年末~016
結構急いで河内の病室に戻った。
ドアを開けると、的場の姿。来ると言っていたからそれはいい。
問題は、何で河内がベッドで正座しているかだ。
「こ、これは一体どういう事だ?」
「あ、おかえりダーリン。木村君が一緒だから心配はしていないけど、一応確認。殴ってないよね?」
遥香がお出迎えの如く発するが……
「殴ってないが、この状況は何だ!?」
「横井が的場に頼んだんだよ。ちょっと押さえて欲しいからどうにかしてくれって」
ヒロが誰かのお見舞いの品なんだろう、バナナを食いながら説明する。
「河内ってウゼェくらいに電話やらメールやらして着信拒否されてんだろ?それが的場にばれて、なんでそうなったって尋ねたら、横井がみんな言っちゃったって訳だ」
ああ、これは自業自得だな。寧ろこうなって良かっただろう、横井さん的に。
「これ、長く掛かりそうか?」
「説教の事か?的場さんの匙かげんだろうけど、そうだろうな」
大雅が発するとみんな頷いた。つう事は、だ。
「的場、折角会った訳だけど、取り込み中のようだから、帰らせて貰うよ」
「ん?ああ、緒方か。そうしてくれ、あと、もう病院には来なくていい。コウは今日退院だからよ」
あ、そう、と河内を一切見ずに病室を後にした。そして全員俺に倣って病室から出た。当然横井さんも俺達の後に続いて病室から出た。
つーか、折角松田と倉敷さんも見舞いに来たんだが、帰っちゃっていいのか?
その旨を訊ねると――
「ああ、少し話はしたからな。退院したら改めての方がいいだろうし」
「そうそう、黒潮の一番偉い人の正座なんか見られる機会無かったから、逆に……」
笑いを堪えているぞ倉敷さん。まあ、気持ちは解るけど。
それにしても、もう昼過ぎたな。病院にも食堂はあるが、此処は俺の我儘をみんなに聞いて貰おうかな?
病院で結構な時間を潰して電車に乗って着いた先。
「あったあった。ここだここだ」
俺が先陣切って入った先は、『麺や鬼斬』。生駒のバイト先で、おにぎりが売りのラーメン屋だ。
「わざわざ東白浜で降りてラーメン食べなくてもいいでしょうに……」
ブツブツ言いながら後に続く麻美さんだった。因みに遥香は凄い乗り気だ。
何でそんなにテンション高いの?と訊ねたら……
「スープにご飯入れるのを前提にしたラーメン屋さんだよ!?前衛的じゃない!!」
何故前衛的なのかは解らんが、スープインご飯は日本人ならみんな好きだと言う事だな。
「いらっしゃ……緒方?」
生駒が仰天したように。だが、流石バイト。戸惑いながらもテーブル席に案内する。
「ありがとー生駒君」
黒木さん、早速木村の腕を引っ張って隣に座らせるし。
「じゃあ私達はこっちにしようか?」
「え?あ、うん」
倉敷さん、松田を促して隣の席に。なかなか積極的だな。
「河内の所に行ったんじゃなかったか?」
生駒が水を置きながら俺に訊ねた。
「行ったけど、あれこれそうよでこうなった」
「……河内の自業自得とは言え、可哀想だな…」
横井さんを横目で見ながら、そう呟いた。実際自業自得なんだから仕方がない。これで横井さんの精神が少しでも向上されたらいい事だろう。
「まあいいや、なににする?」
結局は河内なんか気にしていられない、自分の仕事が優先なのだ。
「気持ちは解るが、メニュー見せてくれ。俺は兎も角、遥香達は初めてなんだ」
「そ、そうか、じゃあ、お決まりになりましたらお呼びください!!」
営業スマイルで厨房に戻った。あいつはやっぱりちゃんとしているな。
「生駒君、やっぱりちゃんと働いているんだね」
感心するのは遥香。河内のアレを見た後だから、余計そう感じるのだろう。
「基本真面目だからな。そうなると玉内のバイト先にも行って見てみたいよな」
あいつもちゃんとバイトしているんだろうが、どんなもんか一度見てみたい。
「玉内君ってどんなバイトしているの?」
「確かカレー屋だった筈。他にもジムの先輩の仕事先のヘルプに呼ばれるって言っていたな」
その先輩は居酒屋で働いているが、忙しい時にたまに頼んで来るらしい。未成年を居酒屋で働かせてもいいのかは解らんけど。
「それは兎も角、早く決めろ。腹減っちゃった」
「お昼食べそこなったからね。ダーリンはなににしちゃうの?」
「俺はこの豆乳タンメンってヤツ」
サイドメニューはいいや。おにぎりが付いてくるからな。
「ダーリンが豆乳なら、私は味噌で攻めてみようかな」
なんかウキウキとネギ味噌を指差した。
「ギョーザとかはいらない?」
「ご飯付いてくるんでしょ?だったらいいよ」
そうか、とみんなを見ると、全員決まった様子。
「馬鹿隆、生駒君呼んでよ。注文しよう」
「お前はいつでもどこでも俺をディスるんだな……」
枕詞にバカを付けるなよ。クラス平均なんだってば。
ともあれ生駒を呼んだ。
「決まったか?」
「豆乳タンメンとネギ味噌と…」
「私は坦々麺で、国枝君は濃厚しょうゆだって。木村君が焦し味噌で綾子ちゃんがタンメン。横井さんが鶏白湯」
麻美さんが代表で注文するのか。この注文で解る通り、結構メニューが多い。これにおにぎりとラーメンバーガーもあるんだから、メニューがちょっとしたノート状だ。
「俺は肉じゃがラーメンで、えっと、倉敷さんは?」
「味噌バター。松田君と何となく北海道繋がりだね」
強引に重ねていく倉敷だった。北海道繋がりって、ジャガイモとバターかよ。
「俺はカレーラーメンと餃子とチャーシュー丼、麻婆豆腐と…」
「えっと、ちょっと待て大沢」
もっと追加しそうなヒロを一旦止める生駒。こいつは揺るがないからほっとけばいいだろうに、やっぱいい奴だ。
「ラーメンにはおにぎりが付いてくるんだ。だからギョーザの追加だけでも結構腹一杯になるんだぞ?チャーシュー丼と麻婆豆腐はやめとけ」
「大丈夫だ。俺はカレーも麻婆豆腐も好きだからな」
ドヤ顔で。お前お金平気なのかよ。バイクの免許取るんだろ?
「だったらチャーシュー丼だけでもやめとけ。絶対食いきれないし、俺は飲食店のバイトやっているから、食べ残しはあんまり好きじゃなんだ。普通のお客ならいいんだけど、お前は友達だから、敢えて我儘を言わせてくれ」
食べ残しを嫌ってのお願いだった。これには流石のヒロも仕方ねーなと頷いた。
「じゃあ餃子とチャーシュー丼はやめる。なんだかんだ言って節約しなくちゃだしな」
麻婆豆腐を頼む事で節約していないような気もするけど。
「大沢は決まったようだね。じゃあ俺は和出汁中華ってのを。さゆはワンタンメン」
「大橋飯店のワンタンメンの方が美味しいぞ?」
そう言って苦笑してメモる生駒だった。あの時実際そう言ったからそうなんだろう。
「つっても麻婆豆腐があるんだから、実際注文する人はいるんだろ?」
素朴な疑問を投げる俺。サイドメニューで有るんだし、頼む人もいるだろうに。
「いるけど、殆どは単品で、実際には定食だからな。ほら、ここに書いてあるだろ?おにぎりとスープ付きって」
ホントだ、ちゃんと謳ってあった。じゃあこのから揚げもそうなのか?
「じゃあ、ご注文を繰り返します。豆乳タンメン、ネギ味噌、坦々麺に濃厚しょうゆ…」
確認して厨房に戻った。しかし良かったなヒロ。生駒が止めなきゃ定食とラーメンと餃子を食う羽目になっていたぞ。
待っている間、話題は河内の事だった。
「あいつ、怪我治ったら狭川とタイマンするって」
「ふ~ん。どっちが勝つと思う?」
あんま興味が無さそうだったが、取り敢えず乗っかる彼女さんだった。
「多分河内じゃねーかな?腹に鉄板仕込んだり、凶器持って来なきゃ普通に勝つだろ」
「ダーリンがそう言うのならそうなのかもね」
「それに、河内とタイマンが終わったら、次は木村とやるんだって」
「え?明人と?ど、どっちが勝つかな?」
動揺した体でそう訊ねたのは黒木さんだった。
「木村が勝つだろ。普通に」
「そ、そっか、緒方君がそう言うんなら確定か…」
安心しているようだが、俺の見解より本人に聞いてみたら良かろうに。同じように返って来るとは思うが。
「そんで、それが終わったら、友好校の義理とやらで大雅がやるそうだ」
「お、俺はそんな事言ってないよ!?」
ビックリしたのだろう、立ち上がって抗議した。みんな冗談だって知っているから。お前、河内の病室に居たんだろ?そんな話しなかっただろうに。
「いやいや、ホントに戦っちゃいなよ正輝。友好校としての義理として、友人の仇として。理由ならあるでしょ」
「だ、だってそうなると、緒方君、河内、木村、俺と、4連敗になるだろ?いくら敵とは言え可哀想だよ」
負けるなんて微塵たりとも思っちゃいなかった。自分だけじゃない、河内も、木村も。
「そうか、じゃあ次は俺だ」
乗っかって来るヒロだった。全く関係ないだろうに。
「何言ってんだ大沢。お前の前に松田だろ。お前と生駒がやるって騒いでいた牧野をぶっ倒したヒーロー様だぜ」
からかうように言う木村。松田、苦笑い。
「だから、マグレだって。つか、そいつって黒潮の大将の長年の敵ってヤツだろ?俺が勝てる相手じゃねえだろ」
「いやいやいやいや、松田君、充分強いって。無駄に喧嘩しない辺りも常識人でいいし」
倉敷さん、乗っかって持ち上げる。それが別方向にチェンジした。
「そうそう、隆なんて無駄に揉めるし、考えないで殴っちゃうしで、松田君の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだよ」
麻美さんがそうディスったのだ。それはいい。だが……
「河内君の友達?とも普通に戦おうとしていたものね。河内君が心配するのもよく解ったわ」
「ああ…明人もいつも心配しているもんね。緒方君、すぐ殴っちゃうから…」
「黒木さん南海、って言うか、ブタと揉めたの、見てないでしょ?すんごかったんだから!!」
なんか俺の喧嘩っ早さで女子達が盛り上がり出した。
「なんでこうなるんだ……」
げんなりする俺の肩を叩く国枝君。
「仕方ないよ、本当の事だから」
国枝君に肯定されると、余計へこむんだが……だがまあ、確かに真実なのは否めない。マシになったとはいえ、本質は変わらないのだし……
「おまちどおさま…って、緒方、なんで項垂れてんだ?」
ああ、注文した物が来たのか…
「なんでも無い。いつもの事だ」
「そ、そうか?じゃあ豆乳タンメン…」
俺の前に豆乳タンメンとおにぎりが置かれる。
ん、ちょっと量多くないか?
「生駒、麺の量多いような気がするんだけど?」
「ああ、店長に俺の友達だって言ったら、麺大盛りサービスするって」
お前、友達少なさそうだからな。店長さんも心配していたんだろう。
意外と友達が多そうだったから嬉しかったんだろう。ならばこの好意に甘えなければならん。
「そっか。悪いな。店長さんにお礼言っといて」
「ああ」
いい笑顔で返す生駒。だがヒロは……
「そうか!ナイスジョブだオッサンと褒めてやってくれ!」
「いや、俺バイトの身だから、そんな生意気な口を利く事は出来ないだろ…」
常識知らずってのはこう言う事を言うんだぞ。ちょっとばかり喧嘩っ早いのなんかなんて事無いんだ。解ったか女子達。
ともあれ、戴きますして箸を割る。
全員スープをレンゲで救って飲む。
「意外とうまいな……」
木村の焦し味噌はしょっぱそうだが、それでもうまいと、それに後からおにぎりを入れるんだ。そうなった場合旨さがパワーアップするぞ。
「和出汁ってのはうどんやそばのスープだね…」
大雅はあまりお気に召さない様子。だったら普通のうどん食うよ。って感じだった。
「いや、肉じゃがラーメン、うまいぞ。おにぎりいらねえかも」
松田は逆に気に入ったらしい。面を啜るペースが速い。
「う~ん…ウチのワンタンメンの方が美味しいかも。これ少ししょっぱいよ」
大橋さんも不満の様子だ。だけど鬼斬はスープインご飯がメイン。だからスープは濃味なのだ。
「……なぁ隆……」
「なんだヒロ」
「麻婆豆腐におにぎりとスープ、ついて来てんだけど……」
「メニューに謳ってあっただろ」
「よく見ていなかったからよ……で、麻婆豆腐のおにぎり、二個ついて来てんだよな……………」
「そうだな」
「で、ラーメンにも一個ついて来んだよ」
「そうだな。合計三個だな」
「絶対腹一杯になるよな、コレ…………」
なるだろうな。食事を二回、一気にやった事になるんだから。
「ごめんダーリン、麺食べて」
「あ、私のも。頑張って隆」
そういや麺大盛りをサービスしたって話だったか。女子に大盛りはキツイか、そうじゃなくてもスープが濃いし。
まあ、豆乳タンメンとネギ味噌と坦々麺を食ったと思えば儲けもんか。
じゃねーよ。多いよ。お腹死ぬよコレ。ヒロの事を笑っていられねーよ。
しかし、頼られたら頑張らなきゃいけないのは男の性だ。
と、言う訳で、ズルズルズルズルと一心不乱にラーメンを啜る。
「よし、じゃあ飯入れるか」
なに?木村が完食しただと!?黒木さんに頼られなかったのか!?
「明人、タンメン食べてよ。これ野菜も麺も多いよ」
やっぱ頼られたか。つうか黒木さん的には、木村の方から申し出てくれる事を期待していたんだろう。
「食ってやるけど、なるべくがんばれ。俺はこのおにぎりを入れるの、結構楽しみにしてんだから」
なんだ、やんわりと断ったのかよ。確かにあのタンメン、量がちょっと多いな。特に野菜の量が。
「……さゆ、悪いけど…」
「まあね。うどんスープのラーメンは正輝に合わないのは知っているよ…」
何と!!大雅は大橋さんに麺を任せたのか!!逆だろ普通!!
「た、隆、おにぎり……」
「お前は自力で何とかしろ。自業自得なんだから」
この上ヒロの手伝いまでしていられるか。このほぼ二人前のラーメン食うだけでも大変なのに。
どうにかこうにか麺を完食して遥香と麻美にスープを渡す。
受け取ったら何の躊躇もお礼も無く、おにぎりを投入しやがった。少しは労いの言葉が欲しい。
「美味しい!スープ濃いのってこの為だったんだ!」
一心不乱にかっ込む。つうか女子全員、ほぼ同じタイミングでおにぎりを投入していた。
そして食べ終えた時――
「「「「「「麺いらないよね」」」」」」
口を揃えてそう言った。それ思っても言ったら駄目だ。ここラーメン屋!!スープおにぎりのお店じゃない!!麺を否定しちゃ駄目だ!!
「女子達はもう食い終ったのかよ……く!!」
ヒロのみ麻婆定食と格闘中だった。流石に麺は食い終ったから伸びる心配はないが、この後の雑炊どうするつもりなんだろ?
「しかし、確かにうまかったよな、雑炊は」
「大雅、もうちょっと小声で……」
麺を残した大雅だが、雑炊は気に入った様子。だけど声に出して言うのはやめて欲しい。
「ちゃんと肉じゃがラーメンも美味かったって」
「そうだぜ。焦し味噌もちゃんとうまかった」
木村と松田ははラーメンも美味かったと。濃味が好きな奴もいるからな、当然の感想だろう。
「ここ、さとちゃんに教えたら、面白い事になるよ」
遥香が意味深に。
そりゃ、里中さんはこう言う特殊なお店は大好物だろうが、面白い事になるとは?
その旨を訊ねると――
「麻美さんの坦々麺って、勝浦坦々麺を模した物だよ。坦々麺に入るべきゴマが入っていなかったから」
そ、そうなの?つかお前も結構そう言うのに詳しくなったよな…里中さんと話し合わせる為に頑張ったんだろうけど。
「大沢君のカレーラーメンも普通のじゃない。牛乳が入っている様な……どう?大沢君」
漸く麻婆定食を完食したヒロが答える。
「解んねえけど、普通のカレーラーメンのような辛さが無かったか?」
「それ、みそ牛乳カレーラーメンを模した物だよ。青森にあるんだよ、そう言うラーメン」
そ、そうなの?つか、この店っておにぎりが売りなんだから、ラーメンはそうでもないんじゃない?
「大雅君の和出汁って、天かすが盛られていたよね?後、チャーシューじゃ無かったような?」
「う、うん。鶏だったけど……」
「山形に鶏中華ってのがあるんだけど、それを真似たのだよ」
そ、そうだったのか…だけど言いたい事は解った。
「ご当地ラーメンを模した物だから、里中さんのテンションが上がるって事か」
「うん。さとちゃん、そんなの大好物だからね。恐らく店長さんはメインはおにぎりをどう美味しく食べさせるかって事を考えていた訳だから、ラーメン自体に独創性は持たなかったんじゃないかな?こだわっているのはおにぎりであってラーメンじゃないかなら」
ラーメンはどうでもいい。おにぎりがメインだからって事?じゃあやっぱラーメン屋畳んでおにぎり屋やれば良かったんじゃないかな……
漸くヒロも完食。腹一杯なのか、椅子に限界まで体重を預けている。
「じゃあみんな食ったから出るか」
木村の提案、ちょっと待てとヒロ。
「今食い終ったばっかなんだ。少し待ってくれ」
「仕方ねえな……ん?」
暇に任せてメニューを見た木村が店員を呼んだ。ボタンで。
「どうした?」
来たのは生駒だった。
「おう。メニュー見たらデザートがあったからよ。コーヒーゼリー貰えるか」
「お前がデザートなんて珍しいな……」
マジで驚いている生駒だった。かく言う俺もそうだ。
「コーヒーとかあったらそれ貰うけどよ、ねえからさ。大沢の腹が落ち着くまで待たなきゃいけねえんだよ。食い終ってもダラダラ居座っている客なんざ迷惑だろ」
それを聞いて顔を見合われる俺達。慌ててメニューを開いた。
「杏仁豆腐」「僕はマンゴープリン」「俺は抹茶ゼリー」「私チョコアイス」「あんみつ」「オレンジシャーベット」
もう全員が注文した。俺もコーヒーゼリーを注文。つうか何気にデザートも充実しているな……
「じゃあ俺は三種のアイス白玉添え」
「「「お前は食うな」」」
お前のお腹が落ち着くまで待つために注文したんだろうが。それに、腹いっぱいの筈なのに、なんでそんな重そうなもの頼むんだ。お金の節約はどうしたんだ?
なんやかんやで結局ヒロもデザートを頼んだ。流石に三種のアイスは諦めたが。
「つうか、お前のせいでデザート頼む羽目になったんだぞ。考え無しで数頼むなよ」
「考えているだろうが。腹減っているから大目に注文するんだよ」
だったら白玉あんみついらねえだろ。今腹一杯な筈だろ。因みに白玉あんみつは三種のアイス白玉添えよりは若干安かった。
「構うな緒方。早く食って出よう、もう待つ必要もねえだろうからな」
木村の言う通り。これでグダグダ言うなら置いて行こう。自業自得なんだし。
「ホントに大丈夫か大沢……?」
ヒロの無茶注文に慣れていない大雅が心配そうに訊ねる。
「いいから気にすんな。こいつはもう自業自得だ」
「そ、そうだけど……」
「だけど大沢君、そんなに食べるのに、あの時ウチの料理残したよね」
咎めるような目で見る橋本さん。
「あれは無理だろ。人間には出来る事と出来ねえ事があるんだよ」
確かにアレは無理だ。あれ全部食える奴いねーだろ、絶対。
「しかし、お前等結構食うんだな。来年ウチの文化祭来いよ。農業高校ならではっての見せてやる」
「ヤマ農の文化祭か…マジで行ってみたいな…お前案内するだろ?」
「多分無理だ。忙しいから勝手に見て回って貰う事になるよ」
誘っておいてそれ?まあ、忙しいんだったらそうなるのか。それはそれで仕方がないか。倉敷さんが獲物を狩るような目つきになったが、見なかった事にするし。
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