年末~001
季節はもう12月。期末テストがあり、クリスマスがあり、それを過ぎると、もういくつ寝るとお正月だ。
折角の日曜日なれど、こんなに寒けりゃどこにも出歩きたくない。なので部屋でゴロゴロ…って訳にはいかず。
雪ももう降っている所があるが、的場からせっつかれて、いやいやながら黒潮に来ていた。
「いやそうな顔するんじゃねえ。冬は単車に乗らないだろ。その前にメンテナンスしとかなきゃ、春に乗れなくなるぞ」
しまった、嫌そうな顔をしていたのか。俺は顔に出やすいからなぁ…
「いやいや、面倒だとは思ってはいたけど、確かに点検は必要だし」
出されたコーヒーを啜りながら、いい訳じみた事を言った。
「お前、あまり乗ってないな。オイルもそんなに汚れちゃいねえし」
「ガソリン代とかあるから…」
これもいい訳じみたように言う。実際そんなに乗ってないけど。
「……よし、こんなもんだな。いよいよ乗らないと決めたら、バッテリーは外しとけ」
手に付着したオイルを拭いながらそう言われる。
「あ、うん。有り難う。代金は?」
「交換したオイル代くらいだな、掛かったのは。後は整備代でこの位…」
頷いて財布からお金を出す。それを見て苦笑する的場。
「ちゃんと見積もり出してねえだろ。金はその後でいい。振込先も教えただろ」
「いや、大体このくらいとか言っていたからな…取り敢えず用意しといたんだよ」
まあいいやと、ちゃんとした経費を積算する的場。そのお金を支払い、領収書をもらった。
そして自分の分のコーヒーを淹れて俺の対面に座った。俺にもおかわりを淹れてくれた。寒いから有り難い。
「…大洋の潮汐が薬と絡んでいるそうだな?」
河内から聞いたのか。あいつは的場になんでも言っちゃうからそうだろう。
「うん。そうらしい。まだ証拠を掴んでないから疑惑段階だけど」
「連山の馬鹿は?お前営業されたんだろ?」
そっちも聞いていたか。まあ、河内だしなぁ…
「うん。こっちは証拠もあるからいつでも行けるけど、もう一つの繋がりと関連の裏付けが取れたら動くらしい」
頷く的場。これも知っていたのかよ。
「お前の女がそう言って、ちょっと待って欲しいと言って来たからな」
「え!?遥香と連絡を取り合ってんの!?」
「取り合っているって程じゃねえが、以前俺ん家にお前の女とそのダチが、楠木の詫びに付き合っただろ?その流れでな」
それを取り合っていると言うのでは…つかあいつ、何してんの!?俺が知らない所で!?
「そ、それもそうだが、俺の事を気にかけてくれるのは有り難いんだけど、知り合いに俺の助けになってくれって言うの、もうやめてくれ。心苦し過ぎる」
「南海の猪原か?あれは向こうがお前の話を聞かせてくれって来たから、ついでに言っただけだ」
やっぱり猪原の方から接触したのかよ!!猪原のシンパは連合を近付かせないだろうから、そうじゃないか思ったけどもな!!
そしてやや神妙な面持ちで言う。
「薬、と言うか、連山の馬鹿は、最低でも1月まで蹴りつけてくれねえか?」
1月と言うと、来年の話か…
「俺的には今すぐでもいいと思うんだけど、みんなが止めるんだよ。だけどなんで1月?」
「それを過ぎたら卒業だ。もう関われねえ。薬関係は連合の仕事だからな。だからそれを過ぎたら、連山の馬鹿は勝手にやる。その旨も言っといてくれ。お前の女に」
それは完璧に引退するって事だろう。卒業は3月だが、流石にギリギリまでは付き合えないか。
「解った、言っておく」
連山のチンピラをぶち砕くくらい、今でもいいとマジで思うんだが、ここはそう言っておこう。
「そうしてくれ」
そしてコーヒーの続きに戻った的場。言いたい事は話し終ったと言う事だろう。
じゃあと腰を浮かす俺。
「雪が降る前に帰るよ。なんか雲行きがヤバそうだ」
「そうか。予報じゃ雪は降らないようだが、用心に越した事はねえ。じゃあ、えっと、ありがとうございました!!」
いきなり的場モータースの社員に戻って挨拶した。
一応お客なんだろうから、それはその対応で正解なんだろうが、驚くからやめて欲しい。
んで、超頑張って運転して、漸く家に着いた。ガレージにバイクを停めて空を見る。
「……まだ大丈夫のようだけど、バッテリー外しておくか…」
今年はもう乗らん。普通に危ないし、早めの行動だ。
と、思ったらスマホに振動が。開いてみると、武蔵野からだった。
何の用事か解らんが、有意義な情報を掴んだのかもしれん。
「もしもし」
努めてぶっきらぼうに電話に出た。下手になつかれないように。
『あ、俺だけど…佐伯の事なんだけど…』
また佐伯かよ。あいつ学校に出なくなって留年確定になったらしいな。世界一どうでもいいけど。
「佐伯がどうした?学校を辞めたか?」
『う、うん。辞めて白浜から出るそうなんだけど、俺も誘われて……』
「お前にも学校を辞めろっつってんのか?普通に断ればいいじゃねーか。辞めたいのなら誘いに乗れば済む事だ」
まさか俺から佐伯に誘うなと言ってくれとかじゃないだろうな?顔を見たらぶち砕く対象の儘なんだぞ。なんだかんだ言ってお前もそうだけど。
『も、勿論断ったよ。そ、それよりも、おかしなことを言って…知り合いの伝手で京都に行く事になったなんだけど、お流れになって、代わりに連山に行く事になったとか…』
心臓が飛び跳ねたかと思った。京都!?連山!?
『れ、連山の方で営業の仕事をする事になったけど、人が足りないからお前も来いとか言われて…で、でも佐伯が営業なんかできる訳ないし、俺もそうだし、なんかおかしいから一応報告したんだよ…』
おかしいなんてもんじゃねーだろ…間違いなく薬関係だろ…つか、京都に行こうとしたって事は、朋美を頼ったって事なのか?それとも朋美から接触してきたのか?
「お前から何か聞いたか?その、京都っていや…」
朋美だろ。阿部や神尾に連絡を取って来たらしいから、当然お前にも?
『す、須藤だろ?佐伯が須藤とまだ連絡を取り合っているか解んないけど、俺にも一度連絡が来たから、ひょっとして佐伯にも来たかもしれない』
「いつ頃だ?何の用事で?」
『えっと、春だったかな…俺はどこの学校に行ったか聞いて来たよ』
春、武蔵野に在学校を聞いて来た?何の為に?
『荒磯だって言ったら、使えねえとか言って切られたけど』
白浜に通っている事を期待した?俺の事を探るために?
『だ、だけど、須藤は佐伯が困っているのを、わざわざ助ける筈がないと思うんだ。佐伯は東工、と言うか白浜に居場所がなくなったけど、だから何?知らないよ、って言うと思うんだよ。だから須藤じゃないとは思うけど』
それもその通りだ。どこかに逃げようと佐伯が考えて朋美を頼っても、あいつは救いの手なんか差し伸べない。
「佐伯とは連絡を取り合っているのか?」
『取り合っているって程じゃない…と言うか、俺を利用しようとして、連絡して来る事が殆どかな…』
利用…連山の営業に誘ったのも利用する為…だよな…じゃあ…
「また何かあったら連絡してくれるか?」
『う、うん。そのつもりだけど、俺からは佐伯に連絡しないよ?』
それでいい。お前にスパイみたいな真似はさせられない。直ぐにバレそうだし、バレたら俺が言い付けた事も喋るだろうし。要するに信用が全くできない。
なので了承して連絡待ちと言う事にした。下手な真似をしないで大人しくしとけ。と、釘を刺して。
翌日。昼休み。
弁当が無かったので、学食に遥香と共に向かった。遥香は弁当だったが、食堂で弁当を食っても問題無い。
直ぐ食えるカレーをオーダーして、遥香お気に入りの奥の席に着く。
「大盛り?」
「いや、普通だけど、今日は生徒があまり来ていないから、サービスじゃないか?」
大量に作るカレーだが、売れなきゃ捨てる事になる。それは勿体ないから、通常よりも量が多いと推測。
弁当を広げた遥香。そしてマグロの竜田揚げを箸でぶっ刺して、あーん、と。
当然あーんで迎え撃つ。みんな見ていようが迎え撃つ!!
「うまい。腕上げたな」
本気でうまい。超特訓の成果が確実に出ている。
「ほんと?やった!!」
嬉しそうに、自分も竜田揚げをパクリと。流石に自分では美味しいとは言わなかった。
頃合いになった時、徐に昨日の事を話した。的場に言付かった事と、武蔵野からの情報。
「うん。的場さんの方、了解。連山のチンピラの方は、今でもいいんだけど、須藤真澄の情報が出揃ったらやろうと思っていたから」
それは大体出揃ったって事なのか?いくら橋本さんが優秀でも、この短時間で出揃う事は無いとは思うが。
俺の表情を読みとったのか、遥香が残念そうに首を横に振った。
「須藤真澄は年内で大洋から出て行くの。お父さん、2月に、四国の方に新しい支店が出来たから、そっちの責任者に抜擢されて、家族共々」
「何!?それホントか!?」
思いの外でかい声だったのだろう。食堂にいた連中全てが俺を向く。
「気持ちは解るけど、声が大きいよ」
「お、おう済まん…」
若干慌ててカレーの続きに戻った。要するに誤魔化したって事だな。
「だからもう須藤真澄を追ってもしょうがない。でも、チンピラにとどめを刺したいから、いなくなるまで証拠を集める方にチェンジしたの」
「……じゃあ春日さんの噂は…」
「あのサイトで埋もれたスレになったし、須藤真澄には春日ちゃんの噂を流すメリットが無いから、多分其の儘立ち消えになるんじゃないかな?」
「松田達が追っているゲームサイトの方は…?」
「そっちも埋もれちゃったけど、噂はもう流れてしまって、内湾ではいい話のネタになっているから…」
止める事は不可能か…新たな馬鹿が出てきても、ぶち砕けばいいか。
「それに、もう一つの噂を流しているから、少なくも大洋からは暇人が来ないと思うよ」
「もう一つの噂って?」
「春日ちゃんには白浜の狂犬が付いているって」
「俺の事じゃねーか!!お前が流したんだろその噂!?」
またまた、食堂に居た連中全てが俺を向く。今度は立ち上がっての抗議だったので、目立った事だろう。なので静かに座り直しながらカレーの続きに戻った。もうあんま残っていないけど。
「で、続きね。須藤真澄は年内に居なくなる。それって実は昔から確定していた事だったんじゃないかな。だからお金儲けの方を重視した。とか?」
ん?どう言う事?
「大洋に長く留まらないから、無茶して連山のチンピラと接点を持ったって事。どうせいなくなるんだから、破門された元組員を遠慮なく使った。直ぐ切れる縁だから」
な、成程、そういう事か…流石に親戚は破門した奴とは付き合わないようにするって事か。だけど直ぐに居なくなるから、少しの間、利用したと…
「で、そうなって来ると、武蔵野さんから流れてきた佐伯さんの連山行き。営業の仕事をするからって言っていたよね?だから武蔵野さんも誘ったって」
「うん。佐伯は京都に…」
「その話は一旦置いといて、須藤真澄と言う営業レディが居なくなる訳だから、新しい営業マンが必要になった。って事じゃないかな?」
う~ん…言われてみればそうかもしれないが…
「で、さっきの京都の話。須藤真澄と連山のチンピラは一蓮托生…って程じゃないけど、お互い本家に密告されたら無事じゃすまないから、そこそこ縛り合っていた状態。だけどその気なれば、連山のチンピラはそこを捨てて他県に逃亡が出来る。だけど須藤真澄の方はそうはいかない。だから後釜を紹介するって形で、佐伯さんを引っ張った。最低限の義理を通すから密告はしないとの条件で。で、今まで協力した見返りで、須藤に何とかさせた、とか?」
あり得そうだな…朋美も本家にやっている事がばれたら、監禁されるかもしれないだろうし。
「まあ、全部仮説だけど、連山のチンピラはもう直ぐで的場さんの連合にやられちゃうから、ゲロっちゃうでしょ」
「だったら今やってもいいんじゃね?これ上の証拠なんか求めなくてもいいだろ?」
「言い逃れができない、キツイ奴が欲しいのよ。だからギリギリまで待って」
俺に営業したタブレットだけじゃ駄目なのか?まあ、その辺は遥香に任せるけど…
と、なれば、佐伯と朋美は、間接的に繋がっているとみて間違いはないな。佐伯は朋美だとは知らないだろうが。
「橋本さんも悔しがっていたけど、仕方ないよね。居なくなるんじゃ」
それもその通り。張り切っていたけど、肩透かし感がパネエだろう。
「あ、そうそう」
思い出したように。そして身を乗り出して。
「橋本さんがね、クリパやらないかって。親睦的なアレで」
クリパか…前回とんでも無い事になったからな…碌な思い出が無いんだけど…
「だけど、ほとんど彼氏持ちだろ。お前もそうだし、波崎さん、黒木さんもそうだ。クリスマスは恋人と過ごしたいだろうに」
「うん。だからクリパって言うよりは忘年会?親睦会?そんな感じの。勿論クリスマスを避けてセッティングするからね」
それならまぁ…俺に異論はないけれど…
「親睦会って、誰を誘うつもりだ?」
「まだ決まっていないけど、横井は参加するって。それをクリスマスにするからって。河内君と二人っきりで過ごすのに、まだ抵抗があるからって」
それは納得だからただ頷いた。貞操の危機だろ、普通に。
「倉敷さんも参加希望。だけど男子もお願いね(ハァト)だって」
前回みたいにコンパみたいにしたいのか要するに。今回は流石に真鍋君とは関わりたくないなぁ…
そこは何とかできそうだから良しとするが、倉敷さんの話題が出たから、ついでに訊いてみる。
「川岸さんは?」
「うん?なんかおかしな事になっているようだよ。元々おかしい人だったけど、狂って来たとか何とか」
「狂って来たって?」
「なんか自分は神の使徒だとか、お告げが来たとか」
いよいよもって教祖様化したのかよ。ホント救いようがないな。
「隆君の事を嗅ぎ回らなくなったのはいい事だし、ホントに狂っても知ったこっちゃないけど、国枝君の連絡をシャットアウトしているのが、ちょっと気になるのよね」
「まあ、国枝君からの連絡は、俺に近寄るなとか、学校に厳重注意して貰うとかの脅しだろうから、出たくないんじゃねーの?」
「まあ、川岸さんも今の所、隆君よりも自分が教祖様になる事に全力を傾けているから、取り敢えずは様子見ね」
「だったら俺の繰り返しの事を調べるんじゃねーの?よりインパクトがある方を優先するだろ?」
「だって隆君は倉敷さん達と友達だし、その倉敷さん達は西高から迷惑行為の免除受けているし、それを命令したのは木村君だし、その木村君と親友だし。要するに、隆君を敵に回しても良い事が無いから、今のところはスルー」
今のところは、と、もう一度念を押して。いずれ再びやって来ると言う事だろう。完全な教祖様になって。
実際、川岸さんは北商に通報すれば一発で終わるんだけど、そこはまだいいか。いざとなったらの切り札で。
んで帰り道。愛する彼女さんとヒロ、そして国枝君と春日さんと一緒に下校中、さっきの親睦会の話を何気なく話した。
「クリスマスを避けるっつうなら、まあ…」
渋い顔でも一応了承するヒロ。波崎さんはクリスマスでも二人っきりにならないと思うけど、そこは触れずにしてやろう。
「僕達もいいよ」
「……親睦会、楽しみ」
なんかグーを握って楽しみアピールしている春日さんだった。
「でも、国枝君とマッタリ過ごしたいとか無いの?」
「……内湾の橋本さんに、ちゃんとお礼言いたかったから…」
それは内部調査、もっと言えば、自分の噂の調査をやっていたからか?だが、あれは取引で…
「そう言えば、あの後大変な事が起こったよね。南海の元猪原派が、緒方君を訊ねて来て…」
頷く。と言っても大変じゃ無かったが。
あの後。次の日。つまり平日。
学校が終わり、ジムも無かったのでマッタリしていた俺に着信があった。大雅からだった。
何でも元猪原派が、引退させた事に文句を言いに来たらしく、大雅曰く「猪原さんの伝言で、俺は引退したからノータッチだと。そして俺はあくまでもただ連れて来ただけだから」と。
じゃあ空気を読んで河川敷で待ち合わせして、10人くらい来ていたか?まあ、着いた途端に胸倉を掴まれて。
そんな真似したんだからと一方的にぶち砕いた訳だ。最後は大雅に助けてくれって叫んでいたなぁ…
「ちゃんと歩ける程度は手加減したぞ?」
「そう言う問題じゃないんだけど…」
いやいや、大雅に全員担いで南大洋まで連れて帰らせなかっただけでも、俺的には充分譲歩したつもりだったけど。
「その後も面倒臭かったよな」
聞いていたのかヒロ。確かに面倒臭かったけどさ。
返り討ちに遇った元猪原派だが、報復を考えて仲間を集めていたようで。
その週の土曜日に南海までわざわざ呼び出しやがったのだ。まあ、行ったけど。ヒロと二人で。
で、猪原をぶち砕いた、あのカフェ近くの公園で待ち合わせしたのはいいが、何と猪原も来ていて、なんか担ぎ出されたと。(人数を集める為らしい。程よく利用されてんな)
「何度も言うが、俺は引退した」
そう、30人くらい集まった連中に釘を刺して、自分はベンチにどっかと座った。
南海エリア故に遠慮なく暴れた。30の数でも温い南海生なんか敵じゃなく、程よくぶち砕いた。俺もヒロも。
猪原に何度も助けを求めていたが、「俺は引退したっつっただろ」と言って全く動かなかったから、結果全員病院送りになった。
その病院も猪原はノータッチ。自分で行けと言ってとっとと帰った。完璧引退したと見せつけたんだろう。実際は心が凄く痛んだと思うが、俺達の知ったこっちゃない。
「大雅と玉内とで遊んだからいいじゃねーか。寧ろ奴等と遊ぶために行ったと思え」
「そうだな。玉内の野郎、ボーリングへたくそで笑ったよな」
「そうそう。俺も100行かなかったけどさ、玉内なんて70が最高の輝きだったからな」
思い出して笑う。あんなのも楽しいもんだ。
「いいなぁ…今度僕も誘ってよ」
「そりゃ勿論だよ国枝君。つうか親睦会に呼ぶか。来るかどうか聞いてみるよ」
玉内もバイトとボクシングで忙しいからどうかと思うが、聞いてみる分にはいいだろう。
「あれから一週間か…隆、大雅からその後の事、聞いたか?」
「いや?何も聞いてない。つかまだ一週間しか経ってないだろ。今はまだ内部でゴタゴタ中だから、俺達に関係ある話は無いだろ」
大雅が釘を刺したらしいし。俺は南海全部と喧嘩するのも辞さない奴だと。馴れ馴れしい奴も大っ嫌いだと。
猪原も動かない事を見せた今、俺達関係の話はまだないだろう。
「あ、もう着いちゃった。じゃあ緒方君、僕達は此処で」
駅に曲がる十字路に着いちゃったので、国枝君と春日さんは此処まで。
「あ、待って。私達も途中まで」
そう言って俺を引っ張る遥香だが、待て待て待て待て。
「ど、どこかに行くのか?」
「うん。西白浜。倉敷さん達と待ち合わせしているのよ」
「倉敷さんと?川岸さんの関係かい?」
国枝君のメガネがキランと光った。様な気がした。
「うん。川岸さんがおかしくなった事を詳しく聞こうかな、と」
「……じゃあ僕も行くよ。春日さん、悪いけど…」
コックリ頷く春日さん。
「……いってらっしゃい」
「いや、駅まで一緒だろ…」
行ってらっしゃいはまだ先だろ。つうか俺も行くの?マジで?
「仕方ねえ。俺も行ってやる」
ヒロも何か知らんが来るようだ。じゃあ行く事は決定じゃんか…まあ、川岸さん関係なら仕方がないけど…
で、西白浜駅。待ち合わせ場所はこの駅だ。
「まだ来ていないのかな?」
キョロキョロする遥香。メールか何かで聞けばいいだろうに。
「来るまで待つしかねーだろ。ここ西高のアホ共の最寄駅だし、物騒な事になりかねんから、あんま居たくないけど」
「お前が一番物騒じゃねえか」
ヒロの突っ込みに国枝君が大きく頷いた。いや、国枝君にそんなリアクション取られたら悲しくなるんだが…
「緒方?」
項垂れている俺に話し掛けてきた奴がいて、顔を上げた。
「安部と神尾か…お前等バイク通学じゃねーのかよ?」
微妙に引き攣りながらも話の続きをする神尾。
「毎日は乗ってねえからな。大沢、緒方の女も、久し振りだな」
遥香は少し辞儀をしたが、ヒロは寧ろふんぞり返った。
「おう。丁度いい、お前等佐伯から連絡来たか?」
ふんぞり返りながらの物言いだった。しかしナイスジョブだ。それ、俺もちょっと聞きたかったし。
「いや?少なくとも俺達には来てねえな。なぁ?」
「おう。安田はどう解んねえが。その安田だけどよ、あんま重要な事じゃ無いかもしれねえが、丁度良く会ったから一応言っとく」
安田の後ろを探っているんだよな。だけど有意義な情報は未だ皆無の儘。少しでも何かしら欲しい所だ。
「安田な、あの単車売っぱらったよ。もう金がねえとか言って」
「お金が無い?バイトもしていないんだから当然だと思うが、売る必要あるのか?」
普通に持っていてもいいだろうに。あのバイクってレア物なんだろ?売れば結構なお金になるからか?
遥香が怪訝な顔で訊ねる。
「お金が無い…じゃなく、お金を貰えるところが無くなった、じゃなくて?」
訊ねられた神尾と阿部。安田の言葉を思い出すように。
「……金がねえ…も言っていたが…確か…」
「当てにできねえ、とも言っていたな……」
それは朋美との繋がりが切れたからか?いや、その前にだ。
「売る必要はないだろ、やっぱり」
持っていてもいいだろうに、レア物だろ?あのバイク。売ったら結構なお金に……
「売ったのは他に欲しもんがあったからだ。それを買う為に売ったんだよ。当てにできねえってのは、もう金は引っ張れないって事になるから…?」
「欲しいモンって?」
「ああ、パソコンとか革ジャンとか。あいつ、結構金使いが荒かったんだよ。今までは金を貰えたんだが、今後は無くなった…貰えなくなったからか?だから売って金を作った…?」
散財していたって事か…俺の事をリークして、朋美からお金を貰って…
それが終わった?なんでだ?この先の俺の情報は必要なくなったからか?
「…ちょっとキナくせえな…もう少し探るから、ちょっと待ってくれ」
阿部の申し出に頷く。キナ匂いなんてもんじゃない。嫌な予感しかしないので、情報はあるだけあった方がいい。
阿部と神尾と別れて暫し、国枝君がボソッと言った。
「……今の話だと、パトロンからお金が貰えなくなった…んだよね?」
頷く。問題はなんでお金を貰えなくなったかだ。
「隆君は安田さんが須藤に隆君の情報を流した、と思ったんだよね?」
「うん。だから神尾と阿部に頼んで安田を探ってもらっていた。安田は意外と警戒心が強くてお金の出所は言わなかったらしいが、今の話じゃ、結構お金を貰っていたみたいだな…」
俺の言葉にヒロが続く。
「その須藤から金を貰えなくなった。安田は木村の下だから、比較的簡単に情報を得られる環境にあるのに、なんで切った?」
「……槙原さん、里中さんから何か聞いていないかい?」
「何も…爽やかポニーはこの頃、頻繁にログインしなくなったとは言っていたけど…」
おかしな事が起こっているのか?いや、別に頻繁にログインしなくても、メアドを知っているんだから、直接メールもある訳だが…
しかし、何かあったら俺達に伝える筈だし、特に変わった事は無いって事だよな…
「…その話は後で。倉敷さん達が来たから」
流石の遥香は瞬時に笑顔になって倉敷さん達に駆け寄った。鮎川さんと一緒に来たのか。鮎川さんも付き合いがいいよな。
「お待たせ!!取り敢えずどっか入る?立ち話もなんだしさ」
倉敷さんの提案。じゃあ、とみんなで顔を見せ合う。ヒロはファミレスに行きたいって顔をしていたが。
「ちょっと歩くけど、お好み焼き屋はどう?」
ヒロの抗議の表情はこの際無視だ。久々に好み焼きが食いたいし。
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