とうどうさん~013
依頼がない時はなるべく一緒に居て、依頼はなるべく長引かせて。
それでも手首の傷は増えて行く。癒えて、また増やして、そして痕が増える。
流石にクラスにバレ始めたが、嘘で塗り固めて無かった事にして。
それでも限界はやって来る。今じゃなく、近い何時かに。
「……マジで母ちゃんブチ殺した方が早いような気がする……」
「げんなりすんな。お前が先に折れたら俺達の立場がねえだろ」
トーゴーに慰められた。そうなんだよな、自分がこいつ等を巻き込んだんだよな。既に今現在も巻き込んでいるし。
此処は連山。今回の依頼は高校生からだ。一つ下のなんかのチームに狙われているから助けてとか。
こう言う依頼はトーゴーがほぼ同行する。荒事担当と言って良い程だ。
「お前でもできるよな?なんでわざわざ俺が……」
ブチブチ言いながらも付き合ってくれる、実に良い奴だ。まあ、兎も角……
待ち合わせの駅のベンチに座って依頼者を待つ幸に寄って行く東山。
「簡単に言えば例によって例の如く、仇取ってくれって依頼だ。やる事は?」
本来ならこんな依頼は知らんぷりして便箋をぶん投げるのが通例だが、今回は依頼を請けた。
理由はこのところ依頼が無く、幸の手首の傷が増えて来た事と、もう一つ……
「報復は考えないで忘れろって説得。向こうの人達にもこれ以上やめてとお願いする」
幸の返しで我に返る。そう、全く以てその通り。トーゴーも苦笑いしているし、自分の時と同じような状況だからだ。
「ブレずに何より。じゃあ任せたぜ。逆ギレして突っかかってきたら俺とトーゴーが穏便に済ませるから、気楽にな」
「穏便に済ませた事、あったかな……」
幸が首を捻るも、あるだろ。力付くで。どうせ忘れさせるんだから何でもいいんだよ。
最初は幸一人で対応する。東山達は隠れて様子を窺う。それは、依頼者の方もクズだった場合に限るが。
要するに、ぶちのめしやすい状況を作ると言う事だ。クズの頼みは無償で聞かないとトーゴーが頑張ってそう言う方針にした。
有償。この場合は依頼者にも相応の痛みをくれてやる事。自分の過去と重ねてそう思ったのだろう。だから反対しなかった。少なくとも東山は。
幸も渋々じゃない、寧ろあっさりと了承した。こっちが拍子抜けするほど。
しかし、考えれば当然の事かもしれない。幸も母ちゃんの事を憎んでいるから。殺したいほどには。
同時に愛してもいるからリスカして見せているのだろうが。
「白井の情報によれば、依頼者は年下から金を奪っているらしい、従わない場合には暴力も使って」
「んで、虐めている奴が何とかのチームの関係者で報復されているって事だろ?しかし、自分でも人数集めてやり返そうとはしないのかねえ?」
「早乙女と違ってそいつはほぼ全員に嫌われているようだからな、仲間はいねえ。居るのは利用する奴だけって真正のクズだよ」
早乙女さんよりクズって、相当な野郎だな、そいつ。
「逆に報復している連中のリーダーってのが気になるよな」
白井の情報ではただの格闘技好きで、チームの殆どが問題児で(俗にいう不良だ)そいつ等にも格闘技を勧めて仲間内でバトって遊んでいるだけだと。
「えっと……
「今更だけど、あいつどうやって調べているんだろうな……」
聞いてもまあまあと濁されるし。全うな手段で入手してない事は間違いないだろう。それでも感謝しまくりだが。
何度も言うが、東山は幸が納得してくれるなら何でもいい。だから手段は問わない。幸がリスカして傷を増やす事がないようになるのなら、何でも構わない。
そして待ち合わせ時間から30分過ぎたあたりに、そいつはやって来た。
見るからにそっち系のガラの悪そうな顔。とうどうさんを捜しているのか、キョロキョロしている。
「30分も遅刻してきやがって。わざわざ渓谷に依頼出して来たってのに、危機感ねえじゃねえかよ」
ピコピコと幸にメールを出して撤退させる。幸も普通に指示に従った。
東山の方に来た幸。遠目ではあるが、依頼者を見た感想を述べる。
「困っている風には見えない。仕返しだけ頼みたいって感じ」
「お前はどうしたい?それでも助けたいか?」
暫く考えて首を横に振った。
「白井君の調べたの読んだけど、自業自得の部分が大きいしね。でも、敵対者の方がね」
「じゃあそっちを助けよう。それでいいよな」
「助けるって、敵対者の方も困っている言っての?」
「あんな野郎に粘着されてんだ。困っているに決まってんだろ」
わざわざ仕返しを企んで依頼出してきた野郎だぜ?今後の為にもきっちりした方がいいだろ。それに、敵対グループのリーダー、ちょっと気になるしな。
「じゃああの野郎はかるーく仕置きして追い返す程度にしとくか。俺が行っていいんだろ?」
いいよと言う前にとっとと向かって行ったトーゴー。幸もちょっと困ったように溜息を付いた。
「トーゴー君も以前似たような状態だったからね。ああ言うの許せないんだろうね」
「そう言いながらも止める気なさそうだよな。お前」
「いざとなったら颯介が止めるんでしょ」
いざも何も、記憶を消す為に止めに入るんだよ。とは勿論言えず、普通に頷いた。
トーゴーが野郎に肩を叩いて振り向かせた。そして何やらごちゃごちゃと。
野郎がいやらしい笑顔になり、馴れ馴れしくトーゴーの肩を抱いて外に出た。
「外で詳しい話ししようって事だろうな。トーゴーの顔見て期待に添えられる奴だと直感で解ったんだろ」
「じゃあ、この依頼が終わったら、利用するために個人的に仲良くしようって考えも勿論持っているよね」
そもそも先述の通り、仕返し代行は断っている。それでもこのように内容を偽って仕返しを頼んで来る奴も居る。そして、今後も利用しようと友達のように接して来る奴も勿論居る。
幸があっさり引いたのはそんな理由もある。
「ま、兎に角後追おうぜ。あいつ、やり過ぎる時あっからな」
「そうだね」
そんな訳でトーゴーの後を追った。別に隠れる事も無く、堂々と。
そして依頼者と路地に入った。細かい話を聞こうって事だ。当たり前だが敵対グループの話しも聞く事になる。力付くで。
近くで暫く待機。ぶん殴っている音が派手になったら東山が止めに入るって寸法だ。
「幸、お前は此処に居ろよな。足手纏いだから」
いつだったか、似たような状況になって幸が乱入して人質になりそうな時があった。
東山が嘘を駆使して、トーゴーがぶっ飛ばして事無きを得たが、危ない目に遭わせられないから自分が常に同行している筈だ。
だからハッキリ言う。足手纏いだと。酷い言い方だろうが、怪我させるよりは遙かにマシだ。
「解ってる。ああいうの、ホントに御免なさいと思ったし」
解ってくれればいいし、知っている事だろう。東山が自分の為に身体を張っている事は。
ともあれ、東山も現場に赴く。
場には丸くなって震えている依頼者と、程よくぶっ飛ばして息が少し荒くなったトーゴー。
「お前、やり過ぎじゃねえの?」
「は?まだ10発も殴ってねえけど。こいつ雑魚過ぎんぞ。真面目な話、喧嘩なんかできねえぞこいつ。自分よりも弱いモンいたぶって楽しんでいる、真正のクズだ」
いや、お前に10発もぶっ飛ばされたらこうなんだろ。と思いながらも一応訊ねる。こそっと。
「間合いは使ったのか?」
「使うまでもねえと思わねえのか?」
納得だと頷く。
「んで、兵藤だっけ?の事聞いた?」
「まだだ。それはお前に頼む」
あ、そう、と、屈んで丸くなって震えている野郎の肩を叩いた。
「悪いけど、聞きたいことあるんだよ。ちょっと顔あげてくんねえか?」
しかし、丸くなったままだった。幸も待っているから時間かけられねえってのに。
なので実力行使する事にした。具体的には髪をひぱって顔を上げさせた。
「ひっ!?」
「ひっ、じゃねえよ。聞きたい事があるって言っただろ。答えてくれるよな?」
頷いた。三回ほど。涙を流しながら。ホント雑魚いぞこいつ。こんなの相手取る連中もなんだかなぁ……
まあいいや。取るに足りない奴だったら無視するから。
「アンタと敵対しているグループ?紅蓮だっけ?そこのリーダーってどんな奴?」
「ど、どんなって……依頼書にも書いた筈だ。仲間を集めて調子に乗っている嫌な野郎だって……」
嫌な野郎ってのはお前だろ。つうか、こいつから見ればそうなるんだよなぁ……じゃあ有意義な情報なんか持ってねえじゃん。
トーゴーに目配せして白井に連絡を取らせた。離れた所でごにゃごにゃ話をしているので簡単に繋がったと思われる。
「おい、こいつよりもまともな情報あるようだぞ」
通る声でそう言った。つまり用無しだって事だ。
「よし、アンタはもういらねえ。この事は忘れて家に帰ってクソして寝ろ」
心からそう思った。依頼者の頭がガクンと下がった。
「今の内にズラかるぞ。こいつはもう忘れた」
「ホント、お前の力って便利だよな。俺の力と交換したいくらいだ」
お前の力だって喧嘩じゃ無敵だろうが。いいだろだったら。
そして戻って幸の手を取った。駅からとっとと離れるって事だ。
「トーゴー君はどうすんの?」
「あいつは白井と話し中だ。向こうのリーダーとも話しつけなきゃいけねえからな。依頼者は碌な情報持ってなかったから」
「白井君ってホントにどうやって情報集めているんだろうね?」
それは自分も聞きたい。だけど絶対に言わねえんだろうな。
駅から離れた所にあるカフェに入った。しかしお金を節約しなきゃならねえから、一番安いブレンドだ。
「私はホットレモネードだけど」
「自分の金なんだから好きなモン飲めばいいだろ。俺は節約しなきゃなんねえ理由があるからこれでいいんだよ」
「まだ私の学費を稼ぐとか言っているの?」
呆れ顔だった。本気にしてねえんだろうなぁ、とは率直な感想だ。
「おう、待たせたか?」
此処でトーゴーが合流。早速キリマンを頼んでやがった。自分はブレンドなのに。
「なんかムカつく事でもあったのか?ヒデェ顔になってんぞ」
「キリマン頼まれた程度でそんなになるか。で、兵藤ってのは何処住みだ?」
「ん?ああ……」
スマホに住所を打ち込む。流石グーグルさん、地図アプリは大変便利だ。
「意外と近いな。歩いて行けるのはいい」
「バス代ですら節約対象なの……?」
当たり前だろ。ホントならブレンドも頼みたくなかったんだ。水でいいんだよホントは。
「だけど、今行ってもいるかどうかは解んねえぞ?」
「帰ってくるまで待てばいいだろ。遅くなった場合、幸、お前は先に帰るんだぞ」
「私の家も颯介の家と同じだって知っているよね?」
知っているが、それはそれ。女子に外泊なんかさせらんない。ご近所の目の厳しさは幸もよーく知っているだろう。
「と、言う訳で今まさにそいつの家に向かっている訳だが、御馳走様トーゴー君」
「私も御馳走様トーゴー君」
幸と二人でお礼の辞儀をする。トーゴー、意外と嫌な顔を拵えた。
「いちいちいらねえよ礼なんて。何回も言うが、一人暮らしだから仕送りで、それも多めに貰っているんだから」
それでもお礼は言わなけりゃいけないだろ。いくら友達と言ってもケジメ大事。
「で、兵藤にあってどうするつもりだ?」
東山じゃなく幸に問う。東山の目的は何となく解っているのだから。
「あの人をこれ以上いたぶらないようにってお願いするだけ」
「兵藤が白井の調べた通りの奴なら話し合いは可能だろうが、仲間やられた報復なんだから多分揉めるぞ?」
「それでも、お願いする事しか出来ないからね」
それしか手は無い。幸に限っては。
いつだってそうやって来た。頼んで、願って。何とかしようと頑張る姿勢を見せ付けていた。
それを母親にやっても無駄だった。だからより激しくアピールし出した。それでも母親は知らん顔だ。
血の繋がった親でもそうなのだから、他人なんてもっとそうだろう、関係ないと。
だから、関係ある東山がその分頑張る。これもいつも通りだ。足りない部分は友達が補ってくれる。これもいつも通り。
「結局は変わらねえって事だ。失敗したら俺が出張るから気楽にやれ」
「颯介って意外と言いくるめるの上手いからね。白井君の時もそうだったし」
非道い言いようだったが、嘘は東山の業。白井の情報でちょっと思った事があった。
ひょっとして兵藤は『こっち側』なのでは?
『こっち側』ならばその業は必要ないが、まだ解らない。
直感はそう言っているが、実際会ってみないと何とも言えない。まあ、会った所で一回死んだか否かは聞かないと解らない事だが。
場所は直ぐに解った。住所の付近を歩いていたら、ガラの悪そうな連中がたむろっていたからだ。
その真ん中に居る金髪。あいつが兵藤。間違いない。
「幸」
頷いてその輪に歩を進める。
「一応付いていた方が良くねえか?兵藤は評判通りなら大丈夫だろうが、周りの奴等は解んねえだろ?」
「幸に手を出したらぶっ飛ばすから何でもいい」
「だから、それじゃ後手だろって言ってんだが……」
だけどそれ以上は言わず。まあ、その辺は何となくの感覚だ。多分大丈夫って。
そして幸の接近に気付いた野郎が凄んだ。
「なんだこの女?」
超イラッとした。幸を怖がらせやがった。
トーゴーに肩を叩かれた。解ってるってと頷いて応えた。
「あの人をこれ以上いたぶらないで」
ん?と顔を見合わせる野郎共。誰だあの人って感じで。
仕方ねえ。ちょっと助けてやるかと東山も前に出た。
「お前等の誰かがやられて報復している小物の高校生だよ」
「あ?誰だお前?」
幸の時よりも凄まれた。まあ、東山は男だからそうなる。
「だからな、お前等程度の連中に話してんじゃねえんだよ。そっちの金髪、お前に頼んでんだよ。お前がリーダーなんだろ?」
そっちの金髪事兵藤が東山に意識を向けた。幸に時は差して気にも留めていなかったのに。
「ちょ、颯介、向こうが悪い事は知っているでしょ?」
なんか喧嘩売っている風に見えたのだろう。幸が咎めるように口を尖らせた。
「知ってるから頼みに来たんだろ」
「頼んでいる態度じゃないような……」
だってお前だったら舐められて終わっていたもの。凄まれただろ?兵藤の仲間に。
「……事情を知っていながら狙うなって頼みに来たのか?」
此処で兵藤が立った。なんか仲間の連中の凄味も増した。
「そうだけど」
「なんでそうなった?」
「頼まれたから」
「誰に?」
「本人に」
言ったら全員立ち上がった。あの糞野郎の仲間だと思われたのだろうか?だったら心外だ。
「言っておくけど、あの糞野郎は本気で一回ぶちのめした方がいいと思っている。個人的にはな。だけど頼まれたんだから、形式だけでも頼まなきゃいけねえし」
「俺達がやめたとして、あいつが報復を諦めんのかよ」
兵藤が接近して顔を近付けてそう言った。意外とお怒りの顔で。
「諦めるだろ、あの野郎って友達いないんだろ。だから俺達に頼んだんだろうしな」
わざわざ渓谷に来てまで。そうしなきゃいけなかった理由も当然ある。
「お前、あの野郎を相当ぶっ叩いただろ?仲間も友達もいないあの糞野郎が頼らざるを得なかった理由がそこだ。だから、お前等が手を引いてくれりゃもう何もねえよ」
あの儘だったら殺されるとまで思ったほど追い込んだんだろ?だったらお前が手を出さなきゃ向こうから避ける。だったらもう関わる事も無くなるだろ。
兵藤が鼻を鳴らす。
「万が一はねえから安心しろ。今までもそうだし、これからもそうだ」
それはつまり、狙うのはやめないって事か。
「そこまで付け狙うか?言ったちゃなんだがお前のお連れさんもやられても仕方ねえ顔してっけど?」
顔が超真っ赤になった。
「仲間をやられてムカつくのは解るが、あんな雑魚にやられる方も拙いだろ。このチームって何だっけ?ストリートファイトのチームだっけ?そのチームのメンバーがあんな雑魚に負けただけでも恥ずかしいだろ。まさかそれも含みの報復かよ?」
「お前ふざけん…!」
仲間が前に出ようとしたのを手を広げて制した。
「……どうやら間違った伝わり方のようだな……それもあのクソがそんな感じで言い振らしたって事なんだろうが……」
ん?違うのか?
「解んねえだろうな。だが、お前は知らなくていい。関係ねえ奴が首を突っ込むな。お前自身も言っただろうが、あいつは糞野郎だってな。その糞野郎の言い分を真に受ける間抜けには何も言いたくねえ」
「……他になんかあるのか?」
「言う必要はねえ。何も知らねえ関係ねえ奴が、おいそれと口出しする事じゃねえんだよ」
……なんか相当な事をやらかしたようだな、あの糞野郎は。
「……よし解った。じゃあこうしようぜ。あの糞野郎を引っ張って来るから、事情ってのを説明してくれよ。あの糞野郎が嘘言ったと解った時点で俺達も付け狙うからよ」
幸が目を剥いたのが解った。依頼は仕返し。それですら普通は断る案件なのに、それを請けて、尚且つ更に混乱させるのかと。
「トーゴー、まだその辺に居ると思うから引っ張って来てくれ。幸も一緒にな」
言ったらトーゴーが奥から出て来た。それを見た兵藤達が結構驚いていた。
「仲間潜ませていたのかよ?奇襲要因か?」
「いや、お前等が話も聞かねえ連中だったらウチのリーダーがやべえからな。万が一の待機要員だ」
「お前が頭じゃねえのか?」
「違う。俺はただの兵隊だ。俺等のリーダーはこいつだ」
そう言って幸の肩を抱いて引き寄せた。幸、いきなりの行動に顔が真っ赤になった。
「女が頭……いや、最初から喧嘩しに来た雰囲気じゃ無かったような、確かに。やめろと言いに来ただけだったか……」
「そう言うこった。俺達はこれ以上やめてくれって頭下げに来ただけだ。お前が言う、向こうの言い分を信じてさ」
あの糞野郎が嘘を言ったのなら、幸を間違った事に加担させようとした事になる。そんな野郎、許す筈もねえだろ。
「そ、颯介、嘘ついて依頼した奴って今まで結構いたでしょ?」
「そうだな。そいつ等は後悔して貰ったよ。断った後にな」
「そりゃ、トーゴー君と白井君が事後処理しているのは知っているけど、被害者の前でまでやる事じゃないでしょ?」
兵藤達を『被害者』と断定したか。幸もそう感じたって事はそうだろうな。
「そいつの他にもまだ居るのか?ツラ出させろよ。顔も知らねえ奴なんか信用するか」
「白井は此処には居ねえよ。遠い中洲で留守番だ」
「中州からわざわざ来たのか?あんなクソの為に?」
「わざわざはそうだが、中洲はそいつだけだ。トーゴー、幸、早く頼む。俺はこいつ等ともうちょっと話してえから」
戸惑う幸を腕を引いてトーゴーが離れた。さて、こっちはこっちでこいつと二人っきりにならなきゃな……
さて、間違った情報じゃなく真実を聞きたい所だが……
「ぶっちゃけて言うが、お前等俺達を全く信用してねえよな?」
全員頷いた。厳しい顔を拵えて。
いや、一人だけはなんか迷っているようだった。
「えっと、兵藤、お前がリーダーでいいんだよな」
振られて多少キョドリながらも頷く。
「じゃあお前と心を通わせてだ、このヤバめの雰囲気をどうにかして貰おうって目論見があんだけど」
兵藤以外東山に襲い掛かって来てもおかしくない殺気を放っていた。こんな状況居心地悪すぎる。
「当たり前だろうが、圭吾、聞くんじゃねえぞこんな奴の言葉なんかよ」
「一時だろうがあの馬鹿野郎に着いたんだ。虚言を信じてな。そんな間抜けの言う事なんか信じるかよ」
叫びこそしなかったが、こんな感じでグダグダ言われた。まあ仕方がない事だが。
まあいいや、兵藤が打ち解けてくれればどうにかしてくれんだろ。
なので何の前触れもなく切り出す。
「兵藤、お前の力ってなんだ?」
兵藤が硬直した。他の連中は何言ってんだこいつ?状態になったが。
と、言う事はビンゴ。俺達に同じような匂いがしたからな。それもそうだが、白井の情報もある。
「半年くらい前だっけ?バイクで事故ったの」
この言葉に全員警戒心を露わにした。バイク事故の事は知っているのか。まあ、当たり前か。
「無免許運転を咎めようってのかコラあ?」
仲間の一人が肩を怒らせて接近してきた。
「そんな事は無い。俺もやっているからな。原付だけど」
「お前と兵藤が同類だと思ってんのか?あんま舐めた口利くんじゃねえぞ。一人でこの人数の前に居る度胸だけは買ってやるがよ……」
同類だ。ある種のな。お前等は同類じゃねえんだよ。ぶっちゃけ引っ込んでて貰いたいがそれは無理だよなぁ……
此処で兵藤が前に出た。仲間を手で制しながら。
「……お前もなのか?」
「まあな。つうかお前も何となーくはそう思ったんだろ」
「……あのクソがお前等に仲裁を頼んだのはその関係か?」
「ちょっと違うが、概ねそんな感じか?そもそも仲裁じゃねえし、頼んで来たのは仕返しだ。そんな依頼は断って来たが、お前に会いたくて請けたってのが真相だな」
「仕返しだコラあ!!」
仲間が突っかかって来たが、兵藤が一睨みするとビビって退く。
「……ちょっと話をしようか?内緒話を」
「……それには賛成だ」
そんな訳で兵藤と共にその輪から外れた。そしてアパートらしき建物の駐車場で脚を止めた。
駆け引きなんてガラじゃねえ。なので単刀直入に切り出す。
「やっぱ半年前くらいの事故で死んだのか?」
固まった兵藤だが、ゆっくり頷いた。
「くたばった切っ掛けは?」
「……こっちから全部言うのはフェアじゃねえ。そう思わねえか?」
成程、その言い分も最もだ。『仲間』にしたいんならこっちから曝け出さなきゃなんねえ。
心を許して貰う為には、こっちも心を曝け出さなきゃならねえ。
「そうだな。お前の言う通りだ。時間がねえから端折って言うが……」
東山は端折りながらも、重要な事は隠さずに全部話した。流石に生唾を飲む兵藤。
「……あの女の為にそんな事までして……」
「俺は幸が全てだからな。理解できなかろうが何だろうが、価値観は人それぞれだ。共感してくれなくてもいいが、他の奴に言うのは勘弁な」
「流石に言わねえけどよ……」
「んで、お前のほうは?」
訊ねたらしどろもどろながらも話してくれた。
敵対グループのバイクをかっぱらって乗り回した所、すぐにばれて捜されて報復された。だから事故じゃない、殺人だと。
「俺ってまだ免許持ってねえだろ?だから運転技術なんてねえのに、大人数で追いかけてくれやがってよ。コーナーで曲がりきれずにガードレールを乗り越えて崖下ダイブだよ」
「殺人じゃねえんじゃねえかなぁ……」
自業自得だと思ったが、敢えて口には出さず。出す必要もないが。
「首の骨折って、内臓ぶちまけて。その様子を上から傍観している自分に気付いて……」
気付いたら、横に去年死んだ母親が泣いて立っていたと。その母親からもう暫くこっちに来るな。罰は私が受けるからと。
「目が覚めたらくたばる一日前だ。最初は夢か何かと思ったが……」
案の定、敵対グループのバイクを見付けて乗り回してしまった。しかし、死んだ時とは違った事がある。
「お袋がよ、また繰り返すのか?って。悪鬼の如くの形相とはあの事だよ。ビビっちまってバイクから降りたんだから」
「それで命は助かった訳か。じゃあ『力』は?」
「後日、俺がバイク盗んで乗り回して放置して来た事がバレてよ。報復受けたんだよ当然。そん時、マジで悪い事をしたと思ったんだよ、お袋にさ」
バイク盗んだてきた敵対グループに、じゃないのかよと突っ込みたかったが堪えた。話しの腰はなるべく折りたくない。
「本気で真摯に頭を下げたんだ。お袋に。済まなかったってな。そしたら何か勘違いしたのか、そいつ等の毒気が抜かれて行くのを感じてよ。まあ、解ってくれたらな良いって事でチャラになったんだ。信じられるかって話だろ?昨日までツラ見たらぶち殺す勢いでぶん殴っていた間柄なんだぜ?」
「力は謝罪すれば許してもらえるって事か?」
「お袋にな。他の奴等にごめんと言っても何も発動しねえ。だけど、ある程度は制御できる。本気で謝りたい時に、お袋の顔が出てくるからな」
成程、あくまでも謝罪の対象はお袋さんって事なのか。それでチャラにしてくれるんだったら便利な力ではあるか。
「さて、お互い打ち解けた所で本題だ。あの糞野郎、本当は何をした?」
「打ち解けて……まあ、そう言われりゃそうかもだが、言う程打ち解けてねえような……?」
いいんだよ、とびっきりの秘密を打ち明けた仲だ。もう仲間だろ、友達だろ、確定だろそれは。
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