二年の夏~005

 ミスコン会場は直ぐに解った。何故なら野郎共が立ち見で溢れていたからだ。

「マジか……何だこの人の数……」

 玉内が絶句したので多少持ち上げてみる。

「お前がタイトルマッチする時はこの比じゃねーだろ」

「ああ、そりゃそうだが、そうなるとお前とだろ。だったらお前のファンも来るから全部俺の観客じゃねえだろ」

 何で俺とお前がタイトルマッチをやっている前提なんだ。俺はプロにはならねーって言ってんだろ。

「うん?あれ河内と大沢じゃないか?」

 生駒の指差した観客席には、言った通りのアホバカコンビの姿が。なんか腕を上げてワーワーギャーギャーやっているし。

 他のお客に迷惑なので、俺達は観客席には行かずに、寧ろ隅っこに移動した。具体的には海の家のオープンテラスの方に。

「緒方達じゃねえかよ。ビーチフラッグ終わったのか?」

 テラス席から声を掛けられたので振り向くと、木村と赤坂君がジュースを飲んで寛いでいた。

「丁度いい。相席いいだろ。座りてえ」

 トーゴーが了解も取らずに赤坂君の隣に座る。まあ、俺達も便乗する。

「赤坂君だっけ。どうだったクイズ?」

 生駒がフレンドリーに話し掛ける。赤坂君、若干身を引いたがちゃんと答えた。

「うん、なんとか準優勝には。メロン3個貰ったよ」

「へえ?凄いな。俺も2位。決勝で緒方に負けちまったから」

「じゃあやっぱり緒方君が優勝したんだ」

 和気藹々と話し出した。生駒は糞に見えない外見なので、赤坂君も怖がったりしないのだろう。

「あれ?木村、お前もメロン1個持ってんじゃんか?」

 木村の足元にはメロンが袋に1個入れられて置かれていた。

「ああ、参加賞だ。赤坂の応援だって言ったのに、大会委員とやらに頼まれてな。だけど初戦敗退だから参加賞だけだ」

 目を丸くして木村を見る。

「なんだよ?」

「いや、見た目が外道極まりないお前が赤坂君と一緒にクイズに出たのがビックリで」

「ふざけんなよお前。俺だってクイズくらい出るだろ。なぁ赤坂」

「う、うん。それはそうだよ。頼まれたんだから」

 赤坂君、少しドモりながらも木村の振りに答えた。

「お前、赤坂君を怖がらせてんじゃねーよ」

「あ?え?俺お前をビビらせたか?」

 なんか焦って赤坂君に詰め寄った。

「え?いや、そんな事は……だ、だけど西高生で、そこの番長だし……」

「お、おうそうだよな……だけど、何回も言うけどビビらねえでくれよ。緒方とダチなんだから、俺ともそうだろ?水戸の事も知っていたしよ」

「み、水戸君は一回しか会っていないから、知っていると言ってもただ知っているだけだよ?」

「ま、まあ、水戸は兎も角、緒方のダチだろ?このいつでもぶっ殺す機会を窺っている狂犬とダチなんだから、俺なんて大したことねえだろ?」

 誰がいつでも殺す機会を窺ってんだこの野郎。だが、必死な木村が面白いので、突っ込まずに黙って見ていよう。

 と、思ったが、アナウンスが流れた。

『お待たせしましたー!予選を勝ち抜いた10名による本選!ミス泊地開催です!』

 ワーと歓声が挙がる。つうか立ち見客が溢れてこのオープンテラスまで押し寄せて来た。良かった赤坂君達が席確保してくれて、ゆっくり実況を聞けるぜ。

「ところで、本選って事は、予選があったって事だよな?」

 何となく木村に訪ねた。

「ああ、俺もよく知らねえけど、予選は30人くらいでやったってよ。大会委員がスカウトしまくった結果その人数になって、予選会なる物が行われたようだ」

 ふーん。参加呼びかけしたのはいいが、思ったよりも多く参加者が集まっちゃったって事か。

「遥香達は予選突破したのか?」

「いねえからそうだろ」

 つっても7人全員?そりゃ出来過ぎじゃねえ?

「あら、こんな所に居たのね」

 なんか声を掛けられたと思ったら横井さんと波崎さんだった。

「あれ?予選通ったんじゃねーの?」

「ああ、私達は参加しなかったから。予選の人数多過ぎたから何とかって頼まれて」

 波崎さんがしれっと答えたが、人が多く集まってしまったから今度は辞退を頼んだのか……何と言う適当な運営だ。

「あれ?だけどメロン一個持っているよな?」

 玉内が目敏く横井さんと波崎さんが持っていた袋に指を差した。

「ああ、辞退者にはお詫びのメロン一個贈呈だと言うから戴いて来たわ」

「ん?でも、大沢と河内が必死で応援していなかったか?」

 生駒の指摘に半笑いで答える。

「大沢君達は私と横井は辞退したって知らないんでしょ。大沢君達、ミスコンの予選観ていなかったみたいだし」

「じゃあ何見ていたんだよ?」

「海の家で何か食べていたみたい」

 彼女の勇姿を見ないで食いもの見ていたのかよ。ヒロが誘ったんだろうけど、本気で馬鹿な野郎どもだ。

「あ、因みに予選は観客の投票だったみたいだけれど、鮎川さんが2位通過したようよ」

 マジで!!あの中で二番目に可愛いと思われていたって事だよな!!そりゃマジでスゲーわ!!

「あの、美咲は?」

「えっと、5位通過、だったかしら?」

 真ん中と聞いて胸を撫で下ろす生駒だった。楠木さんを好き過ぎて朋美をぶっ飛ばすような奴だからな。

「じゃあいつきは?」

「確か6位通過だった筈」

「まあ、順当か。俺が一番だと思っていればそれでいいからな」

 玉内の言う通り。自分の彼女が一番可愛いと思って当たり前だ。見知らぬ他人の評価なんか知るか。

「綾子は?」

「10位ギリギリ」

「ふーん……まあ、予選通過しただけでも大したもんだ。俺は一回戦敗退だったしな」

 木村も気にしちゃいない様子だった。と言うか真意だろう。予選突破しただけでも凄いと。

 しかし、この流れだと聞かなきゃいけないだろう。俺だけ無関心とか思われたら命が無い。

「あの、遥香は何位通過?」

「3位、だったかしら?」

 おお!!ミスコンでベストスリーに入るとは、流石俺の彼女さん!!まあ、俺の中じゃナンバーワンだけどなっ!!

 しかし、このテラスじゃミスコンは見えない。アナウンスが聞きとれる程度だ。

「波崎さん、横井さん、遥香達の応援って話だったけど、ここからじゃ応援できないんじゃない?」

「そうでもないよ。遠いけど会場は見えるから」

 場を見ながらそう言う。確かに、立ってワーワーやっているお客が多数だ。

「赤坂、そのジュースは何?」

 ビックリして横井さんを見た。赤坂君に話しかけているだと……!!

 あ、いやいや、そもそも赤坂君をこの旅行に誘ったのは横井さんだったか。主に俺の為に。

「ああ、ミックスジュース」

「美味しいのそれ?」

「僕は好きだけど」

 赤坂君も彼女が出来てからブフフ~笑いが出なくなった。キモさが無くなったと言う感じだ。

「木村君のそれは?」

「ジンジャーエールだが、辛みが全くねえ。単なるサイダーだこりゃ」

「そう、波崎、私はミックスジュースを頼んで来るけど、何か飲みたいものはあるかしら?」

「ああ、じゃあ私も行くよ。緒方君達はいらないの?欲しいなら注文しに行くよ?」

 確かに、オープンテラスに入っただけってのはお店に悪すぎる。なのでアイスコーヒーをお願いした。

「あ、じゃあ俺も頼んでいいか?カシスソーダ」

 トーゴーも頼んだ。そうなれば生駒も玉内も頼まざるを得ない。

 生駒は俺と同じアイスコーヒー。玉内はミルクセーキだが、横井さん、波崎さんが目を剥いた。

「玉内君、ミルクセーキとか言わなかったかしら?」

「言ったけど……」

「そんな顔でミルクセーキなの?意外~」

 波崎さんの心ない言葉に傷付いて項垂れた。波崎さん、慌ててフォローする。

「ち、違うから。ブラックのコーヒーのイメージがあったから」

「……いや……」

 自分でも自覚しているのだろう。こんな極悪人顔がミルクセーキとか言っちゃ駄目だとか思った事だろう。因みに俺はMAXでそう思った。

「こいつ意外と甘党なんだけど、ボクサーだからな、滅多な事じゃ飲めないんだ。だからこういう特別な日くらいはいいだろ」

 ロング缶のコーヒーをよく飲んでいるし。じゃあ滅多な事じゃねーじゃんとか突っ込みはいらない。

「いや、だから、イメージが先行しちゃって……ごめん」

「……いや……」

 謝罪にも項垂れて返した。どんだけダメージ負ってんだよ。

「ま、まあ、注文して来るわね」

 居た堪れなくなったのか、横井さんが波崎さんを置いて注文に向かった。慌てて着いて行く波崎さんだった。

「ミルクセーキ美味いよね。玉内君好きなんだ。僕も結構好きだよ」

 赤坂君がなんとなくフォローした。赤坂君が頼んでも違和感ないからいいだろうが、こいつの場合は違和感ありまくりだから。

「ん?一番は綾子か?」

 木村がすんごく目を細めて会場の方向を見た。あんなに遠いのによく解ったな、つうか……

「おい、お前目を細めるな。ただでさえ強面が更にパワーアップしちゃうから」

「あ?お前の方がきついじゃねえかよ?なぁ赤坂」

「え?う、うん……」

「ちょ、マジでビビんないでくれってば。折角旅行に来たんだから楽しく行こうぜ。なぁ?」

 玉内には話し掛けたのに、木村にはそんな事はない上に怖がっているとか。西高が普段どう思われているか解り易いな。

「ん?なんか聞こえるな?会場のアナウンス?」

 生駒の言う通り、確かに響くように聞こえる。あんなに遠いのに?

「ああ、ラジオが放送しているようだよ、それをこの海の家でも流しているんだろうね」

 赤坂君が店内に設置してあるスピーカーに目を向けてそう言った。

「ああ、そうか、俺は気付かなかったな。流石赤坂だ」

「いや……はは……」

「だから怖がるなっつってんだろ、折角持ち上げて……あ、何でもねえ……」

 気を遣っても怖がらせない事は叶わなかった。つうか自分で言っちゃっているし。

「いや、大丈夫。黒木さんは木村君と付き合っているんだよね?」

「え!?あ、ああ、そうだ、こいつから紹介して貰ってよ」

 俺を親指で差しながら、若干動揺して。話を振って貰った事に戸惑ったようだが、お前の望んだ展開だろ、もっと頑張れ。

『え~、黒木綾子さんは隣の県から来られたようですが、お友達と?』

 おっと、黒木さんへのインタビューが始まったぞ。木村なんかに構っている場合じゃねーな。

『あ、はい。この大会に参加している子達と一緒に。あと彼氏と、その友達と』

『ほほ~。黒木さんは彼氏がいるんですか~。そんなに可愛いのなら当たり前でしょうね~。その彼氏さんは?』

『可愛い!?初めて言われた!ウソ、嬉しい!!」

 此処で全員木村を見た。

「木村、お前って黒木さんに可愛いって言った事は無かったのか?」

「言うか、お前じゃねえんだから」

 物調ズラしてジンジャーエールを啜る。まあ、こいつそんなキャラじゃねーしな。

『彼氏さんに言われた事は無いんですか?』

『はい!惚れてるって言われた事はありますけど!』

 盛大にジンジャーエールを噴いた。俺達も笑いそうになったが堪えた。

「ゲホゲホゲホ!!い、いきなり何言ってんだあいつ!!」

「そうかそうか。お前普段鬱陶しそうにしていたけど、言う時は言うんだな~」

 優しく肩を叩きながら言ったら力任せに振り解かれた。

『ほほ~。彼氏さんはどんな時にそう言うんですか?』

『え?あの、言っていいのかな……』

「言うんじゃねえぞ綾子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 なんか頭を抱えて蹲りながら絶叫した。周りでひそひそ声が聞こえた。あの一番の子の彼氏か、とか。

 つうか気になるな。言っちゃえよ黒木さん。それをネタに弄って遊ぶから。

『そろそろ時間ですが、最後にアピールしてください』

『あ、はい。あの、このミスコンの参加者を見て、自分が一番鍛えているよな、って思って。引き締まったお腹、結構自慢なんです。明人……あ、彼氏にもお腹は褒められましたし』

「だから言うんじゃねえって言ってんだよ綾子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 だから絶望宜しく絶叫すんなってば。周りの視線を釘付けにしてんぞお前。

 つうか黒木さんはラクロス同好会に在籍しているから、確かに鍛えているっちゃーそうなんだよな。お腹自慢なのは納得だ。

「お前、いつお腹なんか見たんだ?」

「聞くんじゃねえよ生駒!!察しろよ!!」

「それは夜に見たのか?どうなんだよ?うん?」

「言うか!!察しろっつってんだよ玉内!!」

 友達全員のニヤニヤ顔で木村がワチャワチャする様は実に新鮮だ。こいつが弄られる事はほぼ無いし。

「緒方君達ってホントに仲良いんだね」

 赤坂君が憧れに似た表情を作った。

「今なら赤坂君でも弄れるぞ。やってみ?」

「え?いや、そこまでは……」

 汗全開での拒否だった。そこまで馴れ馴れしくできないか。

「つうかおさげちゃんは参加しなかったのはなんで?」

「うん?勝てそうもないから里中さんと遊ぶって」

 そうか?結構いい線行くと思うけど。里中さんが参加しなかったのも意外だけども。あの人妙にポジティブだし。

「いや~、木村君もなかなかやるね」

 ニヤニヤして帰って来た波崎さん。横井さんは顔真っ赤だけど。

「遅かったな?」

「ああ、ついでに作って貰ったから」

 アイスコーヒーが置かれる。お盆の大量の飲み物とは、流石ウェイトレスさんだ。

「ありがとう。いくら?」

「アイスコーヒーは500円」

 手を伸ばされたので500円硬貨をそれに乗せた。

「生駒君もアイスコーヒーだよね」

「ああ、うん、どうも」

 生駒も500円硬貨を滑らせた。玉内とトーゴーは横井さんから貰っていた。波崎さんのお盆から取ったのだ。

「え?ミルクセーキ750円!?」

「確かに高いわよね」

「カシスソーダ700円だって!?」

「ブルーハワイなら500円だったけれど」

 あいつ等700円の飲み物頼んだのかよ。つうか値段にビックリしてんじゃねーよ。メニュー見て決めた筈だろうが。

 だがまあ、流石海の家。何もかも高すぎる。このアイスコーヒーってUCCとかジョージアとかのボトルコーヒーだろ。味がとっても似ているぞ。

「だけど綾子、よく堪えたね。私達相手ならぶっちゃけ捲っているからもっと深い所まで聞いているけど」

「気軽にホイホイ言ってんじゃねえよ綾子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 波崎さんのカミングアウトに絶望の表情で頭を抱えて蹲った。どんだけダメージ負ってんだ。

「当たり前だけど、遥香からも聞いているから」

 俺に向けての発言だろうが、揺るぐ事は無い。どうせヘタレで手も出してこないって愚痴だろ。

 黒木さんが終わって2番、3番……

「お、いつきか。あいつ4番手なんだな」

 玉内が身を乗り出してステージを見た。しかし遠すぎるので超細目だった。

「お前のその顔で目を細めるなよ。みんな怖がるだろ」

「え?そ、そう言われてもな……」

 なんかシュンとする玉内だった。いやいや、冗談だから。木村みたいに乗ってくれよ。

「そ、そういやなんでいつきは4番手なんだろうな?予選は6位なんだろ?」

 強引に話題を変えたな。まあいいけども。

「さあ……波崎さん、理由知っているか?」

「ああ、予選通過者でくじ引いたのよ。それに番号が綴られていたって訳」

 自分がオーダーした物であろうなんかのジュースを啜りながら言った。

「それなんだ?オレンジジュース?」

「これ?オレンジスカッシュなる炭酸ジュース。500円也だよ」

 やっぱたけーな海の家。ドリンクバーなら飲み放題だぞ。

「緒方君がオレンジスカッシュを気にするなんて珍しいね?コーヒーしか飲まないから他のは興味すらないのかと思ったよ」

「一応他のも飲んでんだぞ。コーヒー9に対してその他1くらいの割合だけど」

「いや、それコーヒーだけでいいやってならない?」

 ならない。他のも飲みたい時があるんだ。年に数回ほどは。

『え~。4番の児島いつきさん。先程の黒木綾子さんと同じ県と言うことですが?』

『はい。友達と、彼氏と、その友達と、そしてその彼女と、あ、あと後輩?その人達と一緒に来ました』

 玉内が頭を抱える。

「なんて馬鹿な回答だ……あいつちゃんと高校行ってんだろうな?」

 まあ、俺もそう思った。言いたい事は何となく解るが、彼氏と友達と来たと言えば済む話だろうに。

『そうなんですか~。えっと、児島さんにも彼氏がいるようですが、どんな人?』

『はい。ボクシングしているイケメンです。超強いです。何だっけ?遠くからパンチ打つタイプだって言ってました。あと、ロシアに居そうな感じです』

「本気であいつ馬鹿だ……」

 しかし顔が真っ赤になっていた。イケメンのあたりで。

『ロシア人?』

『は?なんでそうなったの?日本人ですよ和馬は。両肩にタトゥー入っているけど、ちゃんとした日本人です』

 両肩にタトゥーで場にいる人たちの視線が玉内に向かった。「ロシアに居そうだよな、確かに」とか聞こえた。

「おい玉内、注目浴びてんぞ」

「言うな。気付いてんだから」

 気付くよな。さっきの木村と同等くらいの視線を向けられているし。

「つうか両肩にタトゥー入っていたらロシア人なのか?」

「俺に聞くなよ。言った本人に聞いてくれ……」

「児島さんに限らずに、玉内君はロシアに居そうなイメージだよ。なんかのテレビでそう見えたのかもだけど」

 波崎さんの言葉に納得した。短髪の格闘家のロシア人って意外といるからな。ロシア人に限らないけど、俺のイメージではそうだ。

『では最後にアピールをお願いします』

『あ。はい。えっと、そんなにアピれる所は無いんだけど、彼氏には唇が気持ちいいって言って貰えました』

 盛大にミルクセーキを噴いた。

「おい玉内、唇が気持ちいいってどういう意味だ、うん?」

 木村が肩を組んでニヤニヤと説明を求めた。

「言うか!!つうか何言ってんだあいつは!!」

「お前ボクサーだろ。もっとストイックにならなきゃいけないんじゃないか?」

「そう言う意味じゃねよ生駒!!あれは……いや、うん、まあ………」

 生駒の突っ込みに言葉を濁す玉内だった。俺は童貞だからいろいろ想像しちゃう!!

「児島さんと玉内君って付き合い短いよね?もうそこまでいったの?」

「だからそう言う意味じゃねえ……波崎さん、なんだその獣を見るような目は?」

「いや……まあ、人それぞれだろうから何も言えないけどね」

「本当にそう言う意味じゃねえかならな!?」

「じゃあどう言う意味?」

「だから、まあ、その……」

 また真っ赤になってごにゃごにゃ言う。マジどういう意味なんだ?本気で気になるんだけど!!

 玉内への弄りは5番が終わっても続いたが、終焉を迎えた。

『6番、楠木美咲さんでーす』

『きゃる~ん♡』

 遠目でよく解らないが、何やらのポーズをした様子。観客が今まで以上にワーワー煩くなったのもそのポーズのせいだろう。

「流石は美咲。あの中で一番可愛いからそうなるだろうな」

「一番は遥香に決まってんだろ」

「そりゃ緒方はそう言うだろうが、現実はそう見ないだろ」

 ほほう……俺の彼女さんよりも可愛いと仰るか?いや、楠木さんも可愛いが、遥香には劣るに決まってる。そう思わないと命の危機になるからそうなんだよ。

『楠木美咲さんも隣の県から……先程の黒木綾子さんと児島いつきさんのお友達で宜しいですか』

『そうでーす。あ、ちなみに彼氏いますんで、ナンパはお断りでーす』

 ノリのブーイングと笑い声。なかなかエンターテイメントだな。

『あはははは!成程彼氏さんがいると。ナンパはお断りという事は、結構されていると言うことですか?実はお友達の中で一番モテるとか?』

『いえ、残念ながら』

 生駒を見ると頷いた。

「春日さんには勝てる気しないって言ってた」

「ああ、綾子もそんな事言ってたな」

「いつきもなんか言っていたな、そんなニュアンスな事」

 すげーな春日さん。素顔晒したら確かに白浜ナンバーワンだとは思うぞ、俺も。

『だけど、シロ……あ、彼氏は私が一番って言ってくれるし、それでいいんですよ。よって私は彼氏一筋!女子をそんな目で見るお猿さん達は遠くで眺めるだけにしといてねー♡』

 お猿さん達の件で観客がブーイング。露骨に罵倒する奴も居た。

「楠木さん、野郎どもに喧嘩売っているのか?」

「さあ?」

「楠木、狙われたらどうするつもりなんだ?」

「俺が倒すから問題無い」

「お前の女が狙われるって事は、いつき、しいては俺達の仲間の女も狙われるって事じゃねえのか?」

「全員倒すから心配いらないよ」

 ブレずに何より。狙われるって事は無いだろうけど、楠木さんに限らず、ミスコン決勝に出た女子達にちょっかい掛けてくる馬鹿はいるだろうし。

「まあ、そうなりゃ俺も出るし、玉内も出るからいいけどよ」

「なんで俺の名前が出ない?」

 そうなればこその俺だろうに、俺の名前が挙がらないとはこれ如何に?

「緒方君は止められるから、悪質なナンパ野郎とは戦えないよ」

「誰が俺を止めるんだ?波崎さん、君か?」

「いや、赤坂君が」

「ぶひっ!?」

 久しぶりに聞いたぞ赤坂君の「ぶひっ」を。まさかこのタイミングで聞くとは思わなかったけど。

『じゃあ最後にアピールをどうぞー』

『えっと、実は家事スキル高いでーす。女子力高いのが自慢かな?まあ、そこは付き合わなくちゃ解らないよね』

 なんかテヘツとか聞こえたぞ。付き合う気が無いのにこんな事言ってごめんね、みたいな。

 実際楠木さんは家事スキルたけーからな。ご飯も旨いし。

 そんな事を考えていると、パチパチと拍手する音。生駒だ。

「いや、美咲の良い所を知っているのは俺だけだから、俺だけでも拍手しようかと思って」

「そりゃそうだけど、お前目立ちまくってんだろ」

「別にいいだろ。美咲の彼氏なのには違いないんだし」

 いや、お前がいいんならいいんだけどね。俺だったら目立ちたくないから勘弁って事で。

「あのビッチの彼氏かよ」

 ボソッと誰かがそう言った。いや、聞こえる様に言ったんだろう。何故なら全員そいつを見たからだ。

 金髪のロン毛で髭なんか生やしていてビールを呑んでいた。禁煙な筈なのに煙草も吸っていた。要するに糞だ。

 生駒が当たり前の様に立ち上がろうとしたのを阻止したのは木村。

「やめとけ生駒。あんな雑魚やってもしょうがねえ。女に毒付く程度の事しか出来ねえカスだ」

 木村も止める気はなさそうだった。何故なら煽っていたからだ。赤坂君も察して真っ青になるくらいは。

「そうだぜ。禁煙って文字も読めねえ頭の悪い奴だ。馬鹿相手にしたら馬鹿になるのは知ってんだろ」

 玉内も便乗して煽った。こいつも止める気は更々ないって事だ。

 そしたらやっぱ糞は解り易かった。当たり前に凄んで俺達のテーブルに仲間数名引連れてやってきたのだから。

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