二年の夏~006
「今なんか言ったか?ああ?」
なんか凄んで俺と赤坂君に接近してくる糞共。赤坂君、びくっとして身体を反らせた。
「お?この女お前のツレ?結構いい女じゃんよ」
他の糞共は横井さんと波崎さんの腕を掴んだ。二人共嫌そうな顔で腕を振って逃れる。
「緒方、いいよ、俺がやるから」
イラッとした俺に生駒が察知して動こうとしたが――
「が!?」
遅かった。俺と赤坂君に凄んで来た糞共を左ストレートでぶち砕いたのだから。
「遅かったな生駒。こうなりゃしょうがねえ。玉内、女共と赤坂連れてズラかれ」
木村がそう指示をして立った。
「まあ、仕方ねえか。俺まで加わったら虐めになっちまう」
残念そうに頭を掻きながら赤坂君の腕を引っ張った。
「行くぞ、赤坂、だっけ?それと横井さんと波崎さん」
「え?お、緒方君を止めなくても……?」
赤坂君の問いに溜息を付く。
「言って止まるんだったらそうするけどな」
「そ、そうなんだ……」
「ちょっと待って頂戴。向こうは6人くらいいるのよ?」
横井さんの問いである、それなのに、お前加わらねえの?って感じで。
「ぶっちゃければ6人程度、一人で充分だ。俺が加わったら虐めになるってのはそう言う事だ」
それでも数的不利は覆らないんだが、玉内の言う通り。ぶっちゃけ俺一人で釣りがくるほど充分なのだ。その上木村、生駒だ。玉内まで加わったら見た目虐めになる可能性がデカい。
「緒方君が暴れたら間違いなく警察沙汰になるよ?」
波崎さんの問いである。
「だから木村が残るんだろ。程々で止める為だ」
納得してとっととヅラかる玉内と女子達。それに赤坂君。
じゃあ身軽になった事だし。
「生駒、あの金髪の髭、欲しいか?」
「じゃあくれ。他はどうでもいいや」
「お前等、やり過ぎんなよ。俺がやめろつったら逃げんぞ」
木村が通報からの逃げの指示を出すっつうなら安心だ。
「そうは言ってもソッコーで蹴りだ」
「解ってる。警察沙汰はマズイし」
そんな訳で6対2、いや、俺が一人潰したから5対2か。
「舐めんなよガキ共が!!」
ガキ共とか言われたが、お前が老け顔なだけで歳は近いだろうに。まあ、それは兎も角、金髪の髭が大振りのパンチを出すも、生駒にそんなモン通用する筈も無く、躱されて逆に大技の踵落としを喰らった。
「ぐあっ!?」
白目を剥いてぶっ倒れた。よわっ。
「なんだこいつ。見た目だけ?そんなモンなのかもなぁ……」
あっけなく終わって拍子抜けする生駒だった。糞なんかそんなもんだろ。だからこその糞なんだし。
「あれ?トイレに行っている間になんかおもしれえ事になってる」
いなかったトーゴーが戻ってこの状況にワクワクし出した。こいつトイレに行っていたのかよ。
「なんだオメェ?オメェもこいつ等の仲間か!」
他の糞が大振りのパンチをトーゴーに放つも、普通に躱して大技のハイキックを放った。
「………………!!!!」
鼻から血が噴き出した。そして白目をを剥いて両膝をついた。
「え?弱すぎる?何だこいつ等?こんなんでお前等と喧嘩してんのか?」
気絶した糞に指差して俺達に訪ねた。
「ああ、この髭が楠木さんを馬鹿にしたから」
「ああ、生駒か。髭ってあのぶっ倒れている奴?じゃあ仕返しは済んだんだろ?この辺にしとけよ。弱過ぎんぞこいつ等」
3人潰された糞共だが、残りが微かに震えて成り行きを見守っている感がある。トーゴーの言葉にも碌に反応しねーし。
「ああ、こいつ等がこの中で強えって事か。生駒、そうしてやれよ」
木村もやめてやれと。
「……おいお前等」
生駒に凄まれて残った糞共がビクンと身を硬直させた。
「こいつ等担いで帰れ。言っておくけど、報復は考えるなよ。そうなれば間違いなく病院送りになるぞ」
「……宮田も結構強いけど、俺達の仲間にはもっと強い奴が……」
髭をチラチラ見ながら。こいつがこの中で最強だって事か。弱過ぎだけど。
「そいつ呼んできてもいいけどよ、こっちには生駒よりも堪え性が無くて凶暴な馬鹿がいんだよ。そいつを本格的に参戦させたくねえって話だ」
木村が生駒の代わりに答える。つうか警告は俺の為なのかよ。それよりも、誰が馬鹿だ誰が。
「解ったらとっとと帰れ。これ以上俺達のバカンスの邪魔すんじゃねえ」
トーゴーのシメにおっかなびっくり、気絶した糞を担いで退散していく雑魚の糞共。
「じゃあ俺達も出るか」
「え?なんで?」
木村の弁に驚いて聞き返した。悪は去ったのだ。だったらこの儘でいいじんじゃないの?
「わ、悪い、美咲の事を言われたから……」
「生駒が謝る事じゃねーだろ?何で俺達も失せるの?」
「周りの客の顔見て判断しろよ」
トーゴーが呆れてそう言う。まあ、言う通りに回りを見る。
……なんか他のお客さんやら従業員さんやらの視線が厳しい……明らかに迷惑客を見るような目だ。
「ご、ごめんな緒方、そう言う訳だから……」
「だから生駒が謝る事じゃないってば。普通彼女の悪口言われりゃキレるだろ。あの髭が喧嘩売って来た事は間違いないんだし」
そう慰めるも(俺も一人潰したし)他のお客の視線に耐えられる自信は無い。
なのでとっとと退散した。まさに逃げるように。
「玉内達、どこに行ったんだ?」
誰にと言う訳じゃ無く訊ねた。
「解らねえが、大沢の所は解るだろ。そっち行ってみようぜ」
木村の案に乗っかる事にして頷いた。合流地点としては及第点だろうし。
超ごった返している会場に到着。ヒロと生駒の横に付く。
「あれ?隆?何とかフラッグは終わったのか?メロンは?」
そう言えばそうだ。メロン置いてきちゃった!!
「なんで頭を抱えて空を仰いでんのか解んねえが、メロンは玉内と赤坂が持って行ってくれたじゃねえかよ」
木村が呆れてそう言った。
「え?俺は自分の持って来たけど……」
「お前、トイレ行く時もメロン離さなかったのかよ」
トーゴーに呆れた木村だった。つうか俺も生駒も。
「意図的じゃねえよ。つい持って行っちゃんたんだよ」
「メロン取って来たって事は表彰台独占か?誰が勝った?」
河内の問いに生駒が俺を指差す。
「おっしゃ!!ほら、俺が言った通りだろ!早く寄越せ!!」
「ちっ、仕方ねえ、大沢の読みが当たったって事だしな……」
すんごい渋い顔でヒロの手のひらに100円乗せた。
「なんだぞのお金?」
「ああ、河内と賭けたんだよ、誰が勝つかって。河内は全員一回戦負けに賭けて、俺はお前の優勝に賭けたんだよ」
「スポーツを賭け事にするなよ。と言うか、一回戦負けすると思っていたのか河内?」
「え?だ、だって大沢が賭けようっつったから……」
生駒に睨まれて小っちゃくなって弁明する河内だった。つうかヒロが持ち出したのかよ。こいつもカテゴリー的にはスポーツマンな筈だが。
「まあいいや。だけどその調子じゃ、ミスコンも賭けただろ?」
「おう、俺は当然波崎だ!!」
「当たり前だが、千明さん一択だ。それ以外はねえ」
ドヤ顔する二人。顔を見せ合う俺達。
「……ああ、こいつ等知らねえんだよなそう言えば」
木村が思い出したように言う。俺達も思い出した。
「なんだ?俺達に知らねえ事なんかねえぞ?」
「そうか?まあ、俺達もお前と河内がミスコン予選を見ないで海の家で寛いだって事を知っているけどな」
なんで解った?て顔をした二人だった。
「ここに来る前、向こうのオープンテラスの海の家にいたんだけど、波崎さんと横井さんも来たぞ」
「え?なんで千明さんがそんな離れた海の家にいる?」
「それはミスコンを辞退したからだ。よってお前等の賭けは成り立たん」
「「はあ!?」」
ビックリで目を剥いたアホとバカ。無駄な応援を今までしてきた事を悔いるがいい。
「なんか予定よりも参加者が集まったようでな。その二人は辞退したんだってよ」
トーゴーの答えに固まった。そして同時に四つん這いになった。
「そ、そんな……それじゃ今まで俺達はなんの為に此処に居たんだ……」
そんなモン、決まっているだろ。
「「「「馬鹿だからだろ」」」」
俺と木村、生駒、トーゴーが同時に答えた。ヒロと河内が更に項垂れてズーンとなった。
「まあそれは兎も角、遥香は出たか?」
馬鹿二人の失意なんぞ知ったこっちゃねえ。遥香の出番がどうなったかだ、重要なのは。
「槙原はまだだな。楠木、児島、黒木、鮎川は出たが」
鮎川さんの出番はもう終わっちゃったか。あのゴタゴタ中に出番が来たんだろう。
ともあれホッとした。遥香の出番中に喧嘩して見て(聞いて)いなかったとなっちゃ、後が怖すぎる。
「その槙原さんが出て来たぞ」
生駒がステージに指を差す。遥香が手を振って登場した。観客も「おおおお~……」とか言っていた。
あのおっぱいに目を奪われたんだろうが、遥香はおっぱいだけじゃねーぞ。脚も綺麗だぞ。
『10番、槙原遥香さん!』
『宜しくお願いしまーす!』
ジャンプして観客に手を振った。おっぱいがブルンブルン揺れる揺れる。アレ狙ってやったんだろ、絶対に。
『いや~。凄いプロポーションですねえ』
『あはは~。ありがとうございます。だけど見るだけでごめんなさい。私の全てはダーリンの物なので』
テヘヘ、と舌を出しながら。観客が『え~!』とかのブーイングを発する。
『槙原遥香さんも彼氏さんがいらっしゃると』
『そうでーす。というかこの大会、恋人持ちが大半ですけど、その辺は問題無いんですか?』
『と、仰いますと?』
『恋人持ちは男子受けが良くないと思うんで、フリーな子に忖度するんじゃないかな、って』
スゲエ聞きにくい事をズバッと斬り込むな……印象を気にしないのか?そもそも優勝する気が無いとか?
『ははは……そんな事は無いですよ』
否定するけど引き攣っているぞ。やっぱ聞いちゃいけなかったんじゃ?
『そうですかぁ。安心しましたけど、なんか表情が優れませんが、どうされましたか?』
『え?そんな事は……』
『ああ、忖度はするって事ですか。フリー云々じゃない地元の子に優勝をって』
引き攣り笑いが更に酷くなったぞ司会者。見事ビンゴって事か?
『そう言えば、予選通過一位は地元の子でしたね。あの子が優勝しちゃうのか~。そっかそっか』
なんか腕を組んでうんうん頷いているが、お前何が目的でそんな事してんの!?
『あ、あはは……じゃあアピ『あ!!ダーリン!!』え!?』
俺を発見して手を振りやがった。よって観客も司会者も審査員も俺に顔ごと視線を向けた。
何やってんのあいつ!?晒される真似嫌いな事知っているよね!?
『ダーリン、ビーチフラッグどうだったー!?』
しかもデッカイ声で質問して来るし!!観客も俺の返事を待つように静まっちゃったし!!
「……おい隆、これ答えなきゃならねえ状況じゃねえか?」
ヒロがそう言う。俯いて黙っている間にも『どうだったの?ねえねえ?』と聞いて来るしで先に進まねえ!!
「緒方、早いとこ言えよ。お前のせいで俺達も注目されてんじゃねえかよ」
河内が苦言を呈した。俺のせい!?遥香のせいだろどう考えても!!
仕方がないので指を一本持ち上げて腕を上げた。
『流石私のダーリン!!一位取ったんだねー!!ビーチフラッグは忖度無しだったんだ。良かった良かった!!』
良くねーよ!!つうかさっきから司会者にやたらと絡むけど、なんで!?
『あの、すみませんけど、彼氏此処に呼んじゃっていいですかー?』
はあ!?なに言ってんだお前!?黒木さん、児島さん、楠木さんの比じゃねー事言ってんぞ!?
『え?えっと……』
『いいって!!おいでよダーリン!早く早く!!』
手招きの速度がパネエけど、行かねーよ!?つうか良いよって言ってねえじゃねーか!!
「おい緒方、早く行け。目立ってしょがねえ」
「何言ってんだ木村!?なんで行かなきゃいけねーの!?」
「目立って仕方がないと言っただろ。俺もあまり目立ちたくないから早く行ってやれよ」
「さっき楠木さんの時目立つ行動していたよな!?」
「いいから行けって。そして逝け」
「なんだトーゴー、最後の逝けは!?って、うおっ!?」
無理やり河内に立たされた俺。そしてトーゴーに押された。
観客を避けながら避けながら漸く脚が止まった。
「いきなり何すんだトーゴー!?」
いきり立つ俺。だが、トーゴーはしれっと。
「そいつが10番の彼氏でーす!!早く連れてって誰か!!」
あの野郎!俺を晒し者にする算段か!証拠に観客全員俺を注視しているし!
『えーっと……じゃあ、10番の彼氏さん、こちらにどうぞ~』
司会者さんも俺を促したぞ!?お前関係ねーからとっとと席に戻れとか言うんじゃねーの普通は!?
『ほら、ダーリン早く!みんなもお願いして―』
アホだな。ミスコン観に来た野郎共が男を壇上に上げようとするか。あそこは女子だけでいいんだよ。
「早く行けー!!」
この声は河内か……あの野郎、後で絶対にぶち砕く!!
と、思ったら会場から「上がれ!!上がれ!!」コールが!!
「正気なの!?なんで男の俺がミスコンの壇上に上がるの!?」
「いいから上がれ!!」「早くしろ!!」「何やってんだあの男!!」
なんか会場の皆様方からも上がれ上がれ囃し立てられてる!?文句まで言われてる!?
『はいはい、じゃあこちらにどうぞ』
いつの間にか寄って来た司会者に腕引っ張られた!?
そしてその儘壇上に。マジで何やらせんのアンタ等!?目の前の審査委員みたいなおじさんもうんうん頷いているし!!
「やあやあいらっしゃいダーリン。ビーチフラッグ優勝おめでとう」
そう言って抱き付いて来た。観客が「おおおおおお!!」と沸いた。
「お前一体何のつもりだ!?ミスコンぶち壊す様な事しやがって!!」
言ったらニッコリ笑った。そして密着状態の俺にしか聞き取れない声で。
「出来レースをぶち壊したくて。ごめんねダーリン、協力お願い」
出来レース?遥香が言った忖度云々はホントだって事?つか、いいじゃねーかよそんなモン!例えばビーチフラッグでもそんな事やっていたら……
…………暴れるな、間違いなく。多分生駒も玉内もトーゴーも。そして木村も。
本心ではやりたくない。俺は目立ちたくないし、正義の味方でもないから出来レース云々はどうでもいい。符に落ちなかったら暴れるだろうけど。
だがまあ、遥香が暴れたいと言うのなら。出来レースを壊したいと言うのなら。
「確証はあるんだろうな?」
ただの勘だったらこっちが全面的に悪くなるので流石に気が咎める。
「予選が終わった時、審査員たちがそう言っていたのを聞いた。美咲ちゃんと」
あー、だから楠木さんも適当だったのか。本気だったらトップ取る為にサービストークもするだろうに、野郎どもを不快にさせる発言多数でちょっとおかしいと思ったんだよ。
「まあ、じゃあ解ったけど、出来レール壊せるかどうかは知らねーぞ?」
そもそもどう壊そうとするのか予測できんし。
遥香が頷いてトーク開始だ。
「ねえねえダーリン、ダーリンのビーチフラッグはどうだったの?」
「え?予選は5人でやって。勝った奴が準決勝。そこで勝った奴が決勝」
『彼氏さん、三連勝したんですねえ。ホント凄いです。確かライフセイバーが参加していた筈ですよ?』
え?そうなの?まあ、俺がそのライフセイバーを倒したかは解んないし。
「そう、ウチのダーリンは凄い。忖度をぶっちぎったって事だから」
司会者が苦笑いにチェンジした。アンタも否定すりゃいいのに。言いがかりだって言えばいいのに。
「どうやって忖度すんだよ。普通に競技だったんだし」
八百長を疑うんだったら、寧ろ逆に負けてくれたんじゃねーの?知らんけど。
「まあ、ビーチフラッグはそうだろうけど、ミスコンはねえ……私達の他は地元の子だし」
チラリ、と後ろを見ると、豪快に視線を逸らした褐色のギャルが居た。
「……ひょっとして、あの子が予選一位か?」
その子に視線を向けながら訊ねると、司会者が明らかにぎくりとした。
「え?よく解ったねえ。まあ、かわいい子には違いないけど」
すんごい意地悪そうに笑いながら。楠木さん、キャハハハと笑っちゃったし。
『じ、じゃあ時間もあれ何で、そろそろ結果発表に移りたいと思いますけど……』
「あの子の親って地元の有権者かなんか?」
司会者の言葉なんか関係ないって事で、知りたかった事を訊ねた。
『さ、さあ、どうでしょう……ははは……』
豪快に目が泳いでいた。そうなんだな、うん。
しかしそうなると、地元の有権者の娘に良いようにやられて来た身としてはだ。
「朋美と同じか」
結構声を張った。木村達ががたりと身を乗り出したのが解った。
『あ、あの、朋美って?』
「地元の有権者の娘さんで、汚い事を揉み消してきたカスみたいな女だよ。あの子はそうじゃないと思いたいね」
「だけどまあ、お前が言ったように可愛い子には違いないんだから、まあアリだろ。どうしても疑っちゃうけども、これも地元の祭りみたいなもんだし、ホームの利ってのもあるんだし」
『あの!そろそろお時間ですので!彼氏さんも向こうで彼女さんと一緒に結果聞いてください!!』
強引に遥香と一緒に背中を押されて奥に引っ込ませられた。釘も刺したしフォローもしたしで、ミッションは完遂したと言えるだろう。
ボケーっと結果を聞いた。三位、二位と知らん奴。地元の子だと思われる。
「鮎川さん、二位通過なのにな」
「ああ、別に?頼まれたから出たまでだし」
気怠そうに髪を弄りながら。つうか参加選手と一緒の席に座っている俺って……
そして一位が予選通過一位の子。褐色ギャルだった。
「まあ、確かに可愛い子ではあるけどな」
「そーね。だけどこれで良かったんじゃない?」
出来レースに加担させられてよかったとはどう言う事だ?
「だってそんなにメロンいらないでしょ」
あ。と思った。ビーチフラッグで11個。クイズで4個取ったんだ。ミスコンでも参加賞で一つ貰えるから、5個ゲットした事になる。
更に波崎さんと横井さんも一個ずつ貰ったから、ミスコンだけで7個だ。全部で21個。
「確かにいらねーな」
「でしょ。他にスイカもまだあるし」
デザートはもう必要ないって感じで言う。
「夜のバーベキューだけでも大変なのに、メロンとスイカは確かにヤバい」
「なんでバーベキューが大変?」
「食材がハンパねーらしいぞ。主に松田が手配したんだけど」
「ああ、こうなると倉敷が羨ましい。私もそんな彼氏欲しいなぁ……白浜で」
白浜に松田みたいな奴はいねーよ。つうか山郷には結構松田みたいな奴いたような気がする。
一応無駄と思いつつも聞いてみる。
「山郷農業には松田みたいな奴いたぞ?紹介頼もうか?」
「白浜じゃ無きゃ嫌だってば。遠いのは勘弁」
うん、解っているけど一応な?
「だけど、白浜と海浜限定でってのは超厳しいぞ?」
「だから、私の事を100パー信頼してくれる人だったら、距離とか頭の問題は多少目を瞑るってば」
どうやって探すのか見当もつかん。因みにと聞いてみる。
「頭の具合は何処まで落とせるの?」
「え?そうだな……南女くらい?」
「南女と白浜はそんなに差がねーだろ」
実質譲っていないと同じだそれは。
「じゃあ、距離は?」
「う~ん……山郷か黒潮でギリ」
「白浜から出て直ぐじゃねーか」
「あ、でも、バイク持ちならって事で」
「自分から会いに行く気ないだろそれ」
向こうに来させる気満々なのが解っただけだった。鮎川さんもなかなかだよなぁ……
出来レースの表彰式が始まった。観客のしらけがこっちにまで伝わるほど冷めた感じだった。
と言う事は、観客もこれは忖度で決まっていた事だと認識した訳だ。お客の殆どは地元民だろうし。
「つうか俺まで出場者に混じって拍手するのはどうしてだ?」
何となく隣にいた楠木さんに訊ねてみた。
「遥香に聞いてよ。遥香はこの忖度大会をぶち壊す目的の為に緒方君を巻き込んだんだから」
そう言いながらニヤニヤしていた楠木さんだった。
「そういや楠木さんも聞いたってな?」
「ああ、うん。聞いたよ。あの真ん中の偉そうなおじさんが他の審査委員にあの子に入れろって言ったのを」
ふーん、とその偉そうな審査委員長を見る。忖度大会優勝者の褐色ギャルに「おめでとう」とか言っていた。
「こんな町内会のミスコン程度でもそんな事するんだなぁ……」
「ねー?まあ、どうでもいいけど」
「つうか楠木さんも一泡吹かせたかったら生駒を乱入させたらよかっただろうに?」
「シロは緒方君みたいに慣れてないから。彼女の無茶振りに」
その弁だと、自分は彼氏に無茶振りをした事が無いと言っている様なもんだぞ?
流石にこんな事させるのは遥香くらいだろうけどもな。
「……ねえ緒方君、アレ……」
何かに気付いた楠木さん。観客席に視線を向けた。
「生駒達を囲んでいるな。ガラの悪そうな連中」
あそこにいるのはヒロ、河内、木村、生駒、トーゴー。あいつ等を逃がさないように10人くらいで囲んでやがる。
「なんかやった?」
「なんで解るんだ?」
「あれ、仕返しできたんでしょ。こんな所まで来て喧嘩するかな?」
呆れる楠木さんだったが、事情を説明すると、うんうん頷く。
「別にほっといても良かったんだけど、シロって私を愛しちゃっているし、仕方ないよね」
「開戦の火蓋を切って落としたのは俺なんだが」
「緒方君が一番に手を出したのは容易に解るから今更だよね」
ケラケラ笑う。愉快そうに。
まあ、表彰式が終わったらあいつ等に混ざろう。
と、思ったら、忖度大会優勝者の褐色ギャルが遥香になんか喚いていた。結構な形相で。
「緒方君、女子も殴れるんだっけ?」
「まあね。んじゃちょっと行って来る」
「一応言っとくけど、遥香もあれは織り込み済みだと思うよ?」
そんな事は承知だが、これも承知だろ?
「俺の彼女さんに喧嘩売って来たんなら彼氏たる俺が出張るのも織り込み済みだろ?」
「いや、そこまでは無いと思うけど……」
無いと思おうが、巻き込んだんだからそんくらいの覚悟はあるだろ。そんな訳で褐色ギャル目掛けて一直線だ。
遥香相手にギャーギャー騒いでいる褐色ギャル。周りには同じく参加した地元の女子を連れていた。
「おう、なんかあったか?」
彼氏登場で一瞬たじろぐが、すぐに元に戻って俺相手に指を差した。
「アンタの女、マジ有り得ないんだけど!!大会ぶち壊してなんの得がある訳!?」
「ぶち壊した?どれが?結果君が優勝したんだろ?何か問題あるのか?」
「ばらしたでしょ!!出来レースだって!!」
プッと噴き出したのは遥香。
「認めちゃうんだ。出来レースだって。言わなきゃただの疑惑だったのにね」
「だ、だってもうみんなに知られちゃったし……」
みんなとは、白けた雰囲気になった観客か?
「逆に知られたからなんだっての?何か不都合でもあるの?」
「大アリだし!!学校でおかしな噂立ったら困るし!!」
ふーん。と他の子を見る。みんな俺達にガンくれているから、この子の取り巻きなんだろう。
「他の人達に質問だが、今更じゃねえ?」
訊ねたら一瞬俯いた。学校でも優遇されている事を確信した。
「今更だってさ。良かったな。評価は覆る事は無いぞ」
「なんなのアンタ!?男なのにミスコンに居るとかあり得ないんだけど!!」
それも今更だろ。お前ライブで観ていただろうに。
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