年末~002

 鮎川さんが身を乗りだす。

「お好み焼きもいいけど、ハニトー食べたいかな」

 じゃあバジルの方がいいのかな?だけど、バジルは店内が狭いから、内緒話に向かないんだけど…

「ええ~?私はお好みがいいなぁ」

 倉敷さんはおたふくがいいと。倉敷さんは痩せの大食いだそうなので、ガツンとした物が食いたいんだろう。

「う~ん…どっちも捨てがたいよね。ダーリンはどっちがいい?」

 おっと、振られちゃたゼ。俺はマジでどっちでもいいけど…

「国枝君、新しい店発見してない?」

 春日さんとお出かけしている国枝君だ。多分春日さん好みのお店を見付けている筈。

「う~ん…ジャンボパフェが食べられる所なら発見したけど…」

「「「そこだ!!!」」」

 女子達が全員身を乗りだした。パフェか…俺はあんまりなぁ…まあ、軽食の類はあるだろ。多分。

「じゃああそこのファミレ」

「「「却下!!!」」」

 ヒロの提案は、全部言い終える前に否決された。どうでもいいが、道端で項垂れるなよな。

「まあ、…じゃあ、そのジャンボパフェが食えるところに行ってみようか?」

 そんなに食いたいのなら、一度行ってみればいい。

「でも、結構歩かなきゃいけないよ?電車で一駅くらい…」

「いいよ、そこ行こう」

 鮎川さんが乗り気でどうにもならん。ジャンボパフェなんてお腹に収まるのか?そんな体型にはとても見えないんだけど。

 長い道中、てくてくと歩く俺達。マジで一駅分歩くのは面倒だが、女子達がそれでいいと言うのなら仕方がない。

「なあ国枝君、そこってカフェ?」

「まあ、そうかな…カフェとは言えないだろうけど、そうかな…」

 随分歯切れが悪いな?

「なんか問題ある店なの?」

「問題と言うか…大山食堂は山盛り基本だろう?そのお店もそうなんだよ」

 スィーツが山盛り!?俺は絶対無理だぞ!?

「えっと、コーヒーあるよね…?」

 コーヒーがあるのなら何とかなる。お金が凄い心配だけど。

「えっと…ドリンクはフリーなんだ。俗に言うドリンクバーだね…」

「な、成程…カフェとは言えないとはそう言う事か…」

 ドリンクバーなら確かにカフェとは言えないかもな。お財布に優しそうで助かったけど。

「ジャンボパフェもそうだけど、バケツプリンなんてのもあるよ。金魚鉢みたいな器に入ったフルーツポンチとか…」

「絶対に食えないだろ!!量が多過ぎる!!」

 なんだその店?俺に死ねと言うのか!?

「うん。僕は完食できなかったよ。春日さんは全部食べたけどね…甘さ控えめで不満だったようだけど…」

 春日さんも食べるからな!!でも甘さ控えめなのか…飽きさせないよう、工夫した結果なんだろうけど…

 結構歩いて外れの方に来た。つうか一駅分以上歩いた。 

 そこにはプレハブを繋げたような、平坦な店舗。だが、外装がピンク色だった。

「ここは来れねえな…」

 ヒロが呟いた。それに同意の頷きを持って応える。ちょっと男子だけで入るのは抵抗があるな。

「じゃあ入ろう入ろう」

 女子は若干テンション高めで、俺達よりも先に入店した。

「ここまで来たんだ。俺達も入ろう」

 あんま乗り気じゃないけどしょうがない。女子達の後を追うように入店する。

「いらっしゃい、どうぞー」

 おばちゃんが人懐っこそうな笑顔で席に促す。つうか勝手に座れって事なのか。

 ともあれ、既に女子が陣取っている席に、俺達も着席した。

「ジャンボパフェ、楽しみだねー」

「それ倉敷だけだから。でも、私も頼んじゃうけど」

「えー?このプリンすごーい!」

 キャッキャと盛り上がっているが、この壁に掛かっている写真のやつ、本当に食うのか?一人じゃ絶対に無理だろ!!

「緒方君、僕達も…」

 そう言ってメニューを滑らせる国枝君。仕方なしにそれを見る。

「……流石にフライドポテトはねえか…」

 ヒロの呟きに同調して頷いた。俺もこんな甘そうなもの、あんま食いたくないんだけどなぁ…

 この店は初見なので、来た事がある国枝君だけが頼りだ。

「国枝君。一番量が少ないのはどれだ?」

「えっと…僕も今日で二回目だからね…前来た時は、この焼きドーナツを頼んだけど…」

 その焼きドーナツって、フライパンくらいの大きさのこれ!?

「じ、じゃあ春日ちゃんはどれ食ったんだ?」

 国枝君は、ヒロの質問に若干青ざめて、メニューに指を差した。

「……これなんだ?」

 なんか半円のスポンジケーキ。だがデカい。鍋一つ分あるかのごとくデカい。それに何かが掛かっているのまでは何とか解ったが…

「炊飯器で作ったスポンジケーキ、だそうだよ…しっとりさせる為に、蜂蜜をなみなみと掛けられているだろう?」

 そりゃデカいわ。春日さんこれ完食したのかよ。甘さが不満だったらしいけど。

「このオムレットっての、小さそうだけど…」

「皿から出てんだろ。絶対にデカいに決まっている」

「一つだけ頼んで三等分するのはどうだい?」

 あまりのデカさに怯み、味は二の次で、やんやと案を出し合う。

「ちょっと男子、まだ決まってないの?」

 おっと、遥香達はもう決まったようだな。じゃあ確認だ。

「遥香達は何を頼んだんだ?」

 一品だけだろ?それをみんなで分け合うんだろ?そうだと言ってくれ、頼むから!!

「私はシュークリーム。お腹がきつくなったら、お願いねダーリン?」

 もう当てにしている感がバリバリだった。ウインクまでしているし。

「災難だな隆…」

「本当だね…」

 気を遣って聞こえないように小声で言ったんだろうが、聞こえているっつうの。

「あ、鮎川さんは?」

 何となく逃避するような感覚で鮎川さんに振った。逃避とはもちろん、現実からだ。

「私?私はー、これ」

 メニューに指差したので覗き込む。

「……食パン一斤使ったハニトーか…ここにもあったのか…」

 いや、元々ハニトーが食べたい旨を言っていたから、いいんだけど…

「手伝えないからな?」

 俺にはハニトーはハードルが高い。それに真ん中のなんかのジャムがもう無理だ。一瓶使っているだろ絶対。

「えー?ハニトーだから余裕でしょー?」

 そこには余裕の笑みがあった。鮎川さんの自信は相当なモンだ。

「倉敷さんは…」

「勿論ジャンボパフェ!!」

 ドン!!と効果音があったような胸の張りで答えられた。彼女には全く迷いはない。だから大丈夫なんだろう。多分…

「緒方君達も早く決めてよ。注文したい」

 倉敷さんの催促がうぜえので、見た目だけでオーダーを決めた。ミルクレープ。

「大丈夫かな…」

 心配そうな国枝君に、俺の仮説を答えた。

「少なくともカットされて出て来るんだ。だから皿よりデカい事はない。筈だ」

「言われてみればそうか…じゃあ俺も」

「じゃあ僕も…」

 男子全員ミルクレープに決めたところでオーダー。

「来たらちょっと頂戴」

 遥香の催促に頷く。そして更に追記した。

「何なら全部やってもいい。戻って来なければと言う条件でだが」

 本気でそうしたいくらいだ。俺はコーヒーだけでいい。

「緒方君、親睦会って男子何人くらいくるの?」

 鮎川さんが気怠そうに、そう話し掛けて来た。髪を人差し指でくるくるしながら。それキャラづくりだって見切っているんだが、まあいいや。

「まだ決まっていないな。呼んで欲しい男子いるのか?」

「ううん、逆。知らない男子、呼んで欲しいかなって。マジ彼氏欲しいから、知った顔は無理だし」

「鮎川さん、モテるだろ?その気になれば…」

「モテるかどうか知んないけどー。マジ無理な奴ばっかしか寄って来ないんだよねー。白浜の文化祭の時での東工生とか」

 ああ言った糞は勘弁って事か…だったら好みはどうなんだ?それを知らなきゃ話になんないよな…

「ああーっと、例えば対馬とかはどうなんだ?」

 見た目は糞なれど、まともな部類に入るだろう。水戸と喧嘩しそうになったが、そこはまあまあ。

「対馬?ああ、あいつ馬鹿じゃん」

 頭が悪いのは駄目なのか…じゃあ…

「ええっと…吉田君なんかは?」

 白浜だから対馬よりは頭がいい筈だ。手先も器用だし。

「吉田?タイプじゃないんだよね。色々と」

 タイプ外ならしょうがない。手先が器用なのは評価外なんだろう。

「じゃあどんな感じの奴がいいの?文化祭の時に会った連中で、一番タイプが近いのは?」

 暫く考える。髪を人差し指でくるくるさせながら。

「えーっと…国枝君みたいな人、とか?」

「ぼ、僕かい!?」

 困ったように声を挙げた。だけど鮎川さんはいやいやと首を振る。

「真面目で普通な人、って意味だから。彼女いる人にどうこうしようと思っていないから、安心して」

 安心したように姿勢を戻す。だが、真面目で普通なら吉田君もそうじゃねーか?顔か?顔も良く無きゃいけないのか?

 だけどそれなら心当たりもある。

「山郷農業の松田はどうだ?」

 ちょっとあっち系なれど真面目だし、顔も良いとは思うけど。

「う~ん…あそこは忙しい学校でしょ?それにちょっと遠いからね」

 更に頻繁に会える奴じゃないと駄目なのか……条件がシビアだな…

「鮎川は理想が高いからね。松田君なら私は全然いいけど」

 此処で乗っかって来た倉敷さん。じゃあ倉敷さんにタイプを聞いてみようか。

「じゃあ水戸なんかはどうだ?」

 水戸もあっち系なれど、まともな部類に入るとは思うぞ。多分。

「西高ってだけで無理」

 指でバツを作っての拒否だった。西高にだっていい奴はいるんだぞ?

「木村も西高だが良い奴だぞ?」

「木村君は別格でしょ?あんな学校でトップ取って治安を保てるだけでも凄いのに、頭も良いらしいし、顔もちょっと怖いけどイケメンの部類だし」

 あんな学校でトップを取ろうと思っただけでも馬鹿だと思うが。いや、頭は確かに良いらしいが。

 だけど松田が全然いいんだから、松田に彼女が居ないのなら紹介してもいいか。まあ、その辺は親睦会に来た連中次第になるのかな?

「おまたせしましたー」

 おばちゃんが注文の品を持って来た所で雑談終了。と言うか声が出なくなった。

 倉敷さんの前に置かれたジャンボパフェを見て、絶句したと言った方が正しい。

「うわ!おっきい!!」

 俺達の驚愕を余所に、写目を取る倉敷さん。と、遥香と鮎川さん。キャッキャはしゃぎながら。

 続いて遥香の前に置かれたジャンボシュークリーム。こっちにも絶句した。

 ちょっと小ぶりのキャベツだぞこれ!?これ食うの!?

 やはりキャッキャと写メを撮る女子達。俺達はドン引きだったが。

 そして鮎川さんのハニトー。こっちもドン引きだった。一斤は大袈裟だが、それでも圧巻なデカさ。やはり女子達は写メを撮る。インスタ映えか?どうでもいいけど絶対に残すなよ!!

 俺達の前にもミルクレープが置かれた。デカいにはデカいが、通常よりもちょっと大きめって感じだ。安堵した。心から。

「さあさあ、食べよう食べよう!!」

 遥香の音頭でフォークを持つ。そして、恐る恐るミルクレープを口に入れる。

「…………まあまあだな…」

 俺の感想に相槌を打つヒロ。

「そんなに甘く無くて助かったな。ちょっとデカいが、これはサービスだと思おう。だったら有り難味も増す」

 更に国枝君。

「以前食べた焼きドーナツよりおいしいよ。やっぱり春日さんは不満なんだろうけど」

 焼きドーナツはデカいから、そう思ったんじゃないかな…?俺はチャレンジしようとも思わないけど。

 遥香が不満そうにシュークリームを口に運びながら言った。

「このジャンボシュー。皮が厚い…」

 見ると確かに厚かった。2センチくらいあるんじゃねーか?

「生クリームじゃ無くてホイップクリームだし…カスタードも滑らかじゃない…」

 安かったからいいじゃないか。その厚い皮だからナイフも付いて来たんじゃねーの?多分。

「ハニトーもハニーじゃないよ。これはちょっとハズレかな…」

 言いながらパクつく。なんだかんだ言いながら食ってんじゃんか。

「ジャンボパフェも大味だね。まあこんなもんか」

 スプーンの手を休める事無く言う倉敷さん。だが不満そうだ。

 しかしこう言う事だな。

「あんまうまくないと」

 全員無言で頷いた。大盛り基準ながら、大山食堂とは違うようだ。

 しかし、こうもテンションが落ちるものなのか?俺達男子はこの大きさであんま甘くないから、助かった感があるけど。。

 だが、こうなればお喋りで盛り上がるしかない。

「川岸さんがおかしくなった事、詳しく聞かせて貰えるか?」

「そうだね。食べながら話そうか」

 やはりスプーンの手を休めずに倉敷さんが言った。じゃあ話を聞かせて貰おうか。

「白浜の文化祭が終わってからだったよね?神が降りたとか言い出したの」

 鮎川さんに同意を促すと、あっさりと頷いた。

「なんで神が降りたんだ?」

 どうでも良さ気だが、ヒロが訊ねた。国枝君は真剣に耳を傾けているが。

「今まで知らなかった事が一気に知れたんだって、その神様から」

 やはりスプーンの手を休めず。つか、あのジャンボパフェ、もう半分くらいになっているけど…

「何を教えてくれたんだよ、その神様は?」

 本気でどうでも良さそうだが、ヒロが追撃する。

「緒方君の過去。と言うか、何度も生き返った話」

 フォークの手が全員止まった。遥香は流石で、止まったのは一瞬だったが、兎に角止まった。

「なんか楠木さんに騙されて付き合って電車に轢かれたとか、春日さんに睡眠薬盛られて刺殺されたとか」

 それは俺の繰り返しそのもの……!!なんで知った!?

「……俺は?国枝は?槙原は?隆と知り合いなのはその二人だけじゃねえぞ。胡散くせえなやっぱ」

 此処で漸くフォークが動いたヒロ。どうにか平静を保てたって事だ。

「大沢君は自殺したとか?槙原さんは楠木さんに殺されたとか?まあ、確かに胡散臭い、と言うか、どう考えても創作だよね」

 顔色が悪くなったが、フォークの手を休めず。ヒロは凄い頑張っていた。

 俺達もどうにか食らい付いた。ヒロに倣ってフォークを動かした。だが、正確過ぎる…!!どこで誰が漏らした?

「だけどそれって隆君の事だけだよね。じゃあ信者にしてみればただの面白いお話で終わりじゃない?自分の未来を占って貰うとか無いんだからさ」

「それもその通りで、緒方君関連の事だけ言われてもね、って信者が急増してね。そうじゃなくとも的確に当たるって事も今までなかったんだから、冷めちゃった子が出始めているのよね」」

 だが、俺関連は的確過ぎる…尤も、他の信者からすれば俺の事より自分の事だ。離れていくのは理解できる。

「あとは…なんだっけ?日向さんは悪魔だとか?緒方君を何回も殺したのが日向さんだとか」

 麻美まで出して来たのか!!

「日向が悪魔ってのは納得が出来るな。隆はいつも酷い事言われているし」

 ヒロが茶化すように言う。これでどうにか『引き戻された』。俺は直ぐに顔に出やすいらしいから、多分とんでもない表情をした筈だ。助かったぞヒロ。

「どっちにせよ緒方君関連だね。その神様は緒方君関連しか教えてくれないようだね」

 嫌味のように。だが、国枝君も若干顔色が悪い。

「そうだね。だけど川岸に狙われている、って言うか、興味の対象は緒方君だって事は揺るがないから、やっぱり面倒な事になるかもね」

「だけど信者が離れているんだろう?ちやほやされたくて始めた占いをおろそかにしてまで、緒方君に固執する理由はなんだい?」

 そうだ。カリスマを気取りたいのなら、今まで通りショットガンニングで信者を繋ぎ止めたらいいだろうに?

「占いも基本続けているよ。今までのようにやっていないってだけで。それでも頻度低下している訳だから、結果信者が離れていく。そうじゃなくても、堀川の件で緒方君に興味を持っても近寄りたくない子の方が多いから」

「お前何やったんだ、マジで!?」

 堀川さんの二の舞は勘弁って事だろ!?どんな追い込みしたんだよ!?

 その後は少し雑談(と言うか親睦会の男子の催促だったけど)をして帰った。

 珍しく遥香も。曰く、ちょっと考えたいらしい。不可解な事が多過ぎるからだろう。

 国枝君も帰った。珍しくヒロも。よって俺一人なので、其の儘家に向かう。

 その時、門前に人影が。麻美か?麻美なら勝手に入って寛ぐだろうから違う。

 誰だ?と超警戒しながら進んで行くと、向こうが俺を発見し、気持ち小走りで寄って来た。

 恐らく俺は真っ青になった事だろう。そのシルエットが朋美に似ていたから。

 だが、違う。朋美じゃない。より近くまで来た女子の顔をじっと見たが、朋美じゃない…だけど…!!

「俺に何の用事だ!須藤 真澄…!!」

 ついうっかり『須藤 真澄』だと言ってしまう程、俺は動揺したのだ。須藤 真澄の事は知らない事になっている筈なのに…!!

 須藤 真澄は嘘くさい笑顔を俺に向ける。

「いいからどこか温かい所に移動しよう。あ、君の家は駄目だからね。来客があれば私が困るから」

 俺が知っている事に疑問を示さす、別の所に移動しようと…!!何の目的だ!!馬鹿にしに来たのか!!

「怖いからそんなに睨まないで。話ししに来ただけ。私、もう少しで大洋から居なくなるから、その前に話したかったのよ。勿論、付き合ってくれたらお礼に聞きたい事、解る範囲で教えるよ?」

 朋美よりも若干垂れた目を向けながら。それは逆に言うと、付き合わないとこれっきりだと言う事だ。

 正直言って話す事は何もない。聞きたい事は山ほどあるが…

 結局俺はその申し出を受けた。

 で、連れて来たのはカラオケ店。喫茶店や大山食堂はマズイ。心情的に。

「へえ?個室とは考えたね」

 部屋を見ながらコートを脱ぐ須藤 真澄。そして俺は再度驚愕した。

「白浜の制服をなぜ持っている!?」

 コートの下はウチの学校の制服だったのだ。内湾の制服も知っているが、類似点は無い。だから間違えようがない。

「これ?朋美から送られてきたんだよ。それよりも何か注文する?お腹減っちゃって」

 朋美!!その名前を聞いただけでも、俺の形相は凄い事になっているようで。

「だから、怖いから睨まないでってば。じゃあ私はピザでいいや。注文宜しく」

「ふざけんなよ!!食いたきゃ勝手に注文すればいいだろうが!!」

 この余裕がムカついてつい言葉が強くなった。つか、なんで俺が須藤 真澄の注文をしなきゃいけない!?

 須藤 真澄はやや考えて、俺に何かの機械を滑らせた。

「なんだこれは?音楽プレイヤー?」

「ボイスレコーダー。君、この後誰かに話すでしょ?でも細かく覚えられないでしょ。これに録音すればいいよ。あげるから、ここの支払い宜しく」

 糞ふざけた物言いにムカついたが、ボイスレコーダーは思ってもみなかった。マジでくれるのか?

「…故障していて録音が出来ないとか…」

「じゃあ試してみれば?」

 その通りなので試すと、ちゃんと機能した。なので俺は快く…って訳じゃないが、ピザを注文してやった。あとドリンクと。

 持って来たドリンク(烏龍茶を要望しやがった)を少し煽り、ふーっ吐息を吐く。

 そして唐突に切り出した。

「私が此処に来たのは、助けて貰う為。このままじゃ私『達』は死んじゃうから。そうは言っても、私は四国に行くから、うまく逃げられたっちゃー逃げられたけど、晴彦の方は危ないから」

 助けてもらうだ!?今まで散々やって来たのに、どの口が言うんだ!!

「…また凄い顔になっているね。察するに、敵の私が助けてくれとは虫が良すぎる、かな?」

「認めるんだな?お前が俺の敵だって事を!!」

「言っちゃなんだけど、私は別に君の敵に回った覚えはないよ。晴彦もそうだと思うけど?」

 どの口が言う………ん?

 ……確かに、俺に直接被害はないよな…川岸さんの事ぐらいか?晴彦ってのは狭川の事だよな…

 首を捻る回数が多くなった頃、須藤 真澄がピザを食いながら話した。

「朋美から連絡があったのは高校に入学した辺り。晴彦もそうだって。その時君が何度も死を繰り返している事を聞いたの。尤も、最初はなに言ってんの?って感じだったけど」

 ピザを一切れ勧めながら。そのピザを何も考えずにかぶりつき、続きを促した。

「私はそんな話は信じなくて、でも、晴彦は意外と簡単に信じたかな?」

「……なんで狭川は信じた?」

「君の話に信憑性を持たせる為に、私達の複数の未来を教えてくれたのよ。晴彦は野心家で、高校に入学したと同時に黒潮制覇を考えたんだけど、的場って人に返り討ちに遭った未来が数十、河内って人に病院に送られた回数が12回、だったかな?」

「そんな話を信じるか」

 的場にやられるってのは容易に想像できるが、流石にそんな事信じないだろ。

「で、その的場って人に君が買っちゃうって話も聞いたの。それってGW後、だったでしょ?それまで待って、話が本当か確認してって」

 実際俺が勝ったとは言え、信じるかそんな話。俺なら絶対に信じない。

「それで、話は本当なんだと改めて信じたのよ。まあ、そうは言っても、早い段階で信じてはいたけどね。実は私も信じざるを得なかったから協力したのが正解だけど」

「だから、そんな話、信じる方がどうかしているだろ」

「朋美が実際出て来てそう言ったからね」

 ん?何か解らんぞ?実際出てきた?

「朋美は京都に行った。おじさんと一緒に本家に戻った。そこはいいよね?」

 頷く。そう聞いたし、そうなんだろう。

「大洋と黒潮は京都から遠く離れている。そこもいいよね?」

 頷く。近場なら探し出してぶち砕いていただろうから、遠いのは事実だ。

「でも私達はほぼ毎日直接朋美と話をしたんだよ。電話とかじゃ無くね。それが信じた理由」

 ???全く理解できん。遠く離れた京都でどうやって毎日顔を合わせるのだ?

「朋美、幽霊になって私達の前に出て来たのよ」

 一瞬呆けたが、鼻で笑った。言うに事欠いて幽霊だ?

「馬鹿にしたような笑顔だね。言っておくけど、朋美はまだ死んじゃいない。でもあれは幽霊。それは間違いない」

 真っ青になってカタカタ震え出ず。怖いって事だろうが、生きているのに幽霊とか有り得ない……!!!

 ……前回の繰り返しで国枝君が言っていた…朋美の思念が俺に纏わり付いていると。

 今はまだ思念程度だけど、いずれは生霊になるかも、と言っていた……!!

 と、言う事は、須藤 真澄と狭川 晴彦にほぼ毎日会っていた朋美は生霊……!!それなら説得力が段違いに上がる…!!

 青い顔をしていたのだろう、須藤 真澄が気を利かせてか、コーヒーを勧めてきた。

 それを一口含み、平静を取り戻す。

「納得してくれたようで良かった。じゃあお願いの話ね。晴彦は野心家だから朋美に『従った』けど、私は違う。君達が頑張って追っている売人も、実は私はあまり関与していない。勿論、お小遣いは多い方がいいから、中間業者の真似事は進んでやったけど」

「バリバリ関与しているじゃねーか。つか、自白したな?俺は暴走族の連合はどうでもいいが、的場は別なんだ。お前を引き渡す事に何の躊躇も無いんだぞ」

「だから、聞きたい事は全部答えるって言ったでしょ?」

 烏龍茶を啜る音がやけに小さく感じた。須藤 真澄の真意を探っていたからだろうが…

「……要するに取引か?」

「さっきからそう言っているつもりだけど?」

 あっけらかんと。確かにそんな意味で言っているようだが…

「死んじゃうって言っていたよな?朋美に殺されるって事か?」

「そう。『祟り殺される』。朋美は幽霊だから」

「だが、生きている。生霊でも祟り殺せるのか?」

「そうだね。理解できないんなら、今すぐ的場って人に言ってごらん?連山の馬鹿は今事故って生死の境を彷徨っているから、その確認してって」

 椅子が転がった。俺は勢いよく立ったからだ。

「……お前は…一人死ぬのに、そんな平然とした態度で……!!」

 双月で見た時に、朋美と同じ雰囲気だと思ったのは間違いじゃ無かった。

 自分さえ良ければどうでもいい……まさに朋美と同じ思考!!

 俺の拳が知らず知らずに握り固められている…あのムカつくツラに一発入れたいと…

「……怖い顔だね、やっぱり。だけど非難していいけど、考えを改める事は無いから。朋美に逆らって今すぐ死ぬよりは遙かにマシだからね」

 そりゃ、自分の命が惜しいのは理解できるが、お前小遣いが多い方がいいから、中間業者を担っていたと言っただろ。

 ともあれ大きく息を吐き、座り直す。その行動に意外そうに訊ねられた。

「今すぐ殴られるかと思ったけど?」

「……俺は糞が嫌いなんだよ。連山のチンピラがくたばろうがどうでもいいんだ。勿論お前も嫌いだが、情報は欲しいからな…」

「へえ?意外としたたかなんだね?朋美が話しなんか聞かないって言っていたから、少し驚いたよ」

「どうでもいい。で、どうすりゃ命が助かるんだ?」

「実のところ、それが解らないのよ。祟り殺されるのかもしれないし、無視されるかもしれない。だけど、君に情報が渡ったら、朋美は君の事を今以上に気にするでしょ?」

 要するに、俺により注意を向けさせて自分達から遠ざけようってか?糞の考え付きそうな事だな。

「だが、朋美は生霊だ。俺の前に出てもいい筈だろうし、俺の情報なんか簡単に調べられるんじゃねーのかよ?」

「今までそんな事無かったでしょ?なんでか解らないけど、君や君と関わりが深い人の前には行けないみたい」

 確かに、それらしいことはなにも起こっていない。霊感持ちの国枝君も何も言わないんだ、俺『達』に出て来られないのは本当なんだろう。

 何で出て来られないかは後で考えるとして…

「じゃあ俺はお前の要望を叶えた事になるよな?だったら聞きたい事、全て答えてもらうぞ」

「そのつもりだからどうぞ。でも、終電時間までね。帰る時間は当然欲しいから」

 頷く。終電を逃してこいつを泊める事にでもなったら洒落にならない。朋美の前に俺がぶっ殺しそうだしな。

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