の馬鹿さ加減が有名じゃねえかよ」

「お前耳付いてんのか?お前の顔がおっかないってみんな話しているだろうが」

「そんな事は誰も話していないんじゃないかな……何で北商に来たって疑問でしょ……」

 げんなりする国枝君だった。まあいいじゃねーか。西高生でもこんな冗談が言えるって証明したようなもんだから。

「ははは。まあね。二人とも有名人だしね」

「緒方君、結局あの時誰も紹介してくんなかったんだけどー、その辺どうすんの?」

 倉敷さんは普通に会話開始したけど、鮎川さんの方が苦情だった。

「ああ、あの時はそんな状況じゃ無かっただろ?おい木村、誰か紹介してやれ」

「ちょ!西高生は駄目だって言ったじゃん!」

「ああ、やっぱ西高の扱いはそんなもんか。北商にもウチの連中、出入りしているからな」

「あー…ゴメン」

「気にすんな。今までの行いがそうなんだし、今現在の行いもそうなんだからよ」

 和気藹々と雑談開始。国枝君、周囲に気を配りながらの相槌を打っている。

 此処で二人の共通の友達が登場。この人達は仕込みに入っていないから、単純に挨拶に来たんだろう。

「緒方君じゃん。久し振りー。白浜の文化祭以来だっけ?」

「木村君も来たんだー。黒木さんは?」

「国枝君だ!春日さんは一緒じゃないの?」

 きゃいきゃいと俺達を囲む。その様子を見た他の生徒が非常に驚いていた。

 国枝君は兎も角、俺も木村も悪評の塊のようなモン。更に言えば、西高は北商に迷惑を掛けに訪れている。

 その俺達と親しそうに話しているのを見たんだから、穏やかではいられないだろう。

 証拠に他の男子生徒が輪に入ろうと寄って来た。

「え?白浜の緒方と西高の木村?マジじゃん!なんでー?遊びに来たのかよ?」

 馴れ馴れしく寄って来た連中に木村の射殺す様な眼が炸裂!!

「あ?何だお前等?お前等の用事があって来た訳じゃねえよ。ダチに会いに来ただけだ。お前等なんかお呼びじゃねえんだよ。馴れ馴れしくすんな。殺すぞ?」

 寄って来た連中、超ビビって後退りした。しかし、気になる事は確かにある様で。

「だ、ダチって、北商にお前等のダチが……」

「お前等には関係ねえだろうが?馴れ馴れしく話し掛けんじゃねえってんだよ。殺しちまうか、緒方?」

 俺はこんなの嫌いだって承知だろうに、演技で此処までやってくれるとは。

 だけど活き活きしているのは気のせいだろうか?なんか嬉々としているようにも見えるけど?

「まあまあ木村君。なんで君と緒方君が北商に居るのか不思議なんだよ。北商エリアにはほとんど来ないからね」

 国枝君がフォローする。そしてそのまま続ける。

「僕達は友達に会いに来ただけだよ。倉敷さんと鮎川さん、その友達にね」

 真面目な国枝君は発したのだから安心したのだろう。なんか調子に乗って肩を怒らせた奴もいる。

「倉敷?鮎川?北商の女子に手ぇ出してんじゃねえようおっ!?」

 そいつの胸倉を掴んだのは俺だった。国枝君に上等ここうとした奴は殺してもいいだろ。

「まあ待て緒方。ダチの手前、ぶん殴るのはマズイ。例え倉敷の男が俺達の親友だとしても、他の女共はおっかねえだろうしな」

 此処で全員倉敷さんに注目した。鮎川さんは除く。

「え?倉敷の彼氏ってヤマ農の松田君でしょ?緒方君達と親友だったの?」

「まあね。アンタ達も知ってんでしょ。西白浜に来た隣町の高校とバトった話。ウチの彼氏、そこの一強を倒しちゃったからね。緒方君や木村君と親友なのも頷けるでしょ」

 俺は喧嘩強いからって友達になった訳じゃねーんだけど……

 フォローしたのは鮎川さん。

「別に緒方君は強いからって友達になろうとは思わないでしょ?国枝君のような真面目な人も親友なんだしさー。単に松田君がいい奴だったからでしょ」

「ああ、そうだったそうだった。なんかオタクとも友達なんだよね?」

「赤坂君にも会っただろ。打ち上げの時に」

「えー、あの人がオタク?まあ、見た目から言えばそうだねー」

 再びきゃいきゃいはしゃいじゃった倉敷さんの友達。馴れ馴れしく寄って来た男子生徒たちはその隙に退散した。ちょっとやり過ぎのような気もするが、倉敷さんの友達以外は関係ないので(西高の迷惑行為除外対象なので)、それは今更だった。

 その隙で倉敷さんにこそっと訊ねた。

「川岸さんは帰ったか?」

「まだ。掃除当番をサボって帰ろうとした所、担任に見つかってさ。罰として一人で掃除しろと」

 掃除くらいやれよな。ホント自分さえ良ければ何でもいい人だな。

「お昼休みに雑木林に向かったのも動画撮っといた。直ぐ帰って来たから打ち込みに行ったのかは定かじゃないけどね」

 そうか、と頷く。そして雑談に戻った。

 10分くらい経った頃、木村が突如、話をやめて校門を睨んだ。

 なんだ?と思って見てみると……

「……川岸さんだね。今こっちに来ようとしたけど、木村君が睨んだら下がったよ」

 国枝君が小声で説明。見てくれたか。良かったと安堵する。

 その木村が通る声で言った。

「北商によ、俺の親友と俺の女に上等こいた女がいるんだよな。いつか殺そうと思ってんだが、どいつか知ってっか?」

 木村と川岸さんは今回面識がないので、顔を知らない設定もアリだからそう言ったんだろう。

 その言葉に呼応する様に、女子達全員が川岸さんに視線を向けた。

 その視線から逃れる為に、ダッシュで校内に入った川岸さん。

「今のが川岸だよ。見た?」

 お友達の女子が軽蔑した視線を校舎に向けた儘、木村に言う。

「ああ、見た。あいつのせいで北商は除外しなかったんだから、全員責めてもいいとは思うがな」

「それってどういう意味?」

「お前等は倉敷のダチだから、ウチのもんが迷惑掛けたら躾けるが、他の連中は知らねえってこった。実際南女に顔出さなくなっただろ?アレは俺が躾けたからだ。緒方や大沢と揉めたくねえのは勿論、波崎や日向とも俺はダチなんだからよ」

「ああ、なんかそんな話聞いたことあるかも。倉敷のおかげで私達無事なんだよね」

 そこはかとなく木村と倉敷さんに感謝しているようだが、俺的には気に入らない事の一つなんだが。

 だけど、俺の目に入らなければなんでもいいと言った手前、苦言も呈さないけど。ホントは言いたいんだけども。

「だけど、男子もいたよ?緒方君の知り合いになった奴。そいつは?」

 鮎川さんの振りである。

「当たり前だがウチのもんにも言ってある。確かカフェで知り合った野郎だっけか?」

「そうそう。何なら今からそのカフェに行こうよ。ここじゃ話するのもなんだから」

 あそこ、結構高いから、あんま行きたくないんだけどな……

 しかし、木村と国枝君がいいと言ったので、しょうがなく俺も同意した。つか、俺の事情で頼んだ事だし、お礼で奢ろうかと思っていたくらいだからいいんだが、7人かよ……

 一応ビデオカメラ買った時に下ろしたお金がかなり残っているから良かったっちゃー良かったけど、空気読んで安いのにしてくれたらいいんだけど……


 カフェで全員に御馳走した。1万近く使ったぜ……たけーよフレッシュ。もう絶対オゴリはしない!!

「結構うまかったな、おかずパンケーキ。だけど高いな。しょっちゅう来れる店じゃねえ事は確かだ。」

「おう……」

「緒方のゴチじゃ無ければ、俺の財布じゃコーヒーだけが関の山だったぜ」

「そうか……」

 あんまり暗かったのだろう、背中をバンバン叩かれた。

「お前が奢るっつったんだろ。感謝の意味でよ。だったら後悔している顔すんな」

「いや、こんくらい掛かるだろうなと思っていたからいいんだが、改めてビビっただけだ」

「しかし、僕も良かったのかい?僕はいきなり来ただけなんだから……」

「国枝君に来て貰って助かったんだからいいんだよ。女子達も請求金額見てビビっていたけどもな」

 全員財布を出したが、止めた。俺が出すって言い張って。

 まあ、たかが軽食にこんなにお金使ったの初めてだが、いいだろ。

「で、今日来ると思うか?あの女」

 頷く。来る。確実に。覗きに来たのも一度や二度じゃ無かったし、あのカフェにもこそっと付いて来たくらいだし。中には入れなかったようだが。主に金銭的な理由だろう。

 早速ビデオカメラが役に立ちそうだ。

「悪そうな顔で笑ってんな。気持ちは解るけどよ」

 しまった、顔に出ちゃったか。

「緒方君は素直だからね。だけど、とどめを刺すのなら躊躇はいけないよ、君も優しい所があるから、そこがちょっと心配かな?」

 力強く頷く。これで蹴りだ。川岸さんの今後なんか慮るもんか。例え死のうが廃人になろうが関係ない。

 そして北白浜駅。電車時間も頃合いだ。と、スマホを見ながらそんな事を思っていたら、メールが入った。

「楠木さんからだ」

 To 楠木さん

 Sub 

 【あの女来た?】

 あの女とは川岸さんの事だろう。なので来たよと返信する。

 【今日緒方君の家に来ると思う?】

 来ると思うので、多分来ると返信。根拠も添付して。

 【そっか、了解】

「……なんだんだろうな?」

「楠木も気になるんだろ。俺は家が逆だからよ。ここでバイバイだ。明日結果教えろよ緒方」

 おう、と返して電車に乗った。国枝君とも途中まで一緒だ。

 

 ウキウキして布団にもぐった。時間的には超早いが、いつもよりも早起きする為だ。

 ほら、カメラチェックしなきゃなんないから。学校から帰ってからじゃ、気になって気になって仕方がないだろ?

 そんな訳で根性で就寝。起床した時間は3時30分ちょい前だった。

「早いだろ!!我ながらビックリだ!!」

 一人で突っ込んだ。自分の行動に。なんか虚しい。

 ま、まあ、兎も角、カメラチェック。時間も無いから早送りで挑む。

 じーっと見ているのも退屈だったが、深夜一時、遂に来た!!

 電信柱に川岸さんの姿!!俺のテンションが爆上がりだ!!

 これで証拠は押さえた。これを持って警察に……

「ん?」

 なんか川岸さんが下がったけど……逃げようって体だけど……

「!?」

 超ビックリしてパソコンを被り付きで見た。川岸さんが下がった理由が解ったからだ。

「生駒!?なんで!?」

 後ろ姿しか見えないが、間違いなく生駒だ!!生駒が現れたから川岸さんが逃げようとしたんだ!!

 光った。生駒がスマホかなんかで撮影したんだ。川岸さんの姿を。

 なんがゴチャゴチャやっている。責める生駒に対して言い訳して逃げようとしている川岸さんって感じだ。まんまそうだろう。

 しかし、やっぱ音声は期待できないか。外への撮影、しかも部屋は閉め切っているし、深夜だから生駒も川岸さんも気を遣って大声を出さないんだろう。

 しかし、何とか根性で耳を澄ませて音を拾ってみる。

 ……言い訳するな、とか言ってんのか?良く聞こえないな……

 聞き取ろうとパソコンの音量部分に耳を近付けた。

「……本当に来たか。美咲の言った通りだな……」

 あん?川岸さんの他に誰が来たってんだ?確認の為に画面に目を向けた。

「!?」

 心臓が止まるかと思った。それ程までに驚いたって事だ。

 川岸さんの背後に、黒いもやの塊……いや、二階から下を撮っているから、靄に見えるだけで、生駒には人の形に見えているんだろう。

「朋美!!!!!」

 川岸さんの後ろに立っているのは朋美だ!!生駒、っつうか、楠木さんはこれを予測していたのか!!

 と、いきなり生駒がぶん殴った!!川岸さん、超へっぴり腰になって尻を付いた!!

 だが、川岸さんを狙ったパンチじゃない。朋美に向かって放った右正拳!!

 俺と同じ事をやろうとしてんのか!?無茶だろ!!

 俺は俺なりの理屈で朋美の生霊をぶち砕いたが、要するに明確な殺意を以てぶち砕いたが、生駒は違う。

 朋美の事は話だけで、しかも楠木さん絡みで辛うじて信じているって程度。そんな生駒が朋美をぶち砕ける訳が……

「え?」

 目を疑った。朋美(つうか霞)が苦しそうに暴れ出したのだ。

 生駒の正拳がダメージを与えた!?なんで!?

 呆けている俺を余所に、左正拳!!やっぱり暴れる霞!!マジでダメージ与えているのか!?

 その後も蹴りやらパンチやらを放って翻弄(?)している。しているが……

「なんでダメージを与えられる!?」

 生駒が明確な殺意を朋美に向けているのか!?どう言う理由で!?

 生駒が右脚を上げた。そして其の儘振り下ろす。

 踵落としかアレ!?俺との喧嘩じゃ使っていなかったよな?


――ギャアアアアアアアアアアアアァアア!!!


 超ビックリして画面から仰け反った。絶叫が大音響だったから。

 そして霞が消えた。生駒はその場で残心で見ているが……マジで勝ちやがった!!なんで!?

 暫く呆けた。俺も、画面の川岸さんも。

 そして脱力する生駒。川岸さんの背筋が伸びた。ビクンと。

 二言三言喋ってそのまま歩く。家に帰るのか……

 暫くして川岸さんも漸く立った。そしてよろよろと歩き出した。

 

 画面から二人の姿が消えても、暫く呆けた。

 どうなってんだ!?どう言う理屈で!?

 疑問ばかりが先に立つ。居ても立っても居られない。生駒の攻撃が通じた理由が明らかになったら、ヒロや木村も朋美を倒せるかもしれない……

 時計を見る。5時ちょっと過ぎたあたり。

 のそのそと着替える。ロードワークに出る為に。

 そして俺は静かに玄関を開けた。雪がうっすら積もっている道路には、昨日のバトルの足跡が沢山ついていた。

 とにかく走る。そして決めた。

 今日学校をサボろう。生駒も申し訳ないが付き合って貰う。

 昨日の出来事を事細かく聞かなきゃ、気になって気になって夜も眠れない。

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