年末~014
なんやかんやで寝たのは多分2時過ぎ、おかげで眠くて仕方がない。
「お前等シャキッとしろ、シャキッと」
一人早めに就寝していたヒロだけがやたらと張り切っている。俺達に発破まで掛ける始末だった。
「お前は元気だな…」
半ば呆れながら言う俺。
「お前等が夜更かしするのがいけねえんだろうが。俺に内緒でピザまで食いやがって」
「そうは言っても、俺達全員お金出して夜食買ったんだから。寝ているお前を起こしてまで金出せとは言えねーだろ。なぁ、玉内」
「こんなにうるせえんなら、無理やり起こした方が良かったように思うけどな…」
玉内が欠伸をかみ殺してぼやいた。
早朝、起床した時、テーブルにあったピザとポテトの空き箱を発見して発狂しやがったのだ。俺を仲間外れにしたとか言って。
最初宥めていた木村達が面倒になって布団を片付けるまで、愚痴が続いた。つまり木村達も俺達のロードワーク時間に起きてしまったと言う事だ。ホント、糞迷惑な奴だ。
「ところで隆、今日河内の病院に行くのか?」
俺は昨日行ったから、どうするか悩み中だが、木村達は行くようだ。
「お前はどうするつもりなんだ?」
玉内に何となく振る。
「バイトがあるから行けねえ。生駒もバイトの関係で無理だって言ってたな」
そうなると、波崎さん、楠木さん、春日さんも無理だな。木村は行くとは言っていたから、黒木さんも付いて行くとは思うけど。
「じゃあ俺も行くのやめようかな。面倒くせえし」
「お前がそうしたかったらそうすれば?」
行くも行かぬも自由だ。河内に後でウゼェ程恨み節を聞かされると思うけど。
そんなこんなでいつものメニューをこなして帰宅。
「他所のジムも大体同じようなメニューだな」
「基本は同じだろうからそうだろ」
玉内にシャワーを勧めながら言う。
「家主のお前よりも先に入るのか?」
「じゃあ俺が最初だ」
そう言ってとっとと風呂場に移動するヒロ。
「お前もあのくらい図々しくなってもいいんだぞ」
「いや、昨日初めて来た家の風呂を最初に使う程、胆は太くねえよ」
それもそうだ。じゃあ、と冷蔵庫から冷たいお茶を出して玉内に預ける。
「これ飲んで待ってろ。次入っていいから」
「お前はどうすんだ?」
「勿論俺も入るけど、お袋に人数分の朝飯を作って貰わなきゃいけないからな。頼みに行くんだよ」
「悪いから朝飯は食わないつもりだったんだが…」
気にすんな。ウチの両親は俺の友達を持て成すのが趣味なんだから。その趣味を奪うような真似は俺にはできないし、お前にもさせねーから。
朝飯って、生駒と玉内が帰宅。と言っても駅まで送ったが。
理由は女子も帰る人達が多かったからだ。とは言っても全員帰る事になったが。
波崎さん、楠木さん、春日さんは着替えてバイト、残りは着替えてから改めて集合するとの事。
「横井さん、ホントにいいの?着替え貸してくれるって?」
橋本さんが申し訳なさそうに言う。
「いいのよ。お友達でしょう?それに、この面々で、橋本さんに服を貸せるのは私か波崎だけなんだから」
うん。遥香のは胸が緩いだろうし、麻美は小さいからサイズが合わないんだろう。納得の答えだ。
「男子は着替えはいいの?」
黒木さんが意外そうに。何故なら男子は国枝君を除いて喧嘩で薄汚れているからだ。
「緒方と大沢から借りるんだよ」
「ああ、緒方君のだったらいいよね。大沢君から借りたら後がうるさそう」
「なんでだ!?別に恩に着せたりしねえよ!!」
突っ込むヒロだが、今朝のピザの件でうるせーので、全員納得して頷いた。
「あ、電車が来た、緒方、悪いけど、河内に宜しく言っておいてくれ」
「みんな、またねー」
生駒と遥香、横井さん、波崎さん、橋本さんが電車に乗る。方向が同じだから途中まで一緒なのだ。
その10分後、西白浜方面の電車が来た。
「じゃあな緒方。今度は俺のアパートに来いよ」
「じゃねみんなー」
玉内達も電車で帰った。残った面子は俺、ヒロ、国枝君、木村、大雅、麻美。その麻美さんが口を開いた。
「みんな集まるまで時間あるけど、どうする?」
どうするって、普通に俺ん家かヒロの家でマッタリするんじゃね?
「昨日の話もしたいんだけど」
「横井さんと橋本さんに繰り返しの話をした事か?」
頷く麻美さん。だけど、と一呼吸して。
「私の家は駄目だからね。欲求不満の高校生男子を招くとか、エロ漫画みたいな展開になりそうだから」
「「「ふざけんなよお前」」」
突っ込んだのは俺とヒロと木村だった。国枝君と大雅は苦笑い。
「ああ、大丈夫大丈夫、国枝君と木村君は信用しているから」
「「「俺達は信用されてねーのか!?」」」
突っ込んだのは俺とヒロ、大雅だった。
「言っとくけど冗談だからね?隆はヘタレで何も出来ないだろうし、大沢と大雅君は彼女が怖いだろうし」
「お前俺だけディスっているよな!?」
突っ込んだのは俺だけだった。どうあっても俺を馬鹿にする事しか考えていないんだ、こいつ。
「そこで、これ」
じゃーん!!と出したるは、あの喫茶店の割引チケット。
「コーヒー半額チケット~」
「何故ドラえもん風に……」
「遥香ちゃん曰く、コーヒーの他に紅茶も半額になると言う優れもの」
あの喫茶店で話そうって事か。半額なら、まあ…
「緒方ん家で飲んだばっかだが、半額ならいいか…」
木村も納得…って訳じゃないが、そうするようだ。
「じゃあみんな、それでいいよね?」
促されて全員頷く。麻美さん、何故か大いに頷いた。
「追加は自腹だって」
「そりゃそうだろ?わざわざ言われるまでも無い」
「だから、私のケーキ代、アンタ達が割り勘で捻出して」
「「「「「なんでそうなる?」」」」」
流石に全員が疑問で突っ込む。
「いや、あの話をする為に喫茶店に行く訳だから。だったら半額チケ以外の何かも頼まなきゃ。でしょ?」
「でしょ?とか言われても、お前のケーキの金を払わなきゃいけねえのが意味解かんねえんだよ。食いたきゃ自分で金払えよ」
ヒロの当たり前の言葉に全員納得の頷き。自分で金払って食えよ。
「まあまあ、では行きましょうかね」
なにがまあまあなのかは解らないが、麻美さんが先陣切って歩いたので、仕方なく後に続く。
で、喫茶店に到着。内緒話をするので一番奥の席に陣取った。
「じゃあマスター呼んで木村君」
「なんで俺が?」
「だって通路側に一番近いから」
「……西高の頭の俺をそう簡単に使う奴、滅多にいねえぞ…」
ブチブチ言いながらマスターを呼ぶ木村。なんだかんだで付き合いがいい。
「えっと、コーヒー5つに紅茶1つ。で、レアチーズケーキ一つ。飲み物は半額のクーポンあります」
半額チケットをマスターに手渡しながら。
マスター畏まりましたとか言って引っ込んだ。これで注文はした事になるが…
「おい、お前のケーキは知らねえからな。どうしてもっつうなら、緒方と大沢に払ってもらえ」
「なんでだよ!!」
「そうだ!!隆は兎も角、俺も知らねえよ!!」
冷たいヒロだった。俺が払うのはいいのかよ!
「言っとくけど冗談だから。自分が食べるケーキ代は自分で払うよ。どうしても御馳走したいって言うんなら吝かじゃないけど」
吝かも何も、自分で払うんならいいんだよ。誰も御馳走したいなんて思わねーから安心しろ。
頼んだコーヒーが来て、息を吐く。これまで雑談だったのだが、これからが本題だ。
「……昨日橋本さんが大雅君を呼び出したでしょ?あれ、説得の為だったんだよ」
「説得?」
レアチーズケーキをパクンとやりながら頷く。
「大雅は橋本さんは信じたって言っていたけど……」
「うん。信じた。と言うよりも信じる事にした。今までの辻褄もあったし、ボイスレコーダーも聞いたし。須藤真澄の声だって直ぐに気付いたしね」
同じ学校だからな。声くらいは簡単に見切れるだろう。
「でも、大雅君は多分違うって。信じようとするだろうけど、絶対どこかで否定するって」
そうなの?と大雅を見る。
「……それに関してはそうだね。だけど、俺も見たから。幽霊を」
「その幽霊だって実は幻じゃないか?とか思っちゃったりする?」
「………そりゃ、そう思うよ。幽霊なんか見た事無いんだし」
疑り深いんじゃなく、オカルトは基本信じないスタンスなんだろう。だから素直に信じられない、か。
「それを橋本さんがどうにかしようって事で呼び出したんだよ。実際全部信じた訳じゃないって言ったらしいよね?」
「そりゃ…」
「でも、橋本さんのスタンスは、友達が言った事を信じないでどうすんの?って事だから。どうにか説得しようとした訳。肩透しだったらしいけど。大雅君、全否定じゃなく半分以上信じていたから」
そりゃ実物を見たんだし、当然だろ。俺も話だけじゃ絶対に信じない自信があるし、大雅の気持ちの方が解る。
「で、横井さんの方。繰り返云々はやっぱり信じられないって言ってた。だけど信じるように努力はするって。河内君に電話で確認も取ったから」
「須藤の生霊を見たってアレか?」
木村の問いに頷いた。やっぱりチーズケーキを食いながら。
「やっぱり須藤真澄のボイスレコーダーの存在が大きいね。あれが無ければ絶対に信じる事は出来ないよ。横井さんがそう言っていたもの」
ボイスレコーダーの存在で、多少なりとも信じたのか。そうなると河内が可哀想。入院中なのに夜中に電話で確認取らされても、ボイスレコーダーに負けたって事だから。
「因みに早朝、横井さんのスマホに着信があってみんなが目覚めた。河内君が朝5時に電話して来てさ。マナーにするのを忘れていたって嘆いてた」
「本当に糞迷惑な奴だな」
ヒロがみんなの気持ちを代弁した。なんだ早朝5時に電話って?
「横井さん、速攻で着信拒否にしたよ。今日病院にお見舞いに行く時、的場さんに相談しようかって悩んでた」
「的場に殺されねえか河内?女に迷惑を掛ける様な野郎が後釜なんだから」
木村が気の毒そうに言う。因みに気の毒に思っているのは横井さんに対してだ。河内の事なんか知ったこっちゃねえんだよ。全員。
「で、ヤマ農の松田君と北商の倉敷さんもお見舞いしたいって言うから、今日一緒に行く事になったから」
松田も?いや、松田は面識があるけど、倉敷さんとはあんま話もしなかったんじゃ?それなのに河内の見舞いに来るの?
「松田君、敵の大将の一角を倒したんでしょ?なんか内湾の女子達がキャーキャー言って囲んでいたのを苦笑いして見ていたからね。ここで一緒の行動して好感度を高めよう作戦なのよ」
「倉敷さんは最初から松田狙いで、内湾女子は彼氏持ちだろ?」
だから焦る必要はないと思うのだが。つうかヤマ農の女子も親睦会に来なかったっけ?その人達は松田とは関係ないのか?
「じゃあ待ち合わせ時間は?」
松田と倉敷さんも合流するんなら時間も合わせたんだろ?
「10時に白浜駅。だからもうちょっとここで粘ろうよ」
時計を見ると、9時ちょい過ぎ。一時間近くもここで粘るのか…
「半額コーヒーでそれだけ粘るのはちょっと…」
国枝君が常識人っぽく申し訳なさそうに呟いた。絶対に迷惑になる。
「だったらもう一杯頼めばいいよ」
「お金が勿体ないって話だろ。だったら俺かヒロの家で時間潰した方がいい」
「え~…しょうがないな…アンタ達、私に欲情してエロ漫画的な展開を期待しないようにね」
「「「家に帰れお前」」」
俺とヒロ、木村が同時に突っ込んだ。お前も家に帰って時間になったら駅に来ればいいだろが。
「そんなに邪険にしなくてもいいじゃない」
「邪険にさせるような事を言うからだろうが」
既にコーヒーは飲み干したので、お冷で喉を潤しながら言う。
「まあ仕方ないか。アンタ達遅れないで来なさいよね」
「ああ、うん。お前もな。因みに全員駅に来るのか?」
「他に行く時間も無いからそうだろうね」
まあそうだな。精々駅近くのコンビニに行くのが関の山だろう。
喫茶店を出てヒロの家に行く。俺ん家には昨日全員泊まったから、今日はヒロの家と自然に決まった。
「お前等隆から借りた着替えでいいのか?俺のも貸すぞ?」
「俺はいいよ面倒くせえ」
「僕も緒方君から借りた服でいいよ」
「俺も」
全員ヒロの申し出を断った。何故か項垂れたヒロ。改めて着替えるのが面倒だって事だから気にすんな。
「まあまあ。なんか飲み物くれよヒロ」
「冷蔵庫から適当にとって飲め」
お言葉に甘えて小型の冷蔵庫を開ける。
「なんだよ大沢。ビール入ってねえじゃねえか」
「あってたまるか。あったら呑むのか、こんな朝っぱらから」
木村のぼやきに突っ込むヒロ。
「お茶は…ジュース類しかないのか…」
「茶なんて味ねえだろが」
大雅の好みを暴言によって退けるヒロ。
「国枝君はなににする?俺はこの微糖のコーヒーにしよう」
「じゃあ僕にもそれを貰えるかい」
そう言って俺も自分もと微糖のコーヒーを手に取った。
「お前等隆ん家で死ぬほどコーヒー飲んでいるだろが。俺ん家に来た時くらいジュース飲めよ」
「この冷蔵庫には酸味と甘みしか入ってねえから、コーヒーが一番口に合うんだよ」
木村の言う通り、この小型冷蔵庫にはオレンジジュースとかコーラしか入っていない。結果微糖のコーヒーが一番マシになるのだ。少なくとも俺には。
しかも無理やり詰め込んだせいか…
「全部温いじゃねえかよ。この小さい冷蔵庫に入れ過ぎなんだよ」
木村のボヤキの全員同調して頷いた。そうなのだ。ヒロの冷蔵庫はただでさえあまり冷えないのに(冷凍庫は全く役に立たない)、これでもかと缶ジュース類を詰め込んでいる。これじゃ冷却効果は期待できない。そもそもだ。
「お前、こんなにジュース買ってお金大丈夫なのか?」
「スーパーで安い時にお袋に頼んで大量仕入れして貰ってんだよ」
「なんだ、大沢のお金じゃないのか」
大雅ががっがりしたように。つか、実際ガッカリしたんだろうけど。
バイクのお金も全部親から借りるってみんな知っちゃったし。俺がバラしたんだけど。
「いいじゃねえかよ。それより俺のバイク見るか?」
「ああ、河内君が勝手に手配したって言う?」
「的場から買ったんだっけ?5万で」
「でもまあ、今はいいよ。動かないバイクを見ても楽しくないから」
「そ、そうか?」
折角バイク持ちになったんだから、バイクの話題で盛り上がりたかった(話が自分中心になるし)が、みんなあまり興味が無かったようで、少し可哀想だ。
「だけど、これで夏にキャンプには行けるよな」
気の毒に思い、話題チェンジした、実に気が利く俺。
「その前に大沢君は免許を取らなきゃね。バイクだけあっても乗れないんだから」
「お、おう、そのとおりだ」
無免許はキャンプに参加は出来ん。何故ならツーリングも兼ねているからだ。だからあんま無駄使いしないでお金を溜めろ。
まあ、話題を続けよう。ヒロの微妙な表情はこの際無視だ。
「やっぱ海だろ?」
「おう、お前、前回の繰り返しで槙原の伝手でコテージに泊まったとか言っただろ?今回もそうして貰おうぜ」
「だけど、そのコテージで首つり自殺の霊が出たらしいじゃないか?なるべくならそう言う所は避けた方がいいと思うよ」
そんな話題をしていると、大雅が怪訝な表情。
「どうした?」
「……いや、本当に君達は緒方君の話を信じているんだな、と思って」
前回のキャンプの話で盛り上がっているからか。違和感なく。
「今更だ。お前がイマイチ信じられねえって気持ちも理解できるが」
ヒロが何でもないとコーヒーを煽りながら。つかお前も結局コーヒー飲んでるじゃねーか。
「……俺も見たからな…」
信じたい気持ちと信じられない気持ちで葛藤しているのか。別におかしな事じゃない。
「お前はお前が信じるって所で納得してくれればいいよ。今無理やり信じなくてもいい」
「だけどさゆも信じるって言ったから…」
「橋本さんは橋本さんで、お前はお前だ」
彼女に引っ張られて考えるのはやめろ。尻に敷かれるだけならまだしも。間違いを間違いと言えなくなるぞ。
雑談していたら頃合いになったので駅に向かう。
既に彼女さん達が到着していて、お茶なんかを飲んでた。その中で居心地悪そうにしている松田を発見。
その松田が俺達を発見して安堵したように寄ってくる。
「緒方、助かった。男子俺一人だから話す事無くて…」
「牧野を倒した英雄様がそんなダセえ事言うな」
木村に弄られてさらに困惑して続けた。
「倒したって言っても、殆どマグレだぞ。だから大袈裟にして欲しくねえんだが…」
そう言っても実際倒したんだから。ヒロと生駒がドンだけ悔しいか解らんだろ。
「マグレでもなんでもいい。実際倒したんだから。牧野が南海でどれだけ厄介に思われているか知っているだろう?」
「南海大雅派の大将にそう言われると、余計恐縮するんだが…」
いいんだよ。だから素直に感謝されとけ。
「大体糞なんて死んでもいいだろ。俺だったら殺しているから、寧ろお前が倒してくれてありがたい」
「緒方がそう言うと本気に聞こえるんだが…」
本気も本気だ。素直にそう思うんだから。
「緒方君じゃなく、松田君が倒したおかげで、友好校は層が厚いって事が解ったんだから。潮汐も下手に手を出せなくなるし、南海も内湾も有り難い話しなんだよ」
橋本さんが乗っかって来た。スポーティな橋本さんと対照的なロングスカートの姿で。アレが横井さんが貸した服だろう。
横井さんは私服も真面目さんだからな。丈の短いスカートはあまり持っていないらしいし。
「丁度いい時間じゃないダーリン」
此処で遥香も寄って来た。黒木さんは早速木村の腕に絡みつく。
「電車時間も頃合いか?」
鬱陶しそうに跳ね除けて。まあ、これは見慣れた光景だからスルーして。
「遥香、倉敷さんは?」
「今トイレに行っているよ。だからダーリンたちで全員揃ったって訳」
横井さんは麻美とおしゃべり中だから、これで全員か。
その倉敷さんがいそいそと帰ってきた。
「あ、来た来た。みなさんおはようでーす」
ぺこりとお辞儀して。実に礼儀正しい。
「あー、漸く来た、馬鹿隆」
こいつが酷いのは今更だから無視だ。
「緒方君、国枝君、みんなおはよう」
横井さんも合流に気付いたか寄ってくる。もうちょっとで電車が来るが、ちょっと確認だ。
横井さんにさりげなく寄って行き、こそっと釘を刺した。
「繰り返しの事、誰にも言わないでくれ」
「……正直言って、まだ信じられないし、例え信じたとしても全部は無理ね。だけど、言わないのは約束するわ」
大切なお友達の為だしね、と仄かに笑う。
笑った横井さんも美人さんだ。これは河内に勿体ない。
電車に揺られて黒潮駅到着。ここからバスで移動だ。
「丁度バスが来たよ。ちょっと混んでいるけど、これに乗ろう」
座れない程じゃないが、全員は無理だ。なので野郎共全員は立った。
「紳士だね、馬鹿隆の分際で」
「なんなら座席代わってもいいんだぞ」
「ヤダよ。疲れるのは」
だったら無駄に毒付かなくても良かろうに。お前の酷さは今更だが、この頃酷さがパワーアップしているぞ。
………この頃?
確かに以前も酷かったが、これ程じゃ無かったような気がする。弄っている訳でもない。距離を開けている?関係に線引きを明確にしている?
「馬鹿なのにボーっとしちゃ、もっと馬鹿に見えるんだけど」
気のせいだ、こいつは元々こう言う奴だ。俺に酷い事を言って自分の精神を安定させるような奴なんだ。
「あ、だったらダーリン、ここ座る?私はダーリンの膝の上でいいよ」
「遠慮しておく」
立つよりもっと疲れるだろ、それ。肉体的にも精神的にも。
そして、漸く到着した黒潮病院。昨日も来たから楽勝で病室が解る。
ズンズン進むと、黒潮とか連合の連中の姿がチラホラ見られる。昨日決着が付いたのに、なんでまだガードみたいな真似をしてんだ?
なので黒潮っぽい奴をとっ捕まえた。その理由を聞く為に。
最初は俺に粋がっていたが、木村の顔を見ると青ざめた。「え?まさかこいつが緒方?」と小声で漏らしたのも聞こえた。
俺相手だったら粋がるのをやめるってのは違うだろうに。一般人をビビられるとか、ホント糞だな。
「ち、ちょっと待て!!なんで拳を振り上げるんだ!?」
超ビビってイヤイヤと首を振った。何度も。
「お前、相手が俺じゃ無かったら、あのまま喧嘩吹っかけようとしただろ?」
「そ、そんな事は無い…」
「いいから緒方、病院で揉めるのはやめろ。そうじゃなくともこいつ、黒潮なんだ。俺の顔も立ててくれよ」
木村がげんなりして肩に手を置く。このやり取りもテンプレートと化して来ているな。
「病院だから、診察に行く手間も省けていいだろが。黒潮の生徒?知らねーよ、だから何?こいつ、一般人なら呼び止められただけで喧嘩売るような奴だろ。俺が相手だったのが不幸なだけだ」
「いや、緒方君も呼び止める時、強引に肩を引っ張ったよな?」
大雅の突っ込み通り、呼び止める時に強引に振り向かせたけれど。
「いいじゃねーか糞がどうなろうが。こいつ等にいちいち礼儀は必要なのか?」
「いや、お前、そりゃ強引過ぎんだろ。気に入らない連中だろうが、そりゃお前が悪いわ」
ヒロが呆れながらそう言う。まあ、俺も悪かったのは認めよう。なので拳を降ろした。
「おう、悪かったな糞。ちょっと先走った。で、お前みたいな糞をわざわざ呼び止めたのは、昨日決着が付いた筈なのに、何でガードの如くお前等糞共が病院内をうろちょろしているかが気になったからだ」
「全く悪く思ってないよね?」
国枝君にも突っ込まれた。まあ、俺は糞が嫌いだから、確かに悪いとは思っていない。寧ろ理不尽でもぶち砕いたいくらいだ。
「そ、それは昨日アンタが狭川を倒したからだ。奴等、救急でこの病院に搬送されてんだよ…」
おっかなびっくり答える糞。要するに他の仲間が接触するかもって事で院内を張っているって事だ。んで、木村が呆れ果てた。
「全部お前のせいじゃねえかよ」
まあ、あそこまで追い込んだ俺の責任も確かにある。しかしだ。
「狭川が吹っかけた喧嘩だろうが。なぁ糞?」
糞が頷く。咄嗟に。
「もう質問はいいかしら。早く病室に行きましょう」
ゴタゴタに興味なしって感じの横井さんだった。この人曲げねーな、自分を。
「じゃあもう一つ質問だ。的場は来ているか?」
「的場さんは家の用事でまだ来てねえけど、いずれ来るんじゃねえかな…」
的場が居ないんじゃチクれないじゃねーか。河内の迷惑行為を。
「もう一つ。狭川の病室は何処だ?」
場に緊張が走った。俺は入院先に押しかけて追い込む男。今回もそうすると思っているのだろう。
状況次第ではそうなるが、今回は違う。朋美の情報をもっと戴こうって魂胆だ。
狭川の病室を聞いて取り敢えず河内の病室に。
中から何やら話し声が聞こえるが、構わず突入する。
「おう、来てやった「なんだコラあ!!」ああ、もういいや」
ベッドの河内が蒼白になるが、知ったこっちゃねえ。上等こいた馬鹿はぶち砕くのみ。
「ば、馬鹿!!こいつが緒方だ!洒落なんねえぞ!!」
「え?マジ!?」
「緒方って狭川をスクラップにした?」
「的場さんが絶対に関わるなって言った奴!?」
糞三人が慌てふためく。
「さっきの奴と違って、完璧に喧嘩売ったよな。だったら買ってもいいだろ?」
それとなく聞いてみる。
「駄目に決まってんだろ。黒潮と西高は友好協定を結んでるのは知ってんだろ」
「南海大雅派とも協定を結んでいるからね。ここは堪えて欲しかな」
「おう、やっちまえ隆。何なら加勢するぞ」
流石心の友だ。お前だけだ、やってもいいって言うのは。
「揉め事なら外でやって頂戴、ここは病院よ。具合が悪い人の為の施設なのよ」
横井さんのド正論だった。じゃあ外に連れ出そう。
「おう糞共、外に出ろ。何なら仲間呼んでもいいぞ」
「お前マジでやろうとすんじゃねえよ!!大沢も煽るな!!つか千明さん、こいつに余計な事言わないで普通に止めてっ!!」
涙目でイヤイヤと。お前黒潮の頭だろ、そんなみっとも無い姿を見せても良いのか?
河内が必死に宥めやがるので、渋々溜飲を下げる俺。代わりにだ。
「じゃあお前等とっとと失せろ。次顔見たら殺すぞ?」
「そこはやっぱお前だよなぁ……一応俺のガードでいるんだけど…」
がっくりと肩を落とす。お前にガードなんかいらねーだろ。
「ダーリン、的場さんの後輩でもあるんだし、ね?黒潮と揉めるのはやめようよ」
的場の名前を出して宥めて来るとは。だけどだ。
「的場とも必要なら戦うんだけど……」
「あんなにお世話になってそれ!?」
余程びっくりしたんだろう。超仰け反った。
やりたくないとは言え、やらざるを得ない状況になったらやるだろ。それは的場に限った話じゃない。木村も河内も大雅もそうだ。
なあなあの付き合いじゃねーんだよ俺達は。覚悟を決める時は決めるんだよ。つっても的場は引退間近だから、もうそんな心配はないだろうけど。
「そうは言ってもやりたくねーぞ?お前の言う通り世話になっているし」
「うん…その気持ちを他の人にもちょっとは向けて欲しいって事なんだけど…」
「だってこいつ等には世話になってねーもの」
「だから、俺達の顔を立ててやめてくれって頼んでんだろ」
「だから、とっとと失せたらこの場ではやらんって言ってんだろ、次顔見たら殺すだけだ」
このやり取りを見た松田が蒼白になっていた。「やっぱこいつが一番おっかねえんだ…」って呟きも聞こえた。
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