年末~015

 ともあれ、糞共はいつの間にか退散していた。国枝君が促したらしい。

 此処で漸く一息つく。

「緒方君の主張は今更だけれど、君の友達もいきなり喧嘩腰は戴けないわよ。その辺りちゃんと話して」

 横井さんに注意されて「はい」とか言っちゃう辺り、こいつにそんな威厳は無いように思うが。

「まあ、緒方はいつもこんなもんだ」

「南海の時もそうだったしね」

「西高と南海は緒方と揉めたから充分すぎる程理解しているだろうが、ウチは初見だからな…連合と揉めたのも聞いた程度だし…」

 だがこれで俺の危険性が解った事だろう。お前等の頭を病院送りにした奴を病院送りにしたんだ。改めて確信しただろう。

「河内、久し振り」

「松田。マジ久し振りだな。白浜の文化祭以来だったっけ。えっと、そっちのカワイコちゃんも」

「可愛いだなんてそんな。横井さん、凄い目で睨んでるよ」

 勿論倉敷さんは冗談で言ったのだが、河内の震えが尋常じゃ無なくなった。

「どうでもいいけど茶くらい出せ。折角見舞いに来たダチを持て成せ」

「お前が見舞いの品を持って来るんだろ普通!?」

 まあ確かに。ヒロの言う通りお茶も飲みたいし、お見舞いの品もやりたい所だ。

「仕方がない。俺が売店で飲み物買って来る」

「お前はウロウロすんな。黒潮や連合が居るんだから、揉めるだろ絶対」

 河内の的確な突っ込みに同意の頷きを見せる愛すべき友人達。まあ、確実に揉めるだろうな。俺も揉める自信がある。

 しかし、飲み物が欲しいのも事実で。

「じゃあ木村、お前も来い。お前と一緒なら安心だろ。荷物持ちも欲しいし」

 仕方ねえなとドアを開ける。

「まあ、木村が一緒なら安心か。俺だったら加勢しちまうかもしんねえし」

「大沢君は間違いなくそうしそうだよね」

 朗らかな笑い声を背に売店目指して……って訳じゃなく。

「おい緒方、売店は一階だろ?なんで上に行こうとする?」

「狭川の所に行くんだよ」

 一瞬険しい顔になった木村だが、直ぐに治まる。

「まあ、俺も聞きたかったしな」

「何をだ?」

「須藤の現在の戦力だ。須藤真澄は居なくなった。連山のチンピラはくたばった。悪鬼羅網と潮汐も半壊させた。その他になにかあるか」

 結構な険しい顔をして。そんな顔じゃ、お前が揉めそうになるんじゃね?まあいいけど。揉めたら加勢するし。

「お前はなにしに行くんだ?追い込みを掛けるってんなら、流石に止めるぞ」

「違う。本心は追い込みをかけたいけど、お前と同じだよ」

 これ以上後手に回りたくない。他に戦力があるのなら、先制で叩く。

「大義名分がねえだろ。こっちが悪くなるぞ?」

「いいんだよ、狂人馬鹿女に付いているだけでも、ぶち砕く理由は充分だ」

 それもそうかとエレベーターを待たずに階段を掛ける。逸っている感覚だ。俺も木村も。

 それはそうとと、木村が訊ねる。

「飲み物はどうする?買うんだろ?時間食うぞ」

「俺の用事が終わるまで、気長に待って貰う」

「そりゃちょっとあんまりだろ。仕方ねぇ。他の奴に頼むか」

 そう言ってスマホをピコピコ。

 何度かやり取りして息を吐く木村。

「絶対に揉めるな、ってよ。あと、狭川をこれ以上いたぶるなってよ」

「お前が止めてくれんだろ」

「そうなるんだよな……」

 重い溜息を吐く木村であった。これは仕方がない。お前の仕事みたいなもんだ。

 そして狭川の病室がある階。黒潮と連合らしき連中がウロウロしている中、病室目指して進む。

「おい、ちょっと待て…って、西高の大将か。じゃあそっちがひょっとして噂の緒方か?」

 木村の肩を掴んで止めた糞が手を引っ込めた。高速で。

「なんだ、菱山じゃねえか。お前等が狭川を張ってんのか」

 木村は面識がある様子。なのでこそっと聞いてみる。

「誰だこいつ?」

「黒潮の一年で河内の右腕だ。西高で言えば福岡みたいなもんか」

 あいつに右腕とか、違和感ありまくりだが、あれでも頭張ってんだから、当然と言えば当然か。

 その菱山が若干緊張した面持ちで続ける。

「狭川に話しを聞きに来たのか?それとも追い込みか?後者なら遠慮して貰うけど。此処はウチの頭も入院している。他の患者さんに迷惑を掛けたら黒潮、しいては的場さんの名前が穢れる」

 顔色が悪くなるが、一気にそう言った。

「追い込みはしねえし、こいつがしそうになるから俺が付いて来たんだよ」

 出鱈目を伸べる木村だが、説得力がパネエ。なので菱山って奴が納得したように頷いた。

「じゃあ話を聞きに来たんだな。だけどあいつ、ちゃんと話せねえぞ?」

「ああ、顔面蹴りまくったから、喋りにくくなったのか」

 平然と言う俺に木村が呆れ顔。菱山って奴は更に蒼白になったが。

「そんなになるまでやったら、そりゃそうなるだろうがよ。お前、後先考えないで暴れんなよ」

「だってあいつ等腹に鉄板仕込んでたんだぞ。だったら顔面しか狙えねーじゃん」

「ああ、だったら仕方ねえか。顔面しか狙えねえんじゃな」

 納得と頷いた木村。

「つうかお前等、河内に南海大雅派の大将が見舞いに来ているぞ。お前等も挨拶した方がいいんじゃねえか?」

「え?だけど……」

 俺の顔をチラチラ見ながら。ここから離れるって事は俺がフリーになるって事だ。つまり狭川が更にやられるって事だ。つまり黒潮に悪評が出るって事だ。そうなると的場の名前に傷がつく。

 俺は軽く溜息をつく。信用ねーなと言わんばかりに。実際信用は無いんだろうけども。

「木村が居るから追い込みは掛けられないから安心しろ」

「……その言葉、信じていいんだな?」

「信じる信じないはお前の勝手だけど、信じないってなったら木村の事も信じていないって事になるよな」

「……アンタの話は孝平から聞いているし、的場さんからも聞いている。だからアンタがそう言うんならそうなんだろうが…」

 約束は違えないとは思っているようだが、俺とは初めて顔を合わせた訳だから、どうにも心配だって事だ。

「だったら入れ違いで河内を此処に連れてくればいいだろ」

「その河内が入院してんだろ。入院患者が他の病室に来られるのか?」

「解んねーけど、お前と河内二人なら安心じゃねえの?」

「ウチの大将が入院したから南海大雅派の大将が見舞いに来たんだろ…その大将がお前に付き合っていなくなるってどうなんだよ…」

 知らねーよ。自分でどうにか辻褄合わせろよ。

「どう考えても馬鹿な話だな。お前等の懸念も解るが、俺が居るんだ、安心して挨拶に行って来い」

 木村が呆れて話を切った。お前も振った話だろうに。

「……解った。確かに挨拶は必要だろうしな…見張りは…」

「いいから行け。何か言われたら俺がそう言ったと言えばいい」

 頷いて仲間を呼んでエレベーターに向かう菱山達。さて、俺達は狭川の病室の突入しようか。

 ガチャリ、と躊躇なくドアを開けて、静かに閉じた。

「……聞かれた事は全部言っただろうが…報復は覚悟してっから、せめて今は寝かせといてくれよ…」

 ベッドから起きもしねーで不満を述べやがった。

 木村が俺の肩を軽く叩く。

「追い込みはしねえっつったよな?」

「今イラッとしたのがバレた!?」

「バレバレだ」

 俺は確かに解りやすいかもしれないが、背を見けた状態でも見切られるとは!!

「なんだぁ?2人だけか?昨日は6人くらい……」

 此処で上体を上げた狭川。俺を見ると硬直する。

「お!おおおおお!!緒方ああああああああ!!?」

「おい、うるせーぞ糞。病院で大声を出すな。ぶち砕くぞ」

「だから、追い込みはやんねえっつっただろ」

「そっちは西高の大将か!!そ、そうか解ったぞ……この期に及んで俺をボコろうと……」

 超ビビって後退り、だけどベッドの上だから直ぐに逃げ場が無くなった。

 面倒になってぶち砕きたくなったが、それでは約束は守れないので、ぐっと堪えた。

「ここじゃ何もしねーよ。話しを聞きに来ただけだ。だけどお前が協力的じゃ無きゃ、その約束も直ぐに忘れるかもな」

「そ、その言葉を信じてもいいんだな……?」

 超疑っている。脂汗を流しながら。まあ、無理もねーけど。

「おい、こいつ、悪鬼羅網の狭川で間違いないよな?もっと図太かったと思ったが?」

 木村が狭川に指を差して訊ねる。まあ、確かに挑発全開でムカつく笑みを浮かべるような奴だったけど。

「……おい西高の大将さんよ、黒潮の連中にも言ったが、緒方は本当に気を付けた方がいい。こいつは本気で人を殺す。そう言う奴だぜ……」

 俺の後ろに控えていた木村が、俺を押し退けて狭川の胸倉を掴んだ。

「お前が雑魚だから殺されそうになっただけだろうが。お前が殺されるような事をしたからだろ。こいつは危ねえが、ダチに手を上げるような真似はしねえんだよ。そんなふざけた事、二度と口に出すな。殺すぞ?」

 俺の為に怒ってくれるのは嬉しいが、ちょっと待って欲しい。

「ここじゃ暴れないって約束しただろ。やるんなら俺がやるから」

「お前じゃねえんだ。闇雲に暴れるか」

 面白くなさそうに掴んだ胸倉を放した。

「おい糞、話、聞きに来たって言ったよな。答えるだろ?」

「……聞かれた事は黒潮の連中に全部話した。だから聞きたかったらそいつ等に……」

「朋美の事もか?」

「……………」

 目を伏せた。朋美の事は話してないって事だ。尤も、朋美の事なんか聞く筈も無いから話す事も無かろうが。

 丁度パイプ椅子が二つあったので、広げて腰を掛ける。

「冷蔵庫があるじゃねえか。何が入っている?」

 木村が狭川にそう訊ねる。

「コーヒーしか入ってねえよ。ゼリー飲料も入っていたが、それは飲んでもう無い。どっかの誰かにスクラップ寸前まで追い込まれて、噛むのも億劫だったからよ。前歯も数本飛ばされたしな……」

 恨みの眼を俺に向けながらそう言った。

「お前が糞ふざけた真似したからだろうが。お前が糞ふざけた事を抜かしたからだろうが?そんな目で睨まれるのはお門違いだ。寧ろ殺したいのは俺の方だ。なんなら本当にやってやるぞ」

 狭川は暫く考えて首を横に振った。

「お前のは洒落になんねえからな。だけど、確かにお前の言う通りだが、こんな目にもなる。俺のせいだってのは解るが、そこは容認しろ」

 脅しじゃなく本気と言われたような?まあいいけども。

「じゃあ、このブラックのコーヒー、二本貰うぞ、金はこのテーブルに置いとく」

 そう言って300円、テーブルに叩き付ける様に木村が置いた。

「釣りはやらねえぞ」

「いらねえよ、見舞金だと思って取っとけ」

 随分しょぼい見舞金だな。とは思ったが、そもそもこいつに見舞金をやる必要を感じない。

 まあ、木村の好意だと思って有り難く受取っとけ。俺は木村の奢りのコーヒーで喉を潤すから。

 じゃあ早速聞き込み開始だ。

「朋美の幽霊は頻繁に出てくんのか?」

「……それをこいつが居る前で言ってもいいのか?ハッキリ言って誰も信じねえオカルトだぜ?」

 木村を親指で差して。だが、木村が普通に頷いたのを見て、呆れたように溜息をついた。

「アンタまで信じたのか?河内や昨日の奴等は見たからまあ、納得するとして、緒方の話だけで?」

「ダチの言葉を疑うか。お前じゃねえんだしよ」

 露骨に舌打ちをして木村から視線を外した。

「頻繁といや頻繁だ。昨日の前は三日前程に出て来た」

 一応答えるようだが。真実か否か。話半分で聞いとこうか。

「お前は朋美から指示されてたんだよな?麻美を殺せと。遥香を殺せと」

「…ああ、そうだよ。アンタの彼女の方は誰かに殺させるつもりのようだったから、俺のメインは幼馴染の方だ」

「遥香を誰が殺すんだ?」

「古くは佐伯。東工から薬を流して楠木だっけ?に殺させる案もあったようだ。今は北商の女にどうにかさせようとしている筈だ。詳しい事は解んねえけど。俺がこうなったからプランを変えるかも知んねえが、こうなる前はそうだった」

 北商………川岸さんか!!

 凄くムカムカした。今すくぶち砕きたくなったが、どうにか堪えた。

「北商の女にどうやって殺させる?」

「だから、詳しい事は解んねえって。だけど馬鹿は操り易いって嗤っていたから、騙してとかうまく乗せてとかじゃねえか?なんでもその類の事は全面的に肯定する女だろ。あの狂人女を神様っつうくらいなんだから、そこからどうにか持って行こうとかしてんじゃねえ?」

 神の啓示で悪魔の遥香を殺すってか?あり得そうで怖いな…

「じゃあ次の質問だ。お前が麻美を殺すって、具体的にはどうすんだ?」

 超ムカムカするが、どうにか堪えて質問開始。

「具体的なプランなんかねえよ。実際殺せねえと思うしな。普通の感覚の人間なら。昨日アンタに言ったアレも挑発9割ってのが本音だ」

 面白くなさそうに答えた。実際そうなんだろうが、潮汐は違うだろ。

 その旨を木村が言う。

「潮汐を嗾けるとか考えなかったか?あそこは普通にやるだろ。殺すと考えなくとも、強姦は」

「アンタが思っている以上に、潮汐って所は口だけだ。ヤバい奴が大勢いるって振れ込みだったが、拍子抜けするほどにな」

「なんでそう言い切れる?」

「本当にヤバい奴なら、猪原時代の南海でも普通に揉めるだろ。噂通りなら南海と潮汐は未だ戦争中だよ。それでもヤバい奴は確かに居たが、もう辞めたらしいからよ」

「誰だそれ?俺達とやり合う可能性があるのか?」

「学校辞めたから潮汐関連ではないだろうが、それ以外は知らねえな」

「名前は?知ってんのか?」

「玉内和馬って野郎だ。校舎半壊させたり、先輩を単車で跳ねたり、それこそ殺すようにぶん殴ったり……まあ、噂だが」

 俺と木村が顔を見合せた。

「……玉内和馬の顔は知らないって事か?」

「知らねえ。潮汐の連中も玉内だけとは関わりたくねえとか言っていたから、共闘も模索できねえし、わざわざ捜す必要もねえし」

「……昨日、ボクサーが一緒に来ただろ。あれがお前が言っている玉内だ」

 言ったら口を半開きにして固まった。ヤバい奴ってこっち側にいたんじゃねーかよ!!自分の噂が一番ヤバかったんじゃねーか!!

「そ、そういや、昨日も校舎を半壊させた奴とか言っていたような…アンタの方に気を付けていたから話半分しか聞いてねえけど…」

 そういう事だ。一番ヤバい奴がこっち側とか、俺も驚くばかりだが。

「だが、成程。ウチの連中を全滅させるような奴等だ、大雅も玉内も噂通りってことだな」

「その悪鬼羅網は解散だろ。存続なんかさせるつもりもねえ。ウチも友好校の頭の仇、取らなきゃ治まんねえんだからよ」

 面白くなさそうに狭川が答えた。

「解散だ勿論。的場に手打ちの条件で出されたんだから。あの野郎が本格的に引退したんなら兎も角、名前が通じる今は従わなくちゃならねえ。違えると本当に殺される。俺はまだいいが、メンバーにこれ以上の負担は掛けられねえしな……」

 意外と感心した。ちゃんと頭やってんだな、と。

「だけど、河内とのタイマンは退院したらやる。言っておくが、河内が言い出した事だからな。俺としては、もうアンタに関わりたくねえから受けたくなかったんだし」

 それは河内のプライドの問題だ。だからいい、勝とうが負けようが、納得はするだろう。

「俺ともう関わりたくないって言っても、無理だぞ。お前にはこれからも朋美の情報を貰わなきゃいけないんだからな」

「……そこも諦めてんよ…そしてアンタしか頼れねえって事もな…」

 俺に頼る?こいつに頼られるような事、俺がすると思うのか?

「図々しいな糞が。お前に良い様に利用されると思ってんのか?」

「……昨日、朋美の幽霊をぶん殴って退けただろ?あんな真似はアンタにしか出来ねえ。真澄がアンタに頼ったのは間違いじゃねえって、俺も思った。だから…」

 瞬時にベッドに正座した狭川。そして其の儘頭を下げた。土下座だコレ。

「俺を……真澄を助けてくれ…その為にはアンタに何でも協力する。無茶な要望にも応える。だから…」

 カタカタ震えながらそう言った。あの狂人にそんなにビビってんのか?無理も無い、俺も繰り返しの時はそうだったし。

「……須藤は確かにやべえ相手だろうが、お前や須藤真澄、身内がそこまでビビる理由はなんだ?」

 それは確かにそう思った。いくらあいつでも身内には手を出さねーんじゃねーの?

「……朋美はアンタ等が言ったように狂人だ。人が死ぬ事なんか屁とも思っちゃいねえ。あいつの親父の性格を、色濃く継いでいんのがあいつだ…」

「そう言っても、親父だって身内には手を出さねーだろ?」

「……真澄の親父がファミレスの店長やっている理由、何だと思う?」

 なんだと言われても。一族経営お疲れさんですとしか思えない。

「……須藤の親父の資金源、だったが?双月ってファミレスは?つまり、須藤真澄の親父は須藤の親父に雇われているって事だ」

 木村の言う通りだろうが、それが何?

「……須藤組は表立ってはそんなんでもねえが、薬売買も殺し…少なくても殺しのもみ消しもやっている。繰り返しの時にそれは知ってんだろ」

 まあ、確かに。朋美が殺した後始末もやっていたし、刑務所にぶち込まれたチンピラも殺したしで、それは殺人も行っていると思っても仕方がないだろう。

「朋美の親父は長男だが、真澄の親父は三男だ。次男は死んだ。ジジイが死んだ時の跡目争い中、事故でな…」

「それってもしかして、朋美の親父が殺したってのか?」

 肯定の意味で頷く狭川。

「ジジィがくたばった頃はまだ俺達は生まれていなかったが、俺のお袋が忌々しそうにそう言ってんのを聞いた事があるんだよ…」

「だ、だけど、須藤組は白浜だ。京都にもあるのかよ…!」

 ある!繰り返し中の修旅の時、阿部を使って俺を呼び出そうとした時、あの手の人種が確かに居た!

 京都が本家ってくらいだから、須藤組の本家も京都って事か!?

「朋美のお袋の筋は政治家だから、京都の組も畳んで見た目は綺麗にして、自分も政治家になったが、中身は変わっちゃいねえ。組は表向きは無くなったが、分家はあるしな。北海道にもある」

 つまり、須藤組の子分(でいいのか?)が北海道にあるって事か?確かに安田一家が転勤させられたのも北海道だったからそうかも知れないが…

「真澄の親父は穏やかな人で、争い事を嫌ったから、そこそこ収入がいい店長…つうか、双月の副社長つうポジに収まって全国回っているんだよ。真澄はその関係で朋美から逃げられた、かもしれねえ」

「かも?」

「気分次第で真澄も殺されるって事だよ。連山に逃げたチンピラを事故で殺しただろ?幽霊になれたおかげで、証拠無く人が殺せんだ。これからも被害者は増える。佐伯は間違いなく殺されるだろうし、川岸って女も多分殺される」

 読み通りとはいえ、流石に嫌悪感が表情に出た。俺も木村も。

 佐伯なんか知ったこっちゃねえ、寧ろ死ねって思うし、川岸さんは自業自得だからどうでもいいが、やっぱ殺されるとか言われたら、胸に来るものがある。

「朋美に殺されないように、俺達は朋美の意思に沿って動いた。つっても俺も真澄も自分の欲の為に手助けした部分もある。そこは認めるし、だからと言って反省はしねえ。俺達も欲はあるからよ。俺は全県制覇。真澄は金。だけど、そのくらいの欲、誰も持っているもんだろ。チャンスがあれば便乗だってする。アンタにゃムカつく話だろうが、そこは引かねえ」

「……確かにムカつくが、須藤真澄も似たような事言っていたし、責めるが否定はしねーよ」

「……緒方の言う通りだ。責めるのは当然だが、否定は出来ねえな」

 それが人間ってもんだ。欲は当然あるもんだ。だが、被害者の俺達はそれを責める権利はある。

「なんでか解んねえけど、朋美自身も解んねえって言っていたけど、アンタの周りに朋美は出て行けねえ。周りってのはアンタの親しい人の事だぜ、言っておくけど」

「流石に俺の半径1キロとか思わねーよ。お前結構馬鹿にしてんだろ?」

 親しくない野郎にそんな事言われればキレるのが俺なんだけど。約束した手前、病院ではやらねーけど、俺にも限界はあるんだからな。物凄い限界が低いらしいが、あるにはあるんだからな。

「それに、アンタは朋美をぶん殴った。ぶん殴って退けた。そんな真似できんのはアンタしかいねえ」

 だから俺に助けてくれ、か。

「言っとくが、過度の期待はすんなよ。アレはマグレかもしんねえし、何より俺の周りには朋美が出て来られない」

「そりゃそうだろうが、それしか縋る所がねえ。俺も一応神社とか寺とか行ったんだぜ?生霊っての?それを祓うってよ」

「それでも祓えなかったのか?」

 苦い顔で頷いた。

「俺、っつうか、身内は縁が深いから、簡単にはいかねえらしい。真澄もそう言っていた」

 此処で木村が疑問を呈す。

「生霊ってのはお祓いで追っ払えねえのか?緒方がやったようにぶん殴って追っ払うしかねえって事なのか?そうだった場合、俺達にも可能なのか?」

「いや、お祓いすりゃ離れるし、対話…説得するって手もある。あの狂人に説得は無理だろうが」

「ぶん殴るの方は?」

「あの時は明確な殺意が出たからな…俺の意思が朋美の意思を凌駕したから、かな?お前等もぶん殴って追っ払えるかって質問だが、それは無理だから、朋美と出くわした場合、普通に逃げた方がいい」

「つってもお前の周りには出て来られねえんだろ?逃げるも何もだ」

「だから、万が一だ」

「それに、逃げろって言ったって、どこに逃げりゃいいんだよ?」

「寺とか神社とか。言っとくが、夜は駄目だぞ。普通に住職さんや神主さんが居る日中の話だからな」

 このやり取りを聞いていた狭川が加わった。気になる事でもあったのだろう。

「夜は駄目、ってのは?」

「あーと…夜の寺とか神社とか、不気味、っつうか怖いだろ?それは幽霊がいるからで、生霊ももしかしたら活発になるかもしれないからだ」

 首を傾げる二人。昼と夜の差は行った事があるになら解るんだろうが、理屈が解らんって事だろう。

「緒方の言う通り、夜の神社とか寺は不気味だけどよ、昼となんで違うんだ?昼も幽霊は居るんじゃねえのか?」

「明るい、つうか、人が多けりゃ幽霊は入って来ない、つうか、住職さんやら神主さんやらが仕事しているんだから邪魔はさせない。仏とか神とかが」

「夜も仕事してんじゃねえのかよ?夜は出入り自由って事なのか?」

「いや、幽霊も救いが欲しいから寺や神社に来るんだよ。助けを求めにやってくる。人が居なくなった時にな」

 成程、と頷く、納得はしたようだ。

 それに、神社も寺も結界があるから、最深部までは入って来れない。精々入口程度。掃き清めとかしていない所は日中でも出入りしているけど。

「お前って本当に霊界って所で修行してたんだな…正直今確信したぜ」

「お前信じてなかったのか!?」

 ビックリだった。朋美の生霊の話は信じている様なのに、俺の修行話は信じていないとか、ダブルスタンダードもいいとこだ!!

「信じるが、イマイチピンと来ていなかったんだよ。よく解らねえってのが正解だな」

 そりゃろうだろうが、要するに眉唾話を何となく信じていたって事だよな!?それ結構傷付くぞ!!

「……なあ、アンタってお札とか作れねえのか?朋美を追っ払うようなお守りとか?」

 無茶な事を言う狭川だった。お前とこんな話をするとは夢にも思わなかったが、切羽詰っているって事で、まあ良しとしよう。

「作れる訳ねーだろ。今は単なる高校生だ。高等霊候補の修行時代とは違う」

 修行時代でも作る事は出来ないだろうけど、今よりはちょっと可能性はあるんじゃねーかな?知らんけど。

「つうか緒方、結構時間食ってんぞ。そろそろ戻った方がいいんじゃねえか?」

 確かに、グダグダ話しただけなのに、一時間は居たような気がする。

「おい、聞きたい事が出来たら…」

「ああ、電話でもなんでもしろよ。ネタ出来たら教えてやるしよ」

「ネタって?」

「新しい朋美の情報だ」

 ああ、それは必要だな。有り難いとは思わんが、むしろ当然だとは思うが、有効活用させて貰おうか。

 そして俺達はほぼ同時に椅子を立った。

「お前、河内とタイマン張るんだろ?ボコボコにされりゃいい。大笑いしてやるし」

「簡単にやられてやるつもりはねえ。向こうも俺とガチでやるとなっちゃ、本腰入れるだろうしよ」

「河内が終わったら、次は俺だ。友好校の頭、病院送りにした借りは返させて貰う」

 木村が結構な凄みを持って言う。

「逆に俺が勝った場合とか考えねえのか?大人しくお山の大将でいた方が良かったと思うぜ」

 狭川も結構やる気の様子だった。俺にビビったくせに、偉そうに。

 まあ、今は取り敢えずは入院中の身。ここは大人しく退散しようか。


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